蒼き鋼のアルペジオ -Ars Nova- Eingang   作:廣瀬 眞

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ザ・スロットⅨ ―― Metamorphoses

 はじけ飛んで消えていく光をただ茫然と眺める。信じられない、信じたくないという願いも空しく海にそそり立つ柱が徐々にその背丈を縮め始めてゆっくりと世界は元の姿を取り戻そうとしている。

 モニターのアラートが次々にグリーンへと色を変えて喫緊に迫った重大な危険は去ったことをクルーに教える、しかし皆 ―― いおりや静と僧、どんな危険に陥っても軽い反応で皆を励ましてきた杏平でさえも初めて経験に声を失ったままだ。だが『蒼き鋼』発足以来初の喪失艦となってしまった彼女の記憶を思い返しながら野辺送りの雰囲気を醸し出す艦橋の空気に水を差したのは今ここにはいない元の仲間からの通信だった。

「 ゛ 何してるの、群像くん? ” 」

 

 お通夜同然の空気になったのは白鯨Ⅲの艦橋も同じ、だが誰もが沈黙を守る中突然真瑠璃の声が響いた。驚いて思わず振り向く全員の先で彼女は一人悲痛な表情を浮かべたまま401との回線を開いていた。

「もう一度聞くわ群像くん、君は何をしているの? 」

「 ゛ …… 真瑠璃 ” 」

 今まで一度だって彼のそんな声を聴いたことがあるだろうか、どんな危機に陥っても自分の立場を変えず崩さず指揮を執り続ける鋼の意思。誰もが心ひそかに憧れ、しかしその固い壁ゆえに誰も寄せ付けようとはしなかった孤高の志。

 それがこんなにも脆く崩れ去ってしまうとは。「情けない声出さないで。もう君はあの頃の海技の学生じゃない、世界を救った艦隊の司令官なのよ。望む望まないに関わらず君とイオナ、そして君の仲間はそれだけのことを成し遂げた。だからもう弱音を吐くことは許されないの」

「 ゛ …… わかっている、だが彼女は ” 」

「わたしシグレのことなんて知らない」

 強く言い放った彼女の顔をぎょっとして見つめる艦橋の面々だったがヒュウガを含めた三人だけは目を細める、たとえ仲間といえども心折れようとするならば憑依する惰気を討ち憎まれることを恐れないその勇気こそが艦長たる資質。「見たことも会ったこともないメンタルモデルの子にどんな同情をすればいい? 彼女の出自を知ってるから、なりを知ってるからその消滅を心から悼む? 群像くんこそ彼女たちを甘く見てるんじゃないの? 」

「 ゛ 真瑠璃、そんな言い方って ―― ” 」

「イオナは口を挟まないで。あなたのやさしさはよくわかってるけどこれは群像君自身の問題、わたしはそこにいた元メンバーとして彼に尋ねてるの …… 君はイオナと出会って力が欲しいといった、だから彼女は君に応えてここまで来た。でもそれは本当に君が欲しかったものなの? 霧の船の艦長として彼女たちと戦って世界を平和にする ―― そんなちっちゃなことが君の欲しかった、成し遂げたかったことなの? 」

 

 真瑠璃の言葉に俯いた顔が思わず上がる。

 彼女をこの船に迎え入れた時の最初の記憶、その気持ち。初めて乗り出す大海原に感動と不安が入り交じり、いおりとともに今治へとやって来た彼女に向かって差し出したその右手の意味。

 海で生きると心に誓った、幼いころに父親から聞かされた見たこともないその大きな世界を自分も知りたいと。

 ただの船乗りとしてみんなと一緒に。

 記憶を共有する全員の顔に笑顔が浮かんで誰からともなく始まる機器の操作がその動きを加速する、自分たちがこれからしなければならないことに集中し始めた艦橋の空気が変わった。「ありがとう真瑠璃、それに心配かけてすまない。おかげでいい喝が入った」

 

