宿儺にぶっ殺されたワイ、何故か子供になる   作:富竹14号

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 ぶっちゃけ最後の所がやりたいだけだった。


大地と鬼 ④

 

 

 

 浅く、低く、息を吐く。

 

 薄い呼吸音が領域内に木霊する、静かに静かにその僅かな生を噛みしめるように、ゆっくりと。

  

 血だらけ、傷だらけ、骨まみれ…肉が裂けて骨が見え、そこから湧き出た炎のままに、ただひたすらに己の拳を振るい続ける。

 

「ウヌゥゥッッ…!!」

 

「ッッ……!!!!」

 

 最早互いに限界は近く、吐き出した気骨に押されるように無理にでも身体を動かして、眼前に在る敵目掛けて己の殺意を振りかざす。

 

 痛かろうに、辛かろうに、それでも両者共に引くことをせず、引くことを知らず、ただ前へ前へと歩みを進めては拳を振るった。

 

 放った拳が互いの顔面に突き刺さり、辺りに血潮を撒き散らし、まるで鐘が鳴ったかのような音が頭の奥から響いてくる。

 

 ふらりと身体が揺れ、しかしそんなことは許さぬと言わんばかりに足を踏み締め前を向き、また再び拳を眼前の敵へと振るう。

 

 互いにボロボロ瀕死の形相、それでもその動きには淀みも無ければ衰えも無い、速く鋭く獲物を突くソレには一切の綻びは存在しない。

 

 鬼の一撃が大地の胸を打つ、大地の一撃が鬼の腹に風穴を開ける。

 

 打たれた胸を再生し、空けられた風穴を炎で埋め、再び真正面から殺し合う…そんなことを、両者は何度も何度も繰り返していた。

 

 放たれた熱線が直撃し、目玉が吹き飛び、口の皮が剥がれて歯茎が剥き出しになり、そこへ炎が染み込み形と成す。

 

 振るわれた炎が腹部を穿ち、そこから昇ってくる炎を肉体の一部を切り離して躱し、そこから踏み込もうと足を動かそうとするが…腹から響く激痛がそれの邪魔をする。

 

 動かない、幾ら動け動けと命令を下しても足が震えて動かない、あまりに大きな隙を漏瑚は晒してしまっていた…が、しかし、それは扇もまた同様であった。

 

 膝を付く、息を荒く吐き出し立ち上がろうと膝に鞭を打つも、しかし足はガクリと折れたまま一向に動こうとしない。

 

 限界がやってきたのだと、両者は悟った。

 

 扇の魂は最早擦り切れる寸前だった、漏瑚は自身の呪力が尽きる寸前だった…ならばどうするか…簡単だ。

 

 

「───極ノ番」

 

 

 

───『隕』

 

 

 

 

 次の一撃に、全てを懸ける。

 

       

 

 

 

 飛び上がる…高く高く、一体何処まで行くんだと言わんばかりに閉じた壁すら突き抜けて、高い高い上空へと漏瑚は躍り出た。

 

 突き抜けたと言ってもここは未だ漏瑚の領域内、その広さや拡張性は当の本人次第で幾らでも変わる、可笑しいことなど何も無い。

 

 見えぬはずの空が彩る、夕日が出たように視界が真っ赤に染まり、何かが落ちてくるような音が扇の耳に届く。

 

 視界に映るのは真っ赤な真っ赤な熱の塊、あまりにも巨大な火の玉が真っ直ぐに己へと向けて落下してくる。

 

 赤、朱、紅…純粋な火の玉が出すにはあまりにも濃く鮮烈な赤色が、その名の通りの隕石が、禪院扇という個人へと向けてその災厄が向かってきている…その事実に扇は静かに薄く息を吐き…やるしかないと、拳を握り締めた。

 

 禪院扇は高火力の技を持たない、宇理炎や焔薙はその性質からして言うに及ばず、倶利伽羅はあくまで範囲を追求した技であって威力を追求した技ではない。

 

