蒼き鋼のアルペジオ -Ars Nova- Eingang 作:廣瀬 眞
「 …… ほんとだ、確かにアリゾナの所に旗艦マークがついてる」
船へと戻った一行はすぐにエントリーリストを広げて件の事実を確認する。もともとは今回のリムパック実施要項は参加が決定した時点でホスト国のアメリカから軍務省へと送られていたものだが迂闊にも今まで誰も確認をしていなかった。決してたかをくくっていた訳でもなければ今までの実績に胡坐をかいて相手を軽く見ていた訳でもない、理由はごく単純。
ただ単に忙しかったからだ。
横須賀の壊れた乾ドックから海へ出るのに始末書提出込みで三日、そこから横浜の第三管区へと移動手続きをするのに約二日。海上保安庁の桟橋に到着して仮宿舎をあてがわれてその間艦体整備のために約三日。その他ハワイまでの運行計画書やら補給申請など諸々の雑事をこなしていよいよ準備にとりかかれたのはリムパック開催四日前というタイトなスケジュールだったのだ。これでは軍務省から送られてきた書類の閲覧など後回しにせざるを得ない、先行する白鯨Ⅲやタカオに追いついたのが不思議なくらいだ。
「彼女の一番艦ペンシルベニアは司令部機能が充実していたため太平洋艦隊の旗艦になったという経緯があります、そう考えると彼女が旗艦でもおかしくないとは思いますが、その」
「メンタルモデルの中でも能力がSクラスのレキシントンが席を譲るほどの能力を、あの女の子が本当に持ってるんでしょうか? 」
僧と静が訝しげに語る中、いおりがある疑問を口にした。「そういやさ、メンタルモデルで
記憶に新しいその光景、自分の腕と同じ長さのトマホークをスカートの中から軽々と振り回す彼女の気迫はそこに居合わせた全員に驚きを与えた。「イオナ、ああいう武器を持ってるモデルを他に見た事はあるか? 」
群像の問いかけにしばらくの間をおいて ―― 恐らく全てのメモリを走査したのだろう ―― ふるふると首を振った。「いない。少なくともあたしが過去に出会った彼女たちの中には」
「私もいないわ …… どういうことかしら? ヒュウガ、あんたは? 」「同じよ、多分この中では一番大勢のメンタルモデルとあった事のある私にしても同様 …… でも彼女の船体はコンゴウとやり合った後までは真珠湾の底で確認されている、という事はそれ以降に何らかの原因かたちで生まれた「新世代」ってことかしら」
「新世代? 」
「最後の総旗艦命令 ―― 私たちが言うところの
「具現化って …… そういやヒュウガ、メンタルモデルがユニオンコアの意志によって造られるってのは教えてもらったけどその元となるコアってどうやってできンだ? 」
「? 知らなーい」杏平の質問に即答するヒュウガ。「402のユニオンコアを解析した時に分かったけどどうやら私たちの中身は途方もない量の量子データで構成されているの。もしかしたらその誕生にはアドミラリティ・コードが何らかの形で関わっているのかもだけどこればっかりは推測でしかない …… つまりはわからない」
「私たち人間はその誕生の仕組みを先人の研究によって、見る事はできないけど知識として知っている。でも霧のメンタルモデルはそれを教える先生がどこにもいないからわからない ―― 要するにそういうことですか」
「だが俺は人としてメンタルモデルと会話してみて思うんだ …… この両者の間にどんな違いがあるんだろうって」
群像の言葉にそこにいた全員が注目する。「『意志』という概念を手に入れたメンタルモデル …… これを行使するには『心』が必須であり実際彼女たちは人を理解して今の状況を作り上げた。自分達で考え人類側の提案を受け入れて力を貸してくれるメンタルモデル、原子レベルでの違いは存在するにせよこの星に生きる『属』としての違いってあるんだろうか? 」
「 …… なんとも哲学ですね ―― でも彼女たちはナノマテリアルという解析不能な金属で全部構成されていて人間は」
「ナノマテリアルを
静の質問に群像が自分の考えを述べそれをまた全員で考える、久しぶりに始まった401名物『ホームルーム』の議論は「人類とメンタルモデルの違い」というお題でなおも白熱する。「でもさ、霧の船って前にハルナが言ってたけど女性ばっかじゃん? それって『種』が保存できないって所があたしたちとは違うって思うンだけど」
「『種』? 」いおりに抱えられているイオナが振り向く。「それはなに? 初めて聞く」
「要は子供だね。あたしたちって元からこんな姿じゃなくて生まれた時はもーっとちーっちゃな体で出てくンの、それが何年も経つと大きくなって今みたいになる ―― イオナ達とは違って永遠にこの姿を保てないあたしたちはそうやって人間という生き物を今まで繋いできたの」
「へえ …… それって女性だけじゃできないの? 」
「ん ―― まあそうだね。ちゃんと男の人と女の人が出会って、お互いがそれを望まないとちゃんとできないし育たない。だから子供って人類が誰でもつくる事の出来るたった一つの大きな宝物なんだよ」
男の人と女の人 ―― って、あのお墓に刻まれてたのは群像のお父さんとお母さんって言ってた。
じゃあ群像はそうやって生まれてあたしと出会ったの?
