宿儺にぶっ殺されたワイ、何故か子供になる   作:富竹14号

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 陰実書くとか言っときながらすぐに戻ってくる作者である、それはそれとしてなんか書きたくなったから書いた…こういうのは正直苦手だった。


番外編 溶けて凍ってまた溶けて

 

 

───私はお前が嫌いだ。

 

 

 そんな風に思ったのは、一体何時のことだったろう。

 

 初めて会った時からだろうか? それともあの方と仲睦まじく過ごしている姿を見た時からだろうか? もしくはその身分に見合わぬ下賤な者達と馴れ合っていたのを見たからだろうか?

 

 嫌いだ嫌いだと言っておきながら、私は何故アイツのことが嫌いなのかという明確な理由を、自分自身でも分かっていない。

 

 ただ私は、アイツのことが嫌いだった…それだけは、分かっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 雨の降る夜のことだった、私はあの方に捨てられた。

 

 飽きた…そう言われて、私はあの方の側から引き剥がされた。

 

 身体を重ねた、愛を囁きあった…それを何度も何度も繰り返し、至福とも言える蜜月の日々を共に過ごしていた私を、あの方はゴミでも捨てるように、容易く私を切り捨てた。

 

 あの方自らの手で訳も分からぬままに外へと放り投げられ、べチャリと泥に汚れる私をあの方は酷く冷めた瞳で見下ろし、それすら飽きたと言わんばかりに部屋の奥へと歩き去って行った。

 

 呆然とする私のことなんて、眼中にないように。

 

 あまりに突然訪れたソレ、私は泣き叫ぶことすら出来ずにただただ唖然とし、暫く経った頃に私はその場を後にした。

 

 何故と問う気にはなれなかった、裏切られたとも思えなかった、恨み憎み呪おうとも思えなかった。

 

 ただ虚しかった、心の中が空になってしまったのではないかと、そう思いたくなるくらいには、虚しかった。

 

 雨の中を泥まみれの服で歩く、傘も持たずにただ雨に射たれながら、私は夜の町をただ歩いていた。

 

 前も向かず、ただ下だけを向いて。

 

 

『えっと…傘いります?』

 

 そんな時だった、アイツが私の前に現れたのは。

 

 何処か遠慮がちに私へと傘を差し出してきたその男が誰なのかを当時の私は知らなかったし、知っていたら知っていたで八つ当たり染みたことをしていた自信がある。

 

 だが当時の私はそれを知らなくて、 いらぬと突っぱねられる気力もまた無くて、だから私は───

 

 

『…すまない、助かる』

 

 そう言って、差し出された傘を受け取った。

 

 …それが、私とアイツの出会いだった。

 

 

 

 

 

 二度目の出会いは、思いの外早かった。

 

 

 あの日、私がずぶ濡れで家に帰ったあの日の翌日、私の両親はあの方に苦言を申し立てようとしていた。

 

 怒り狂う両親、止めようとしても止まらず寧ろ私の言葉に更に怒りを解き放つ始末…最早、私一人がどうこう出来る問題では無く、私は大事にならない様に祈ることしか出来なかった。

 

 

 

 …結局のところ、悪いのは私だったのだ。

 

 甘い言葉に惑わされて、心地の良い言葉と態度に騙されて、一時の熱情に浮かされたようにその身を委ねてしまった。

 

 愚かなものだ、これでは普段から下賤と見下していたあの者達と然程変わりないじゃないかと自嘲する…が、そんなことをしたところで両親は止まらない。

 

 あの方の実家に苦言を申し立て、あれよあれよという間に部屋に通され、今や一室で一人待たされている。

 

 両親は当主との話があると言って部屋を出ていき、あの方の付き人は用があればお呼びくださいとだけ言って部屋から出ていった。

 

 何をするでもなくただ待たされるだけの時間、それを心地よく思うこともなく、しかしそれを暇に思うこともなく、私はただ無気力にその場に在り続けていた。

 

 空を見つめ、雲を見つめ、ただその場で静かに座っている…そんな時間を過ごしている中で…唐突にそれは聞こえてきた。

 

 

『何やってんだこのバカタレェェェェェッッ!!!』

 

 

 大きな声、怒気を孕んだ声が私の耳に届いた。

 

 

『ねぇ何やってんの? ねぇ何やってくれてんの? 一体全体何やってくれやがったんですかなぁ菫さんや?』

 

 菫…あの方の名前が出たことで、私の意識は一瞬にしてその会話に持っていかれていた。

 

 何故あの方の名前が出てくるのかだとかそんなことはどうでも良かった、その時の私はなんでも良いからあの方に会いたかったのだ。

 

 何故私を捨てたのか、私の何がいけなかったのか…聞きたいことは山程あったが、それは会ってから聞けばいいと思考を切り捨てて、私は声のする方向へと足を進めた。

 

『俺言ったよね? もうそういうことは止めろって言ったよね? 絶対に面倒なことにしかならないから止めとけって言ったよね? なのになんでまたやらかしてくれてんのお前?』