 故に禪院扇は高火力の技を持ち合わせてはいなかった…ただ一つの技を除いて。

 

 

「───()()()

 

 

 薪火は禪院扇の身体能力と呪力出力を極限まで高める術、そしてそれは自身の死を確定させた技であるが故に、薪火は実質的な死の縛りと何ら変わりない程の出力を手に入れことに成功した。

 

 ならば、それによって手にした僅かな時間すらも手離した場合、禪院扇は一体どうなるのだろうか。

 

 膨れ上がる呪力反応、ただでさえ爆発的なまでに上昇していた呪力出力が、空から降る隕石を境目に一気に急上昇していく。

 

 溢れ出した炎が肉体を溶かす、皮膚も骨も挙げ句には血液でさえも何もかもを例外無く灼き尽くす、まるで炎に焚べられた生贄か何かのように。

 

 ただでさえ少ない稼働時間、自らを文字通り薪へと焚べることで爆発的な性能を手に入れるソレの全てを、ただ一撃へと込める。

 

 故に『終ノ番』、奥義と呼ぶにはあまりにも無鉄砲で代償の大きい、文字通り終わり終わらせる為だけの業。

 

 賭場は一度、勝負は一度きり、カードの交換も一切無し、正真正銘一撃限りの大博打…それに、禪院扇は全てを賭ける。

 

 肉体の全てを喰い破り、炎が扇の全身を物とする。

 

 皮膚から骨、目玉から筋肉、血の一滴から髪の毛一本、魂に至る全てを焦眉之赳は燃やし尽くし、その糧の全てを禪院扇へと注ぐ、まるで賭けたからにはくれてやると…そう言うように。

 

 目玉が白く光る、全身が燃え上りパチリパチリと火花を散らす、そこには最早肉体と呼べるものは存在せず、あるのはただ人間の形をしているだけの炎のみ。

 

 人ではない、最早禪院扇は人間ではない、人間と言うにはあまりにもかけ離れたその姿は正しく鬼と言う他に無いだろう…それほどまでの異形。

 

 真っ直ぐと拳を引き絞る、ハーッと息を吸って吐くごとに口から蒸気が溢れ出す。

 

 狙いは一点、此方へ向かってくる一つの隕石、そしてそれを放った呪霊…隕石ごと呪霊を殺し切ることを、鬼は決意した。

 

 

 

 肉体…炎が隆起し、躍動する。

 

 

 踊る、躍る、炎が揺らめき焦がす、開放の時を今か今かと待ち望んでいる。

 

 一撃限りの大博打、勝負は何時だ今か数秒先か、なんでも良いから早くやらせろと急かすように、炎が溢れて溢れ落ちる。

 

 

「…そう急かすな…すぐにやるとも」

 

 呆れるように、意思も何も無いただの力でしかないソレに、扇は肩を竦めて言葉を零した。

 

 足を踏み締める、地面が割れて足が埋まる程に強く強く踏み締める。

 

 拳を握り込む、深く深く強く強く、握り込んだ先から煙が漏れる程に力強く、拳を握り込む。

 

 視界に映る隕石、落下するまで後もう僅かと言ったようなその光景を前に、扇は腕を弓の弦を引くようにギシリと引き絞り、向かい来る隕石を睨みつけた。

 

 この一撃を放てば己は死ぬ、肉も骨も髪の毛の一本さえも、何一つとしてこの世に残さず死んでいくのだ、夢であった先祖のような刀を生み出すどころかそれ以下すら残せずに。

 

 その事実をハッと笑い飛ばす、そんなものはもうどうでもいいと扇は一笑に付した。

 

 何故ならもう残せたから、大事な大事な宝物を、人生の誇りをもう既にこの世に残しているから…故に扇は後悔なんてしていない、多少の悔いはあっても決して後悔なんてしていないのだ。

 

 だから…それを放つことに、一切の躊躇いは無い。

 

 

