頭をからっぽにして書いた、プロットなんぞ知らん、作者は鹿紫雲を書きたいのだ。
パチリと放電したかのような音が響き渡る…否、したかのような音ではない、実際しているのだ。
薄雲が太陽を隠し、それと共に薄暗い雲がポツリポツリと雨を降らす、静かに静謐にそこにあるものを優しく癒やすように。
次第に雨音は強まり、ザーザーと大量の雨が地上へと落ちてくる、ポツリポツリと鳴っていた水の音は何処か叩くような音へと変化して、それに伴い曇天の彼方から雷の鳴る音が聞こえてくる。
そんな雷雨の中を、男は靴音を鳴らして歩いていた。
慣らすように、確かめるように、手を開いては閉じて開いては閉じて、パチリパチリと自身の呪力を放電させる。
「やぁ
───蘇った気分というものは。
唐突に届いた声は、何時か己を呪物に変えた存在、ピチャリピチャリとわざと足音を立てて此方へと接近するその存在に男は…『鹿紫雲』はダルそうな動作で足音の主…羂索の方向へと振り向いた。
「…悪くない…そういうお前はどんな気分だ、随分良い身体を見つけたそうじゃねぇか」
「うん、凄く良いよ…千年前の肉体を半ば無理矢理保存していたものなんだけど、凄く動かしやすい…これ以上の肉体は二度と手に入らないだろうね」
軽い会話、さも当然のように交わされたほんの少しの悍ましさを纏ったその応酬と共にバチリと鹿紫雲の呪力が弾ける。
雷電…纏った呪力がバチリバチリと音を鳴らす、まるで獲物を求める獣が吠え立てるように隆起したその呪力反応に、羂索はくくっと呻くように小さく笑い…術式を開放した。
───術式開放『焦眉之赳』
湧き上がる青い炎、触れるもの全てを尽く焼き尽くす絶滅の炎…それが羂索の肉体の内側から湧き出すように溢れ出し、炎に触れた雨を一瞬にして蒸発させていく。
あまりに唐突な術式の開放、あまりにらしくないその行動に対して驚愕するでも疑問符を浮かべるでもなく、鹿紫雲はその顔に笑みを貼り付けながら口を開いた。
「なんだよ、今回は随分闘る気満々じゃないか、どういう風の吹き回しだ?」
「いやなに、最近息子にしこたま殴られてから少し反省してね、ある程度は慣らしておく必要があると思っていたんだ…それで、どうする?」
───肩慣らし程度には付き合うけど?
雨が止む、羂索の実質的な宣戦布告と同時に雷雨が止み、雨雲が晴れて太陽がその顔を覗かせ、虹が大きく空へとその姿を現し…それを引き裂くような音が、周辺に鳴り響き───
「───乗ったっ!!」
「───だよね」
瞬間、雷と炎が激突した。
その顔を獣のように歪めた鹿紫雲が一気に羂索へと突撃し、それを羂索は笑みを携えて迎え撃つ。
まずは小手調べ、そう言わんばかりに振り抜かれた鹿紫雲の拳を羂索はパシリと受け止め、バチリと弾ける雷と燃え盛る炎が互いに干渉し、互いを弾いた。
本来なら対象に電荷を流す鹿紫雲の呪力特性、本来であれば触れた時点で殊更全てを燃やし尽くす羂索の炎、目的の違い故にその出力と殺傷能力の差は歴然であり、故に鹿紫雲は一瞬にしてその事実に行き着いた。
「出力を抑えてるな?」
「肩慣らしと言ったろう?」
軽く交わされたその言葉の応酬に鹿紫雲はその笑みを更に深く引き立たせ、上等と言わんばかりに呪力出力を引き上げた。
バチィッと強く引き裂くような音を鳴らしながら引き上げられた呪力出力、そしてそれを乗せた渾身の蹴りが薄ら笑いを浮かべていた羂索の顔面を躊躇無く蹴り飛ばし、そこへ突き刺すような拳が腹部へと直撃する。
