仮面ライダーアクセルのトライアルとかみたいなスピードタイプのやつ見てたら思いついた話。
全身を汗が伝う…一部は純粋に疲労による汗、もう一部はついさっき括った死と隣り合わせの応酬による冷や汗…どっちも碌なものやない。
息を吐いて吸う…ただそれだけの行動ではあるが、するとしないのとではやはりコンディションってもんがエライ違うわ、なんか色んなもんがスッキリしたような感じがする。
今度廻くんにお礼言っとこ……なんてことを考えた直後、ギチギチと音を金切り立てて、ゴキブリ共が一斉に俺目掛けて突き進んでくる。
表札に車に電灯…群れの進行を邪魔するであろう物全てを文字通り薙ぎ倒し喰い破りながら俺へと向かってくる、その勢いはさっきまでの比じゃない。
何故…とは言わへん、何せ考えなくても分かる単純なことだ。
純粋な呪力による強化…なんてことない、俺が今のところ一番やられたくないことを、あのクソキモ呪霊がやってきたってだけの話や。
「んのドブカスがぁ…!!」
辟易に苛立ち…それらの感情を一切隠すことなく曝け出しながら、俺は向かい来るゴキブリ共に背を向けて一目散に走り出した。
撤退…というにはあまりに無様であろう逃げの姿勢、それを見た呪霊が嘲るように俺へとゴキブリをけしかける。
キチキチギチギチと背後から聞こえてくる気味の悪い音、聞けば聞くほど虫唾が走って今すぐにでも焼却炉にぶち込みたくなるような衝動を抑え、俺は依然として走り続けながら考える。
即ち、どう殺してやろうかと…そんな風に思考を回している最中、俺の身体はそんなの知ったことかと言うように動き出していた。
未だに追いかけ回してくる黒い波を振り切るように、窓ガラスを割って建物の中へと侵入、ぐちゃぐちゃと狭い窓枠から中へと入ってこようとせめぎ合っている虫達を一瞥することも無くただ真っ直ぐに走り出す。
壁の砕ける音と幾多の虫がざわめき軋り鳴く音、それがまた俺の背後から聞こえたタイミングで眼前に迫った窓ガラスから外へと脱出、そして更にそのまま別の建物へ…それを繰り返す。
走って走って走って、虫が来たらまた別の建物へ…それを俺はただ術式を使いながら繰り返した。
呪霊は来ない、来ないと言うより俺に追いつけてへんのやろうけど、だけど今はそんなことはどうでもいいと切り捨て逃げて……ふと、思った。
俺は…何を小難しく考えとるんやろう…と、そんなことを考えていた。
相性が悪い…まぁ、確かにそうなんやろな、俺の術式は虫みたいなちっこいのを纏めて落とすのにはとことん向かんわ…けど、威力が足らんはちょっとおかしいわと、自分の出した結論に異を唱えた。
何を考えとったんやろうか俺、自分で言ってて恥ずかしゅうなってくる、今の今まで俺は何をしとったんやって話や。
だからお前は馬鹿なのだ…なんて、そんな台詞が脳内で溢れてくるくらいには、俺は物事を難しく考えすぎとった。
なんてことない、シンプルに考えれば良かった、俺が今までやってたことを普通にやっときゃ良かっただけの話だったんや。
───力は重さと速さ、速さは力と重さ。
呪霊の姿を視界の端で捉えながら思考は回り、唐突に思い起こされたその言葉は瞬く間に俺の身体を駆け巡り、それと同時につい先程までの悲観的な思考は綺麗サッパリと俺の頭の中から消え去っていく。
加速、加速、加速…建物に入って脱出し、建物に入ってはまた脱出し、それをただただ連鎖的に繰り返す…それを繰り返した結果としてどうなるか。
「───くはっ」
それをなんとなしに想像して、俺は思わずと言ったように…笑った。
───禪院直哉には悪癖がある。
呪霊…黒沐死の飢えは最早限界に達していた。
覚醒直後の飢餓状態、獲物の少ない街に加えて食事を邪魔する金髪の術師の存在…全てが黒沐死を苛立たせた。
故に黒沐死は、食事の邪魔をする直哉を本能の赴くままに貪り喰らうことに決めていた。
追い詰めた、追い詰めた、あともう少し、あともう少し久方振りの食事へとありつける…そのあともう少しと言った所で術師が背を向けて己から逃げたという事実は、黒沐死の怒りを刺激した。
怒り狂ったかのような雄叫びを上げる黒沐死に呼応するように、辺りを無作為に食い荒らし食い散らかすゴキブリの群れ、未だ直哉を追い続けているゴキブリの群れの存在だけが、今の黒沐死にとっての唯一の癒やしと呼べるものだった。
故に───
───禪院直哉は、術式を使用する際に無意識的にある程度のライン決めをする。
───言ってしまえば引き出す速度の度合いと攻撃への深み、どちらが行き過ぎても駄目、どちらも行き過ぎても駄目…直哉自身がそうライン付けをしてしまっているのだ。
