無茶苦茶唐突且つ突発的な展開で無理矢理行ったと思っている…でも仕方がないじゃない、死滅が書きたくなったんだもの。
「まったく…相も変わらず洒落にならない」
思わずと言ったように、禪院はそう呟いた。
瓦礫のど真ん中、崩れたビルのこれまた砕けた壁内にめり込んだ自身の身体をどうにかこうにかと引っ張り出しながら、禪院は血反吐を吐きながらため息をついた。
禪院廻の到来を予期していなかった…わけではない、禪院廻の強さを禪院はこれでもかと理解しているしその性質もまた理解している…故に、来ない訳がないと寧ろ確信していたまであった。
だからこそ、雪姫をぶつけ、宿儺をぶつけ、最後にはそれなりの実力を持つ受肉体を渋谷一帯にばら撒いて注意を分散しようとしたのだが…それでも尚、時間稼ぎには足りなかったらしい。
出鱈目…そんな言葉が頭を過る、五条悟とはまた別ベクトルの最強、純粋な基礎能力による圧倒的なまでの戦闘能力に加えて十種影法術による詰み手潰し、何処からどう見ても隙が無い事実には最早笑うしかない。
「…それで? 楽しんでこれたのかい三途?」
「それはもう、出来も良ければ質も良いって言うのは実に良いことだよね」
唐突に、ふと何気無いように呟かれた禪院の言葉に、最初からそこに居たかのように男は…三途は何処か楽しげにそう応えた。
瓦礫の山の上に座り込み、愉快気に禪院を見下ろしながらバリバリと何処から持ってきたのか煎餅の袋を開けながら、バリバリと煎餅に歯を立てる三途の姿に禪院は呆れたように口を開いた。
「夏油の方はどうした? 殺してきたのかい?」
「いやいや無理無理、あれをあの程度で殺すのは無理がある」
返ってきたのは否定の言葉、あの程度で殺せるようならとっくに殺していると、手に持った煎餅をバリバリと音を立てて食いながら三途は禪院の問い掛けに疲労感を隠さず答えた。
「あの人…夏油の相手は疲れるよ、同じ呪霊操術使いとは何度か戦ってきたしなんなら殺したことだってあったけど、それらの中でもあの人は別格…正直、君の頼みが無かったら最後の最後まで続けてた自信があるね」
少なくともその位には楽しかったのだと、そう笑みを浮かべて三途は煎餅をバリリと噛み砕く。
その瞳に映るのは先程までの死闘の光景、語られた言葉こそ少ないが、そこへと懸ける熱情はどうしようもない程には深く、そして燃え盛っていた。
叶うことならもう一度やりたい、叶うことなら早く先程の場所に戻って続きをやりたい、叶うことなら時間を巻き戻して心逝くまで呪い合いたい…そんな感情を抑え込んだ果てに三途と呼ばれた呪詛師はここにいるのだ。
故に次こそは、今度こそは何の柵も無い時にと…そう思ってしまうのだ。
その姿はさながら恋に恋する乙女、何かに恋焦がれるように手を伸ばし、何処かうっとりとした様子で虚空を見つめる三途の姿に禪院は気色の悪い物を見たとでも言いたげに表情を歪め、ポリポリと居心地が悪そうに頭を掻いた。
「…何時かの愉しみを夢想してるところ悪いけど、そろそろ始めたいから準備してもらっていいかな三途? これ以上は私達の方が保たない」
それは正しく、心の底から吐き出された禪院の本音だった。
予定外だった禪院廻と五条菫の存在、それに加えて裏梅の宿儺への指の調達の失敗、更にそこから降り注ぐように現れた覚醒した虎杖悠仁の存在とその他諸々…それら全てが確かな感触と実害を伴って禪院という存在を苦しめていた…故に、これ以上長引かせれば計画を行う前に自分が死ぬと、禪院は判断した。
故にこその催促、早くしてくれと珍しく必死な様子で行動を促す禪院の姿に三途はハイハイと軽い調子で応答し、術式を起動させた。
使用するのは取り込んだ真人の術式『無為転変』…黒閃の経験により大幅に成長してこそいるが、それでも未だ未成熟に近いソレ単体を三途は呼び起こし…深く深呼吸をして、地面に手を付いた。
真人は未だ未成熟、原点のように二度の黒閃を経験したわけでもなければ自身の魂の本質に至ったわけでもない、何処までも言っても『子供』の粋を出ない呪霊でしかない。
そんな子供の呪霊…呪霊の持つ術式の能力を引き上げるにはどうすれば良いか…簡単だ、一回限りで
禪院はここに…この渋谷という戦場に来るまでに幾多もの非術師にマーキングを施した…一つは術式を所持しているが脳の構造が術師のソレではない者、もう一つは虎杖悠仁のように呪物を取り込ませた者…無為転変の対象はその二つのマーキングを持つ者。
しかし、未だ未成熟の真人では全国一斉にとはいかない、何をしても届きようがない、出来て精々が三分の一程度の範囲くらいなものだろう。
だからこそ…使い潰すのだ。
取り込んだ真人と術式、それら両方をただの一度限りの使用という縛りで以て範囲を底上げし、更に念の為にと三途が設置していたビーコン代わりの呪霊を伝うようにして更にその範囲を広げる。
そこへ更に駄目押しと言わんばかりにそれら術式の使用の後に一定期間の間、自身の術式使用を禁ずることで範囲とは別に術式精度を底上げする…これら全てで未だ準備段階。
大粒の汗が大量に三途の頬を伝う、瞳を閉じて限界ギリギリまで集中した三途の息遣いだけが禪院の耳にまで届いてくる。
