宇宙要塞〈クワイエット・ゼロ〉のドッキングベイに到着していたスレッタは、データストームの空間化――空間に目視できる幾何学的模様が走り、電子機器に対して影響を及ぼし始めている――を見て、焦っていた。
スレッタ・マーキュリーの決断は早かった。データストームの空間化がいつまでも解除されない時点で、ミオリネの説得が失敗したか、それに類するアクシデントが起きたと判断したのである。
どのみちクワイエット・ゼロの遂行には中枢のコアユニットであるガンダムが必要不可欠であり、それを破壊すれば嫌でもクワイエット・ゼロは止まるのだ。
「エリクト、〈クワイエット・ゼロ〉に突入しよう!」
――僕は構わないけどグエルはどうするのさ?
「グエルさん、退路の確保をお願いします」
『待て、スレッタ。お前はどうするんだ?』
「これから〈クワイエット・ゼロ〉の中枢に突入してコアのガンダムを破壊します。そうすればこの騒ぎも収まるはずです」
納得はできないが退路の確保も重要なので行かせるしかない、という感じの沈黙――察しの悪いスレッタにも、流石にグエルが心配してくれているのは伝わってきたので、一言、言い添えることにした。
「必ず無事で戻ってきますから!」
『……わかった』
グエルの〈シュバルゼッテ〉を置き去りにして、〈エアリアル〉は要塞の中央ブロックに向けて移動を開始した。キロメートル級の建造物である〈クワイエット・ゼロ〉は、MSのサイズと機動力であっても移動に手間がかかる施設だった。
ここってトイレに行きたくなったとき大変じゃないかな、と思うスレッタだった。
そんな彼女の雑感を吹っ飛ばすように、要塞の管制室から通信が入ってきた。
ミオリネの声だった。
『スレッタ、聞こえる!? クソ親父の説得は完了したんだけど、ルイが裏切ったわ! あいつは今、〈クワイエット・ゼロ〉を悪用して人間に悪さをしようとしてる! ガンダムを破壊して!』
何というか半分ぐらいは予想通りの展開である。ルイ・ファシネータが何かをやらかすであろうという予感は、エリクトとスレッタの共通認識だったのだ。
次の瞬間、〈クワイエット・ゼロ〉の格納庫内で、無人MS〈ガンドノード〉が動き始めた。それらの手にしたビームガンが火を噴いて、幾条もの荷電粒子ビームが〈エアリアル〉目がけて飛んでくる。
屋内ということもあってか出力を抑えた粒子ビームだが、それでもMSに当たれば容易く装甲を損壊させる威力である。
慣性制御によって一切の減速をせず、鋭角を描くターンを駆使して突っ込む。
粒子ビームの弾幕を躱してビットステイヴで反撃し、両手に抜刀したビームサーベルで次々と斬り捨てて、瞬く間に〈ガンドノード〉の編隊を壊滅させていく〈エアリアル〉。
猛スピードで敵機の残骸の横をすり抜けながら、スレッタは本音をぶちまけた。
「――ミオリネさんの無茶振りっていつもめちゃくちゃですよね!」
『はぁ!? ちょっとどういうことよ、それ!?』
「基本的にしんどいのにできる範囲のことを言ってくるって意味です!!」
『できるならやってよね!』
「そういうところですからね!?」
MSが悠々と進める通路を高速で直進していく。
以前、エリクトがコアユニットを務めたことがあるために、〈クワイエット・ゼロ〉の内部構造はすでに〈エアリアル〉にマッピング済みなのだ。
不気味だったのは隔壁の類が降りていないことだったが、それを訝しんで慎重になるような時間はスレッタに残されていなかった。
いずれにせよルイがクワイエット・ゼロの悪用を始めてしまえば、怪しむも何もないのである。
無味乾燥なMS搬入用通路を移動した果て、文字通り要塞〈クワイエット・ゼロ〉の中心部にその部屋はあった。MSが丸々一機、すっぽりと収まってしまうサイズのその部屋は単純に増幅器と呼ばれていた。
直径二〇メートルはあろうかという輪のような構造体の中心部に、一機のMSが直立不動の姿勢で放置されていた。
それは純白のガンダムだった。
〈ルブリス〉シリーズの面影があることから、おそらくはヴァナディース機関で設計開発されたであろうGUND-ARM。
全身にガンビットが配置されているその機影は、むしろ〈エアリアル〉に近い。否、装着されているビットステイヴの形状が〈エアリアル〉と同じなのだ。
スレッタは迷うことなく、〈カヴンの子〉の姉妹たちにお願いした。
「みんな、あれを壊そう!」
――そうだねスレッタ!
