ハローえぶりわん、今絶賛天内ちゃん護衛をやり遂げた? 禪院廻でごぜぇーまーす。
………なんか違うなこの喋り方、戻すか。
まぁ、言うことは最初のそれと何も変わらない、天内ちゃんの護衛は終了した…それだけだ、あぁそれだけだとも。
断じて天内ちゃんを逃がす話をしていた二人の話を聞かなかったフリなんてしてない、完全に天内ちゃんを逃がすために兄ちゃんに頼み込んで家族水入らずの旅行に途中から同伴させてもらったなんてことはない…ないったらない。
だからそのやりおったなこいつみたいな目で見るのは止めてください先生、わいは何も知らんのです(棒)
「……やってくれたな」
頭に手を置き、如何にもわたし頭痛いですとでも言うように二度三度頭を振る先生に、俺はなんでもないような視線を向ける…いや、だって本当に知りませんもん(棒)
「…一応は聞いておこう…星漿体を何処にやった?」
「知りませんよ?」
一応言っておくがこれは本当のことだ、何処に行ったのかなんて知らない、何せ旅行中の兄ちゃんの所に天内ちゃんを送っただけだからな、何処で旅行してるかなんて俺は知らんのだ。
確かに頼み込みはした、頼み込みはしたけど場所を聞いたのは俺じゃなくて菫だ。
俺や悟、サマーオイルが聞いて連れて行っちゃうと色々と面倒だし場所を知ってても面倒だからな、そこら辺は全部菫とミゲルさんにやってもらった…当然、報酬は払ったよ? 主にミゲルさんに。
当然天内ちゃんを兄ちゃんの所に連れて行ったのも菫だ、こういう時は本当に助かるんだよアイツがいると…普段からそうしてほしいと思ってしまうのは、俺の我儘だろうか?
しかしまぁ、そんな事実を目の前に教師が知るわけがないわけで───
「…ふざけるなよ小僧が、自分が何をしたのか分かっているのか貴様…!」
呪力が膨れ上がる、視線に殺意が乗り手を置いていた教壇がバキッと音を立てて手の形に罅割れる。
光の灯っていない瞳、影しか存在しない教師の瞳を真っ直ぐと見つめながら、俺はなんでもないように口を開いた。
「天内理子の同化が成されなかった…その代わりに別の星漿体が天元様と同化した……それだけじゃないんですか?」
言葉を発するのと同時に、轟音と共に教壇が視界一杯に迫ってくる。
それを身体を屈ませることで躱す、背後から大きな物が壁にぶつかる音とそれがそのまま地面に落ちる音が響いてくる…学具はもうちょっと丁重に扱えと物申したい。
そんなことを考えて、一言文句を言ってやろうとダルそうに屈んだ姿勢から立ち上がろうとする俺の視界に革靴が迫ってくる…それを身体を逸らして躱し、回避行動のついでに立ち上がる。
「駄目じゃないですか、学校の用品は大切にしなきゃ、あれもただじゃないんですよ?」
「問題無いさ、貴様の実家に金を払ってもらう…ついでだ、貴様の
ゴキリゴキリと拳を鳴らし、俺のことを血走った瞳で見てくる教師に、若干ではあるが溜息を溢したくなる。
こんな風に溜息溢したり、色々と屁理屈捏ねたりはしたけれど、悪いのは結局俺達だ。
天元の同化は日本の安全に直結する、これが成功するかしないかで術師及び非術師達の安全性に天と地程の差が出る…分かってはいるけど、俺にはその事実をどうしても実感出来なかった。
変わった気がしない、よしんば俺が今覚えている未来の記憶と照らし合わせてみても、ぶっちゃけ今と未来とだとそこまで変わらない気がする…強いて言うなら天元が呪霊操術の対象になったくらいだろうか。
俺にとってはその程度の認識なのだ、天元の同化失敗の報告は。
昔が酷かったせいなのだろうか…当たり前のように毎日毎日、呪いのせいで死ななくても良い人間が何人も何人も無意味に死んでいたあの時代に比べると、どうしても実感が湧きづらい。
だから、目の前の教師の怒りに理解は示せても、共感は出来ないのだ。
「…貴方に何か教えてもらったこと、ありましたっけ?」
「よし分かった…死ね」
