最近の作者の悩み:割と本気でネタ切れ気味なこと。
「花御が死んだ」
「…マジで?」
その呪霊との会話の始まりは、そんなあっさりとしたものから始まった。
逃げた先、何処かの洞窟…いや、どちらかと言えば洞穴か。
指定された合流地点、洞穴内へと逃げ込んだ私の前には一体の呪霊が存在している。
継ぎ接ぎの身体に水色の髪をした呪霊、人が人を恨み畏れ呪ったが故に産まれた落ちたある意味最悪の呪霊…それが私の前に相も変わらずの様子で立っていた。
そんな呪霊…真人であるが、流石に仲間の急報は衝撃だったらしい、目をまん丸と見開いてその言葉には何時もの軽薄さは無い。
唐突にやってきた事実を重く受け止めている…少なくとも私はそう感じた。
「…誰がやったの?」
「分からない、やったのは人間じゃなくて式神だったからな…ただ───」
───少なくとも、五条悟レベルの化物だ。
そう言葉にして吐き出す、その事実を認識させるように重く重く口から吐き出し、ため息をついた。
本音を言えば、今すぐにでも向こう側に行きたい、全てを高専に供述して向こう側に付く…のは無理にしても、せめてこいつらに協力しなくても済むような場所に行きたい。
しかし出来ない、何故ならあのクソ脳味噌の奴が受肉したばかりの私に対してガン待ち態勢で縛りを用意していたからだ。
内容は10月31日までの間、決して自分の計画の邪魔になるようなことをしないこと…拒否は出来なかった、流石に受肉したばかりであのクソ脳味噌を相手にして勝てる自信は無いのだ。
ため息を吐き出す…身体もさっきの戦闘で大分馴染んできた、これなら奴を相手にしても逃げ切ることくらいは出来るだろう…まぁ、それをするのは10月31日以降になるのだろうし、奴の性格と私の目的的に追いかけてくることはないのだろうが。
…まぁ…兎にも角にも───
「直談判だ」
待っていろクソ脳味噌、脳味噌からメロンパンにジョブチェンジさせてやる。
……やられた……そう思った。
被害状況…二級が一人に準一級が二人、補助監督と忌庫番がそれぞれ二人死亡、どれもこれもこの前報告にあった継ぎ接ぎ呪霊の殺し方と同じ方法で死んでる。
高専に待機していた術師の中にはサマーオイルも居たのだが、そっちはそれと同時にやってきた呪詛師に行動を妨害された為、継ぎ接ぎの動きを堰き止められなかったと聞いている。
その呪詛師はサマーオイル曰く、強かったらしい…それこそ継ぎ接ぎに意識を割いては危ないと、そうサマーオイルが感じるほどに。
『メカクレ白髪頭』…サマーオイルはその男をそう呼んでいた。
ぶらりとやってきて、目的は何かと聞いてみれば勿体振った喋りをした後に趣味と答え、そしていざ戦ってみれば尋常じゃない程の強さを兼ね備えていた…そんな男だったと。
「ッッ…!」
ギリッと歯を噛みしめ、拳を握り締める。
六人…六人だ、六人も死んだ。
死ななくていい人達だった、少なくともあんな死に方をするような人達じゃなかった。
防げたはずだった、俺にはまだ記憶があった、詳細が無くなっていても確かに記憶があった。
分かっていたはずだ、継ぎ接ぎが…『真人』がやってくることが俺には分かっていたはずだったんだ。
なのに防げなかった、花御の方に集中し過ぎて真人の存在が頭の中から完全に消えていた。
失態だ、紛れもない失態だ、呪詛師どうこうはまるで言い訳にならない。
なんで何時も何時も俺は───
「……ふぅ…」
瞳を閉じて息を吐き、熱くなりかけた思考を無理矢理切り替え落ち着かせる。
いけない、今ここで俺が熱くなるのは駄目だ、教師の俺がこんなことで狼狽えちゃいけない。
人が死んだ、そんなのとっくに慣れっこのはずだろ、昔からずっとずっと経験してきたことだ、今更苦しむようなことじゃない。
逆に考えろ、寧ろ今回のはまだマシな方じゃないか、昔から六人どころか何十人と死んでいてもおかしくなかったんだ、今回はこの程度で済んで逆に運が良かった方だ。
思考の行き先を切り替える、ネガティブな感情を切り捨てポジティブな方向へと舵を取りながら現実を淡々と受け止めていく。
まず生徒達はみんな無事だった、怪我をしている奴等も居たが、それでも重症を負った生徒は一人も居なかった。
