最近、ブルアカの小説を見てると書きたい衝動が湧いてくる…しかしワイはニワカ、というわけでブルアカをダウンロードして思ったこと……これやってたら小説書けねぇ。
───なんだ、この男は?
視線の先に佇む壮年の男、その手に持った刀には炎が灯り、伏黒恵を背後に立たせて静かにこちらを見据えている。
静かだ、気配も呪力の流れも全てが静か、まるでゆらりゆらりと揺らめく炎のような呪力の流れをしているその男に、私は不思議と視線を釘付けにされた。
呪力の量は然程、もしかすると伏黒恵の方が多いやもしれん、警戒することなぞ無い…そのはずなのに、私が男から感じたものは…ただ一色の恐怖のみであった。
あれは不味い、あれを私に近づけさせてはならない…そう思考する頃には既に、男はその一歩を踏み出していた。
踏み出し駆ける一歩、その一歩で大きく大きく私との距離を詰めた男が上段から大きく刀を振りかぶり、そのまま私を真っ二つにしてやろうと振り下ろす。
鋭い一閃、並大抵の呪霊ならば防ぐどころか視認することすら出来ないであろう鋭く速いその一刀を、私は確かに視認していた。
速い、確かに速いが…それだけだ、決して見えないと言うことは無く、防げないと言うことも当然無い…恐れることなど何も無いはずなのだ。
…しかし何故なのだろう、その一閃にどうしようもない程の恐怖を覚えてしまったのは。
刀を躱す、大きく距離を取って可能な限り刀の間合いから大きく離れ、術式を使用する。
近接戦は圧倒的に不利…遠距離で叩く。
死累累湧軍を最大規模で発動、小から特大に至るまでの式神を全動員、虎杖悠仁へと回していた呪力を含めたそれら全てを、男へとぶつける。
それほどまでの恐怖、それほどまでの脅威を、私は男へと感じていた。
「ふむ…多いな」
男が一言呟くのと同時に、その両手が忙しなく高速で動き出す。
一匹一匹、また一匹と男へと向かわせた死累累湧軍が刀で次から次へと瞬く間に斬り落とされる。
小さいものは膾切り、普通のサイズは首落とし、大きなものは丸焦げに、そういったように次から次へと斬り落としては斬り落とし、少しずつ少しずつ私の元へと男が近づいてくる。
その表情には焦りは無く、それどころか汗一つとして流れた様子すら無いその姿に、私は思わずと言ったように舌打ちをし、更に呪力を回そうとする…しかしそれも叶わない。
横合いから響く衝撃、身体の芯から芯へと響いてくるような衝撃と重い打撃音が私の耳へと届き、その直後に私の身体は呆気なく海原へと吹き飛ばされた。
何が起きた…等と言うつもりは無い、こんなことが出来る人間などこの領域内では限られている。
顔面目掛けて振り抜かれた蹴りを頭を屈めることで躱す。
視界に映り込む人間…虎杖悠仁の姿に私はこれまた忌々し気に唇を噛み締め、お返しと言わんばかりに虎杖悠仁へと拳を振るい…何時の間にやら接近していた男にその腕を斬り飛ばされた。
斬り飛ばされた腕の断面から焼けるような痛みが走る、まるで腕の断面を勢い良く燃え盛る炎に浸したようなその痛みに、私の動きはほんの一瞬ではあるが止まり、そこへと更に畳み掛けるように男の刀が振るわれる。
真っ直ぐと私の首目掛けて振るわれたその刀を私は式神の中でも一際頑丈な式神を盾にすることで防ぐ、ガギンッという鉄と鉄のぶつかり合う音が耳元で響き渡り、それが殊更私の男への恐怖を助長した。
なんだこれは、何故私はこんなにもこの男を恐れる? 何故私はこんなにもこの男に恐怖を抱く?