「ねえ、群像」いおりから目を離したイオナが艦長席へと振り向いた。
「子供ってどうやってつくるの? 」
* * *
一瞬で沈黙したブリッジに次から次へと鳴り響く物が落ちる音、特にヒュウガの手から落ちて液晶が粉々に割れたのは今日二台目のタブレットだ。「ね、ねねねねねえ …… さ、ま? 」
「? ヒュウガ知ってる? 」無邪気な顔で尋ねるイオナが振り向くなりヒュウガはうーんと唸りながらその場に泡を吹いて崩れ落ちた。「あれ? 」
「ね、ねえイオナちゃん。いおりちゃんの話はあくまであたしたち人間の話であってそれがそのままあなた達に当てはまるってわけじゃ ―― 」
「でも群像はあたしたちと人の差はないって言った、だったらあたしたちは男の人がいれば子供ができる」
「そう、イオナさんの言う事に何の矛盾もないと僕は思います。人と霧とがお互い共存の道を模索しようとしているのであればその疑問はいずれは解き明かさなくてはならない保健体育、これは各国に喫緊の課題として至急カリキュラムに ―― 」
「僧、マスクが前後ろ逆逆」
「い・お・りぃーっ」「えーっ!? あたしのせいーっ!? 」
「ま、まあみんなちょっと落ち着こうっ! 」そう言って混乱する場を収めたのは意外にも顔を真っ赤にしたタカオだった。あわあわしながらバタバタと手を振って彼女は頭の中に閃いた究極の打開策を口にした。「こ、こういう事ってホラ、なんかいッち番たっ頼りになる人に聞いてみればいいんじゃないかナ? たとえばコンゴウとか ―― 」
「あ、そっか」そういうとイオナはやおら立ち上がって概念伝達のチャンネルを開いた。黄色の帯が彼女の周囲を取り囲んで通話ラインが構築される。「繋がった、今から聞いてみる」
しばらく立ちつくしたままで焦点を失った瞳がじっと宙を彷徨い、その光景を固唾をのんで見守る蒼き艦隊の生き残り。恐らく論理に優れた彼女ならばきっとイオナが納得するメンタルモデルなりの解答を提示してくれる筈。
だが当然納得した顔でここに帰ってくると信じていた面々はイオナがポカンとして小首を傾げた段階でいやな予感を覚えた。黄色い帯が閉じて回線が閉じたとき、不思議な顔で何かを考え込むイオナにタカオが恐る恐る尋ねてみる。
「ど、どうだった? 」
「コンゴウ …… バグった」
* * *
リムパック二日目。
参加各国の艦艇は希望する幾人かのオブザーバーを同乗させて演習海域への下見に出る。メンタルモデルを持たない国は彼女達が一体どういう風に船を動かしているのかを見せるためのデモンストレーションであり、艦を構成する主機能部分の閲覧はできないがある程度自由に動き回ることは可能だ。搭載兵装に関しても触らないということを条件に申し出れば彼女たちが実際に展開してどういったものかという事を説明してくれる。しかし人類の科学レベルを超えた超兵器の数々、分かった所でそれを作り上げる事が果たして可能かどうか。
蒼き艦隊からはタカオとヒュウガがインド海軍とロシア海軍の重鎮を連れて外洋へと赴く、意外な事に彼女のガイドとしての評判は上々で見た目の可憐さと相まって双方の軍から艦に対する畏怖と賛辞の両方を頂くに至ったそうだ。おかげでヒュウガは操艦の補助をしながら周辺海域の最新データを取る事に集中できた。
多くの艦が出払った真珠湾の穏やかな空気の中で一番埠頭に係留される401の艦内では慌ただしい状況が続いていた、本来であれば最優秀殊勲艦の彼女が率先して外洋航海へと出なければならないのだが群像は急きょそれを取りやめる事を太平洋艦隊幕僚部へと申し出た。理由は ―― 。
「えーっ!? あたしがですかぁーっ!? 」
