次あたりで決着かな? 今更ながらうしおととらを視聴中。
爆音、爆音…爆音爆音爆音爆音爆音。
爆発に次ぐ爆発、地面が砕けてはマグマが大量に飛び出て、それが雨あられのように地面へと降り注ぐ。
拳の一振り二振りで揺れ動く地面と共に、耐えられんと言わんばかりにマグマが血を吐き出すように吹き出し落ちる。
そんな地獄か何かのような場所で、鬼が咆哮する。
「ォォォォオオォォッッ!!!」
唸りを上げる声帯、吐き出された咆哮と共に振り抜かれた拳が漏瑚へと直撃し、骨を砕いたような感覚と共に殴り飛ばす。
口から吐き出された紫色の液体、飛び散り黒ずんで消えるはずのそれは、しかしそうなる前に両者の放つ熱気によって途端に灰燼と化す。
鬼が…禪院扇が征く。
異形と化した左腕を、その溢れゆく呪力と共に容赦無く振るう、眼前の敵を滅さんと躊躇無く突き出される。
異形の腕、燃え盛り骨だけとなったかのような腕、その全てが自身の炎のよって構成されたソレには当然のように禪院扇が今まで振るってきた全てが、培ってきた人生全てが乗っている。
迦具土神・四式『薪火』…禪院扇の誇る極ノ番最後の一つ、正真正銘最初で最後の切り札。
その効果は、自身の命や魂を含めた全てを擦り減らすことでその身に合わぬ呪力出力と身体能力を強制的且つ極限まで引き出す自己強化、自身の命と魂をその名の通り薪火とした正真正銘の一発勝負。
効果の発動期間は対象の滅殺及び禪院扇の魂が完全に擦り切れるまで…それまでは、禪院扇は例えその身に何があろうと死に絶えることは決して無い。
「チィッ…!!」
舌打ちを一つ打ち、漏瑚は火礫蟲を数匹作成し、扇へと打ち出す…打ち出しはしたが、期待はしていなかった。
期待はしていない、攻撃が当たるとも何かしらの効果を発揮するとも思っていない、今の禪院扇を相手にそれで何かしらの結果を手に入れられるとは、漏瑚には思えなかった。
事実として、漏瑚の放った火礫蟲は禪院扇に触れる直前になって、真っ黒に燃え尽きて爆ぜた。
火薬の匂い、まるで爆竹のような音を上げながら爆ぜた火礫蟲に視線どころか意識すら向けること無く、扇は真っ直ぐと漏瑚へとその足を踏み締める。
亀裂が走り砕け散る、踏みしめた先から炎が舞い、それが揺らめき次の瞬間には焦げたように燃え盛る。
「───カァッ!!!」
裂帛の叫びと共に扇は自身の間合いへと踏み込み、袈裟懸けに刀を振るう。
全力全開の一撃、殺意と殺意と殺意をひたすらに込めた一撃が漏瑚へと向かう、煌めく銀色の輝きはさながら太陽か何かのように輝いていた。
振り抜かれる刀、予想を遥かに超える速度にて振るわれたその斬撃に対して漏瑚は回避を選択、防ごうにも防げないことを既に知っている身としてはそもそも避けるという選択肢以外が無いとも言えるのだが…しかし、それはそれとして避けられるかどうかは別の話である。
速い、先程までと比べても倍近く速いその一撃に、漏瑚の反応は僅かに遅れていた。
扇の醸し出すあまりに禍々しい気配、先程の裂帛の一声に加えて倍近く変化したこの速度が漏瑚の認識の虚を突いていた。
反応は出来た、認識も出来た、しかしほんの僅かな思考の遅れがそのまま肉体の遅れへと繋がった。
間に合わない、当たる、避けられない、不味い。
思考に過る無数の単語、どれもこれもが己の不手際を注する言葉であることを認識する漏瑚の視界に銀色の刃が迫り…寸前で、高い金属音を発しながら砕け散った。
飛び散る銀色の破片を目の当たりにし、漏瑚の思考はまたしても僅かに止まる…が、それは刀を振るった扇もまた同様であった。
しくじった…そんな言葉が扇の脳内に広がる。
呪いを一気に込めすぎた、術師になりたての若人がやらかすだろうミスをよりにもよって今この場でやってしまった…そんな事実が扇の思考を一瞬止めてしまっていた。
互いに止まった思考時間は一瞬だけ、眼前に敵がいるというのに両者揃って止まり切ったその姿を見れば、きっとベテランであればある程に何をしているんだと呆れ返ることだろう。
故に、両者の初動は先に思考の停止から立ち直った者へと委ねられた。
「ッッ…!!」
先に動いたのは、漏瑚の方だった。
先にそうなったからかはたまた別の理由か、どちらにせよ関係無い、漏瑚の方がより速く動き出した…結局のところ必要な要素はそれだけなのだから。
好機、それもそんじょそこらのそれではなく千載一遇という前置きが付く程の好機、見逃す手は無いと拳を振るう。
一瞬? あぁ十分だとも、それだけあれば十二分だと片付ける。
纒われた呪力、炎を灯した拳が、禪院扇を穿つ。
───黒閃
大地の呪霊…今宵二度目の黒閃が炸裂する。
右下腹部へと流れるように直撃した拳が、禪院扇の肉体を抉り、くり抜き、吹き飛ばす。
ドパンッと音を立てて、まるでその部分だけを砲弾で撃ち抜いたかのように、ぱっくりと右下腹部を抉り抜く。
焼け付くような痛み…事実肉体を内側から燃やしながら抉り抜かれた下腹部から残った内臓が漏れ、夥しい量の血液がダラダラと外へと流れ出す。
傷は治らない、ふらりふらりと揺れる身体を踏み留める老体の姿だけがそこのある、臓物が流れ出し血泥を吐き出す老体の姿だけがそこにある。
ガバッと息と血液を同時に吐き出し、何故動けると瞠目し、次いで漏瑚はその一つ目を大きく見開いた。
再生していた…否、再生というにはあまりに語弊がある。
炎だ、炎がそこにある、剥き出た肉体の内側から漏れ出た炎が失った肉体を補完しているのだ。
あり得ないという言葉が脳裏を過る、何をどうしたらそうなるのだと目の前の非現実的なソレに思わず息を飲む。
炎がどうやって肉体を癒やす? どうやって肉体の補完を行う?