意味の分からない恐怖、命に手が掛かっているという訳でもないと言うのに身体の奥へと抉りこむように染み込み付き纏うその恐怖に、私の身体は知らず知らずの内に震えていた。
恐ろしい、怖い、側に仲間が居ないという事実がこんなにも辛い。
ギャリギャリと鍔迫り合う刀の音、その先に居座る男の姿、その瞳に込められた殺意一色のその瞳に私は震え上がり、半ばで衝動的に刀ごと男を弾き飛ばし、そこへ縫い込むように虎杖悠仁の拳が突き刺さる。
痛い、痛い、痛い…助けてくれ漏瑚、真人、花御。
居ても立っても居られない、無様に情けもなく仲間へと助けを求める、そんなものは来ないと分かっていてもついと言ったように居るはずのない仲間にまで助けを求めてしまう。
真人や漏瑚はともかく、花御が来るわけがないのだ、何故なら花御は───
「───花御」
…そうだ、花御は死んだのだ、奴等に殺されたのだ。
自然が好きだった花御、星の輝きを取り戻したいと言っていた花御、誰よりも優しかった花御…もう居ない、死んでしまったのだから。
何故…? 何故? 何故…何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故───
「……よくも、花御を───」
恐怖が塗り潰される、つい先程まで感じていたはずの恐れがまるで嘘のように霧散していき、私の肉体をただ只管に怒りと憎しみが満たしていく。
そうだ、何をしていたのだ私は、何を怖がっていたのだ私は。
───仇が、目の前にいたというのに。
「───よくも花御を殺したなァァァァァァァァァァァッッッ!!!!!」
刹那、空間が塗り替わる。
穏やかであったはずの海波は荒れに荒れ、空は曇り雷がゴロゴロゴロゴロと鳴り響く。
怒り、悲しみ、憎悪、嫌悪、それらを負の感情がいとも容易く領域の姿を塗り替えていき、次第に次第にそれら全てが形を成そうとぐにゃりぐにゃりとその姿を歪ませていく。
「───合わせぃ若人ぉ!!」
駆け出す、扇の怒髪の一言によって互いに駆け出した両名は、確かな確信と共にその地を踏み鳴らす。
このままにしておけば不味い、ここで祓わなければ不味いと…まるで互いが互いに抱いたその確信を証明するかのように、陀艮もまた動き出す。
掌印を結び、呪力を集中させるその姿には先程までの落ち着きは無い、あるのは何処までも深く暗い殺意に染まった気配のみ…最早、陀艮の脳内には宿儺復活のことなぞ一欠片も残っていなかった。
ただ目の前の存在を殺したい…ただただ自身の憎悪と本能のままにその力を振るおうとするその姿は、真人が定めた呪いとしての本質そのものであった。
溢れ出す、荒れ果てる海原の奥底から次から次へと夥しい量の式神達が現れる、その数は先程までのものとは比較することすら億劫となる程の差が存在した。
さしもの虎杖もこれには怯み、ほんの僅かではあるがその脚に迷いが生じる…が───
「構うな! 行けぃ!!」
禪院扇はそれを薙ぎ倒す。
あまりの数、あまりの物量…だからどうした、そんなことは知ったことじゃないと禪院扇は大群と呼ぶことすら憚れる程の群れ、その最前列を自身の炎で焼き尽くした。
刀を一振り、ただそれだけでの動作で引き起こされる波のように広がる炎、真正面だけという限定された範囲でこそあるが、それは確かに迫った群れを焼き尽く、そこへ虎杖悠仁は迷い無く突っ込んで行く。
初対面且つ初共闘、誰かにその存在を聞いたわけでも無ければ調べた訳でもない、正真正銘赤の他人…しかし虎杖はその老人を信用していた。
なんということはない、東堂という実例で外れた箍が虎杖悠仁という人間を動かしていたのだ。
東堂葵という勝手に他人との存在しない青春を捏造し、勝手に自分の写真と推しのアイドルの写真でキーホルダー作るような男との共闘が虎杖悠仁という人間に教え込んでいたのだ、初対面の人間との共闘の仕方を。
即ち…ボロが出る前にさっさと潰す。
敵の渦中、その真っ只中に在る中でのそれは自殺行為に近く、そんならしくもない隙に反応したかそうでないのか、式神達が一斉に虎杖悠仁という人間を食い尽くさんと牙を剥く。
「させんよ」
しかしそれをさせるものかと扇の炎が宙を舞う、無数に群がる魚の群れを虎杖に近づけさせまいとその一刀の元に全てを斬り伏せる。
刀を手に持ち構えるその姿は、さながら鬼とすら呼べしまいそうな程の威容に満ちており、そこから吐き出される静かな気迫からは全てを燃やし尽くされてしまいそうな程の圧を感じさせた。
掌印を解き、指を立てて虎杖は静かに陀艮を見据える。
「───『
静かに言紡ぎ、呪力を練り上げる。
静寂、術式の無い虎杖が吐き出すその言に、陀艮は扇に感じたもの以上の怖気を覚えた。
───そうだな、ならばこうしよう
「───『
二言目、陀艮が動く、式神だけに任せておけぬと遂に自身が動き出す。
狙いは虎杖、ただ自身の感じた本能のままに動き出そうとした海の化身はしかし、これまた容易くその動きを封じられる。
「もう一度言うべきか? …させぬよ」
踏み込もうとした足が斬り落とされる、何時の間に近づいたと視線を投じる陀艮の腹に刀が突き刺され、それと同時に扇はその場を全速力で離脱する。
───俺が『契闊』と唱える度に二度
「───『
見開かれた瞳が、海の化身を映す。
───お前に俺の術式を使わせてやろう
「───『
唱えられたその名が陀艮の耳に届くのとほぼ同時に、その肉体は知覚する間も無く、刺し身か何かのように斬り刻まれた。
その瞳に映ったものは、ふーっとただ息を吐く…虎杖悠仁の姿だけであった。
まだ死んでませんよ、それはそれとしてタコの刺し身って美味しいですよね?