───それが結果として禪院直哉の可能性を狭めた、禪院廻や五条悟と言った圧倒的格上との戦闘経験が故に無意識的に構築してしまっていた安全圏は、何時の間にやら直哉の全力の振れ幅を狭めてしまっていた。
───故に
「お望み通り来てやったでぇゴキブリモドキィィッッ!!!」
黒沐死は歓喜する、喰らい甲斐のある獲物の到来に。
───禪院直哉は嘲笑う、潰し甲斐のある実験台の姿に。
バリンとガラスを突き破り、月明かりにキラキラと反射するガラスの破片と共に現れた直哉に対して、黒沐死は配下なぞ知ったことかと言わんばかりに直哉へと襲いかかった。
その手に持つ魔剣を獲物の頭蓋へと叩きつけ、そこから流れ落ちる脳髄と肉を喰らいたいという欲望を一切隠しもせず、大口を開け涎を垂らして突っ込んでくる黒沐死の姿に、直哉は凶悪な笑みを浮かべてその場から音を出して掻き消える。
ドンッと音を鳴らして消えた直哉の残影を爛生刀が叩き斬る、捉えたはずの獲物をスカ振り地面へと叩きつけられた爛生刀は、獲物の消失に怒り狂うかの如く震えていた。
「どこ見とんのやアホ」
再び起きた獲物の消失、その事実に黒沐死が今度こそ怒り狂う前に、唐突に眼前に現れた直哉によって黒沐死の肉体に打撃が叩き込まれる。
一撃、二撃、三撃、四撃…次から次へと無数に叩き込まれる拳と蹴り、打撃に次ぐ打撃が一斉に黒沐死へと降り注ぐ。
視界の端から端へ、視界のど真ん中から右へ左へこれまた上へ下へと埒外の速度で移動しては殴り移動しては殴りを直哉はただ只管にそれを繰り返し続ける。
これに溜まらないのは黒沐死だ、折角獲物が目の前にいるというのに捕まえ殺すどころかその姿を捉えることすら出来ない。
先程までとは速度も気配もまるで違う、まるで別人にでもなったかのような動きの変化にさしもの黒沐死も混乱するが…流石は特級と言うべきか、拳によって吹き飛ばされるや否や直ぐ様体勢を整えて直哉を迎撃しようとゴキブリを展開する。
「───くはっ」
が…既に遅い。
黒沐死がゴキブリ達を展開するよりもなお速く黒沐死の懐へと潜り込んだ直哉が黒沐死へと拳を叩き込んだ。
速さと重さ、更には直哉自身の呪力を乗せた渾身の一撃が黒沐死の肉体へと突き刺さり、それが直哉へと幸運を運び込む。
───黒閃
黒く稲光る黒い呪力、幼少期から今日この時に至るまで微笑むことの無かった黒い火花は、十数年の時を得て遂に直哉へと微笑んだ。
禪院直哉のボルテージが上がる、グチャリと黒沐死の口から吐き出された大量の紫色の血を直哉は頭から被るが、そんなことにすら気づかぬままに直哉は黒沐死の身体を蹴り穿つ。
───黒閃
再び灯る黒い火花が黒沐死の身体を抉り、その肉体を大きく大きく吹き飛ばす。
道路を転がりながら紫色の血と臓物のような何かを撒き散らし、ギャリギャリと爪を道路へと突き立て勢いを殺す黒沐死…そしてそこへと直哉は飛び蹴りを噛ます。
───黒閃
灯った火花は消えること無く再び灯り、黒沐死の身体が地面へとクレーターを作りながら叩きつけられる。
威力と速度の乗った只管に重い一撃一撃、あまりの頻度で巻き起こされるそれにゴキブリを呼び出す余裕も無ければ操るなど以ての外、黒沐死は反撃のタイミングを失っていた。
そんな黒沐死の視界に最後に映った光景は…何時の間にやら上空へと昇っていた直哉が殺意を剥き出しにしたような笑顔と共に、己目掛けて降ってくる光景であった。
降り注ぐ…まるで流星とでも呼びたくなるような速度で上空から黒沐死へと堕ちるように蹴りを放った直哉は、黒沐死との接触と同時に爆音を掻き鳴らした。
沈む地面に沸き立つ爆音、ほんの僅かでこそあるが地震とも感じさせるような揺れすら引き起こしてみせたその蹴りの威力たるや否や、想像を絶するものであることには間違いない。
宛ら爆心地とも呼ぶべきその惨状の中心で、しかし直哉は───
「───アキャキャキャキャキャキャキャッッ!!!!」
黒沐死の死骸を蹴りつけて、狂ったような笑い声を上げながら、勝利の美酒に酔い痴れていた。
───禪院直哉VS黒沐死 勝者 禪院直哉
───決め手 上空からの
禪院直哉
本人が自覚してないだけで充分特級クラス(多分)、しかし目指してるものが遠すぎて気づいていないのと本人が非常にスロースターターなせいで一級に留まっている、因みに廻のせいで異様にインファイトが得意。
今回、少し余裕があったせいで箍が外れた。
黒沐死
なんか強化した直哉で殺せそうだったから殺した、元々は扇で殺すつもりだった、ちょっと残念。