一発限りのぶっつけ本番、失敗すれば次は無し、術式は初めて扱う天然物…それらの事実が圧力となって三途へと降りかかり、しかし同時にそれら全てを容易く捻じ伏せて…三途は唱えた。
───『無為転変』
変化は、劇的だった。
「っ!? なんだっ…!?」
身体の芯にまで響くような悪寒、格上の呪霊に狙われた際の感覚でもなければ格上の術師に狙われた時の感覚でもない…もっと、根本的で本能的な悪寒に、日下部の理性が信号を放つ。
それ即ち…特級の面倒事の予感。
突如として空中に紋様のようなモノが浮かび上がる、薄い紫色のそれが空中へと浮かび上がり眩く悍ましく輝くその光景に、急速に日下部の思考は回転していく。
何だと何だと疑問が頭の中に駆け巡り、あれでもないこれでもないと知識から知識へと打倒する状況を模索し検索し、これでもないあれでもないと猛烈に思考を加速させ…遂には答えへと至る。
「術式の遠隔発動かっ!?」
辿り着いた答え、経験と知識が異様な程に豊富である日下部だからこそ即座に近い速度で辿り着いたその答えに、しかし日下部は何故このタイミングでと思考する…そこを狙ったかのように襲いきた改造人間をついでのように蹴り飛ばしながら、兎にも角にもと日下部は行動を開始した。
道にいる呪霊…ではなく改造人間を一匹二匹と斬り殺しながら走り出し、道端にいるであろう術師全てに撤退を呼びかけながら、これら騒動の中心にいるであろう人物の元へと駆け出す。
呪霊も暴れていた呪詛師らしき人間も既にいない、その渦中の人物が根こそぎ殺して回っていた光景をこの目で見ているからこそ、その中心へと日下部は足を早めた…何故なら、死にたくないから。
渦中の中心と言えば聞こえは悪いが、実質一番安全な場所は何処かと言われればそれはその中心人物の側であることを日下部は良く知っていた…だからこそ駆けた、死にたくないから。
故に、だからこそ───
「禪院先生!? 大丈夫かっ!?」
その光景に、日下部は何よりも驚愕した。
声と共に視界に映ったのは三人の男の姿…虎杖と見知らぬ変な髪型した男と、膝をついて頭を抑える探していた男…禪院廻の姿。
そこへと日下部は駆け足で駆け寄り、何があったと半ば無意識的に声を掛け…そこへ被せるように、廻は痛みを滲ませながらごめんと呟いた。
「ごめん日下部さん…ミスった、しくじった、殺し損ねた」
唐突に湧き出た謝罪の言葉、それに日下部が反応する間も与えず廻は上空に浮かぶ紋様を忌々し気に睨みつけ、溢すようにその名を呟いた。
「
響く頭痛、突如として溢れ出してくる存在した
五条悟の封印に加えて渋谷での無為転変を使用した禪院…否、羂索の計画の発動…それら史実にて巻き起こった事象がこの世界で起きたことによる僅かながらの記憶の再生…そしてそれらの後に起こるであろう僅か数秒後の出来事を予期した廻は、半ば反射的に行動を起こした。
「───『獅子王』ッ!! 『白叡』ッ!!」
喚び起こす、まるで叩き起こすかのような声量で喚び起こされた禪院廻の誇る最強の一角が、影の中からこの渋谷に顕現する。
廻の両脇に侍るように現れた二体の式神、その何方もが初見であったその場の全員があまりに唐突なその行動に呆気に取られ…それを嘲笑うかのように、ソレは引き起こされる。
泥…言葉にするなら正しくそう呼ぶべき物体が地から天へと駆け上るように空中の紋様目掛けて昇っていく。
バチャリバチャリと生々しい音を立てて現れたそれらに、その物体に廻は目の色を変えて式神達に指示を出そうと動き出す…が、それよりも泥の方が早い。
弾けた…紋様に届くか届かないかの距離で泥が弾け飛び…そこから這い出るように、湧き出すように無数の影が一斉になって方々に飛び散り、一斉にその場から離れようとする。
ワサワサとまるで巣から出てきた無数のアリンコのように湧き出すソレ等が、その全てが呪霊であることに日下部達が気づくのにもそう掛からず、故に日下部は廻の行動の意図を完全に理解していた。
「廻ッ!! 何をすればいいっ!?」
「渋谷にいる全術師に状況を通達後に撤退を指示、そこから全国に術師を手配するように本部に伝えてください!! 出来る限り潰すけど、この数を全部ってのは俺でも出来ない!!」
攻め立てるように吐き出されたその言葉に、同じく攻め立てるように返されたその言葉を受けて、日下部は弾かれるように走り出す、事の次第を理解しているからこそ最早文句を言うことすらしない。
一歩間違えれば家族が死ぬと、日下部は死ぬ気で走り出した。
「白叡! 獅子王!! 俺が
叫ぶと同時に呪具を引き抜き、無数に蠢き轟く万へと至った呪霊の大群の中に廻が突っ込み、それに続くように式神達も其々の方法にて大群の中へと突っ込んでいく。
そんなあまりにも唐突且つ突発的な状況の変化に追い付けず、しかし誰によってソレが引き起こされたのかを理解していた虎杖は、ただ静かに歯を掻き鳴らし───
「ふざけるな…!!」
あらん限りの憎しみを、口から吐き出した。
渋谷の夜に、誰かの嗤い声が、聞こえた気がした。
呪霊の数は二万超え、その中でも最低三千体の呪霊が全国に散らばり、その三分の一を現地の術師が祓った…因みに、一部は覚醒した術師の手によるものであるとする。
因みに、呪霊の大群に突っ込む時のイメージは劇場版龍騎のラストシーンの所…あそこ地味に好き。
疲れた(作者の一言)