ちょいとカグラバチという漫画を見てみた、面白かった、今後が楽しみな漫画が来たと思った…それだけの話なんです。
魂を観測出来る者が振るった釈魂刀で付けられた傷は、反転術式では再生できない。
物体ごと魂を斬り裂く呪具である釈魂刀は魂を観測する目を持つ者が振るった場合、その物体を斬ると同時に魂すらも傷付ける。
その為、その傷を治癒する為には魂の輪郭を知覚する必要があり、それが出来ぬならば完全治癒どころか掠り傷一つとして治癒することは出来ない。
完全に断つ直前であったとは言え、釈魂刀は石流の腕に深い傷を付けた…その為、本来であれば石流の左腕は僅かに残された一部を除いて、反転術式での再生が不可能となっているはずであった。
…否、なっているはずではない、事実石流はその傷を再生出来ていなかった。
游雲を無理矢理掴み取った方の腕は問題無く再生出来ているのに対して、釈魂刀によって斬り裂かれた方の腕は一部までの再生でその出力が止まっていた。
止まった再生、幾ら正の呪力を送り込んでも再生を再開しない左腕に石流は何処か怪訝そうな眼を向ける…そんな石流の懐へと甚爾は一息に飛び込んだ。
釈魂刀で付けた傷を再生しない…その事実から甚爾は石流が魂を知覚出来ない類の術師であると仮定し、更にそこから游雲から感じた手応えから、その呪力出力が並大抵のものではないことを確信する。
それら事実から甚爾は游雲を呪霊の中へと格納し、武器の運用を釈魂刀のみに絞る。
ギリッと強く握り込まれた釈魂刀の柄、奥歯を噛み締めて踏み出した一歩から一瞬にして石流の眼前へと現れた甚爾の姿に石流は目を見開き…その次の瞬間には、大上段から刃が振り下ろされる。
防ぐは愚の骨頂、どれだけ肉体を強化しても足止めにすらならないことを既に石流は知っている…ならばどうするか、答えは至ってシンプル。
───『グラニテブラスト』
物量で押し飛ばす、純粋な呪力の奔流で以って石流は放たれた斬撃ごと甚爾の肉体を吹き飛ばした。
呪力に魂は宿らない、人の感情から捻出される呪力は言ってしまえば単なるエネルギーでしか無い…故に、釈魂刀ではそれを斬り裂くことは出来ない。
何処までも単純な呪力出力任せによるゴリ押し、確かな質量と確かな威力を持ったその一撃は先の意趣返しと言わんばかりに甚爾の肉体を大きく吹き飛ばした。
舌打ちを一つ、ガラリと崩れ落ちる建物の残骸、頭上から落ちてくる瓦礫を蚊でも払うように手で叩き落としながら立ち上がり、足に力を込めて一歩踏み出そうとする…その直前だった。
「───ヒグッ…!」
耳へと届いた声、泣きたくなるのを必死に堪えたような、そんなくぐもった声が甚爾の耳に届いた。
反射的に視線を横へと向ける…そこにいたのは一人の子供だった。
ヒグッヒグッと押し殺したような泣き声を上げる一人の子供、小さな背丈に栗色の髪が特徴的なその少女は、ガタガタと震えながら大粒の涙を流し、その場に縫い留められたようにそこへと居た。
時が止まるとはこの事を言うのだろう、外したくても外せないとでも言うように真っ直ぐと怯えの感情を孕んだ瞳を甚爾へと向ける少女の姿に、甚爾は咄嗟に駆け出した。
反射的な行動、その少女が道端で出会った術師から聞き出した泳者と呼ばれる存在である可能性、少女が単に猫を被っているだけの呪詛師である可能性、少女が術式によって変装した術師はである可能性…それら全てを投げ捨て、甚爾は少女を抱えて建物から飛び出した。
そして、その直後にやってくる無数の呪力砲、僅かに残っていた屋根や一階付近を情け容赦無く貫きながら、逃がすものかと言わんばかりに駆ける甚爾を追尾する。
グルンっと不規則な軌道を描きながらも自身を追ってくる呪力砲…それを後ろ目で視認した甚爾は一言呟くように、少女へと告げた。
───捕まっとけ。
ただの一言、本当に呟くように告げられたその言葉に少女はほんの一瞬だけポカンとしたように呆けた表情を浮かべ、次の瞬間にはギュッと目を瞑りながらも甚爾の服を有らん限りの力で握り締めた。
