紫電が舞い散る、奇っ怪な鳴き声を金切り上げながら突撃を敢行した怪鳥を、東堂はその身に受け止めた。
響く電流と衝撃、一切の躊躇無く殺す気で放たれた式神の一撃、腕を十字に固めて真正面からその一撃を受け止めた東堂葵の足が土煙を上げて後ろに引き摺られる。
そこへ踏み込んでいく伏黒、両手が使えないだろう状態の東堂へと一体何処から取り出したのか、鈍く鉄色に輝くを金槌を全力で東堂の頭部目掛けて振り下ろす。
躊躇いはない、ただ殺意がある、相手が京都校の生徒であろうがお構い無し…そのあまりにも殺る気満々な様子を見せる伏黒に東堂は凶悪に頬を吊り上げた。
「───いいぞ伏黒、やる気があるのは良いことだっ!!」
思わず屈託無しにそう褒めてしまうほどの殺意とそれに関連した行動力、振り抜かれる金槌を呪力で強化した頭突きで粉砕した東堂は笑みを携えながら、そのまま鵺の身体を下から上へと蹴り上げる。
奇声を上げて上へと打ち上げられる鵺、やっと両手が自由になったとほんの少し握って開いてを繰り返した東堂はそこから直ぐ様近場の伏黒目掛けて距離を詰める。
───こんの、石頭がッ!!
内心で伏黒は東堂へとそう吐き捨てた…この世の何処に金槌を頭突きで粉砕する人間がいるというのか、事実ここにいるわけだがそれはそれとして伏黒は悪態を吐かずにはいられなかった。
向かい来る東堂、そもそもからして此方から接近して金槌ぶち込んだのだから距離など開いている訳も無し、一歩踏み込めばそれだけで射程圏内真っしぐらだ。
このまま行けば当然の如くタコ殴り、筋肉隆々の身体から放たれる剛拳が己の頭蓋に叩きつけられる、最悪頭蓋が粉砕されてそのまま死ぬなんてこともあり得るわけだ…そんなことは伏黒恵としては御免被るといったところである。
ならばどうするか…答えは一つ。
「───『
咄嗟の判断で印を組み、その名を喚ぶ。
瞬間、溢れ出す白、視界全域が真っ白に覆われ、肌に突き刺さるもふもふとしたその感覚に東堂の行動にノイズが走る。
その僅かな隙間を縫って伏黒は走り出す、モコモコとした感覚の外側へと出た伏黒はそのまま止まることなく勢いに任せて身体の向きを切り返し、再び印を結ぶ。
「───『満象』」
呼び出したるは水を操る象の式神、桃色の体色を携えたその獣は呼び出された事実に気合充分と言わんばかりに大きく鳴き声を上げた…それと同時に、モコモコとしていた脱兎の群体が一斉に弾き飛ばされる。
バチュンと音を立てて身体を破損させられる複数の脱兎、肉体の一部を欠損し動けなくなる個体と頭を吹き飛ばされてそのまま消えた個体…此方へ向けて振ってくる脱兎の死体達のその向こう側で東堂は変わらず笑みを浮かべていた。
舌打ちを一つ、伏黒がそれを吐き出すのと更に同時に満象の頬は膨れ上がる、水気を帯び始めたその頬に一瞬眉を顰めた東堂目掛けて、満象の長い鼻から一斉に水の濁流が吐き出された。
音を立てて迫る大量の水、多方面ではなく東堂単一を狙って放たれたそれは範囲も狭く面での制圧には向いていない…しかし、代わりに流れてくる速度とやってくる質量は通常のものに比べて遥かに高い…イメージとするなら、消防車の消火水が荒れた川のようにやってくるに等しいのかもしれない。
東堂は十種影法術についてそこまで詳しくない、故に満象から放たれた水の濁流に対しての反応がそれを知る人間に比べてやや遅く、故にその速度のモノに反応は出来ても避けることには間に合わない…それほどまでの速度なのだ。
避けることが間に合わないと悟るや否や、東堂はそれを受け止め踏ん張る姿勢を見せた…が、その意志ごと飲み込むが如く東堂の足が地から離れる、やってきた勢いに押し負け東堂の身体は水に流された。
「───『鵺』」
そこへトドメと言わんばかりに差し向けられる雷の怪鳥、ようやっとやり返しぃっ!! と言わんばかりに金切り声を吠え散らかした橙色の怪鳥は自らの最大出力を流れる水場へと叩き込まんとしていた。
電気は水を伝う、水の中に高出力の電流なんて流そうものなら瞬時に伝達した電気が身体全体に回って感電死する…満象が放ったのは正真正銘の水であり、当然そこには科学的な反応が引き起こされる…そしてそれは鵺の雷も同様、水に触れればそれは当たり前に水の中に流れ出す。
