ちょっとした箸休め、久しぶりに一人称を書いてみたくなった。
なお、一人称は少し程度しか無いものとする。
「…馬鹿みたいだよな、本当に」
ふとしたように、男は…禪院廻は呟いた…まるで、堪えきれない何かを吐き出すかのように。
「戦って、殺して、戦って、また殺して……そんな終わりの見えない殺し殺されを、延々と続けてさ…」
雨が降る、ザーザーと空から降り注ぐ雨が、廻の衣類に付着した赤色を流し落とし、流れた赤い水滴が地面へと落ちていく。
自分の赤じゃない、周囲に満ち満ちる人間の死体と呪霊の死体、その内の一つ…人間から溢れ零れ落ちた赤色、殺害の際に飛び散ったその色が、廻の側から離れて汚泥に満ちていく。
「昨日笑ってた友達が、良い奴が、師匠が、当たり前のようにバタバタと死んでいく…俺のヘマ一つで、死んでいくんだ」
嫌になるよ…そう言う廻の声色から溢れ出すのは後悔の色、隠して抑え込んでを繰り返して、それでも思わずと言ったように溢れ出した後悔の波。
お前のせいじゃない、誰のせいでもない、運が悪かっただけだ…そう言うことも出来たのかもしれない…けれど、どうして言えよう、そんなことが。
ほんの少し、数瞬でも間に合えば助かったと廻は自覚している、それだけの力があることを禪院廻という人間は知ってしまっている…そんな彼に、どうしてその様な言葉を吐けようか。
「でも仕方が無いよな…だって自分で決めたことなんだから、俺が最後までやるって自分で決めて、選び取った道なんだから…だから───」
───こんな所で、止まってなんていられないよな。
振り向いた、ずぶ濡れの着物をそのままに、雨に射たれながら此方へと振り向いた廻の姿、影を溢れさせるその姿に何を感じたのかを、彼女は覚えていない。
慣れきったはずの姿、慣れきったはずの光景、誰かが死んで誰かが殺すその光景に今更何かを感じることなど無い…ましてや、己の立場を思えばそれは当然のことのはず。
…しかし何故だろう、その姿に憐れみを覚えたのは。
どうしてだろう、その姿にどうしようもなく、強い何かを思い浮かべてしまったのは。
雨に射たれる男の姿、一つの死体を前に佇むその姿…ただそれだけのはずなのに、その姿からはどうにも目を離せなかった。
呪い呪われた何時かの日々、その内の一つでしかない情景…それは今でも、彼女の瞳の裏に強く焼き付いていた。
ふとしたように、目を覚ます。
むくりと身体を押し上げて、ぽやりぽやりと薄らとぼやけた意識のままに、衝動的に髪ごと頭をグシャグシャと撫で散らかす。
昇った太陽が目に映る、サンサンと差し込む日差しが視界を照らし、眩しくも暖かい陽光に身体を大きく伸ばす。
気持ちが良い、気分が良い、寝起きの朝としては格別も良いところだろう。
ふかふかと沈むベッドから足を下ろす、僅かに覚めた意識をそのままにゆらりゆらりと着替えへと歩を進め、慣れた手付きでそれら衣服を着こなしていく。
適当に見つけた櫛を長い髪へと通して緩める、黒い髪がふわりと視界の端を掠める様を見つめながら、何処かその長い髪を胡乱げな表情で見つめ…今じゃなくても良いかと言うように、視線から外した。
扉へと歩く、身支度も多少の準備も済ませた、後はここから出て目的の物及び人間を探すだけだと意気込みを入れ、ガチャリとドアノブを捻って扉を開き───
「…あっ」
「───あっ」
その横合いから、同じように男が扉を開いていて出てきた。
全く同じタイミング、ドアノブを捻る瞬間から開くタイミングに至るまで何もかもが同一、阿吽の呼吸と言っても刺し違えが無い程に同一のタイミング。
思わずと言ったように、マジマジと男を見つめてしまう、当たり前のように吐き出していた声も、今ではそのあまりの偶然に出てこない。
特徴的な髪型に黒と白で統一された法衣のような衣服、此方を見るなり驚愕にその目を大きく見開きながら自身を見つめるその男の名を彼女は…雪姫は思わずと言ったように口に出していた。
「───脹相?」
「───雪姫…?」
互いに互いが困惑を隠さず、思わずと言ったように相手の名前を呟く。
何故ここにいるのか、弟達はどうしたのか。
ちゃんとアイツからは逃げ切れたのか、何かとんでもないことに巻き込まれてはいないか。
聞きたいことは山程ある、知りたいことも山程ある…しかし、それはそれとして、その時の両者の思考は一先ずは一致していた。
それ、即ち───
「───とりあえず、上がっていけ」
一先ず、仲間への紹介も兼ねて部屋に上げよう。
「───初めまして、雪姫と言います」
よろしく…そう頭を下げながら告げられたその言葉に対しての反応は、大きく分けて二つ。
不意に現れた存在への困惑と驚愕、主に俺の仲間…困惑という部分では伏黒が、驚愕という部分に於いては悠仁から…何方かが分からないのは服が半分真ん中から切り取られている良く分からない変態みたいな格好をした高羽という男だけだった。
