雷雨が降り注ぎ、紫電が弾ける。
一直線に真っ直ぐに、紫色の残光が走った後に残ったのは深い深い抉れ跡、未だにパリパリと紫電が迸る道の先で奴は仰向けに寝転がっていた。
「ケヒヒッ…なんだ、品揃えが増えているではないか」
これならば然程急ぐ必要もなかったかと、宿儺は何処か満足気にそう呟いて、何気無いように俺へと視線を向ける。
パチャリパチャリと水溜りを踏み、コツリコツリと靴音を鳴らす…雷雨が降り注ぐ中でのソレは容易く俺の服から靴に至る全てをずぶ濡れにし、髪の隙間から雫が流れ落ちる。
そんな状況だからなんだろうか、ふとしたように思い出すのは昔のこと…丁度、宿儺に殺されたあの日のことを思い出す。
「…真逆だな、あの時と」
呟かれたその言葉に宿儺はニヤリと笑い、一言そうだなと返す、そこには普段から感じられる傲岸不遜なソレは感じられない。
あるのはただただ、満足に満足を重ねた男の姿だけ。
片手以外が件並み吹き飛び、残った片腕も最早炭と呼べるほどに塵と化し、片目も潰れて最早見えては居ないだろう。
反転で治せるはずなのに治さないのはそれをする余裕が無いのかそれとも別の理由からか、何方にせよ警戒しておくに越したことはないだろうとは思う。
「お前が倒れ、俺が見下ろす…今となっては確かに逆だ、今や見下ろしているのはお前の方だ」
あっさりと、あっけらかんと宿儺は認める、自身は負けたのだと宿儺は何を気負うでもなくその事実を何気無しに認めていた。
「…良いのかお前、こんなこと言うのもあれだけど…まだ完全じゃないだろ?」
突いて言葉に出たのは俺の中にあった確かな疑問、こいつがこんなにも簡単に敗北を認めるとは思っていなかったが故の言葉、あまりの潔さに思わず拍子抜けしてしまった俺は悪くないと思う。
そんな俺の言葉に、宿儺はだからどうしたと言葉を返す。
「何をどう言い繕おうが負けは負けだ、俺がどんな状況であれお前がどんな状況であれ、今や可能なことをやり尽くした上で敗れたのなら、それは歴とした敗北だ…だが…そうだな……未だ名残惜しくもあるのもまた事実か」
よし、ならばこうしよう…そう一言呟き、宿儺は身体を起き上がらせて、俺へと今にも崩れ落ちそうな指を突き付ける。
「縛りだ、禪院廻…もう一度、その一度で最後としよう」
「時間、場所…お前の好む通りにすれば良い、其れで以て完全な俺とお前の二人きりで、最後の晩餐としよう」
「条件は二つ、余人に一切の邪魔をさせないこと、そしてもう一つは必ず最後までやり通すことだ」
「その条件を呑み、尚且つお前が俺に勝ったならば…俺は二度と、この現世には現れんことを誓ってやる」
どうする? そう言って宿儺は突き付けていた指を下ろし、俺の返答を待つかのように俺の瞳を真っ直ぐと見据えた。
真っ直ぐに叩きつけられた縛り、内容は言ってしまえばもう一度完全な状態の己と戦えというもの、俺が勝てば宿儺は二度と目覚めない。
…怪しいと、そう思ってしまうのは俺の心が汚れているからなのか、宿儺のことを多少なりとも知っているからなのか…恐らく後者であろう答えの中で、それでも俺の口は分かりきっていたように勝手に言葉を紡ぐ。
「…分かった、じゃあそうしよう」
紡ぎ出された言葉は肯定…俺は今再び、呪いの王への挑戦権をその手に掴んだ…まぁ、特に掴み取ろうなんて思ったことは一度も無いのだが。
そんな俺の返答に満足したのか、決まったら教えろと…そう何時も通りの笑顔を浮かべて、宿儺はバタリと倒れて動かなくなった。
傷が癒えていく、反転術式による回復が宿儺の身体…いや、虎杖くんの身体を有るが儘の姿へと戻していく。
そんな姿を尻目に、俺は自身の領域を解除する。
まるで霧が晴れるかのように、全てが幻の蜃気楼であったかのように領域が溶けて消えて吹き去っていき、最後には最初から何も無かったかのように渋谷の景色だけが俺の視界に広がった。
崩れたビルに割れた地面にその他諸々、どれもこれも自分がやったと自覚のあるものばかりの大惨事に思わずと言ったように頭をポリポリと掻いてしまう。
「…やっちゃったなぁ〜」
そんな腑抜けた俺の声が、渋谷の夜闇に小さく消えていった。
───禪院廻VS降霊宿儺 勝者 禪院廻
───決め手 『廻輪奇劇・羅生門』
「久しぶりだね、雪姫」
聞き慣れた声が、私の耳に届いた。
反転で治しても尚痛む傷、腹部から響く痛みを我慢しながら渋谷へと向かっていた私の視界に、菫色が映り込む。