 耳に届くあの頃の声に思わず真瑠璃の表情が崩れる。「 ゛ 俺は大事なことをすっかり忘れていた ―― なんでだろうな ” 」

「万年二位だからに決まってんじゃない。それより回線はこのまま開いたままにしとく? 」

 突然飛び出す猛烈な毒に401の全員が忍び笑いを漏らして、やり込められた群像は明らかに一瞬絶句したのちに苦笑交じりの声で答えた。「 ゛ ああ、頼む ” 」

 群像の声を聴いて胸を押さえながら小さな安堵のため息を漏らした真瑠璃が回線を全艦のスピーカーへと切り替えた。「艦長、群像くん ―― あ、や、401の千早艦長から全乗組員にお願いがあるそうです。このまま繋ぎます」「はいはい」

 ニヤリと笑って生返事は駒城が相手の事を称える時に見せる妙な癖だ、何とも言えない顔で再び視線を機器へと戻した真瑠璃がトグルを跳ね上げると果たしていつもの彼の声がしっかりとスピーカーから轟いた。

「 ゛ 401より全艦へ。現時刻をもって全ての戦闘態勢を解除、本艦はこれより人命安全国際条約『SOLAS』第五章第十規則に則り要救助者の捜索と救出にかかる。周辺にて停泊している艦艇の乗組員は身の安全を確保しつつ本艦の救護活動を支援されたし ” 」

 

 SOLAS ―― 1914年に採択された海上における人命の安全のための国際条約は二十八回にも及ぶ改正と付則を繰り返しながら現在に至る、全ての船乗りの間で徹底順守を義務付けられたまさに『船員のための法律』である。イギリスが誇る豪華客船タイタニック号の沈没を機に国際法として集約するべきとの機運は当時のドイツ皇帝ヴィルヘルム二世の提唱によって直ちに欧米主要十三か国批准五か国によって条約として制定され、以降世界情勢の変化に伴ってついには世界各国に広まった鉄の掟だ。いかなる主義主張立場のあるなしに関わらず海洋を生業とするものは必ずこの法を順守しなければならない。

「ソナー手、401に返信。委細全て了解したと伝えてくれ …… しかしよく気がついたな真瑠璃」

「褒めても何にも出ませんよ。それにあのままじゃいつまでたっても状況変わんないって思ったし」

 こういう気転の速さが響真瑠璃という少女の真骨頂だ、彼女の乗った401と対峙した時にある時点からの戦術の変更はヒュウガの思惑を微妙に狂わせて最終的にその混乱が命取りになった。艦長の能力としては実績共に千早群像には敵うべくもないが彼とは違う突出した部分もあることは確かだ、いまだに船の片隅でヘッドホンを片手に歯車の一つになって働く驚異の逸材の存在にヒュウガは人知れずうずうずする。

「ヒュウガ」妄想に泳ぐ彼女を引き留めたのは隣に立つ浦上だった。「え ―― な、何」

「お前さんは医務室で待機しててくれ ―― 例のマジックハンドは持ってきてるんだろ? 」「ええ」

「今のところメンタルモデルのコアを何とか保全できるのはお前さんの持つ装備だけだ、401の医療システムでも難しい。もしコアが回収できたなら頼みの綱はそれだけだ」

「あたしの彼女に対する考えはあんたにだけは話した、そのあたしがそんなお人よしに見える? 」掴みかかるように上目づかいでにらむ彼女の目を臆せずに見つめた浦上は小さく頷いた。「お前さんはやるさ」

「え? 」

「俺がわざわざそんなことを聞かなくてもお前さんは必ず彼女を助けようとする ―― 大戦艦ヒュウガとはそういう女だ」

 

            *            *            *

 

 すでに調査艦隊の動きはタカオにも伝わっている、だが再三にわたる401からの協力要請にも彼女は応えられなかった。メンタルモデルを取り囲む演算リングはすでにフル稼働を示しており、他とは若干性能が劣るものの標準装備されたソナーシステムは確実に目の前の異変の情報を彼女へと伝えてきた。

 微かに捉えた量子反応は間違いなくあの子のユニオンコア、ゆらゆらと揺れながら少しずつ深海へと沈んでいくそれを見つけた時にはタカオの足はすでに舷側へと向かっていた。身を乗り出して最大限の倍率で光学測定を行って位置を特定する、網膜の中心にその青い光を置いた瞬間に彼女はすぐに401にそのことを伝えようとする。