虎杖くんや東堂に限って言えば身体中に火傷を負ってこそいたが、それは俺が反転で容易く治せるレベルの怪我であった為、大事には至らなかった。
それと、多分虎杖くんは黒閃を経験したんだろう、身体に触れた時の呪力の感じが初めて黒閃を経験した時の薫に似てた。
だからなんだろうか、ちょっと懐かしい気持ちになってついつい虎杖くんの頭を撫でてしまった、凄く驚いていたのが記憶に残った。
…うん、調子が戻ってきた。
自分の思考が何時もの調子に戻ってきたことを感じながら、ふと手に痛みが走る。
視線を向けてみれば、握りしめられた俺の拳から血が滴り落ちていた、ポタポタと音を立てて落ちる赤色の雫が地面に沈んで染みを作る。
何気なく拳を解いて血液で真っ赤になった掌を開く。
肉が大きく抉れ、そこから溢れた赤い血がプンプンと血液特有の鉄臭い匂いを醸し出し、それが俺の鼻を何気なく擽る。
特に何か思ったわけじゃない、強いて言うならこんなになるまで放っといたんだなぁってなんとなく思った。
「…………」
傷を反転で治し、何気なしに視線を外へと向ける。
…青空だ、白い雲が陽気に呑気に漂って、そこから差し込むようにして明るく気持ちの良い日差しが降り掛かってくる。
日光が俺を照らし、照らされた俺の姿が背後に大きな影を作り、そこから顔だけ出すようにして魔虚羅が影から出てくる。
その顔には相も変わらず表情は無い、ただ俺のことを見上げるように見てくるだけだ。
しかしそれでも、なんとなくではあるが大丈夫? と俺のことを気遣ってくれているような気がした。
魔虚羅の頭を撫でながら大丈夫だと言葉をかけ、顔に笑顔を浮かべて見せる。
その様子に安堵したのか、それとも別の理由でもあるのか、魔虚羅はゆらりと影の中へと沈み込み、数秒経つ頃には完全に俺の視界から消え去っていた。
その姿を最後まで見届けた後、俺は視線を廊下へと移して歩き出す。
まだ交流会は終わっていない、個人戦が残っている。
昨日にあんなことがあったばかりだ、本当なら中止になるのだろうが…どうせあの悟のことだ、中止にするかどうかは生徒達に決めさせるだろう。
そしてそうなった場合は東堂がいる、アイツなら是が非でも続けようとするだろう、何せあの性格だからな。
となると、俺がやるべきは個人戦のセッティング───
───久しいな…禪院廻。
唐突に、その声が俺の耳に届いた。
個人戦のセッティングをしようと歩き出そうとした俺の背後から、その声は響いてきた…まるで、長年連れ添った知り合いに向けるような、そんな気安さを孕んだ声音で。
振り向き声の発生点へと視線を向ける…そこに居たのは見覚えのある姿をした男。
なんてことはない、宿儺の器こと虎杖くんが俺の視界の先に居た、その表情からは何処からか戸惑いを感じさせる。
何を戸惑っているのかは気になるが…今はそんなことはどうでもいいだろう、重要なことじゃない。
今ここで重要なのは───
「……お前」
呆然としたように、掠れたような声で思わずと言ったように呟く…忘れたくても忘れられない最古の記憶にある光景が脳裏に蘇る。
あぁそうだ、忘れるものか、自分を殺した男の声を一体誰が忘れられようものか、その名をどうして忘れられようか。
居るのは分かっていた、虎杖くんの中に居るのはもう最初から分かっていた、それを承知の上で俺は虎杖くんを受け入れた。
だけど、それでも、あの時の感覚は未だに忘れようがない。
愛も憎しみも全て等しく下らないと斬って捨て、並み居る者達全てを文字通り捻じ伏せてきたもう一人の最強、平安の世で俺と式神達を殺した最強最悪にして究極の一。
「どうした、何を驚いている? 言ったはずだぞ───」
───俺は生涯、貴様を忘れることはない…と。
両面宿儺…宿主を介して俺の前に現れた呪いの王と呼ばれたその男は、何もかもが面白いとでも言わんばかりに笑みを浮かべて、そう口にした。
その表情に、とびきりの邪悪を貼り付けて。
禪院廻の記憶について
禪院廻の物語の記録は、その物語通りになればなるほど鮮明に思い出せるようになり、逆に物語から遠ざかれば遠ざかるほど思い出せなくなっていく。
因みに、乖離が激しすぎてもう実質何も覚えていないのが現在の廻である。