つい最近まで直哉の口調が僕と勘違いしていた作者が通ります。(直哉の存在を知ったのが寄りにもよって呪霊直哉だった時の直哉だった作者)
───君、気持ち悪いなぁ。
その声が黒沐死の耳に届くのとほぼ同時に、黒沐死の身体は静止した。
時間にすれば大凡一秒程度…埒外の速度にて黒沐死へと接敵した声の主は、特級という絶対的な呪いの象徴を前にしてなお不敵な笑みを浮かべながら、さも当然のように黒沐死に触れた。
その瞬間を、黒沐死は確かに目撃した。
風に靡く金色の髪…つい先程まで狙いを定めていたその獲物へと腕を突き出す…それと同時に突如として視界から消え去った獲物が、自分に触れる瞬間を…確かに。
「なんや君、トロいなぁ」
たかが一秒の静止…しかしことこの呪術界に於いて、それはあまりにも長い時間と言えた。
呆れたように術師から放たれた言葉…それが黒沐死の耳に届いた直後、黒沐死の肉体に打撃が重く突き刺さる。
ねちょりという気色の悪い感触と自身の腕に絡みつく粘液染みた液体に術師はその表情を不機嫌そうに歪め、再び静止した黒沐死へと蹴りを叩き込んだ。
建物の壁を意図も容易く突き破りながら吹き飛ばされる黒沐死へと、術師はこれまた容易く追いつき追撃を仕掛ける。
…が、流石に特級呪霊と言うべきか、その名に恥じぬ反応速度にて術師からの追撃を身体を無理矢理逸らすことで対応し、そのまま反撃することなく羽を広げて距離を取る。
「避け方まで気持ち悪いか君、もう首括って死んでくれへん?」
しかし、術師もまたそれを逃がすほど甘くはなく、ブブブっと羽を広げて飛んで逃げる黒沐死へと追従し、その拳を繰り出した。
───爛生刀
繰り出された拳をパシリと受け止め、そのまま逃さぬと言わんばかりに握りしめた黒沐死が、何時の間にやら懐から取り出した刀を術師へと振るう。
幾多もの目玉のような物が付いた刀、生と死の交雑する魔剣が術師の脳天目掛けて振るわれる。
当たれば必ず良くないことが起こる…そう確信させられるほどの異様さと悍ましさを持った刀と呼ぶことすら憚られるそれに対し、術師は───
「首括るじゃ足りんな、いっそ火葬場にそのまま突っ込んでくれへんかな、気持ち悪いから」
心底お前が気持ち悪い…そう言いたげな表情を浮かべながらまるで痰でも吐き出すようにその言葉を言い放った術師は、もう片方の手で黒沐死の肉体へと触れた。
瞬間、再び黒沐死は静止し、更にそこに蹴りが叩き込まれた。
「何 故ダッ 何 故我 々ノ 邪魔ヲス ル?」
───何故 我 々ヲ 殺ス ?
それは黒沐死の心底からの疑問、何故己等を殺し呪うのかと…あまりにも意味も無ければ道理も無い黒沐死の問いかけに、術師はプハッと吹き出すように笑った。
「そんなもん決まっとるやないか───」
何を馬鹿なことを言うように、何を分かりきったことを言っているんだと吹き出すように、お前がそれを言うのかと呆れるように。
術師は一切の偽り無く、黒沐死の問いかけへ自身の本音を吐き出した。
「俺はな、
───禪院家所属 特別一級術師『禪院直哉』
最速の術師と呼ばれた男が、この世の災いに真っ向から立ちはだかった。
偶然だった。
なんてことない、俺がここにいるのは本当に偶然だった。
俺はなんとなしに甚爾くんに会いとうなって、それでどうせなら何か買っていこうかと思い至って、偶然渋谷の近くに足を運んでいただけだった。
その結果として、唐突に起きた事変に俺は巻き込まれた、近くに居たからと召集の対象になった。
なんで今やねんとかそんなことを思っても仕事は仕事や、やるからにはキッチリやらんと後が面倒臭いことを俺は良く知っている。
やから、そこい等に居た呪霊やら呪詛師やらで鬱憤を精算しとったんやけど───
「チィッ、ホンットに気持ち悪いなぁ君」
これは聞いてない、こんな気持ち悪いのが居るとは聞いてない。
舌打ちを漏らしながら、大量に群生するゴキブリの群れから逃げるように俺は術式を使用して走り回る。
なんや俺狙ってきてる奴おるな、何だったら突っ込んできとるな、じゃあ不意打ち仕掛けて祓ったろ…とか思って殴ってみたらあら不思議、普通に硬いでやんの。
その後に散々殴る蹴るだの術式使うだの、なんだったらトロいだの気持ち悪いだのと散々に煽ってこそみせたが、実際のところ今の俺にそんな言葉通りの余裕は無い。
硬いし滑るしなんやチマチマとしたのが大量におるし、なんだったらどう見ても当たったら終わり系の刀まで持っとるし…俺反転とか使えへんのやけど。
こういうのは扇のジイさんの役割やろうに…なんで毎回こういう必要とされてる時だけ居らんねんあの人。
そんな文句を脳内で垂れ流しながら、ブブッと音立てて突っ込んできた呪霊の振るう刀を身体を傾けて避ける。
真横を通り過ぎる気色の悪い刀、その刀を持っている方の腕を袖から取り出した小刀で斬り飛ばし、その身体を離れろと悪態つきながら蹴り飛ばす。