 だが。

「 …… なによ、あれ」

 蒼く輝くシグレのイデア・クレストを中心にまとわりつく小さな光の群れ、最初はユニオンコアが放つ電磁波に惹かれて集まる夜光虫なのかとも思った。だが海洋上層からではなく海の底から湧き上がるように生まれて数を増すその光景に彼女は背筋を走る何かを感じた。

 蒼き艦隊の先鋒として過酷な戦場へと赴き続けた、それは彼女が後天的に獲得したある種の勘。それもよくない時に必ず走るその怖気を感じたタカオは、演算リングの内側に突如立ち上がったコーションウインドウの叫びと一緒に401に叫んだ。

「! だめよ401っ! こっちに来ないでっ‼ 」

 

「重力子の励起を確認」

 イオナがそう呟くと同時に艦橋すべてのスクリーンに『Unanalyzable』の赤い文字が踊り狂う、イオナの頭脳をもってしても解析不能と言わざるを得ないその現象と立て続けに起こる激しい大波に群像は思わずひじ掛けをしっかりと握りしめた。「どういうことだイオナっ、分からないって ―― 」

「わからない」群像の隣に座ったままのイオナは全神経を演算へと振り向けて必死に状況を見極めようとしている、焦点を失った瞳の裏で走り回る量子演算の流れは取り込まれる情報や数値をもとに極めて近しい答えを探すがどれもこれも当てはまらない。だが不意に始まったある環境データの異常がようやく彼女に一つの答えを導き出させた。

「ユークリッドの既存空間が全方位に展開、11次元から1次元までの全部の次元がこの海の下で全部つながってありとあらゆる素粒子をルール無視で集めてる」

「いやイオナっ、それじゃあ俺たちにゃ何が何だかわかんねえよっ。もうちょっとわかりやすく ―― 」

「 ゛ つまりそれって ” 」言葉の難解さに杏平が悲鳴を上げると機関室で主機の出力を上げるいおりが口をはさんだ。今恐らく人類の中で最も重力子の構造や特性に対して勘が働くのは間違いなく日頃その核心に向き合っている彼女だ。「 ゛ あたしたちが見たこともない次元空間のゲートが開いてそこら辺にある重力子なんかが時間や空間に関係なく全部そこに集まってるってこと? それってただの次元特異点じゃん ” 」

「場所じゃない」イオナの表情が険しくなる。「その中心は多分シグレのユニオンコア」

「もしそれがシグレだったとして彼女が自分の艦体復元のために何らかの能力を行使した ―― そんな可能性はないのか? 」

 シグレのことをまだ何も知らないことに一縷の望みをかけて群像が尋ねるとイオナはほんの少し身じろぎをして、しかしまた今船の周囲を取り巻く異変の分析を続けた。

「その可能性は現在の所では否定できない、ただ一つ言えることは」

「艦長、深度50の地点でパッシブが急激に形成される物体を探知っ! 毎秒2メートルで浮上に入りますっ! 」

 何かを悟ったイオナの瞳孔が急速に焦点を結び始める、航法の一部へと意識を戻した彼女はこれから始まろうとする何かを予感して俯いた。

「 ―― この数値は明らかにシグレだけのマテリアル総量を、遥かに超えてる」

 

 ナノマテリアルが物質構成時に放つ青白い光を纏いながらそれはついに大きくうねり続ける波間から姿を現した。401の全長よりも短くほっそりとした船体、シラツユ型と思われる輪郭を夜の黙に晒しながら少しづつうねりを収める波に従って浮かぶ船体。

「お、おい群像っ。あれ ―― 」

 思わず席から立ち上がって望遠映像に食い入る杏平に言われるまでもなく艦橋の全員が ―― イオナですらその光景に息を吞む、シラツユ型だと思われたのはその船体だけで艦上構造物はすっぱりと切り取られたようになくなっている。艦橋はおろか砲塔も、対空砲すら影も形もない真っ平な姿にくぎ付けになったまま群像が尋ねた。

