日車さんとナナミンは何か似てるような気がする今日この頃。
ぶつかり合う、鈍らと槌の音。
背面から響いてくる両名の戦闘音、自身のことなぞお構い無しとでも言うように戦い続ける背後の二名に、鹿紫雲もまたお構い無しとでも言うように頭突きを噛まそうとし、逆にその顔に拳を叩き込まれた。
重い拳、頭突きの勢いの最中にぶつけられたそれは半ばカウンターのように鹿紫雲の脳を揺らし、その肉体をぐらりと後方へと傾かせる。
そこへと突き刺さる膝蹴り、腹部へと叩き込まれたその一撃は鹿紫雲の空気を吐き出させ、更にそこへと流れるように追撃を叩き付け…られる前に、鹿紫雲は動き出していた。
先程手放した自身の得物、今頃時点へと突き刺さっているであろう如意へと溜まっている電荷を一気に自身の下へと引き戻す。
本来であればその直線上に存在する相手を撃ち抜く雷鳴と化すその電荷、しかし今回に限って言えばそれは使用しない、引き戻すだけで烏鷺へと直撃させることはない…ならばどうするのか。
「───ちょっと痛ぇぞ?」
放出する、鹿紫雲は帰還させた電荷をほんの一瞬だけ溜め込み、爆発させた。
鹿紫雲を中心として放出された溜め込まれた電荷、敵味方関係無しにやってくる無差別電流が烏鷺や七海、日車達へと襲いかかる。
本来であれば使用後に死が確定している術式『幻獣琥珀』…鹿紫雲自身の特性を最大限に活かす為の肉体へと作り変え、人の域を完全に踏み越える鹿紫雲の奥の手。
一度でも使用すれば死ぬ、使ったら最後のその術式…しかし、鹿紫雲は廻の領域『廻輪奇劇』によってその定められた死を免れた。
それによって鹿紫雲は幻獣琥珀の際に得た電磁波の感覚を自力で会得、出力や精密性こそ格段に落ちるものの、同系統の技を発現させるに至る。
襲い掛かる電気の波、発現して間もないソレに慣れていないということあって本来の威力の更にその下にまで落ち込んだ全方位電磁波の威力はお世辞ながらも褒められたものではない。
しかし、それでも十分過ぎたのだ、対象の動きをわずかながらに止めるという目的に於いては、どうしようもないほどに。
「───クハっ」
嗤った…威力は及第点にも届かず精度は下手をすればそれ以下、しかし黒閃によって加速した思考はそれを良しとする、それで良いのだと鹿紫雲を肯定する。
殺してはいけないのだ、精度はともかく威力など後回しでも構わない、動きを止められればそれで良い…そんなことを思考の中で回しながら、鹿紫雲は動きの止まった烏鷺へと回し蹴りを叩き込んだ。
鈍い打撃音が響き渡る、苦悶の表情を浮かべた烏鷺ごと鹿紫雲はその肉体を大きく蹴り飛ばした。
一跳ねしてゴロゴロと地面を転がりながらも受け身を取りながら勢いを殺し、キッと鹿紫雲を睨みつける烏鷺…その背後から、巨大化した鎚を振りかぶった日車が現れる。
なんてことはない、七海へと鎚を振りかぶろうとしたその先に偶然烏鷺が居たというだけの話だ、七海が躱したその先に偶然烏鷺が転がり込んできたというだけの話だ。
振り下ろされる木槌の一撃、その場から瞬時に離脱していた七海の影を潰すかのように振り下ろされたその一撃は、不幸にもそこへと転がり込んできた烏鷺へと叩きつけられる。
咄嗟だったのだろう、背後からの偶然の一撃に術式発動が間に合わないと悟った烏鷺は両腕に呪力を集中、振り下ろされた木槌を腕を盾にして受け止める。
地面が沈む、足場が罅割れる、上からやってくる圧力が烏鷺の肉体を沈み込ませギリギリと迫りくる…そして、そこを突くように攻撃を躱した七海が日車へと突っ込む。
鉈を大きく横薙ぎに振るう、右から日車の肉体を引き裂くように振るわれた鈍らの鉈を日車は木槌の柄を伸ばすことで防ぐ。
カコンッという木製特有の小気味の良い音が響く、ギリギリッと押し付けられる鉈に日車は涼しい表情のままに伸ばした柄を更に変形、布か何かのような薄さへと変形した柄が七海の鉈を絡め取る。
瞬間、日車の木槌が大きく跳ね跳ぶ、弾かれ慣性に従って浮かび上がる木槌に一瞬驚愕した日車の視界に影が飛び込んでくる。
地面が爆ぜるほどの踏み込みから放たれた飛び蹴り、腹部へと狙い打たれた烏鷺の蹴りが日車へと突き刺さり、そのまま日車の肉体を絡め取られた七海の鉈ごと後方へと吹き飛ばす。
ペッと口に溜まった血を吐き出し、即座に背後から迫る気配に視線を移し、雷の如く迫りくる白い獣に目障りそうな表情を向ける。