「大丈夫だ悠仁、味方だ」
飛び出そうとした悠仁へと向けて言葉を放つ、今にも飛び掛かってその素っ首を食い千切ってやろうと言わんばかりに殺意を放った悠仁へと安心させるように。
纏われた呪力に淀みの無い呪力操作、今にも爆発する一歩手前のようなその状況下、一触即発間近のその瞬間…しかし、俺の言葉に反応したのか別の要因なのか、悠仁はその殺意を納め、同時に俺へと視線を向けた。
「───大丈夫なのか?」
「───大丈夫だ」
即答する、信頼と信用とそれに混ぜ込まれた僅かな疑心、そこへと楔を打つかのようにハッキリと断言してみせる、絶対に大丈夫だと太鼓判を押す。
そんな俺の言葉に悠仁は何処か困ったような表情を浮かべ、ポリポリと頬を掻いたかと思うと、徐ろにグィっと身体を伸ばした。
「…分かった、兄貴がそこまで言うなら俺も何も言わない、信じるよ」
そう言って、よろしくと言いながら悠仁は雪姫へと近づき、その手を差し出し、雪姫はそれを握り返した。
…あの日、渋谷での一件が終わって以降、悠仁は俺を兄と呼ぶようになった。
事情は説明した、俺とその親…加茂憲倫のことについても、俺は自分の知っている限りのことを悠仁へと伝えた。
その結果として、悠仁は俺を兄と呼ぶようになり、俺は名実共に悠仁のお兄ちゃんとなった。
…正直な話をすると、嬉しかった。
受け入れられないと言われる覚悟もしていた、俺の言葉全てを嘘だと断定して、奴が送り込んできた刺客か何かと認識されることも覚悟していた。
俺は何があっても悠仁のお兄ちゃんを名乗るし、それを止める気は無い、何故なら俺はお兄ちゃんだからだ…だが、悠仁は違う。
俺達と違って元は何も知らない単なる一般人、増してや末っ子だ、突然知りもしない男がいきなり兄だ何だと言ってきても混乱するだけだ…ひょっとしたら、兄を名乗ったあの時点で戦闘になっていてもおかしくなかった。
何せ、
…しかし、結果として…悠仁は、容易く俺のことを受け入れた。
奴との会話によって自身が奴によって産まれた命であることを知った後であったこともあるのだろうが…それでも、悠仁は俺を信じ、俺を兄だと受け入れてくれた。
それだけじゃない…俺が悠二に弟達の存在を伝えた時に、悠仁は言った…言ってくれたのだ。
───会ってみたいな…俺の、兄弟ってやつに。
震えた、咽び泣くかと思った、必死に衝動を抑え込みながら言葉を返すので手一杯だった…それだけ嬉しかったのだ、俺は。
「なぁ…少し、聞きたいことがあるんだけど」
ふと、声がした。
握り込まれた手を離さず、寧ろ決して逃さぬと言わんばかりに強くその手を握り締めた悠仁が、ふとしたように言葉を放つ。
「兄貴から、アンタがもう二人の兄貴を匿ってるって聞いた…無事なのか?」
真っ直ぐと雪姫の瞳を見据える、嘘は決して許さないとその瞳が言っていた。
ギリッと力強く握りしめられた雪姫の手、少しばかり距離がある俺の所にまで聞こえてくるその音は、どれだけ強くその手を握りしめているのかを如実に語っていた。
緊張しているのは、恐らく誰の目から見ても明らかだった、ゴクリッと唾を飲み込んだような音さえ聞こえてくる…そんな動作など、一切見せていないのに。
そんな悠仁の様子に雪姫はほんの少し呆気に取られたかのような表情を見せるが、少しするとその表情を笑みの形へと切り替える…そして、安心させるように悠仁の肩へと手を置いて、真っ直ぐとその瞳を見つめ返した。
「あぁ、大丈夫だ…結界内でこそあるが、安全な場所に身を置かせている…だから───」
───安心してくれていい。
返ってきた答えは、何処までも真っ直ぐにその不安を払拭するようなものだった。
コツリコツリと足音が響く、暗く音の響くその空間…劇場内の中で、コツリコツリと足音が響く。
「…誰だ、そこで何をしている」
声が響く、劇場の真ん中で、スポットライトを浴びながら服を脱がずに風呂に入った男の声が、暗い空間に響き渡る。
コツリコツリ、質問に対する答えを提示することなく響く足音、暗闇の中から現れるその姿に男は…日車寛見はふとしたように視線を向けた。
「───初めまして、日車さん」
男の姿が、浮かび上がる。
灰色のスーツに七三に分けられた金色の髪、目元へと取り付けられた奇妙なゴーグルのような物。
無手の状態、呪力を纏うこともせず何処までも無防備に歩き、警戒のけの字も感じさせないその男に、日車は直感的に悟った。
「急なことで申し訳なくはありますが、少しばかり貴方と───」
───話をさせて頂きたい。
この男は、強いと。
烏鷺さん
食料を取りに行った、多分今頃鹿紫雲に遭遇した挙げ句に襲われている。
壊相&血塗
生きてるし安全な場所にいる、後に兄弟揃ってラーメンを食べることになる。