 

 足を進めるごとに声が近くなっていく、声に近づけば近づく程に会話の内容がより鮮明に私の耳に届いてくる。

 

『大丈夫、同性同士だから子供は出来ないし貞操も無くならない、誰も困らないし迷惑も掛からないから無問題、ハイ論破!』

 

『心の傷を慮れよぉぉぉっ!!?』

 

 

 そんな男の声と共に、ズガンっと何かを大きな力で叩いたような音が、目の前の部屋から聞こえてきた。

 

 あまりに重い打撃音、怒声? と共に聞こえてきたソレに、私は恐る恐ると言ったように目の前の襖を開け放って…唖然とした。

 

 

『オラァ!! 聞いてんのかバカタレェッ!! 反省しとんのかぁワレェぇっ!!?』

 

『待って…待って廻…しぬ、死んじゃう…』

 

 視界に移ったのは、何やらあの方の首に手を回して思い切り力を入れている男の姿と、それに対して抗議の声を上げているあの方の姿。

 

 私に甘く囁いた甘い顔と声が、今や面影も無いくらいに歪み、痛みに悶えてパンパンと男の腕を叩いている、今にも死にそうな顔をしているようにも見えるのは私の気のせいだろうか?

 

『えっ、ちゃ…待て待て待て離せ死ぬぞその人!?』

 

 

 とりあえず、泡を吹きかけているあの方を助ける為、私は男へと向かって突撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …そこから、私とアイツの奇妙な縁が始まった。

 

 

 ある日は共に呪霊討伐に駆り出され、またある時はあの方の起こした不祥事を共に解決するために走り回り、またまたある時は何故か私とアイツの縁談を組まされた。

 

 騒がしい日々だった、特に好きということも無かったが、別に嫌いというわけでもない…言ってしまえばどちらでもない日々を、私はアイツと過ごした。

 

 一度でも縁を結んでしまえば切ることは難しく、そもそも切ろうと思えずズルズルと引きずることもまた、珍しくもなんともない。

 

 そんな風に、私とアイツの縁は数年に渡って続いて、きっとこの縁が切れることは無いのだろうと、そう思っていたある日のこと……私とアイツの縁は、唐突に断ち切られた。

 

 

 他ならぬ、アイツの死によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…雪姫様」

 

 

 背後から声が掛かる、穏やかで緩やかで敵意なんて欠片も無いと、そう言わんばかりの声掛けに振り返ってみればそこには見慣れた顔が居た。

 

 黒い髪にアイツ似の琥珀色の瞳、腰に携えた刀はきっとアイツの形見なのだろうと勝手に推測する。

 

 

「……薫か」

 

「お久しゅうございます」

 

 

 そう言って頭を下げる薫の姿を視界に捉え、しかし何をするでもなく視線を元の場所に戻す。

 

 

 墓石がそこにはある…アイツの…禪院廻の墓だ。

 

 冷たく静かにそこにあるそれの上に、暖かな日差しが降り注ぎ、私はそれをただ見つめた。

 

 薫が私の横に並び、墓石に一つ頭を下げて、口を開く。

 

 

「…菫様を…斬ろうと思います」

 

「…あぁ…」

 

 あの方を斬る…そんな言葉に、ただ一言だけ返して私を墓石に背を向けてその場から立ち去ろうとする、ここの居る理由は無くなったと、そう言うように。

 

 

「…何も、仰らないのですね」

 

 その言葉に歩みを止めて、何気なく振り返り、私は口を開いた。

 

 

「…なんと、言えばよかった?」

 

 あの方を殺すなんて許さない? 好きにしろ、それには意味がある? 私も一緒に行く? 廻の意志は私が継ぐ? …そんなことでも言えば良かったのだろうか。

 

 分からない、何を言って欲しかったかなんて、何が言いたかったかなんて私には分からない…だって私は、アイツじゃない。

 

 何処か苦しそうな顔をした薫を置いて、私は石段をゆっくりと降りていく。

 

 

 …あの日からだ、アイツが死んだあの日から、私の中にある何かが明確に変わった、それが何なのかは分からない。

 

 けど…それでも、私には分かっていることがある。

 

 

 私はお前が嫌いだ…勝手に現れて、勝手に居座って、勝手に居なくなったお前のことが嫌いだ、勝手に縁を切ったお前のことが嫌いだ、勝手に死んだお前のことが嫌いだ。

 

 

 私を勝手に置いていったお前のことが、大嫌いだ。

 

 

 

 





雪姫

 本人が全く無自覚でツンツン過ぎて気づいてなかっただけで、廻のことが好きだった人、廻の両親に息子の嫁にと狙われていたことに終始気が付かなかった人。

 多分、作中の中で廻が生きている事実に最も安堵したであろう存在。

 因みに受肉した理由はどっかの誰かさんが守った先の未来が見たかったから、あとついでに宿儺を殺したかったから。


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