宿儺見てて何時も思うこと、貴方結局は本気だとどれくらい強いの? どれが本気なのか本当に分からんのですが。
「なんだ…あれは…」
愕然…言葉にするなら、きっとその一言で全てが片付く。
そうだ、俺は愕然としていた…目の前で繰り広げられている、その光景に。
「どうしたどうしたそんなものか!? そんなわけがないだろう!? 周りは気にするな本気でやれ禪院廻ゥゥゥッッ!!!」
見たことも無い程の笑顔、張り裂けそうな程に喜びの感情をこれでもかと表現したその笑顔と共に吐き出されるその言葉には、俺に向けられていた感情とはまるで真逆のモノが込められていた。
喜び、興奮、高揚に歓喜…そのどれもが喜びを表現するものばかり、何時か俺へと向けられたソレとはまるで違うソレに、俺は不思議と拳を握りしめていた。
ビルが爆音を立てながら崩れ落ちていく光景の中で見えた二人の人影…一人は宿儺、もう一人は───
「…廻さん」
無意識的に、その名を呟いた。
廻さん…俺の実質的な兄と呼べる人があの宿儺相手に戦っている、外から辛うじて見えるその動きからは互いに近接戦を挑んでいるようだった。
ハイレベル…いや、そんな表現すら生温く思えてしまうそうな程の近接の攻防と駆け引き、一発が一発が互いの命を奪うであろう状況下で、しかし二人の表情に焦りの感情は浮かばない。
何処までも楽しそうに、何処までも呆れたように、破壊と破壊をただひたすらにぶつけ防ぎを繰り返す。
目で追うことが叶わない超高速戦闘、そんな二人に付いて回るように飛び交う白い龍のような狼…それを見て俺は確信した、何故宿儺が俺に対して妙に当たりの強い態度を取っていたのか。
アレだ、宿儺にとって十種とはアレなのだ、アレが在ってこその十種であると宿儺の中で印象付けられていたんだ、だからそれを使えない俺に何処までも失望した。
俺も十種使いだから分かる、アレもまた十種の式神だ、十種影法術という術式、その最奥であると俺は直感していた。
あの時の一撃を俺は見た、宿儺の放った炎を容易く突き破ったあの一撃を俺は確かにこの目で見た、正しく桁違いとも言うべきその一撃を俺は確かにこの目に焼き付けていた。
獅子王か白叡か、どちらかは分からない…だけど、それでも分かっていることがある。
俺は…未だに弱者から抜け出せていない。
自然と拳に力が籠もり、ギリギリと音を鳴らして拳が悲鳴を上げる…そんな中で、俺の身体が唐突に浮いた。
「何をやっておる! 離れるぞ若人!!」
そんな怒声と同時に俺は男に首根っこを掴まれ、そのまま引き摺られるようにその場から離脱を始めた。
ただここに居たら命は無いと、そういう意味での言葉であるというのは分かっている、分かってはいるが…それが今はどうしようもなく煩わしい。
見ていたい、頼むから見せてくれ、あの人の戦いを見れば何かが変わるかもしれないんだ、強くなれるかもしれないんだ、頼むから止めてくれと…そんな場違いな言葉が口から出ようとするのを俺は無理矢理捻じ伏せた。
俺は弱い、弱いやつがそんなことを言う資格が何処にある、弱くて弱くて仕方の無い奴が、どうして自分よりも強い人に置いて行けと言える。
俺は何もしない、ただ首根っこを掴まれたままこの場を離脱する…ただその瞳に、捉えようの無い化物達の攻防をどうにか目に焼き付けようとしながら。
ただひたすらに、俺はその光景を映し続けた。
…恵くんと扇さんが区域から離脱、それと日下部さんとサマーオイル…後は誰だ? 分からないけど、とりあえず近場にはもう誰も居ないと思いたい。
……もう良いか、流石に。
宿儺を足で蹴飛ばしながら印を組む、呼び出すのは何時なりとも呼び慣れた我等が可愛い筆頭。
───『脱兎』
モコリとした毛並みにきゅるきゅるとした赤い瞳をした夥しい量の兎達が一斉に出現し、雪崩込むように宿儺へと襲いかかる。
一匹一匹は大した戦闘能力を持たない脱兎であるが、群体としての力で言うならばまず誰も勝てないし押し潰される、昔はこれ使って呪詛師を圧死させたこともあった。
その姿は宛ら球体、丸っこく纏まった脱兎達が宿儺の身体を押し潰さんと全身から圧力を掛けながら落下していき…次の瞬間には纏わりついていた脱兎すべてが粉微塵に斬り刻まれた。
「ケヒャッ…! ようやく重しを下ろしたな!!」
「重しと思ったことは一度も無いけどな」
───『満象』
桃色の象が俺の傍らへと寄り添うようにのしのしと現れ、それと同時にその鼻から吐き出された大量の水が宿儺へと降り注ぐ。
