久しぶりの三人称、ちょっと書きたくなったので書いてみましたが…嫌いな人は嫌いなかもしれない。
…ところで、今も迷ってるんですが…平安の宿儺戦って宿儺視点の本編と番外編で書くのとどっちが良いんですかねこれ?
血に塗れ、雨の中で地面に染み込むようにして広がる血溜まりが、主の身体を朱に染め上げている。
その事実にソレは、柄にもなく動きを止めた。
呼ばれた、だから来た、そこには何時ものように主がいるはずだった…しかしもうそこにはいない、何故なら既に死んでいるからだ。
しかし、ソレにはその事実を認識することが出来なかった。
まるで幼子が生まれて始めて目にする死を理解出来ぬように、ソレもまた、眼前の死を理解することが出来なかったのだ。
身体を揺する…動かない。
身体を揺する…動かない。
肉体に反転術式をかける…傷は治ったがその肌は冷たく、そして先程同様に動かない。
理解が追いつかない、何故動かないのかソレは理解出来ない…そんな時だった。
「理解出来ていないようだな」
ふと声が聞こえた…背後から響く声に振り返ってみれば、そこには一人の男がいた。
腕が四本、腹部に口が存在する人の姿をした異形…それが邪悪な笑みを浮かべて、言葉を口にする。
「教えてやろうか? …貴様の主は───」
───俺が殺した。
その言葉がソレの耳に届いた瞬間、ソレの思考は停止した…そして、それと同時に高速に回り始める。
…殺した?誰が? 何を? …それの脳内でひたすらにそれの答えを求めて思考は回り、次第に次第にその答えに近づいていく。
それと同時に、ソレの中に唐突に自分の物ではない別の何かの記憶が濁流のように流れ込んでくる。
それが、眼前の存在に破壊された他の式神の記憶であるということに、ソレが気がつくことはなかった…しかし、そんなことは今やどうでも良いことなのだ。
流れ込んでくる記憶…主と眼前の男が戦っている光景、それが記憶として流れ込み、現状をソレへと伝え始める。
それは、ソレが生まれる前に戦っていた式神達の視点から見た記憶、式神達が己の全てを賭して残した眼前の敵の記録。
記憶の主が、眼前の男に破壊される度に視点はプツリと黒く染まり、その度その度に切り替わる。
ある式神はバラバラに斬り刻まれ、ある式神は内側から雷によって爆散させられ、またある式神はほんの僅かな隙をついて放たれた何かによって消し飛ばされた。
消えては点いて消えては点いて…それをただ数度程繰り返し、そして最後の最後にソレの視界に映った光景は…目の前で、最後の式神諸共眼前の男に斬り裂かれている主の姿。
その事実を、明確に認識した瞬間…法陣は
───ガコンッッッ!!
肉体が震える、吐息が漏れる…そんな機能は存在しなかったはずのソレが、存在しないはずの機能を稼働させる。
───ガコンッッッ!!!
法陣が廻る、音を鳴らして歯車のような音を鳴らす。
何故、どうして…そんな無駄なことを考えては考えて、それら全てが無意味でしかないというどうしようもない事実が、ソレへとまた新たな兆しを運んでいく。
───ガコンッッ…! ガゴッッ………。
廻る、廻る…法陣が、音を立てて廻る。
───……ガガゴゴゴゴゴゴゴゴココゴゴゴゴンッッッ!!!!
けたましく音を掻き鳴らすように鳴らしながら法陣が廻る、まるで今のソレの心境そのものを表しているかのように。
今までの全てが、眼前の王に破壊された式神達の全てが、それら全てを継承したソレへと注がれていく。
能力、経験、記録及び記憶…それら全てが、ソレの適応の後押しとなっていく。
法陣は止まらない、未だに廻り続けている、音を立てて眼前の王へとその意味を示すように大きく音を立てながら廻り続ける…そして───
───ガコンッッッ!!!
幾度幾度にも廻り続けた法陣が、最後に大きな音を立てて廻り…止まった。
「…………ッ………」
それがなんであるのかを、ソレは理解していない。
召喚回数が少なかったというのもあるのだろう、そういった感情を抱くような場面に出くわすことが極端に少なかったというのもあるだろう、何せよしんば呼び出されたとしてもその相手は軒並み呪霊だ、式神であるソレにどうそれを抱けと言うのか。
であるからこそ、ソレはその胸に灯った己すら焼き尽くさんとするそれが何なのかを理解出来ない…理解は出来ないが、それを眼前の存在に吐き出したくて仕方がないということだけは、理解していた。
…それが、人間でいうところの
王は笑っている、心の底から愉悦を吐き出すように笑っている………何がおかしい? 何が楽しい? 何がそんなにも嬉しいというのか?
楽しいか、主を奪うことが。
嬉しいか、主を殺せたことが。
おかしいか、主が死んだことが。
「……ッッ…」
ソレにそんな機能は無い、虚ろであるソレには他者へと関心を向けるという機能がそもそもとして存在しない。
…ならば、そこから流れ落ちているモノはなんなのか。
鹿の角…目の部位から滴るように流れ落ちていく赤い水は何なのか、まるで泣いているかのように頬を伝うそれは一体何だと言うのだろうか。
「……………ッッッ…」
雫は止まらない、先程とは違う胸に降り注ぐ何か…それが人間でいう所の
悲哀の血涙がソレの頬を伝う、未だに止まらぬその雫は今なお止むことのない雨水に流され、その内溶けて消えていく。
王は笑っている、まるで目の前に面白いものが降ってきたとでも言うように、まるで新品の玩具でも見るような目をして…………何がおかしい。
何がおかしい、何がおかしい、何がおかしい、何がおかしい、何がおかしい、何がおかしい、何がおかしい、何がおかしい、何がおかしい。
……何を……笑っている?
「───ッッッッ!!!!!!!!」
咆哮、天すら貫かんばかりに指向性すら持ったソレの咆哮が、雨雲の一部を吹き飛ばしながら曇天の空へと響き渡る。
犬、鳥、蛇、象、牛、鹿、蛙、兎、虎…それらの絶叫や咆哮が一緒くたに混ざりあったかのような不協和音の塊のような咆哮、それが主を失った悲しみと奪われた憎しみを外へと吐き出す。
嘆きと憎悪、本来ならば歓喜と共に目覚めるはずだったソレは、今ここに呪いを伴って生まれ落ちた。
そう…今ここに、ソレは本当の意味で生誕したのだ。
「───ッッッッ!!!!!!!」
───ガゴンッッッッ!!!!!
法陣が再び廻る、その怒りを露わにするように。
ソレは王へと視線を向ける、そこに純粋なまでの殺意と憎しみの感情を、ありったけに乗せて。
王はそれを…笑顔で、両手を広げて迎え入れた…まるで、殺してみろと、そう言わんばかりに。
片や禪院家最強の式神使い、その奥の手。
片や平安最強、全てを等しく殺し奪い潰す呪いの王。
互いに抱く想い、感情こそ別なれど、しかし互いに向ける意思は同じもの。
即ち殺意、ただただ死ねと互いに見やる。
死ね、死ね、ただ死ねと、ソレは三度と吠え…そして───
「───ッッッッッ!!!!!!!!!」
激情を吐き出す咆哮と共に、その刃を王へと向けた。
今ここに、『魔虚羅』は生誕した。
その身に渦巻く、呪いと共に。
この後、約三分間に及ぶ死闘の末、魔虚羅は廻の亡骸を抱えて撤退した…実はこの際に廻の弟が宿儺を相手に時間稼ぎをしていたりする。
因みに、宿儺の廻に対する認識を簡単に言うなら満漢全席。