宿儺にぶっ殺されたワイ、何故か子供になる   作:富竹14号

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 今回は大概やっつけ、ストレスが溜まってたせいでかなりの部分がやっつけに次ぐやっつけ、仕事つらい。


まだ眠っていた鬼

 

 

 斬られる、炎が飛び交う、焼き付くような熱が頬を焦がし、炎に照らされ朱色に輝く刃が真人の眼前に迫る。

 

 舌打ちを一度、咄嗟に大きく上体を反らして刀を躱し、膝先から顔を覗かせ更にそこから変化させていない手を突き出すように吐き出す。

 

 呪霊なのだ、人の形に拘る理由等更々無く、ましてや自身の特性からしてそんなものとは無縁だ、拘る方が馬鹿らしい。

 

 吐き出された手には何の仕掛けも無い、ただ口から吐き出すように突き出しただけのただの手だ…しかし、それ故にソレは一撃必殺の凶手と化す。

 

 『無為転変』…触れれば実質勝ちの術式が肩首擡げて鬼へと迫り、その上から思い切り踏み潰された。

 

 グチャリと絵の具をぶちまけるかのように飛び散る肉片に追い打ちを掛けるように炎が到来、迸っていた呪力諸共真人の手を念入りに焼き尽くす。

 

「掌に触れなければ発動しない…のだったな、貴様の術式は」

 

 

 掌に触れなければ無為転変は発動しない…伸ばされた真人の手を踏み潰し燃やしながら呟かれたその言葉には大した感情は乗っていない、ただちょっとした確認程度の口軽さで呟かれただけの言葉だ…それが否応無しに真人に理解させる、この男は自身の天敵であると。

 

 振り抜かれる刀にそれに付属する炎、どれもが自身を確実に葬り去るだけの威力と殺傷性を持っている、魂に届くと確信させるだけの何かを宿している…その事実が真人を普段以上に慎重にさせた。

 

 領域展開? 相手の領域が自身より洗練されていたらどうする? 逃げ場の無い中で必中となったあの炎に耐えられる自信を現在の真人は持ち合わせていなかった。

 

 

 鬼気迫る…正にその言葉を体現するかのように扇が上段から刀を構えて真人へと突撃し、真一文字にその刀を振り下ろす。

 

 速度、鋭さ、共に申し分無しのその一撃を身体を横合いに逸らすことで躱した真人はそこから攻めに転じようと腕を刃へと変形させ…咄嗟に背後に一歩下がった。

 

 その瞬間、振り下ろされた刀がまるでその軌跡を辿るように下から大きく振り抜かれた。

 

 知る者が居れば燕返しと呼んだその一撃が、真人の肩を僅かながらに抉り取り、抉った傷跡から吹き出るように炎が湧き上がる。

 

 更に咄嗟、抉られた部分を切り捨て後方へと距離を取る、それを逃がすかと言わんばかりに扇が追う。

 

 扇と真人の視線が交差する、互いに互いが殺意を抱いたその瞳…その僅か一瞬の交差の間に扇は一真人との距離を一息に縮め、刀を横一文字に振るう。

 

 喰らえば上体と下半身が泣き別れになるのが目に見える程の鋭い斬撃、それに対して真人は姿勢をしゃがめてスライディングの要領で逆に扇へと接近し、その手を突き出す。

 

 突き出された腕から射出するように槍のような細長い刃が解き放たれる、今までの物とは桁違いの速さで扇の脳天目掛けて放たれたその一撃を首を傾けることで躱す。

 

 頬に走る僅かな痛み、避けきれず掠った傷跡から血が流れ出し頬を伝う、その光景を前に真人はニタリと笑った。

 

 殺れる、五条悟のような理不尽では無い、キチンとした勝負になる。

 

 強いは強い、能力も天敵も良いところだ…しかし、それでも眼の前の老人はまだ普通に戦える部類の人間であると真人は判断した。

 

 踏み込む、先程までの恐怖なぞなんのそのとでも言わんばかりに情け容赦無く扇の間合いの中に踏み込んで行く。

  

 何と言うこともない、己と同じだ、己と同じで限定的な一撃必殺だ、ならば対処の仕方も自身のモノとまた同じはずだ…そんな必殺を持つが故の自信を元に真人は一撃の間合いに踏み込んだ。

 

 一歩、一定の範囲内に踏み込んだ瞬間に飛んでくる斬撃、首筋目掛けて振るわれたソレを屈んで躱し、そこから更に踏み込もうと足を踏み入れ、それと同時にギシリと拳を握り込む。

 

 拳の状態では無為転変は使えない、あくまで触れるという条件を達さなければ無為転変は発動しない…それを分かってなお真人はその拳を握り込んだ。

 

 それを初めて見たのはつい先程、ほんの数秒の領域を発動した時のこと、無下限を中和された五条悟に仲間が打ち込んだ黒い火花が真人の脳裏に焼き付いて離れない。

 

 撃てば覚醒状態となると言われる黒閃、それを己が撃てばどうなるのか、己はどのような成長を遂げるのか…そんな考えばかりが真人の脳内にはあった。

 

 だから拳を握り込んだ、今なら絶対に打てるという曖昧な確信に満ちた心積もりで真人は必殺の手を敢えて投げ捨てた。

 

 打ち放つ、可能な限りのありったけの殺意と呪力を乗せて自らの暴力を眼前の老体へと躊躇無く解き放つ、満面の笑みでソレを成そうとする真人の姿は正しく呪いと呼ぶべきものだろう。

 

 そんな真人に、黒い火花は気紛れに微笑んだ。

 

 

 

───『黒閃』っ!!