困り顔の群像から白鯨Ⅲの上甲板でその頼みを聞いた時、真瑠璃は昨晩のいおりと全く同じ反応で大きな声を上げて抗議した。だが群像はそれでも一歩も引きさがらない、掌を合わせて必死の形相で頭を下げる。「頼む真瑠璃、この通りだっ。この疑問をイオナが解決しないとあいつの論理領域がそっちにとられて艦の機能に異常をきたす ―― いやもうすでにきたしているんだ、だから」
「やですよぉっ! なんであたしがそんな体育の先生 ―― 」「お、どうしたどうした若者二人。こんな殺風景な所で楽しそうに」
「ほらっ! ほらっ! あたしなんかより全っ然頼りになりそうな駒城二佐がいるじゃないですかっ! 」「え …… ? 」
いつもと違う二人の気配と声のトーンに踏んではいけない地雷を踏んでしまった感のある駒城、思わず後ずさりする彼に追いすがるように群像が近付いた。「お、おい。響? なんかすっげえいやな予感が ―― 」
「お願いです駒城ニ佐っ! どうやって子供ができるのかをイオナに分かりやすく説明してやっていただけませんかっ!? 」
「はいぃぃっッ!? 」
素っ頓狂な声を上げる駒城にもお構いなしに群像は尚もまくしたてる。「昨日の晩その話になってからイオナの調子がおかしいんですっ、多分論理領域のほとんどのリソースをその疑問の解明に使っていてこのままじゃあ明日からの演習に支障をきたしかねません。なんとか駒城ニ佐の知恵と経験でこの難局を打開していただけませんかっ!? 」
「 …… おまーなあ、リムパックの最中に何を呑気な ―― だが分かった。迷える若人の悩みを解決して正しい道へと導くのも先輩艦長としての役割いや使命とも言っていい、ここは見事この駒城大作がズバーッと一気に解決してしんぜよう。二人とも俺のやり方をよく見ておけっ」
芝居がかった口調でフフンと鼻で笑いながら自信満々に胸を張る駒城を見上げながら群像と真瑠璃は希望に満ちた視線を向ける。二人の期待を一身に受けた彼は肺いっぱいに空気を取り込むと背後へと振り返りながら大声で怒鳴った。
「浦上中将っ!! 出番ですっ!! 」
だが振り返った先に確かに今まで舳先で釣り糸を垂れていたはずの浦上の姿は影も形もなかった。「あーっ! 逃げたなっ!? 」
言うなり真っ白い上甲板にガンガンと靴音を響かせて走る駒城の目に精一杯巨体を丸めて釣り竿とともに放泡口へとしゃがみこむ浦上が見える。白鯨Ⅲ最大の特徴ともいえるスーパーキャビテーション航行の要とも言えるその溝の一つへと身を隠そうとした彼だがいざという時の隠れ蓑にすることまでは考えつかなかったようだ。
「な、なんだ駒城っ! アドバイザーに向かってその言葉づかいは ―― 」「なんだじゃないっスよっ! こういう時こそアドバイザーなんだからちゃんと質問に答えなきゃダメじゃないっスかっ! だいたい中将妻帯者なんだし ―― 」
腕を引っ張って引きずり出そうとする駒城に抵抗しながら浦上は言葉じりを捕まえて反撃を試みる。
「おーっと駒城その発言はコンプライアンス的にいかがなものかっ! 妻帯者だからどうのこうのというのは明らかな差別だっ、それにその話は嫁さんもらう前の話だっ! お前の方がリアルで詳しい解説が ―― 」
「ちょーっとまったぁっ! 今の中将の発言こそ世界の三大宗教を敵に回したんスよ、軍のお偉いさんともあろう者が婚前交渉肯定なんて思ってても言っちゃダメじゃないっスかぁっ! 」
「バカヤロ俺は日本人だっ! お前こそもうちょっと日本史を勉強しろってのっ! いいかあ、もともと日本はなぁ性に関しては大っぴらに ―― 」
ガシガシともみ合いながら悪態をつきまくる人類唯一の武勲艦の艦長とその生みの親である統制海軍の重鎮、静かな第一埠頭に響き渡るその罵声を聞きながら二人の若者は大きなため息をつきながらガックリと肩を落とす。
「 …… 大人って、不潔」
「 …… どうする? 今からでもこっち戻って来るか? 」途方に暮れた群像がなんとも言えない表情で呟くと真瑠璃がもう一度大きなため息をついた後に言った。