小刻みに放たれる片手拳、威力よりも素早さを取ったその連撃を一つ残さず叩き落とし、次いで繰り出される本命の一撃を身体を逸らして捌きながらも反撃を繰り出す。
素早く手早く繰り出された反撃の掌底、受け止めた所でダメージは避けられないことを知っている鹿紫雲はそれを受け止めず手刀にて叩き落とす。
バチリと痺れが響く、未だ慣れないその感覚に烏鷺は強く手を握り込み、次いで放たれた蹴りを無理矢理掴み取ろうとし…同時に、大きく横薙ぎに薙ぎ払われた木槌が視界に映り込んだ。
長く伸ばされた柄、あまりにも巨大な様相へと膨れ上がったソレが勢い良く横薙ぎに迫ってくる、空気を引き裂くような音を掻き鳴らしなからやってきたあまりにも唐突なソレに、両者と一人は即座にその場から飛び退いた。
粉砕される、振り抜かれた一撃が劇場へと風穴を開けて外へと続く大穴を作り出す、モクモクと立ち上る土煙を太陽が照らしつけるその様には一種の美しさすら感じてしまう。
「───ハハハッ!!」
「───いい加減にっ…!!」
「───ッッ!!」
しかし、そんなこと知ったことではないと言うように、術師達は動き出す。
四者四様、薙ぎ払われた巨人の鉄槌が如き一撃に臆することもなく、日車を除いた三人全てが一斉に其々の獲物を狙って動き出す。
視界に映る自身を除いた三名全てが敵、当然味方とは思わないし協力すら出来るとは思っていない…それでも、その思惑は一先ず一致していた。
狙いは、この中で最も番狂わせを起こしやすい一撃を秘めた存在…即ち、日車一択である。
自身へと向かい来る上澄み中の上澄みとも言える三人の術師達、それらが一斉に纏めてやってくるその光景に日車は一つ大きく息を吐き出し、木槌を構えた。
同時に、雷がやってくる。
三人の中の誰よりも速くに日車の元へと辿り着いたのは鹿紫雲、その鍛え抜かれた五体を駆使して何よりも疾く日車の下へと辿り着いた鹿紫雲は、何処から拾ってきたのか大きな絵画のような物を日車へと叩き付ける。
縦から振り下ろされた絵画のような何か、それを日車は木槌を一振して瞬時に破壊する、砕けた木片と色取り取りに描かれた絵だったものが辺りにばら撒かれ、その隙間を縫うように鹿紫雲が懐へと飛び込んでくる。
押し付けられた柄、懐へと踏み込むことを許さないとでも言うように伸ばされた防波堤代わりのソレを鹿紫雲は逆に掴み取り、無理矢理柄を引き寄せ日車へと拳を直撃させようとする。
しかしすっぽ抜ける、パッと擬音が付きそうな程に唐突に消えた手の感触、引き寄せるはずだった力がそのまま鹿紫雲へと換算され、大きく後ろへと身体が傾く。
その奥からやってくる影…烏鷺が後ろへと傾いた鹿紫雲の身体を飛び越えるようにして日車へと蹴りを叩き込む。
腕を交差して蹴りを防ぐが…如何せん軽い、明らかに先の一撃よりも軽いその一撃に日車はそれが
───『宇守羅彈』
蹴りを受け止められ腕、それを足の力場として利用して放つもう片方の蹴りに烏鷺は術式を使用、十八番とも言える技が解き放たれる。
先のそれよりも遥かに強い一撃、首筋へと突き刺さった一撃が日車の脳を揺らし、その視界をグラグラと揺らす…そして、その隙を逃す鹿紫雲ではない。
獣のように地面スレスレを鹿紫雲が駆ける、今の日車の状態であればその意識を沈めることは難しくない、殺さず無力化出来る。
沈める、確実に…そんな意志で以って接近した鹿紫雲の横顔を、七海が殴り飛ばした。
強烈な一撃、しかも半ば不意打ち気味に振り抜かれたその一撃が鹿紫雲へとモロに入る、殴り飛ばされた鹿紫雲の肉体が地面を砕きながら後方へと突き進む。
唐突だった、揺れる視界の先で自身を助けるように拳を振り抜いたその姿に日車は怪訝そうな表情を浮かべ、烏鷺はその様子に後方へと飛び退く。
「…停戦しましょう、日車さん」
首をコキリと鳴らし、身体から滲み出る疲労感を隠さず、七海は日車へと提案を持ちかける。
「埒が明きません、先に邪魔なあの二人から片付けましょう」
何処か草臥れたサラリーマンのような気配を醸し出しながら放たれたその言葉に日車はぐらぐらと揺れる視界を首を振って無理やり正した後に一言良いだろうと呟きながら、ゆったりと立ち上がった。
「───領域展開」
───『
木槌を打ち鳴らす音が木霊する、小気味の良い木製の音が領域内に響き渡る。
日車寛見の呪術の真髄が、今ここに開始される。
協力プレイ始めたらそれは三つ巴なのでは? 作者は訝しんだ。