何気なく本音を溢してみれば、その一言に反応した教師の瞳から完全に熱が消え、代わりに海のような冷たさが宿る。
爆音、木材で整備された教室が弾け、教師が踏み込みと共に真っ直ぐと俺へと向かってくる。
それに対して、俺は構えを取って教師を迎え撃つ。
掌底が放たれる、目標は俺の胸部の丁度心臓の位置…それを手で払い除け次に襲ってくる顔面への拳をもう片方の手ではたき落とす。
拳と掌底を捌かれた教師は大きく足を踏みしめ、そのまま鞭のようなしなりの入った蹴りを俺へと放ってくる。
狙いは頭の脳の位置、脳を揺らして次の攻撃に移ろうとしているのか妙に頭を狙ってくるな…まぁどうでも良いけど。
ほんの僅かに頭を屈めて蹴りを躱し、ほんの少し、ほんの一歩だけ前に出る。
それに反応して教師が拳を放ってくるが、俺は一歩を踏み出した足を教師の足に引っ掛けるようにして払う。
ほんの僅か、少しだけバランスを崩された教師の拳は、そのほんの僅かな狂いによって俺の真横を素通りしていき、俺はそんな教師の胸部をトンっと手で押してやる。
バランスを崩された状態で押された身体はほんの僅かに後方へと下がり、それに対して目を見開いた教師は直ぐ様態勢を立て直して大きく距離を取った。
「…何のつもりだ?」
「何がですか?」
構えは継続したまま、教師は俺に一言何のつもりだと聞いてくる、それに対して俺は質問で返した…時と場合によっては怒られそうだな、質問に質問で返すなーって。
「殺せただろう、今の間に……何故しない?」
教師の言葉に小首を傾げる、今の間っていうのはもしかしてさっきのことを言っているのだろうか?
フフッと笑声が漏れる、真面目に聞いてきたのが余計に面白く感じて抑えきれなかった…だっておかしいんだもの。
「殺さなきゃいけない理由が、あるんですか?」
理由なんて無い、ましてや味方だ、味方同士でいざこざ起こして喧嘩してるだけだ…殺し合いでもなんでもない、ただ教師がキレて俺がそれに対応しているだけ。
逆に、何故この人はそんなことを聞いてくるのかが理解出来なかった…俺が自分を殺す気だったと本気で思っていたのだろうか?
だとしたら心外だ、俺は味方は基本殺さない、裏切るなり後ろから謀殺しようとしてきたりでもしない限りは基本的に殺さない。
教師は裏切ったわけじゃない、当たり前の事実に当たり前に怒って、当たり前に俺へとソレを叩き込もうしているだけ…それを裏切りやら何やらも呼ぶ人間は、この世にはいないだろう。
だから殺す理由なんて無い、そういう意味での言葉だったんだけど……どうもこの人はそうは受け取らなかったらしい。
目に見えて反応が変わる、俺の言葉に一瞬唖然としたかと思うと次の瞬間には憤怒の表情で俺を睨みつけ、歯をギリリッと音が聞こえてくるレベルで噛み締めて、拳からは血が流れ落ちる。
「そうか…ならばやはり貴様は───」
───ここで死ね
呪力が巡る、膨れ上がる…身体を伝って呪力が拳へと流れる。
「術式開放───」
その言葉と共に、俺達のいた教室は駄目になった。
「
声が聞こえた…
閉じていた瞳を開けて視線を向ける…そこには筋肉隆々の男が、椅子に座る俺を見下ろしていた。
「…東堂か…どうした?」
東堂葵…そのあまりのキャラの濃さ故に忘れたくても忘れられなかった存在、何故か俺のことを師匠と書いてマスターと呼ぶ。
どういうわけか俺の前では妙に真面目な態度を取るが、基本的に傲慢で理不尽で頭東堂な行動しかしない…そんな俺の生徒が、妙に神妙そうな表情で俺に用事があると言う。
…嫌な予感しかしないんだけど。
そんな俺の内心など露知らずか、東堂はその神妙な表情を崩さず、それでいて何処か死地に赴く兵隊のような雰囲気を纏って、その口を開いた。
「
「知るか、帰れ」
そうぶっきらぼうに返して、俺は再び寝た。
星漿体護衛から十年と少し、俺は京都校の教師になっていた。
因みに、京都校の教師は色々とやりすぎて廻に黒閃を二発打ち込まれました。