「 …… ちょっと、かんがえときます」
* * *
白鯨Ⅲのクルーまで巻き込んでの大騒動はなんとタカオが帰港する夕方まで続き、しかも一向に答えが出ないまま日が沈む。眉間にしわを寄せたまま埠頭の傍に仮設されたオープンテラスで提供されたロコモコをまるで親の敵のように素早く頬張るイオナ、最悪401の参加だけでも見送ろうかと話していた矢先に突然舞い降りた救世主。
それは一本の衛星通信をイオナが受け取ったことから始まった。
「 “ な、なんだ? ” 」いつもとは違うブリッジの雰囲気に通信先の声が戸惑う。まるでお通夜のように黙々とチェック作業を続ける ―― フリだけだが ―― クルーをよそに声に気づいたイオナが眉根を戻してその声の主の名を呼んだ。
「あ、ハルナ。ひさしぶり」
「 “ ずいぶんと静かだな。リムパックとかいう演習はそんなに緊張するものなのか? らしくないぞ401 ” 」
「すまないハルナ、これにはちょっといろいろ事情があって ―― それよりどうした? 」艦長席の群像が正面のモニターに浮かぶハルナに頭を下げると彼女は傍にいた蒔絵を画面内へと引き寄せた。「 “ これから以前話していた例の件を検証しに行く、その前に連絡をしておきたくてな ” 」
「! 仮説の目途が立ったのかっ!? 」
「 “ ああ、もしこれが正しければ蒼き艦隊は十分なナノマテリアルを確保する事ができる。キリシマ・ヒュウガの船体どころか一打撃群を作ることさえ可能だ ―― ただしそれに見合った数のユニオンコアがあれば、の話だが ” 」
「分かった、ただしくれぐれも用心だけはしておいてくれ。もしこの事がどこかに漏れれば事態はここだけの話に収まらない、今やナノマテリアルは希土類以上の貴重な資源だ。世界中で争奪戦が起こりかねない」
「 “ 群像兄ちゃんの考えが当たってるといいね? …… ところでイオナ姉ちゃんどしたの? なんかすっごい顔色悪いけど ” 」
「 “ 艦隊旗艦がそれで明日から大丈夫なのか? もし可能ならこのまま行きがけの駄賃に今から参加しても一向に構わんが? ” 」
画面から見切れているキリシマの声にイオナが何かを思い立ったようにセンターコンソールから立ち上がる。今の状態で一番いけないと思っているのは他の誰でもなく彼女自身だ、だがどうしてもこの心の中で渦巻く疑問の答えが出ない限りいつまでも囚われたまま離れられない。コンゴウにも出せなかった答えがハルナやキリシマに答えられるとは思えないが彼女はわらにもすがる思いでその言葉を口にした。
「ハルナ」
「 “ なんだ? ” 」いつもと違う雰囲気のイオナに少し身構える。
「子供ってどうやってつくるの? 」
画面の彼女が目をぱちくりさせてこっちを見ている様を失望の面持ちで眺める401、だがその声は思わぬところから帰ってきた。
「 “ ? どしたの急に? イオナ姉ちゃん? ” 」
* * *
刑部博士の講義はWEBを使った形で401・白鯨Ⅲの双方と連結して行われた。ハルナとキリシマを従えて白衣を着た蒔絵が現れるとなんとも言えないその違和感に、特に白鯨Ⅲの士官たちは癒されたような微笑みを浮かべて画面を眺めている。こんな小さな子の語る性教育なんてと高をくくって集まった非番の士官たちだがいざ蒔絵が講義を始めると次第に前のめりになって、しかもメモを取り始める者も現れる始末。
「 …… な、なんてわかりやすい」
「こんなちっちゃな子が『生殖器』って言ってんのに …… ちっともいやらしく、ない。なんで?」
話のとっかかりはイオナやタカオがよく突いているヒトデの生殖行動から始まりそこから進化の過程に伴う行為と器官の変化に言及、進化論を下敷きにして現在生態系の頂点に君臨するヒト科が至った性行動におけるメリット・デメリットをスポーツ紙のピンク面なみの表現を使って生々しく解説するのだが少女二人とクマのぬいぐるみという画面にごまかされて少しも眉を顰める所がない。
