ちょっと長くなったせいでグダった気がする、五条悟という人間が強すぎるのが悪い。
はいな、というわけでやってまいりました呪術高専姉妹校交流会!
実況は私、呪術高専京都校現一年の禪院廻が務めさせてもらいま〜す!
えっ? 時間の流れが早すぎる? 京都校での生活はどうした?
うるせぇやってることなんざひたすら呪霊狩ったり普通に青春したりなんか何時の間にか女子の先輩に布団の中に入られてそのまま添い寝したくらいしかイベントが無かったんじゃボケェ!! …………誰に説明してるんだ俺?
まぁ、実況って言っても俺も参加するのだけど、三年の先輩が急遽任務で居なくなったから代わりの数合わせとして俺が来ただけなんだが…それはまぁあっちも同じらしい。
というかここに来る途中で見えた白い髪と変な前髪を見て、やっぱり来てたかという思いと、なんで居るんだよという半ば愚痴に近い感情が脳内に駆け巡る。
…いやまぁ、先輩が東京校の奴等と共闘するとか言ってた時点で察しは付いてたけどさ、まさか本当に居るなんて思わないじゃん。
しかもアイツ、無茶苦茶笑顔だったし、絶対にこっちのこと認識してたよ、絶対にターゲティングされてるよ。
というかサマーオイルの方はまだしも悟が来たせいでウチのメンバーの士気がとにかく低い、なんだろうお通夜みたいな雰囲気になってる。
まぁ仕方ないとは思う、なんせ相手は五条悟、理由は言わずもがな…やっぱりアイツ産まれる世界を間違えてると思う、もっとこうN◯◯UTOとかドラ◯◯◯ール的な世界観に生まれるべき人間…………そういえばここそういう世界だったわ。
「説明は以上だ…みんな、勝たなくてもいい、だからどうか大きな怪我だけは避けてくれ」
三年の先輩が説明を終えて部屋を出ようとする。
作戦は一つ、五条悟を可能な限り避けてボス呪霊を狩る、それだけだ。
全員纏めてバラバラに分かれ、ガン無視して各個で呪霊を探して狩り尽くすという単純なスピード勝負、五条悟が先か自分達が先か…そういう至極分かりやすい作戦だ。
他の生徒達は出来るだけ無視する、とにかく呪霊を速攻で狩って終わらせる、そうでなければ勝ち目は無い…らしい。
この作戦を提案した先輩は…まぁ良い人だ、俺達が大怪我しないような作戦を立案してくれた、五条悟という人間のことを良く知っている、もしかしたら御三家の人間なのかもしれない。
良い人だ、勝たなくてもいいは少なくとも今この場の先輩方に対してはとても良い言葉だ、悟の相手など誰もしたくないだろう。
…あぁ、でも…俺はちょいと嫌かな?
「先輩…少しだけ、作戦の変更良いですか?」
手を直立に上げて声をかける、襖の取っ手に手を置いていた先輩はそんな俺の声に振り向き、何だ? と問うてくる。
その表情は何処か暗かった。
「先輩達は何時も通りに動いてください…えっと、三人一組…いや、俺が居ないから三人と二人か、それで動いて東京の奴等に遭遇したら臨機応変に対応…まぁもう一度言いますけど何時も通りで」
「それが出来ないと言っているんだ…最初に言ったろう、今回の交流会には五条悟が───」
「えぇ…ですから───」
───五条悟は俺が抑え込みます。
俺がそう言った時の先輩の反応は…敢えて言うならゾンビだろうか? ゾンビみたいな顔色になって、冷や汗ダラダラ流しながら唾を飲み込んでいる。
「…正気か?」
「そりゃ当然…だって嫌じゃないですか、アイツ一人の為に折角の交流会が駄目になるのは」
少なくとも俺は嫌だ、先輩方はここで向こうの人達とちゃんと交流するべきだ、悟に怯えてこの時間を失っちゃいけない。
術師の交流はきっと皆が思っているよりもずっと貴重だ、自分の持つ術式に対してはまだ見ぬ解釈を与えてくれることもあればほんの少しのセンスと発想を与えてくれることもある、逆もまた然り。
だけど、それが出来る日は少ない…何故なら呪術師はいとも容易く死んでいくからだ、呪われて逝くからだ。
繋がりも大事だ、ちょっとしたコネから太い繋がりが出来るかもしれない…そんな大事な機会をただ一人の人間相手に台無しにされるのは駄目だと俺は思うのだ。
だから───
「安心してくださいな先輩、悟…じゃなくて五条は俺がしっかりと責任持って抑え込みます、先輩達の所には意地でも行かせませんから」
俺はそう、努めて安心出来るような笑顔を浮かべた上で、先輩にそう言った。
それを受けた先輩は目を閉じて腕を組んで、じっくりと何かを考え込むように口を固く閉じ、そして目を開けて俺を見据えた。
「…信じていいんだな、禪院」
「先輩がそうしてくれるなら、嬉しいですよ?」
その俺の言葉に、先輩は一言分かったと言って、他の先輩方に作戦の変更を宣言した。
その表情には未だ影が残っている、だけど…少なくとも先程よりかはマシだと、そう思えるような顔をしている気がした。
交流戦が始まるまで、後数時間とちょっと…それまでにどれだけあの人達がやる気を出すかが重要なんだけど…まぁ悟と戦わなくて良いってだけでそれなりにはマシになるだろう。
後輩…しかも一年の俺が何を言ったところで何か変わるわけでもないだろうし、とりあえず悟に交流チャンスを潰されなけりゃそれで良いかな。
何はともあれ、俺はとりあえず悟の対処に集中すればいい、サマーオイルに関しては…まぁ悟みたいな感じにはならんだろう。
さてさて、どれだけ未来の自分に近づいたかなぁ、悟のやつは。
スタートの合図が耳に届く…交流戦の開始だ。
静かな森の中に、複数人の足音が響き始める。
先輩方に俺の足音、静かな森の中に徐々に広まっていく緊張感…なんだろうな、呪霊を相手にしてる時とか術師を相手にしてる時とも違う感覚がする…強いて言うなら運動会かな?