まるで滝、物量として申し分の無いその量、普通ならば量と圧で押し流されるかそのまま溺死するか溺れて地面に叩きつけられるかの何れかなんだが……相手は宿儺だ、死ぬわけが無い。
バキャンと水が弾けたとは思えないような音を立てながら吹き飛び…びしょ濡れになった宿儺に対して紫電が奔る。
───『鵺』
十八番は体当たりの怪鳥、相変わらずの奇妙な鳴き声で吠え散らしながら宿儺へと突っ込んだ鵺はその勢いのままに宿儺へと体当たりを叩きつける。
バチィッと弾ける紫電が宿儺を打ち、更にそこから畳み掛けるように落下していく宿儺へと連続して体当たりを繰り返していく。
バチリバチリと鳴らし鳴らされ続ける紫電の音、水を浴びてるせいかその効果範囲も威力…というより雷の巡りも良くなってるだろうと勝手に推測してみたりする。
「…懐かしいなぁ、この感じ」
呟きながら、俺はビルの外へとその身を投げ出し、その勢いのままに宿儺へと飛び蹴りを叩き込んだ。
地面に叩きつけられ、クレーターを作りながら地面へと沈み込んだ宿儺へと穿水を放ち、更に影から取り出したナイフ約数十本を一斉に宿儺へと投げつける。
キンッという音と共に放った攻撃全てが斬り刻まれ、それを通り越してやってきた不可視の斬撃を俺は腕で弾き飛ばしながら影から刀を取り出し宿儺へと斬りかかる。
ガキンッと鉄の音が響き渡る、腕を掲げて防いだ宿儺の腕から鳴った音、まず間違いなく腕から鳴っていいような音じゃないだろうとか思いながら、受け止められた刀を手放して拳を宿儺へと叩きつける。
パシリと受け止められた拳を引き寄せられ、引き寄せられた箇所へと置かれた拳が俺の顔面へと直撃する…よりも先に宿儺の腕に舌が巻き付いた。
───『蝦蟇』
蛙の式神が宿儺へとその舌を巻きつける、特に指示は出してないから勝手に出てきたと思っておきたい…可愛いだろウチの子。
止まった拳を前にして俺は咄嗟に肘打ちを宿儺の顎へと打ち付け、それと同時に不可視の斬撃が俺の片足を斬り裂いた。
久方ぶりの出血、決して浅くは無いその傷にしかしそんなもの何するものぞと無視して怪我した方の足で蹴りを叩き込む。
奔る痛みにぶしゃりと広がる傷と出血、だからなんだ痛くも痒くも無い、この程度で痛がってたら昔を生き残れてない。
傷を反転術式で治しながら俺は踏み込み、同時に身体を屈めた。
何かが頭上を通り過ぎる感覚、背後から聞こえてくる何かを斬り裂いた音と崩れ落ちていく瓦礫の音…それらを感じながら、それでも俺のやることは何も変わらない。
砕ける地面、砕けるほどの力を込めて俺は宿儺の懐へと飛び込み、何をするでもなく性懲りもなく自身の拳を突き出した。
見えた宿儺の顔は笑顔一色で、何がそんなに嬉しいやらとやはりというかなんというか、呆れと困惑が俺の思考一杯に広がっては消えてを繰り返し、けどそれもどうでもいいやとそれらを容易く切り捨てた。
死んでくれ、虎杖くんに身体だけ返してお前はさっさと死んでくれ、二度とこの世に目覚めないでくれ。
本当なら俺もお前もこの世に在っちゃいけない存在だ、生きるどころの話じゃない、存在してちゃいけないんだよ俺達は。
死ね、死んでくれ、目覚めずそのまま眠っていてくれ、死人は大人しく土の中でも大人しくしておいてくれ……なんて思ってみても、どうせお前も俺も大人しくなんて出来ないんだろうけど。
───黒閃
黒い火花が弾け飛ぶ、宿儺の腕を根本から吹き飛ばし鮮血を撒き散らすその光景に感じるものは何もなく、即座に再生を始めるその腕に視線を合わせながら…俺は印を組んだ。
虎杖くんの身体に極力ダメージを与えないようにしてたけど…これはもう無理だ、虎杖くんごと殺す気でやらないと何時まで経っても起きやしない。
仕方がない、あぁそうだ仕方がないんだと誰に言い訳してるんだとか思いながら、俺は獅子王を召喚しようとし…宿儺の腕の動きと同時に中断した。
組まれた印に吐き出される膨大な呪力、ニヤニヤと笑みを浮かべた呪いの王は、さもこれから面白いことが起きるぞと言いたげな顔で俺を見つめていた。
不味い…そう考えた時点で、俺は既に印を組んでいた。
───領域展開
───『伏魔御廚子』
───『
渋谷に、伏魔の厨房が顕現した。
『廻輪奇劇』についての一言。
めぐりめぐった奇妙な劇とか言う意味でこの名前、もうちょい捻れなかったのかと自問する毎日であります。