だがその講義に最も驚いていたのは彼女たちを配下に持つ401のクルーだ。普段の蒔絵が持つキュートな側面から繰り出される『うっすい本』並みの内容に唖然とする一同、ただセンターコンソールに座るイオナだけがメモリ領域全開で彼女の話に目を輝かせてしきりにウンウンと頷いている。
「 …… 蒔絵って専門何だっけ? 」
「一応量子物理学の権威、という事になっていますが …… 畑違いとはいえこれだけうまく解説できるのなら文科省に行ってもすぐ次官クラスまで出世できるんじゃ? 」
イオナを挟んで群像と僧がひそひそと会話をする中で一時間余りに及ぶ彼女の講義は終わりの時間を迎えた。元々はイオナのためだけに始めた企画だったのだがその内容の濃さに立ち会った全員が彼女の熱弁に称賛の拍手を送る。
「 “ 最後にこれだけは言っておくけど、もしイオナ姉ちゃんがこれだけの事を理解できたとしてもそれがそのまま人との子供を産む事ができるとは限らない。それにはハルナやイオナ姉ちゃん達がそういう器官を獲得できるかどうかにかかってるんだけど ” 」
「だけど? 」
「 “ 命の形ってみんな同じじゃないと思うんだよ。それにこの世に生まれて来たその子が幸せなのかどうかはわかンない ―― だから生まれる事が重要なんじゃなくてその子が幸せになるって事が一番大事なんだって覚えててほしいな? ” 」
その事はそこにいる全員が失念していた事実。彼女もまた人とは異なる過程を経てこの世に生まれた存在 ―― デザイン・チャイルド。
最後に告げた蒔絵の言葉に思わず愕然として声を失う401と白鯨Ⅲ、しんと静まり返る会場の中で一人群像だけが画面の向こうでにこにこと笑っている彼女に謝罪した。
「すまない蒔絵。俺達が不甲斐ないばっかりに君にいやな思いをさせたのかもしれない」
「 “ んーん、全然? あたしはむしろイオナ姉ちゃんやハルナやヨタロウがそういうことに疑問を持ってくれたって事の方が嬉しいんだよ。だってそれってメンタルモデルの「心」が進化し始めてるって証拠じゃん? ” 」
「 “ 進化 …… ” 」
「 “ 進化 ―― 長大な時間経過に伴い生物が変化していくこと。生物の形質(形態・生理・行動など)が生息する環境に、より適合したものになる事を言う …… タグ添付、分類・記録 ” 」
キリシマの呟きにお決まりのハルナの突っ込みが入って蒔絵が笑う。「 “ だからイオナ姉ちゃんも全然気にせずあたしに相談してくれていいんだよ? あたしで分かる事だったらいつでも今日みたいに頑張って説明してあげるから ” 」
「ん …… ありがと、蒔絵」
「 “ どういたしましてっ …… ところで ” 」
口調と顔つきの変わる気配で何かを察したイオナ以外の全員に緊張が走る。「 “ 大の大人が揃いも揃ってこういう大事なことをちゃんと説明してあげられない日本の教育ってどうなの? もしかして ” 」
画面の向こうから険しい目つきで放たれた蒔絵のとどめ。
「 “ 海技って意外と役立たず? ” 」
「「「なんか、すンませんでしたぁァっっ!!! 」」」
* * *
一斉に立ち上がってお辞儀をしながら全員で唱和した謝罪の声は静かな夜の真珠湾を飛び越えて、すぐそばに停泊している英王立艦隊旗艦のイラストリアスの耳のまで届いた。
「オオ、さすが日本。こんな時間までブリーフィングとはなかなかの気合いだわ、これはうちも負けてはいられないわね …… アークロイヤル、すぐに士官を会議室に召集。明日からの演習の作戦をもう一度見直すわ」
「オウ、イラストリアス。それは無理な相談、だってみんな ―― 」そういうと彼女はタラップを降りていく人影の列を指差して楽しそうに笑った。
「これからイギリス名物