一応言っておきますと、作者は真人のことが嫌いなわけではありません、悪役としては寧ろ好きな部類です、けどそれはそれとして性格を再現出来る気がしないので嫌いです。
今回は割と箸休め的な所がある、つまり適当回…かもしれない。
走る、走る、走る、走る、走る。
息を切らして、まるで子供のように泣きじゃくりながら、怯えながら、ただ渋谷の夜闇の中を走る。
駅は既に出た、後は合流場所に向かえば良いだけ、そこで協力者が待っている…ただそれだけを頼りに、真人は走り続けた。
腕が、足が、身体が今尚も痛み続ける、つい先程の術師に与えられた傷がまるで大火傷でも負ったかのように真人を苛み続ける、走るのが嫌になる…それでも走る、止まることが恐ろしいから。
そんな真人に…悪魔は微笑んだ。
真人の真横にあったビル、その上層部が爆音と共に弾け飛んだ。
鉄骨に瓦礫、窓ガラスが砕け散り雨あられのように真人に降り注ぐ。
痛みもダメージも無い、己に致命傷どころか掠り傷の一つにもならないそれ、しかし明確な死を間近にしていた真人にはそれがどうしようもない程に恐ろしかった。
逃げ惑う、ガラス片が自らを切り裂くのも顧みず、上空でぶつかり合う呪力すらも顧みず、真人はただただ無様に逃げ惑うことしか出来ない。
「あがっ!」
転んだ…足を縺れさせて転んだ、それはもう無様に不格好に哀れな程に思い切り転び切った。
膝が擦れて血が滲み出る、顔面から思い切り転んだ為か鼻や唇は大きく腫れ上がって血が流れ出る、端から見れば心配してしまうような顔をした真人の姿がそこにはあった。
逃げなきゃ、逃げなきゃ…そんな思いから、無様な自分の姿に頓着せず真人は直ぐ様この場から逃げ出そうとする、それは普段の真人を知っていれば到底考えられない行動…しかし、だからこそ真人は生き延びられた…はずだった。
「ん? 真人じゃないか」
悪魔は、未だに真人に微笑みかけていた。
己を呼ぶ声、最近聞き慣れてきたその声に真人は反射的に視線を向け、これでもかと安堵を覚えた。
白い髪を片目が隠れる程に伸ばした男…協力者の一人である三途が、そこには居た。
黒ずみ焼け焦げ、埃塗れとなったワイシャツをパンパンと手で払いながら流し目で真人へと視線を向けた三途は、その如何にもボロボロと言った様子の真人を見て挨拶でもするかのように軽く口を開く。
「なるほど、その様子からして焦眉之赳辺りにやられたか…まぁ、アレと君の相性は場合によっては最悪に近いからね」
よくもまぁ生き残れたものだよ…そう言って、三途は何気無しに真人へと歩を進めた。
何気無しに、何処までも自然体に、なんてことないように靴音を鳴らしながら自分へと近づいてくる三途の姿に、真人は───
「───ヒッ…!」
怯えていた。
先程まで感じていた安堵は一体何処へやら、あまりに無造作に近づいてくる三途に真人は無意識に後退る。
何故、確かに三途の姿を見た時に安堵した、協力者の姿に安堵したのだ己は、なのに何故今になって怯えた挙げ句に逃れようとしているのか。
そこまで考えた所で真人は急速に思い出す、己が一体何から産まれてきたのかという事実を…しかしそれに気付き、それを思い出すのが、あまりにも遅すぎた。
「まぁ…僕らとしては都合が良いか」
気づけば、もう既にそこにいた。
何時の間にか…なんてものではない、速さとか動き方だとか歩法だとかそんな類のものではない、気付けばぬるりとそこにいた…まるで、最初からそこに居たかのように。
ぴとりと掌が真人の肉体へと触れる、何気無しに無造作に。
真人の術式を…無為転変の存在を知っているはずなのに、そんなこと素知らぬと言わんばかりに容易くその肉体へと、三途は触れた。
そして───
「───バイバイ、真人」
その言葉を最後に、真人の意識は消えた。
渦を巻く…その光景を一言で現すのであれば、きっとその言葉が適任なのだろう。
呪力が渦を巻く、ただ一人の人間を中心として、ただ一匹の呪霊を元として、強大な呪力の塊がただ一つのそれへと集約していく。
そして、それがなんであるのかを、男は良く知っていた。
同じ術式を持つが故の共通点、強力な呪霊を取り込む際に必ずと言って良い程にそれは起きる。
強ければ強い程にほんの僅かにでこそあるが発生してしまうラグタイム、降伏の儀とも呼ぶべきそれであると男は…夏油は認識した。
だからこそ───