動きはトロい、俺と比べての話やけどそこはまず間違いない、術式をフルで使っていれば追いつかれることも触れられることもまず無いと言ってもいい。
ダメージ覚悟の捨て身で来ても俺が触れれば奴さんは一秒間は止まるからそれは無いし、カウンター狙いで来ても端から俺はそれを前提に動きを作っとる、やからそこら辺は問題無い……って言いたいんやけどなぁ。
「…気色悪いわぁ」
渦巻くゴキブリの群れ、最早黒い川とすら思える程のそれを前にして、俺は思わずと言ったように呟いた…こいつ何回俺に同じ言葉使わせる気やねん気持ち悪いんじゃドブカスが。
幾ら俺の術式が速くても、幾ら触れれば止まるのだとしても、あぁ言うちっこい数の群れ相手ではどうにもならない、決まった動きしか取れない俺の術式じゃ何百何千と居る数の暴力相手にはどうにもならない。
じゃあ無視して本体を叩く…それをやってこそいるがそれですぐに殺せないからこうして状況が膠着してるわけで、少し遅れればゴキブリ共が本体の元に集まってきてまた振り出しに戻される。
相性が悪い…そんな言葉が俺の脳裏に浮かび上がった。
せめて後もう一人、最低でも範囲攻撃が出来る術師が欲しい…そんなことを考えている間に、状況は動き出す。
「───『
───土中蠕定
印と詠唱、それと共に呼び出された式神……なんて言えばいいんやこいつの姿、言葉にしたらアウトな要素しか無いとかなんやねん首括って死んでくれや。
そんなことを考えた次の瞬間、俺の周りをまるで渦のように大量にゴキブリが囲い込んだ。
悪寒と死の気配、それを本能で感じ取った俺は半ば反射的に袖から小刀を取り出し、術式を使用しその場から一気に飛び退く。
術式を使用しての飛び退き、その速さは当然のことながら並大抵の存在では追いつけないソレ…しかしその飛び退いた先に、あの呪霊が呼び出した気持ち悪さの塊のような式神が待ち構えていた。
咄嗟に小刀を振るおうとする…が、俺の何かが斬ったらアカンと叫んだ。
即座に切断から打撃による吹き飛ばしに変更、手の平で二体纏めて触れ、停止したところを纏めて引っ掴んで何処へなりとも投げ飛ばす。
ガゴンッと音を立ててどっかの建物に突っ込んだ式神には目も暮れず、俺は何時の間にやら接近してきていた呪霊へと小刀を振るい、それを黒い塊に易々と受け止められた。
「はぁっ!?」
思わずと言ったように叫んでしまう…腕を翳して小刀を防いだ呪霊の腕には黒いモヤのような物が出来上がっていた、どうやらそれで呪具を防いだらしい…じゃない…!!
こいつ、今の今までわざと防がんかったなっ!?
やられた…そう思考する俺目掛けて呪霊の刀が振るわれる。
相変わらずの一辺倒、その腕をまた斬り飛ばしてやろうと小刀を…振るうのを止めて俺は大きく身体を横にずらした。
瞬間、呪霊の刀から何かが射出され、それが俺の左腕の指を掠めた。
掠めただけ、多少の痛みは仕方が無い…そんな思考を切って捨てた俺は術式を使用し掠った指二本を小刀で切断した。
次の瞬間、俺の眼の前で切断した指が破裂し、中からこれまた気持ち悪いデカいゴキブリ二体が俺の眼の前で奇声を上げた。
そういう絡繰かと冷や汗を流して自身の咄嗟を褒め称えながら、俺は呪霊から大きく距離を取り、取るや否や懐から布を取り出し指へと巻き付け止血する。
ふぅと息を吐き出す、幸いと言うべきか今は呪霊も動きを止めている、当然その配下のゴキブリもまた同様。
思考を簡素に整理する…ゴキブリはクソ、式神もクソ、あの刀は一番クソと最早整理とは言えない整理の仕方に自分で呆れる。
あの刀…というより射出された卵っぽいのを喰らったら不味い、具体的に言うならまともに喰らったらその瞬間に俺は死ぬ、反転使えないから。
ゴキブリは面でやれない俺にはどうしようもないし、式神はなんとなく斬ったら…というか中身ぶち撒けたら碌なことにならなさそうだからこっちも駄目。
対してこっちは一撃一撃が弱いし決め手になるようなモノも無し、攻撃食らっても向こうさんみたいに治せない、まともに…いや、足に喰らったらほぼ終わりのクソゲー状態。
あぁ、もう───
「相性最悪やんけ、ドブカスが」
強がるように、冷や汗ダラダラの俺は自分の顔に笑みを貼り付けて、一言言葉を吐き出した。
誰か瞬間火力強い人来てくれへんかなぁなんて、そんな情けないことを考えながら。
直哉と黒沐死って相性最悪だと思うんです(作者の個人的な感想)
ドブカス(仮)
パパ黒に会う前に菓子折り買っていこうとしていた男、渋谷に近かったせいで急遽呼ばれて若干不機嫌、けど仕事は仕事だから真面目にやる。
実はナナミンをぶつける予定だったが、金髪の術師で真っ先に思いついたのがこいつだったので急遽ぶち込んだ、頑張れドブカス(仮)