それを確認したが故なのか、それとも単なる偶然なのか…恐らく、流石に前者であろう甚爾は何気無いように深く息を吸い込み、思い切り足を踏み締めた。
瞬間、地面が割れる、砕けた地面と共に爆ぜ散るように吹き飛ぶ地面の破片が宙を舞う中で、甚爾は一息に全速力にて仙台の町を駆け巡る。
唐突にやってきたあまりに強い風圧、まるで全速で走る車の車体に括り付けられたような勢い、それを感じでヒッと詰まったような悲鳴が少女から上がる。
そんな少女の悲鳴など素知らぬと言わんばかりに速度を落とさぬ甚爾、そしてそれを追尾する呪力砲、住宅街を駆ける甚爾を追い回す中で無数の建築物を破壊しながら迫るソレに甚爾は何処か冷めたような視線を向けて、呟いた。
「───もうちょいコンパクトにやれよ」
「───それで腹一杯になんのか?」
横合いから届いた言葉、何時の間にやら追いついて来ていたのか、圧縮された呪力を今にも放ってやろうとする石流の姿がそこにはあった。
目一杯の笑みを浮かべながら此方を見据える石流の姿、近づいてきていることを気配から察していた甚爾は極寒とも言うべき瞳で石流を見据えていた。
───『グラニテブラスト』
こんな距離まで近づいたのだ、少女の存在はハッキリくっきりと視認出来ているであろうに、石流はそんなこと知ったことかと少女の存在などお構い無しに躊躇いも無くそれを放つ。
向かい来る呪力砲、広範囲と高出力を実現したその一撃が何の躊躇も無し二つの命を消し去ろうとやってくるその一撃を、甚爾は一欠片も焦ることなく、空を蹴ることでその範囲から容易く脱する。
「どんなからくりだぁっ!?」
叫びながら再び放つ、石流からしてみれば何時の間にか足手纏いを抱え込んでいた男がさも当然のように空を蹴って移動しているのだ、叫びたくもなろうものだ。
再び放たれる大出力の一撃、直線上に存在する住宅街を更地にしながら突き進むソレを甚爾はこれまた空を蹴りつけ地面へと落下、高速落下の影響で割れた地面をそのままに、再びあちらこちらへと駆け回る。
中から外へ、外から中へ、縦横無尽に残った住宅街を駆け巡り、姿を消しては現してをひたすらに繰り返すその動きに、石流は苛ついたようにタバコに火をつけた。
やろうと思えば先のように住宅街を吹き飛ばせる、いっそのことそうしてしまった方が手っ取り早いということを石流は理解している…しかし、それが出来ない理由が石流にはあった。
単純な話だ、単にそれをした場合、石流は完全に甚爾を見失ってしまうのだ。
グラニテブラストを容易く躱す速度に加えて空を蹴る謎の技術、そこに加えて敵手の呪力が無いという特性による気配の掴みづらさに防ぎようの無い斬撃に治らない傷…どれを一つ取っても厄介極まる。
吹き飛ばすのか簡単だ、何時でも行ける…しかしその結果、完全にその痕跡を見失ってしまった場合、再び甚爾を見つけ出す自信が石流には無かった。
あの刀の呪具による斬撃は防御不能に加えて、反転術式による回復を阻害する…少なくとも釈魂刀の能力をそう認識していた石流は、何があっても甚爾を見失う訳にはいかなかった。
見失えば最後、石流は今度こそ不意を打たれて死ぬ、一番最初のあの一撃が今度は的確に己の命を刈り取ってくる…そんな確信が石流の中にはあった。
タバコを手に取り、口の中に溜まった煙を吐き出しながら、大きく息を吸った。
攻撃は停止した、石流の視線は甚爾が最後に入って以降、動きの見えないとある一軒家に留まっている。
決して見逃さない…そんな目付きで一軒家を見つめる石流のことなぞ露知らぬとでも言うように、甚爾はゆっくりと少女を床へと下ろしていた。
一言、何処か安心させるような声色で大丈夫かと告げる甚爾に少女は何かを告げようと口を開く…が、先程までの一連に未だ混乱しているのか、思うように言葉が出てこない。
それでもと諦めずにお礼を言おうと口をパクパクとさせる少女ではあるが、最後には無理だと悟って諦めたのか、コクリと首を縦に振った。