バチリッバチリッと紫電が飛び散る、最大出力にまで高められた鵺の雷がまるで火花のように弾け飛ぶ…翼を嘶かせ、奇声と共に蓄えた紫電を眼前の目標へと放とうと鵺が叫んだ…その瞬間のことであった。
───パシンッ
ふと、そんな音が響いた…まるで、拍手でもしたかのような音が伏黒の耳へと不思議な程に強く響いた。
瞬間、視界の中で鵺の姿が消え失せ、その代わりと言わんばかりに伏黒の身体は宙へと投げ出されていた。
「───はっ…?」
何が起きた…疑問に頭を塗り潰されたが故に出てきた間の抜けた声、踏み締めていたはずの地面が突然消えて気付けば自分は空に居た…言葉にしてみればあまりに意味の分からない展開であったのは確かであろう…しかし、伏黒のそんな心境を汲み取ってくれる人間はこの場にはいないのである。
ズバンっと音を立てて水の中から砲弾の如く何かが飛び出してくる…否、何か等と濁すようなモノでもない、そこに何がいるのかを現在一番理解しているのは伏黒恵ただ一人なのだから。
飛び出してきた筋肉の砲弾こと東堂葵、その顔に痛烈なまでに清々しい笑みを浮かべたその怪物は宙にて混乱していた伏黒の顔面を引っ掴んで、その勢いのまま備え付けられていた建物目掛けて突っ込んでいく。
轟音が立ち昇る、頭部と背中への衝撃と共に煙を上げて激突する木造作り建築物、砕き壊れたその箇所からパラパラと木片が零れ落ちて伏黒の元へと落ちていく…コツコツと当たるそれらが妙に煩わしかった。
「───伏黒…お前、いいな」
「───あっ…?」
パラパラと落ちてくる木片の真下、壊れた木造の中で唐突に向けられた東堂からの言葉に伏黒は何処かキレ気味に声を発した。
「乙骨は出てこずの代打任せ、しかもその当の代打は一年坊二人…あんまり退屈なようなら何方かを叩き潰して引きずり出そうかとも考えていたんだがな…スマンな、余計な御世話だったようだ」
何処か清々しい笑みと共に伏黒へとそう告げる東堂、腰に手を当ててさも先輩の威厳を見せつけるように余裕綽々そうに言葉を発する東堂の姿に、伏黒の中で何か言葉にし難いモノが溜まっていくような感覚がした。
…一応、念の為に言っておくがこの戦闘の発端は伏黒である…女の趣味を聞いた東堂に思考が物騒になっていた伏黒が鵺を叩きつけたのが今回の戦闘のそもそもの発端である…つまり、今回の一件は紛うことなく伏黒側に非がある、端から見れば今回の東堂は単に後輩からの先制攻撃に乗っかってやり返していただけであり、何方かと言えば被害者に妥当する人物なのである。
…まぁ、素直に女の趣味を答えていたらいたらで、東堂側が殴りつけて結局同じことになっていたのだろうが…今回はそうはならなかったのだから、そこは関係無いのだ。
納得したように、満足したように、その瞳の中に面白そうなものを見つけたと言わんばかりの輝きを宿しながら伏黒を見つめる東堂の姿に、伏黒は歯を噛み締めながら印を結ぼうとする…が───
「───やめておけ、これ以上は
それをするよりも早く、東堂がその伏黒の手をガッチリと掴み取った。
ミシミシと骨から音が鳴る、指先一つも動かせない程に深く込められた握力が伏黒の行動を阻害する、目と鼻の先へと近づけられた東堂の目が真っ直ぐと伏黒の瞳を見つめていた。
「…女の趣味は今は聞かないでおいてやる…交流戦の時、改めてお前の性癖を聞かせてもらうとしよう」
先のモノとは毛色の違う声色…低く、重く、明確な意思という名の熱をこれでもかと詰め込んだかのようなその言葉に伏黒は知らずの内に息を呑んでいた。
瞳が離される、近づけられていた顔が遠くへと離れ、そのまま東堂は伏黒に背を向けて己の手によって作り出した穴の外へとその身を投げ出していった。
掴み取られていた手は何時の間にか手放されていた、離れて尚もヒリヒリと痛むそれを擦りながら、伏黒は深く息を吐き出した…これは説教案件だな…と、何処か他人事のような言葉を頭に浮かべながら
東堂
割と伏黒が面白かったので交流戦に対しての期待値が上がっている…後に五条から乙骨の代わりに別の特級が出ると聞いて更に期待値が高まった模様…なお、出会うのはブラザーであるものとする。
伏黒
東堂との一件を聞いた薫に少し…頭冷やそうか? された、頭から湯気出して死んだ。