地面を、コンクリートを抉りながら放たれ直撃したその拳によって羂索の肉体は後方へと大きく飛び、そこへ更に飛びかかるように鹿紫雲の飛び蹴りが殺到する…が、しかし───
「流石にね?」
息子にしこたま殴られた経験からか、それともその肉体に宿った経験故か、放たれた飛び蹴りを容易く掴み取った羂索はその勢いのままに鹿紫雲を地面へと叩きつける。
陥没する地面、砕け散るコンクリート、そこへと更にアリでも潰すかのように何度も何度も鹿紫雲を踏みつけにする羂索に対し、鹿紫雲は咄嗟に身体をズラして踏みつけを躱し、そこを狙って放たれた蹴りを腕を盾にして防いだ。
「いいんじゃない?」
「それはどうも」
またもや交わされた軽い言葉の応酬、しかし実際に行われているそれはあまりにも重苦しい打撃の応酬、互いが互いを殺してやると言わんばかりに放たれる殺意の応酬。
最早肩慣らしの名目は何処へやら、ボルテージの上がった鹿紫雲の打撃は一層の鋭さと速さを生み出し、それを羂索は何食わぬ顔で捌き受け切っていく。
打撃、打撃、打撃、打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃打撃…無数に撃ち放たれる打撃に次ぐ打撃、雷と炎が激突し火花を散らす、最早呪力出力等関係無いだけの殺意がそこにはあった。
最早鹿紫雲の思考内に、肩慣らしの一文は何処にも存在しない。
あるのはただただ飽く無きまでの戦いへの欲求、四百年前の最後に味わえなかった楽しみを思う存分に堪能することしか考えていないその顔は、何処まで行っても獣のソレ。
それが分かっているのか、羂索は何処か呆れたようにため息をつき、何処か面倒くさそうな表情で鞘から刀を引き抜いた。
付き合うと言ったのは己自身、本人的にはちょっとした戯れ程度のソレだったのだが…その相手をしている当の鹿紫雲が本気に成りかけている姿を見て、思わず早まったかな? と羂索は己の選択を後悔し───
「まぁ、たまには良いかな」
何処か自嘲地味に、フッと笑みを溢した。
曇天は完全に晴れ、虹の架かる晴天の空の下で雷の音が鳴り響くり
大量の呪力と電流を撒き散らし、その顔に満面の笑みを貼り付けた鹿紫雲と呼ばれた人間…四百年前の最強の術師は自身の呪力出力を最大にまで跳ね上げて───
「───生温いっ!! もっと温度上げてけよっ!!」
大きく大きく、この程度の熱量では足りぬと獣が如く吠え立てた。
「…ズルい」
膨れ面…言葉にするならそんなところだろう。
不満気に、憎たらしい気に、ボクは怒っていますと雰囲気からして分かる程に不満を前面に押し出した男…三途が眼前で座り込む男二人…羂索と鹿紫雲へと子供のようにそう言葉を突き付けた。
ボロボロの衣服に身体の隅々に刻まれた火傷、雷と炎によって刻まれた両者の傷痕から何が起こったのかを察するには余りあるその状況に三途はぷくーっと子供のように頬を膨らませた。
「気持ち悪いからやめろよソレ」
「大の大人がやっても気持ち悪いだけだからやめなよ三途、気持ち悪いから」
「殴るよ?」
ズドンッと拳が受け止められる、言葉を放った時点で既に放たれていた拳をさも当然のことのように受け止めた羂索は、その様子から疲れを隠しもせずにダラリと態勢を崩し、何気無いように空へと視線を傾けた。
「ねぇ鹿紫雲…良い報告と悪い報告の二つがあるけど…どっちから聞きたい?」
なんということの無い雰囲気から唐突に放り投げられたその問いに、鹿紫雲もまたなんとなくで悪い報告からと応答する、その手には何処から調達してきたのか饅頭と緑茶が握られていた。