 赤熱した岩面、溶けもせずに高速で降ってくるソレへと向けて、禪院扇はその拳を突き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 扇はそれが好きだった、綺麗で儚くて一瞬の内に消えてしまうそれがどうしようもなく好きで、妻と共に何度か見に行ったこともあった。

 

 夜空に咲き誇る一輪の花…禪院扇という人間は、それが好きで好きで堪らなかったのだ。

 

 だからなのだろう、自身を薪とするその技、そこに付随する最後の一撃へと、それを名付けたのは。

 

 ただ一撃で燃え尽きる…ならばせめて最後くらい、あの花のように綺麗で華やかなそれを咲かせてみたいという、ほんの少しの我儘が故だったのだろう。

 

 故に、その技の名は───

 

 

 

 

───終ノ番『花火』

 

 

 

 隕石と扇の拳が接触した、その瞬間…領域内に、虹色の花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゼェ…ゼェッ……」

 

 

 息も絶え絶え、肉体も半身が吹き飛んだ…それでも、それは生きていた。

 

 紫色の血液…それをばら撒くことも無く、焼け爛れた傷跡を撫でながらソレは…漏瑚は目の前のそれへと視線を向けた。

 

 手足を失ったソレ、炎が形を成していたソレ、手足を失い地面へと倒れ伏し、淡く弱く光る瞳は崩れた領域の天井を見つめていた。

 

 ゆらりゆらりと揺れては弱っていく小さな小さな炎を前に、漏瑚は何処からか湧き上がってくる感情のままに、言葉を溢した。

 

 

「貴様が、我等であればな…」

 

 その異形の姿を見て、そう思ってしまった、もしもこの男が己等と同じ存在であればと…そう思ってしまう自分がいることに、漏瑚は何を考えているのだと思考を振り払った。

 

 似たような信念を感じたからか、それとも炎を扱う者同士のアレなのだろうか…何方にせよ、これはあまりにらしくないと頭を振り、漏瑚は掌を人間だったものへと向けた。

 

 このまま何もせずとも死ぬだろう、しかしそれではあんまりではないか、せめて己の手で殺してやろうと漏瑚は掌から熱線を放とうとし…唐突に、背後から刃物で肉体を貫かれた。

 

 あまりに唐突に胸から生えた刃を呆然と見つめ、次いで背後へと視線を向けた。

 

 そこに居たのは女の姿、長い髪をポニーテールにした女の姿、その手に持つ刀を突き刺した女は、ギリッと歯を鳴らしながら己を睨みつけていた。

 

 何故気がつかなかった、何故気がつけなかったと漏瑚は思考する…ここは未だ自身の領域内、領域内に入ったのならば領域内の主である己が気が付かない道理は無い。

 

 何故だ何故だと思考を動かし…ふと、漏瑚はあることに気がついた。

 

 

 この女、呪力が全く……その時点で、漏瑚の肉体は真っ二つと化していた。

 

 突き刺した刀を上方へと振り抜いた姿、紫色の血液が頬へと付着したその姿を視界に収めながら、漏瑚の肉体は横へ横へとズレていく。

 

 あまりに呆気ない最後、しかしそれは逆を言えばそれほどまでに禪院扇という人間が漏瑚を追い詰めていたということ…その事実に漏瑚はらしくないことをするものではないなと…そんなことを考えながら、塵と化した。

 

 そして…その光景を、扇はずっと見ていた。

 

 突き出した刃、それが上方へと振り抜かれ、真っ二つになった呪霊の先から現れた女…自身の娘の姿に、扇は薄く笑みを浮かべ…ゆらりとあまりに呆気なく、風と共に消えた。

 

 誰もいない、何も残らない、そんな中で立ち尽くす女は…真希は、そこへ居た誰かへ向けて───

 

 

「…別れの一言くらい言わせろよ…クソ親父」

 

 

 

 何かを抑え込むように、言葉を溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───禪院家所属 特別一級術師『禪院扇』 死亡

 

 

───大地の呪霊『漏瑚』 消滅

 

 

 

 





 ようやく書き切れた感が凄くある気がした、ムズい。
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