「イオナ、あの船の重力子エンジンは動いているのか? 」

「S型60基の反応、現在アイドリング状態だけど間違いない ―― え? 」自分の報告に思わず驚くイオナと同時に全員の口から次々に疑問が上がる。「うそだろ、確かホームガードの直撃受けて機関もろとも全部沈黙したんじゃ ―― 」

「ナノマテリアルで再構成される際に重力子エンジンがデフォルトで稼働状態でいるという可能性はないですか? 」

「 ゛ んなわけないじゃん、エンジンはあくまでエンジンなんだから。ナノマテリアルで再生できるのはあくまでガワだけで炉に火ぃ入れンならそれなりの手順と操作が必要なんだよ、だから霧の船も本拠地必要としてンだし ” 」

「いおりの言う通り」

 口を閉ざしてみんなの意見へと耳を傾けながらしきりに何かを考えこむ群像、その表情が何かに気がついてサッと変わった。「イオナ、マテリアルがシグレの物よりも多いと言ったな …… あの船体を構成した以外の物はどこにあるかわかるか? 」

「うん、現在あの船体の周囲をものすごい密度で漂ってる。多分イニシャライズの書き換え待ちの状態」「ハルナ以外にそういうことができるのか? 」

「ナノマテリアルのイニシャライズを自分で書き換えることは不可能、でも他人の意思でそれを書き換えて渡すことはできる。400と402の雷撃を受けた時みたいに」

「ということは彼女の周りを漂っているのは彼女以外のものだということか …… いったいどこの誰が」

「わからない。わかるのはここにいない霧の船がシグレを助けようとしてそれを寄越したということだけ ―― それが何のためにかはわからないけど」

 そこまで語ったイオナの表情が急に変わった、猛烈な勢いで立ち上がったウインドウが艦内設備を超えて空間内に三次元で立ち上がった。「! なんだっ⁉ いったい何が ―― 」

「シグレちゃんの付近に強烈な電磁波が発生っ、凄いです! この測定値はシュレディンガーの波動関数の形状を逸脱しています! 」

「 ―― 始まった」

 励起した量子によって暴走する電磁波が誘導放出によってカラフルなレーザーを大気中にまき散らし、周囲に漂うナノマテリアルを焦がしながら強烈なプラズマを発生させる。目に見えなかった靄の輪郭が夜空にはっきりと浮かび上がってその大きさがシグレの船体の何倍も大きいことが誰の目から見てもはっきり分かった。

「 …… ナノマテリアルが収束して実体化? 」

「電磁場がイニシャライズを終えたマテリアルに強い力を与えてる、私たちが行う修復とはプロセス自体が全然違う」

 緊張したイオナが言う通り淡い光を放ちながらまとまっていく靄の姿に臨戦態勢を整え始める、全てのセフティーが解除されたことを確認した群像が再びスクリーンへと目を向けると光の靄は夜の海を照らしながら完全な形を披露する。

「 …… な」

 その形を視認した全員があまりの衝撃に声を失った。

 

「 …… ちょう、じゅうりょく、砲 …… ? 」

 それは401に移植した自分の物やタカオ、そしてコンゴウ型の物とも違う無骨な形状。しかし照準をつけた時に目標までの重力に干渉して拘束するためのトラクションデバイスと重力子を加速して主機の出力を強制的に上げるチャージタービン、そして三枚のグリッドが重ねられた大口径のライフリングブレード。

「 …… 駒城、すぐにここを離れて」うわ言のように呟いたヒュウガの言葉を聞いた駒城は反射的に尋ねた。「バカ言え、あいつらだけほっぽらかしてとんずら ―― 」

 だがもうヒュウガの意識はここにはなかった、それだけを言い残した彼女はすぐに演算リングをフル回転させて三艦の周囲にクラインフィールドを張りながらイオナへの通信を繋いで叫んだ。

「イオナ姉さまっ、すぐにここから逃げてっ! あれは、あの超重力砲は ―― 」

 

「 ゛ 大戦艦級だわっ‼ ” 」

 あまりの威容に魅入られてしまった401のクルーがヒュウガの叫びに我を取り戻して一斉にパネルへと取り付く。「いおりっ、緊急事態だ! 主機の出力全開最大戦速に移行、フルバースト準備っ‼ イオナ、左舷サイドキックから進路090。面舵いっぱいっ! 」