…否、確かに場合によってはあり得るのだろう、あり得るのであろうが、それはそういう特性を持っているからこそ出来ることなのだ、断じて眼前の人間が持つ炎がするようなことではない。
術式の特性上は可能なのかもしれない、しかしそれはそういう方向性に持っていったらの話だ、禪院扇のように敵を灼き尽くすことを選んだ炎にはそんなことは到底出来る訳がないのである。
あり得ない、あり得て良いはずがないと漏瑚は目の前の現実を否定しかける…が、しかし実際に起こり得ていることを否定出来る程、漏瑚は愚かにはなれなかった。
…いや…そもそも否定云々以前に───
「ガァァァァああっっ!!!」
それをする前に次が飛んでくることを漏瑚は良く知っていた。
顔面へと直撃した右ストレートがそのまま漏瑚の肉体を吹き飛ばす、痛みと衝撃が身体に走る中で直ぐ様体勢を立て直した漏瑚は右手から熱線を放とうと前方へと構える。
しかし、それをするよりも尚速く、扇は既に動き出していた。
左腕を引き絞り、大きく強く突き出す。
虚空へと放たれた拳、五条悟や夏油傑がそれを見たならば、何時か親友が放った飛ぶ拳撃を思い浮かべたのだろうが…今回は少し違う。
伸びた、左腕が伸縮し赤い残光を描きながら漏瑚目掛けて勢い良く飛んでいき、漏瑚の身体を打つ。
メリッと音を立ててめり込む拳、到底人間とは思えぬ攻撃を前に再び反応が遅れた漏瑚はその拳をモロに食らった。
威力は直接的なそれに比べても遥かに弱い、しかしそれでもその一撃は漏瑚の動きを止めるには十分過ぎた。
引っ掴む、めり込んだ拳を操り服を決して離さぬように力強く握り締め、一気に己の方へと引き寄せる。
伸ばせたのだからその逆も出来るだろうと言わんばかりに、まるで逆再生でもするかのようにギュンッと音を立てて左腕が扇の元へと漏瑚ごと戻っていき、その先で扇は拳を全力で握り締め───
「───ッ!!!!」
とても人の発したモノとは思えない程の咆哮をあげながら、その拳を漏瑚へと叩きつけた。
さながら鬼神が如き一撃、地面ごと陥没させてくれると言わんばかりに繰り出されたその拳を、漏瑚は咄嗟に呪力を右手一点に集中させることで防ぎ切った。
鉛、金属、鉄塊…それら全てが軽く思えてしまう程の重い一撃が右手に降りかかり、右腕の骨を半ば陥没させた。
勢い止まらず地面にまで響いたその一撃は叩きつけられた地面すら纏めて砕き、飛び散ったマグマが両者の姿を赤く照らす。
「貴様ぁ! 本当に人間かぁッ!?」
思わずと言ったように突いて出たその言葉は漏瑚の本心であり、あまりに馬鹿げた能力に対する嘘偽り無い文句でもあった。
「父だとも! 双子のなぁッ!!!」
「答えになっておらんわァァァっ!!!」
激突する鬼と大地、揺れ動く領域の中で尚も激突を繰り返し、悪態にまるで関係の無い言葉を返す両者の姿は、何処か似通っているようにも見えた。
両者の決着まで…残り、もう僅か。
迦具土神・四式『薪火』
自身の命と魂の両方を文字通りの薪火とすることで発動する正真正銘の最終手段。
身体能力と呪力出力が共に本人の許容範囲を大きく超える程に上昇し、更に欠損した部位を炎で賄うことが可能になる。
その代わりにそうなったらもう二度と戻れないしそもそもいきて帰ることが出来ない、実質的に命懸けの縛りを結んでいる為、余計に出力が上昇してしまっている。
なお、そのことに本人は気づいていない。