周りの先輩方を見てみると、少なくとも数時間前よりかは顔付きが何時も通りに戻っている、戦意も最底辺から普通よりも少し下程度には昇ってきている…うん、良かった。
「それじゃあ先輩、後は作戦通りに」
「あぁ、頼む……任せたぞ」
先輩に一言告げてから先輩達の輪から外れ、そのまま森の中で悟を探して駆け巡る。
一分か、三分か、はたまた五分かそれとも十分か…何方にせよそこまで時間は経っていないだろう。
夏の陽射しが照りつける、木々から漏れ出るように刺す日向がとても気持ちがいい、爽やかな気分になってくる…正直言うと悟探しを止めて今ここで昼寝していたいと思う自分がいる。
そんなことを考えていた次の瞬間、横合いから木々を薙ぎ倒しながら訪れる、何処か懐かしい蒼色と呪力の気配。
咄嗟に飛び退いて飛んできた方向へと視線を向ける、視線の先には見覚えのある白色が無茶苦茶な笑顔をしながら此方へと猛スピードで向かってきていた。
「ハハハッ、相変わらず出鱈目だ!」
相も変わらずのとんでも威力に思わず笑ってしまう、昔の親友もお前と同じくらいの時はここまでじゃなかった。
というかアイツ、俺が先輩達から離れるのを待ってたな? そうじゃなきゃこうもピンポイントな場所に撃ってこられる訳がない。
そんな俺の思考を縫うようにして、見覚えのある白色が此方へと急速に加速し接近してくる、その速さは以前とはまるで比べ物にならない。
「よぉ、久しぶりだなぁ───」
───廻ゥゥ!!
そう言って未来の最強は、五条悟はその顔に笑顔を貼り付けて、俺へと猛烈に突進してきた。
順転は使用してこない、一気に突っ込んで近接戦闘の間合いに躊躇いなく入ってくる、単に殴りに来ているのかそれとも何かしら別の狙いがあるのか…まぁどっちでもいいや、こっちに来るなら寧ろ好都合。
ひとまずは、お前の相手が最優先事項だからなぁ…!
「オォラァァ!!!」
悟の気合の入った声と共に繰り出される鋭い拳の一撃、蒼を使用した吸い寄せられる打撃ではなく純粋な呪力強化による打撃、それを首を傾けることで躱し、そこに横構えの縦拳を御見舞する。
俺から放たれた拳は悟に当たることなくその場で止まる…ことはなく存在するはずの不可侵を素通りして悟の顔面へと向かっていきゴスリと鈍い音を響かせる。
…不可侵を使ってない? いや…それよりも、前より硬い?