そんな様子の少女に甚爾は何処か優しげな笑みを浮かべ、何気無いように少女の頭をポンポンッと叩き、待ってろとだけ告げて立ち上がり、窓へと足を掛けた。
踏みしめる、パキリッと鳴り響く木製の悲鳴、踏み締めた足から感じる何かの砕けるような感覚…それを気にもせず、甚爾は踏みしめた足場へと大きく体重を掛けるようにして身体を前へ前へと傾けていく、まるで獲物に飛びかかる寸前の獣のように。
そして、その姿を石流は捉えていた。
窓の先は丁度石流の視界から見て真正面の位置に存在した、その住宅から片時も目を離さなかった石流は、確かにその瞬間、伏黒甚爾を視認していた。
今しかない…そう思ったのかもしれない。
ここしかない…そう思ったのかもしれない。
最大火力の『グラニテブラスト』…効果範囲を絞る代わりに威力を底上げするという即席の縛りを以って強化された『グラニテブラスト』の威力は先のソレと比べて数段上に位置する。
呪力の圧縮から収縮、バチリバチリと鹿紫雲のような特性を持っていないにも関わらず鳴り響くその音、それほどまでの出力であることを物語るかのように弾けるソレを、石流は脂汗を流しながら解き放つ。
───『
解き放たれる必殺の一撃、発射の反動で僅かに後方へと下がった石流の足元から火花が散り、ジワリジワリと石流の足元から熱が昇ってくる。
さながら破壊光線、ロボットアニメや国民的人気バトルアニメさながらの光景に甚爾は何処か呆れたような笑みを浮かべ…ふとしたように、何かを思い出したかのように、愛おしげに笑った。
「…お前は分かってたのか、こうなるって」
踏み締めた足をそのままに、格納呪霊へと手を伸ばす…ゲロぉと吐き出された黒い柄、向日葵や蒲公英と言った明るい花が意匠として施されたソレを握り締め…抜き放った。
瞬間…呪力が掻き消えた。
「───は?」
呆けたような声、目の前で起きたであろう光景を前に何が起きたと石流の思考は数瞬停止する。
理解出来ない、何をされたと混乱する石流の視界に…ソレは映り込んだ。
輝く銀光、何処か植物の蔓のような奇妙な刃紋が太陽に照らされ輝きを放ち、それを振り抜いたような姿勢で刀を手に持つ男の姿…その姿にまた新しい呪具かよと、石流は笑みを浮かべたままに、舌打ちをした。
それは大凡千年前、初代『十種影法術』術師の残した遺産の一つ、死した後に回収された唯一無二の形見。
十種の術師、その弟に当たる■代目禪院家当主『禪院薫』の使用した呪具は主に二つ…一つは兄から贈られた特級相当の呪具、今尚も主に刻み込まれた焔を纏い続ける至極の一振り。
そしてもう一つ…初代十種の術師が使用した呪具、同じく特級相当に当たるソレ、初代十種…禪院廻が幾ら探しても一向に見つけることの叶わなかった、宿儺戦の際に破壊されなかったもう一振り。
十数年前、記憶を取り戻す前の廻が知ってか知らずか、伏黒甚爾の誕生日の際に忌庫の中から勝手に持ち出し、甚爾本人へと手渡した特級呪具。
特級呪具『神楽』…千年前の禪院廻が愛用していた一振りの刀、その効果は───
───体外へと放出された呪力の…断絶である。
『神楽』
千年前の主人公が愛用していた呪具、放出された呪具を断絶するとか言う良く分からない効果を持つ、ただし術式効果自体は打ち消せない。
術式という既に器に入っている呪力を完全に断絶することは出来ず、やって出来るのは精々が術式の弱体化…ただし純粋な呪力砲みたいなのだと完全に餌食になるし、これで身体を斬られると呪力の通りが露骨に悪くなった挙げ句に反転術式が効きづらくなる。
因みに、刀に呪力を纏わせようとしたら繋がりを強制的に断ち切られる、つまり呪力による刀の強化は出来ない。
主人公
幼少期、記憶を取り戻す前に何気無く親と入った忌庫から勝手に持ち去った挙げ句にパパ黒に上げちゃってた人、覚えてないのは当時の本人がなんか凄そうな刀あげたくらいにしか思ってないから。
因みに柄の意匠が蒲公英と向日葵なのは本人が改造したから、ついでに神楽と名付けたのもこいつ。
パパ黒
実は何気に初めて貰った誕生日プレゼントだったから目茶苦茶大事にしてる。