「了解、サイドキック ―― 」群像からの命令を忠実に素早く実行しようとする401の前方から走る虹色の壁、シグレの支配下に置かれた重力子が瞬く間に海を割って船体を拘束する。宙に浮いたまま無数の雷に縛られた401はまるで弄ばれるように上下左右に揺さぶられた。「くそっ、間に合わなかったかっ! いおり、フルバーストっ! とにかくシグレにロックオンさせるなっ! 」

「! ライフリング回りますっ、超重力砲チャンバー最奥に高エネルギー反応! 重力子の縮退開始っ! 」

「群像っ! 」杏平が振り向きながら群像に叫んだままじっと見つめる、その視線が求めていることはわかっている。

 同じことを彼らはハルナ・キリシマ相手に経験した、超重力砲を撃つ際には必ず砲口のクラインフィールドを外さなければならない。横須賀ではその隙に合体した二隻の超重力砲チャンバー内へと浸食魚雷を叩きこんで重力崩壊を誘発して勝ちを拾った。

 自分の決断一つで砲雷長である杏平は間違いなく浸食魚雷を超重力砲めがけて最高のタイミングで放つだろう、縮退炉が潰れれば駆逐艦のシグレは間違いなく跡形もなく飛び散る。

 だがその一言がどうしても群像の口から出てこない。

 

 艦長失格だと葛藤を続ける群像はその理由を自分のうちに探し求める、くそっどうして俺はいつもこうなんだ。

 みんなの命と誰かの命を天秤にかけて最後の分銅の置き場を間違って後悔ばかりが先に立つ、なぜあの時俺はムサシを討った?

 ほかに何か方法がなかったのか? 

 あったのに見ないふりをしたんじゃないのかっ⁉

 

「縮退率上がりますっ、現在40パーセント ―― 艦長っ⁉ 」

「群像っ」

 静の切迫した叫びと隣から聞こえる心配そうなイオナの声が険しい顔で俯く彼の顔に何かを閃かせる、彼はイオナを振り返ると意を決して呟いた。

「イオナ …… 『アレ』を使うぞ」

 

「 ゛ 401から全艦っ、これより本艦は超重力砲撃に対して極めて強固かつ高脅威の防護措置を開始する! 直ちに本海域からできる限りの速度で退避されたし、繰り返す ” 」

 速度を上げて動き出す白鯨Ⅲに曳航されたカザンの戦闘艦橋で群像の声を聴きながら気忙しく乗組員に命令を送っていたのはノンナだった。「そうっ、測定機器は全部アクティブにして! カメラはリモートで望遠最大っ! 」

「ty、ちょっと落ち着きなってノンナ。一体なんでそんなアグレッシブ ―― 」ソナー手が彼女のあまりの変わりように目を白黒させながら機器のスイッチを入れる、バッテリーも全部失った潜水艦が予備のディーゼルで動かせる機器など限られているのだがそれでもノンナは興奮冷めやらぬといった体で捲し立てた。

「これが落ち着いていられるかっての! いいかい、今まで人類は霧と霧との戦いをあの401以外に見たことがないんだ。その戦いの場でどんな兵器がどんな風に使われてどんな感じに敵を沈めたか、それを人類が目の当たりにするいい機会じゃないか! 」

「あ」彼女の意図に気付いた全員が思わず口を開ける。

「まさかこんなところでこんな機会に巡り合えるなんて、全く人助けってのはやっておくもんだねえっ⁉ いいかい、収集したデータは必ず本国まで持って帰るよ、たとえあたしたちが沈んじまってもだ! 」

「沈んじまったら持ってなんか帰れないじゃないか、それこそ誰かに回収してもらわないと」

「あたしたちがダメなら白鯨Ⅲかサンタフェだ、とにかくこのデータを人類『側』の誰かに必ず渡す。もしかしたら」

 ノンナは両手を腰に当て胸を張った。

 

「これが人類が霧に対抗するための最初の突破口になるかもしれない」

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