「驚いたろ?」
疑問が頭を巡る傍らで、耳元に悟の声が響いてくる、それと同時に身体が後方へと引っ張られ、踏ん張りが利かず後ろへと放り投げられる、感じからして恐らく順転の蒼。
吹き飛ばされる、後方へと後方へと引力に引っ張られるようにして飛ばされる。
ぐるんぐるんと回転しながら後方へと向かっていき、視界に大きな木々達が見えた。
すかさず身体を回転させて体勢を整え、目の前に迫っていた木へと着地するが、勢いを殺しきれずそのまま突き破るように木が薙ぎ倒される。
一本二本三本と勢いは止まらず突き抜けて、六本目辺りでようやく勢いが弱まって踏み止まることに成功する。
六本目の木を突き抜けて、身体を回転させて勢いを殺しそのまま地に足付けて踏ん張り、ようやく俺の身体は停止した。
「威力が前までの比じゃない…か」
ボヤくようにして呟く、威力…というか出力が前に会った時とは比べ物にならない、これもう天内理子護衛の時のレベルにはなってるんじゃないか? 高専で何があったし。
コキリと首を鳴らす…感覚的に身体機能に異常は無し、腕も脚も問題無く動くし大した損傷も無いから反転術式も必要無し、まだまだ抜群に動ける。
さてと…どうしますか。
悟を相手にどうこうするかと考えていると、唐突に俺に向かって何かが勢い良く飛んでくる、大きさと色的に……うん、多分森に居たハズレ呪霊だな。
飛んできた呪霊を片手で弾き飛ばし、その影から飛んできた拳ほどの石を首を捻ることで躱す。
「やっぱ当たんねぇよな」
背後から響く悟の声に反射的に拳を振り抜く、当然というかなんというか悟に当たる前に不可侵によって拳が停止する…が、この先はお前も知っているはずだ。
「領域展延」
敢えて唱えた、眼前の最強に聞こえるように、何があっても届くように、分かるように。
特に理由は無い、ただ何時も通りならこのまま終わりだぞと、何となしで伝えただけ、本当に特に理由は無い。
だって───
「秘伝」
───『落花の情』
俺の知る最強がこれで終わるはずがないのだから。
悟が取ったのは俺の十八番とも言うべき落花の情、範囲内に入った呪力の籠もった攻撃全てを全自動で迎撃する対領域の技術、それの転用…というより俺の落花と殆ど同じだろう。
それで以って、悟は不可侵を超えて放たれた俺の拳を容易く捌き、次いでお返しと言わんばかりに呪力で強化された拳を放ってくる。
それを顔面スレスレで躱しながら悟を蹴り飛ばして距離を取る…前よりも格闘上手くなったな、前よか余っ程強いや、流石最強。
「…ハハッ、やっぱり強いやお前は」
悟が蹴り飛ばされた部位を撫でながら一言呟いて嬉しそうに笑う、その笑顔は今が心底楽しくて仕方がないと、そう言っているようだった。
というかおいバカやめろ、そのイケメンスタイルで爽やかに笑うんじゃない、誰が見てるか分からんのだぞ、また裸で布団入ってくる女増やしたいんかおどれ。
俺覚えてるぞ、わざわざ俺に電話してきて若干泣きそうな声でソレ報告してきたの覚えてるんだからな、最初誰かと思ったぞあの時は。
「そういうお前も妙に強くなったな、前より格闘が上手くなってるじゃないか」
「まぁね、知り合い…じゃないな、友達に格闘技が趣味のやつがいてさ、そいつと色々やって覚えたんだ」
笑いながらそう言う悟に、ふと心当たりを覚えた。
格闘技が趣味の友達……サマーオイルのことなんだろうなぁ、確かにあいつの趣味は格闘技だったからそこから覚えた…っていうよりは一緒に覚えたみたいな感じか、いやはや青春してるねぇ。
というか、原作ファンからしてみればこの話はとても良いものなのではないだろうか? だってあんな経験した挙げ句にあんな別れ方してたんだから誰だってこの最強コンビの活躍と青春風景をもっと見ていたかったはず、少なくとも俺は見たかった。
俺が最強コンビの知られざる青春に人知れず感動していると、悟が髪を手で掻き上げ、そのまま流れるように構えを取った。
悟の気配が変わる、呪力の流れが変わる。
その顔に笑みを携え、ピリピリとひりつくような戦意と殺意をこれ見よがしに俺へとぶつけてくる。
その様子にハァと息を一つ吐いて、俺も同じように構えを取る。
呪力を身体へと流し込み、そこから更に全身へと回し、巡らせる。
クイクイっと手招きでもするように、構えた腕の指を動かす、まるでさっさと来いよとでも言うように、早くやろうぜとでも言うように。
その反応に、その仕草に、その合図に、悟は…五条悟は特大の笑みを浮かべて俺目掛けて真っ直ぐに突っ込んできた。
拳を振りかざし、今か今かと待ち侘びるライオンのように拳を握りしめながら俺へと向かってくる。
それに俺もまた笑みを携えて迎え撃つ。その程度ではまだ甘いと子供を叱咤する獣のように、その笑みに友情を忍ばせて、俺は五条悟を真正面から迎え撃った。
拳と拳が激突する、人体からはまず鳴るはずもないほどに大きく重たい音が周囲に響き渡り、空気が痺れて揺れる。
「今度こそは勝つぞ、廻ぅ…!!」
「そうか、じゃあやってみろよ最強…!!」
今度こそは勝つと、そう笑顔で宣言する悟に対して俺はやってみろと、倒してみろと挑発でもするように言ってのける。
確かに最強になったお前には勝てる気がまるでしない。それは学生時代の覚醒に於いても同じことだ。俺は今も昔も五条悟という人間に勝てる気が全くしない。
でも、それでも…未だ最強に至っていない今のお前に負けるほど、負けていいと思えるほど、俺は行儀良くないのだ。
森の奥底で、打撃音が響き渡った。
一方その頃、サマーオイルは京都校の人間に囲まれているのであった。