「───極ノ番」
───『うずまき』
夏油は、その隙を決して逃しはしなかった。
極ノ番『うずまき』…取り込んだ呪霊を一つに纏め、超高密度の呪力を相手にぶつける夏油傑の奥義。
準一級以上の呪霊を使用した場合はその呪霊の術式の摘出することが可能という能力も持つが、それは今回は関係無い。
夏油が今日ここに至るまでに取り込んだ呪霊の数は7298体…その内の約2000体もの呪霊を、夏油は『うずまき』へと使用した。
おどろおどろしい、黒や墨を通り越して最早黒い泥とでも呼ぶべき色をした『うずまき』が夏油の背後へと生成され、それが一気に三途へと向けて射出される。
うずまきの生成には数秒と掛けられていない、未だ調伏を続けている三途は何処までも無防備、当たれば死は免れない。
三途はうずまきを認識していた、自分に迫る危険を理解していたし、同じ呪霊操術使いである夏油がこんな呑気に調伏している己を見逃すはずがないことも分かっていた…しかし三途はそれを敢えて無視した。
自分を殺しうる一撃だ、この無防備状態で喰らえば間違いなく死ぬ…それでも三途はそれを無視した。
それは何故か、簡潔に言うのであれば…必要無いから。
瞬間、うずまきが薙ぎ払われた。
向かい来た汚泥の黒、絶対的な破壊を伴ってやってきたそれを、横合いから割って入った蒼い炎が呪力諸共うずまきを焼き尽くした。
何が起きたどころの話ではない、極ノ番…其々の術式の奥義とも呼ぶべきものがただの蒼い炎に無抵抗で焼き払われた…その事実に夏油は愕然と…していたわけではない。
確かに愕然とはしていた…しかし、それは別に自身の極ノ番を防がれたからなんていう小さな理由からではない。
極ノ番が防がれる…まぁまぁ良くある話だろう、実際のところ夏油のうずまきは五条悟や禪院廻、そしてある一人の老人によって防ぎ切られたという経験があるのだから。
夏油が愕然としたのは、その炎を見たからだ、その炎がなんであるのかを良く知っていたからだ。
夏油は知っている、その蒼い炎がなんであるのかを。
夏油は知っている、その術式が何と呼ばれているのかを。
知っている、全て知っている、何故ならその炎は夏油傑が心の底から尊敬した老人の放つソレとまるで同じものだったから。
炎が晴れる、蒼い炎の先にその人影はあった。
黒い髪に琥珀色の瞳、手に持った刀を肩へと置いて此方を見据えるその姿に、夏油は一瞬だけ廻の姿を幻視した、それほどまでにその立ち姿は似通っている。
「…誰だ、誰なんだ貴様は…!」
口から思わずと言ったように飛び出た疑問、明確な殺意と敵意と共に放たれたそれをまるで無い物であるかのように無視した男は…禪院は三途へと視線を移して笑みを浮かべながら口を開いた。
「駄目じゃないか、あんな風に棒立ちしてちゃ…私が防いでなかったら君、死んでたよ?」
君が居ないと計画に差し支えが出て困るんだよと、男はあたかも世間話でもするかのような気軽さで口を開き、刀を一振りした。
蒼い炎が宙を舞う…それを横目で見ながら、三途は肩を竦めてニタリと笑い、ごめんごめんとまるで誠意の込められていない謝罪の言葉を適当に発した。
そんな三途の様子にため息を溢した禪院は、まぁ良いかとでも言うように再び刀を肩に置き、何処か胡散臭い笑みを浮かべて三途へと言葉を投げかける。
「首尾は?」
「概ね好調」
ほんの僅かなやり取り、言の葉少なく交わされたソレに対して三途は見せびらかすように掌に収まった球体を禪院へと見せつけた。
青…というより水色とも言うべき球体、薄く膜を張ったかのような輝きを見せるそれは、つい先程まで呪霊だったものであるとは到底考えられないような美しさを持っていた。
それを目にした禪院は何処か満足気にそうかと一言呟き───
───じゃあ、飲み込んじゃって
更にそう一言告げ、それに応えるように三途は、掌の美しい水色の輝きを放つ球体を一気にゴクリと、音を立てて飲み干した。
「さて、これで大方条件は出揃った…じゃあ」
───そろそろ、始めようか。
そう言って禪院は夜空を見上げながら、狂気的な笑みを浮かべた、まるでこれから起こりうることが楽しみで楽しみで仕方ないと、そう言うように。
呪いの元凶は、今日も嗤う。
作者からの一言…扇の爺さんの所で大盛りあがりしすぎたせいで盛り上がろうにも盛り上がれない、これで盛り上げろは無理っす、メロンパンは面倒。