ふよりふやりと浮かんだ姿、コートを着込んだその姿が嫌に艶かしく見えてしまうのは、きっと過去の情景を思い出させるからなのだろうと考える。
美しい月の光に反射する白と菫色の長髪、以前とは違う菫色の瞳がゆったりと私を視界に収めていた。
「菫…様」
震えた唇から漏れたかつて恋い焦がれ憧れたお方の名前、今となっては一種の黒歴史の象徴ともなったお方が、今再び私の前に姿を現した。
ふわりと笑みを携え、緩やかに地面へと降り立ち、ゆらりゆらりと私へ向けて歩み寄ってくるその姿を見て、私は…冷や汗を流した。
「早速で悪いけど…還ってくれない?」
甘く蕩けた声が私の耳元へ囁くように届く、そしてその言葉の意味を理解しようと私の脳が忙しなく動き出す…よりも先に、本能が私の身体を突き動かす。
振り抜かれた腕は私を護る為のもの、覆われた視界は私を生かす為のもの、放った氷は私を逃がす為のもの。
───術式反転 『赫』
それら全て等しく無駄であるとでも言うように、至極の赫が私の肉体を撃ち抜いた。
肉体に奔る衝撃に私の身体は悲鳴を上げ、更にそこから突き進むように奥へ奥へと身体を吹き飛ばされる。
線路がまるでおもちゃのように捻り曲がり砕け散り、その横を猛スピードで滑空しているかのように吹き飛ばされた私は、受け身を取ることも出来ずに地面を転がる。
身体の内から感じる嘔吐感、吐き出された大量の血液があの方の放った技の威力を証明していて、そしてそれを何の躊躇いも無く放たれたという事実に私は心底恐怖した。
「ん〜、今ので死なないのかぁ〜…少し強くなった?」
無関心、呑気な様子のその声が真横から聞こえ、次の瞬間には術式を喰らった場所に更なる痛みが走る。
足、細く靭やかで白く輝く菫様の足が何でもないように私の横腹へと突き刺さり、私の身体を宙に浮かせる。
吐き出される息、痛みに耐えきれず漏れた苦痛の声に視界に映った菫様の表情は嗜虐の色に染まった。
「ほらほら、頑張らなきゃ死んじゃうよ?」
変わらず降りかかる呑気な声と共に放たれるのは握り拳、ギチリと握られた拳が私への腹へと更に突き刺さり、私の身体を雑巾のように吹き飛ばす。
岩を砕き、木を砕き、背中から突き刺さる痛みが私の意識を保った。
背面に氷を展開し、落下の際の衝撃を僅かにでも減らす、火花すら散らして削られるように転がる私の視界に映るのは、走って私へと向かってくるあの方の姿で。
「ッッ…!!!」
───『霜凪』!!!
歯を食いしばって放たれたのは氷の息吹、何もかもを氷漬けにする氷凝呪法の真髄…しかし───
「温いよねぇ…!」
通じない、届く前に菫様の眼前で息吹は球体のように静止し、菫様はそのまま体当たりでもするみたいに私へと激突する。
「チィッ…!!」
術式を反転、氷から炎へと転換し纏った氷を一気に溶かし、更に術式を転換、自分の足元を凍らせてスケートの要領で距離を取る…が───
「アハハッ!! よく逃げるねぇッ!!!」
それよりも、菫様の方が倍は速い。
滑って逃げた私へと菫様は一息に距離を詰めた、地面を踏みしめ一気に踏み込む…言葉にすればそれだけのことが一体どれだけ難しいことか、この人は理解しているのだろうか。
距離を詰められたからには対応しなくてはならない、しかし何度も言うが私は別に格闘が得意な訳ではない…つまり、近接戦になれば必然的に負ける。
襟首を掴まれ投げられる、接近する地面に咄嗟に手をついて激突を避けるが、そこを狙って放たれた蹴りが片腕に直撃する。
ボギィッという破砕音、腕から響いた骨の砕けるような感覚と痛み、痛みに呻きたくとも呻けばやられると分かっているから何も出来ず、ではその結果として何か起こるかと言われればそれこそ何も出来ない。
嬲られる、嬲り殺される…その事実を分かっているから、私はこの手を切らざるを得ない。
出来れば使いたくなかった、あのクズ相手に使いたかった、貴女に使いたくなかった。
でも…結局今死んでしまったら同じことだから。
「───ッ…領域展開ッ…!!」
───『
「ご容赦ください、菫様…!!!」
私とて、まだ死ねないのですっ…!!
氷燐灼華陣について
辺り一面に氷と炎の花が咲き乱れてる領域、外殻が無いから領域展開したら基本(相手が)負ける。
菫
とりあえず邪魔なの片付けとこう的な感じで殺しに来た、廻とイチャラブしてたのが目障りだったのもある。
なお、平安の時点でやらかそうとはしてたけどその度に弟くんと廻の部下に全力で邪魔されてた過去がある。
呪いの王
全部食えなかったけど予約は取り付けたぜ的な心境、次は全力で食い散らかす気満々。