モグモグと饅頭を口の中に放り込み、ズビビッと緑茶を口に含む鹿紫雲を横目で見ながら、羂索は大きく…それはもう大きく息をついて───
「───君と宿儺を戦わせられなくなった」
「───…は?」
瞬間、鹿紫雲の手に握られていた緑茶が器ごと弾け飛んだ。
荒れ狂う雷と呪力、今にも人を殺しそうな目をした鹿紫雲から放たれる殺気、先の肩慣らしとはまた別種の殺気に咄嗟に三途が臨戦態勢を取るが、それを羂索が手で制す。
「正確に言うならば戦わせるのが難しくなったと言うべきかな…君が寝ている間に色々とあってね、詳しくは言えないが多分今の宿儺は君とは戦わないよ」
それよりもやりたいことがあるだろうからね…そう言葉を締め括った羂索はこれまた何処から調達してきたのか、徐ろに懐から取り出した紅葉饅頭をパクリと一摘みした。
そんな羂索に対して、鹿紫雲はだからなんだと言わんばかりに羂索を睨みつけた。
「ふざけるなよ、それで俺が納得すると思うか?」
そう、これは理解や理屈と言ったそんな話ではなく納得の問題、鹿紫雲がその事実に納得し矛を納めるかどうかの話…鹿紫雲は納得していない、そんなことで鹿紫雲という人間が矛を納めることなど決して無い。
宿儺が自身と戦わない? だから何だ、そんなことは関係無い、戦う気が無いならその気にもさせてしまえば良いだけだ、そんなことは理由にならない。
そしてそれを、羂索は良く知っている。
だから───
「しないだろうね、だから良い報告も一緒に持ってきた…君は覚えているかな鹿紫雲───」
───四百年前に私が話した最強の術師、その片割れの話を。
四百年前、羂索は鹿紫雲を呪物化する前に1つの話をボヤいた。
最強の術師は誰か…それを鹿紫雲に聞かれた時、羂索は迷わず宿儺と答えた、誰が何と言おうと羂索にとっての最強とは宿儺その人だったからだ。
…しかし、しかしだ…羂索にはある疑問が存在していた。
あの時、あの瞬間、あの間際のほんの一つの邪魔が入り込みさえしなければ
分からない、羂索にはその結末を認識しようがない、確かめようがない、何故ならその時点で片割れは既に死んでいたから。
故に羂索はボヤくように、愚痴を呟くように鹿紫雲へと話したのだ、あまりにも粗雑な野暮によって死んだもう一人の最強の存在を、宿儺を残り半歩にまで追い詰めた術師の存在を。
故に───
「実はね…居るんだよ今この時代に、その片割れが」
羂索は何の躊躇も無く、その爆弾を地雷原の中に叩き落とした、それが何を意味するのかを知りながらも、何の躊躇いも無く。
ニタリと邪悪に歪んだ笑み、決して途切れることの無い愉悦の感情に心を踊らせながらその爆弾を叩き落とした羂索の視界の中で雷が金切り声を上げた。
ニタリと歪められた獰猛な笑み、獣を通り越して最早鬼と見紛う程に凄惨な笑みを浮かべた存在が目の前にいる事実に良い報告だったろうと詐欺師のような笑みを浮かべながら言葉を吐き出し───
「───その術師は、何処にいる?」
鹿紫雲は分かっていながら、それに乗った。
死滅の宴が幕を開けるまで、残り数時間。
宿儺
対『禪院廻』ばっかり考えてる男、どうやって勝とうかとかどうやって喰おうかとかしか考えてない、他の品には最早興味が無い。
最近小僧の見込みが上がってきているのを笑いながら見ている。
鹿紫雲
死滅が始まると同時に宿儺と廻を探し始めるだろう男、後に廻に全力の黒閃を叩き込まれる。