 

 

 発現し、炸裂する黒い火花が扇の左脇腹を撃ち抜く。

 

 メキャリゴキャリと何かが砕けたような音を鳴らしながら、抉りこむように突き入れられた拳が扇の身体を吹き飛ばした。

 

 血潮を吐き出す、大量の血液が口元から濁流のように湧き出てはべチャリと空へと飛び散り地面へ落ちる。

 

 激痛に次ぐ激痛、咄嗟に受け身を取って体勢を整えるが…それでもつい先程までの動きとは泥水の差、痛みとダメージが扇本来の動きを阻害する。

 

 そして、それを見逃す真人ではない、その顔に悍ましい笑みを浮かべながら眼前の術師を玩具にしてやろうと猛スピードで接近する。

 

 興奮、万能感に凄まじい開放感、自身に流れる全てを意のままに感じ取れる全能感…それは宛ら初めての酒に酔い潰れた若者のように、迸るそれら感覚全てに突き動かされるように真人は無遠慮に扇の命目掛けて突進し、その手を突き出した。

 

 真人の掌は開かれている、無為転変の発動条件はクリアされている、触れれば即アウトの反則技は既に解禁されている。

 

 真人の顔に滲むのは高揚に興奮、初めての黒閃に浮かれて酔い潰れたような表情、そこには禪院扇への警戒の色なぞ最早無く、あるのはただただ魂を壊すことへの欲求だけ。

 

 で、あればこそ───

 

 

「───舐めるなよ小僧」

 

 

 鬼は、その油断をいとも容易く刈り取る。

 

 呟かれた言葉、若干の怒気と憎悪を孕んだそれを真人が認識した瞬間、真人の突き出した掌が宙を舞った。

 

 は?…と漏れ出た声は誰のものだったのか、自分かそれとも相手のものか、それすら理解する間も無く斬り飛ばされた自身の手がひらりひらりと自身の視界を横切り、最後にはボトリと地面へと落ちる。

 

 視界を眼前に戻せば、そこにあるのは血反吐を流しながら刀を振り抜いた体勢で己を睨みつける人間の姿、端から見ればボロボロの状態の癖にその瞳と魂はまるで死んでいない。

 

 振り抜かれた刀は炎を纏っていない、銀色の刃が鈍く輝いているだけ、そこには自身に対する脅威をまるで感じない…感じないはずなのに、己の魂が全力で逃げろと叫び散らすのを感じた。

 

 なんてことない、さっきまでの焼き直しだ、己が逃げて此奴が追いかける…なんてことはない詰まらない焼き直し…そのはずなのに、真人は全身の毛穴に氷を突っ込まれたような感覚に陥った。

 

 逃げろ、逃げろ逃げろと喧しい本能に従って真人は扇の側から逃げようとする…が、それよりも速く鬼は一歩動き出していた。

 

 

「───極ノ番」

 

 

 宣言された言葉を合図に炎が静かに巻き起こる、禪院扇を中心として巻き起こった炎がその手に持つ刀の中へと吸い込まれるように収束していく。

 

 悪寒に悲鳴、揺らめき揺らぐ炎一つ一つが自身を確実に滅するであろうソレを前に滝のような冷や汗が真人の身体に流れ、次の瞬間には真人はヒュッと息を飲んだ。

 

 

 炎が…変化を見せる。

 

 全てを焼き尽くさんとしていた紅蓮の炎が…静かに、何処か静謐な気配すら醸し出すようにその勢いを弱めていき、次第に刀の中へと吸い込まれるように、溶け合うように消えていく。

 

 炎が消えたわけではない、ただ弱く今にも消えてしまいそうな程に小さな小さな炎が、刀身を覆うように存在している。

 

 青く、蒼く、碧く…まるで純真な空のような透き通るような蒼色の炎がゆらりゆらりと揺らめくように小さく弱く輝いていた。

 

 それを前にした真人は今度こそ確信した、アレは駄目だと。

 

 端から見れば何の冗談だと笑われるだろう、あんな色が変わっただけの小さく弱い炎で何が出来る、何を恐れると嘲笑われるのだろう…しかしそれを真人は否定する、アレだけは駄目だと否定する。

 

 アレはただの炎では無い、先程までの炎の方がまだ可愛らしかったと、何をどうすればあんなモノが生まれると真人は乱雑に言葉を吐き捨てたくなるのを必死に堪えた。

 

 何故ならアレは、アレは───

 

 

 

「───『迦具土神・一式』」

 

 

 

───『宇理炎(うりえん)

 

 

 

 魂を焼き尽くすことのみに、特化させた焔なのだから。

 

 

 

 

 

 





『迦具土神』について

 禪院扇の極ノ番、極ノ番の癖に技の種類が大凡四つくらい存在する、四つ目が切り札の位置に妥当する。

 因みに、宿儺に使おうとしたのは四つ目の切り札、使ったら場合に寄らずとも自分が死ぬ。


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