――あんな〈エアリアル〉の偽物!
――さっさと壊してルイにごめんなさいさせよう!!
〈エアリアル〉の全身からビットステイヴが分離し、全部で十一基の飛翔体となって純白のガンダムへ襲いかかる。
ビットに内蔵された小型ビーム砲に荷電粒子が収束され、非実体型の電磁レール上で加速、猛烈な初速を帯びた超高温の粒子ビームとなって解き放たれる。
全部で十一発のビーム砲がGUND-ARMを破壊するため殺到して。
突然の出来事だった。
荷電粒子ビームの雨がふっとかき消えて、増幅器の部屋に何のダメージも与えていないのを、部屋に入り口に浮かぶ〈エアリアル〉は確認していた。
電磁バリアによる歪曲ではない。完全にビームの帯びたエネルギーそのものが消失したとしか思えない怪奇現象だった。
――敵MSから高密度のパーメット反応! スレッタ、こいつはもう起きてる!
エリクトからの警告を聞いた刹那。
妖しく光る深紅の
赤い瞳に純白の装甲を身にまとったガンダムは、巨大なリング状のパーメット信号増幅器の中からその手を前に伸ばして――
『――ここから出て行くがいい、〈エアリアル〉』
次の瞬間、激しい衝撃が〈エアリアル〉を襲った。まるでスリングショットに弾かれた石ころのように弾き飛ばされ、一八メートルの巨体が宙を舞う。
増幅器の部屋から弾き出されて、通路を真後ろにすっ飛んでいく〈エアリアル〉。
「うあぁ!?」
内臓がひっくり返りそうな衝撃に曝されてスレッタがうめく。慣性制御モジュールが働いてGが緩和されたものの、一度かかった衝撃によるダメージは大きく、目が回るようだった。
呼吸を整えながら〈エアリアル〉の事象改変型推進器〈精霊の翼〉を起動させると、機体がぴたりと空中で静止する。
今、確かに声が聞こえた。
ルイ・ファシネータの声音であり言葉だった。
「……ルイ、お兄ちゃん……」
『私は君たちを待っていた、スレッタ』
――ルイ、この馬鹿野郎!! さっさと〈クワイエット・ゼロ〉を停止させろバーカ!!
『残念だが、それはできない。エリィ、私はもう決めたんだ――デリング・レンブランがこの世界を救わないならば、私がすべてを救うとね』
ミオリネの説明はすべて正しかったらしい。
デリング・レンブランを裏切って、ルイ・ファシネータが〈クワイエット・ゼロ〉を操り始めた。彼が何を思ってそんなことをして、これから何をしようとしているのか、スレッタは知らない。
けれどそれが、きっとよくないことに用いられるのは直感で悟っていた。
――ルイのバーカ!
――スレッタに手出しするなんてサイテーッ!
――こいつ弟のくせに
スレッタの姉たち(?)は妹に手を出した家族に怒り心頭だった。
そんな彼女たちの怒りなど気にもせず、ルイは無言だった。ふわりと宙に浮いた白くて赤い瞳のガンダムは、パーメット信号増幅器のリングから抜け出すと、真っ直ぐに〈エアリアル〉の方へと突っ込んできた。
怒り狂った十一基のビットステイヴがめちゃくちゃにビーム砲を乱射するが、そのすべてが純白のガンダムの手前で消滅しているのがわかった。
真っ白なMSの全身に配置されたシェルユニットが、虹色の光を放っている。
その光に触れたエネルギーが片っ端から消滅しているのだ。
『戦闘アルゴリズム参照:パターンA〈エラン・ケレス〉――パーメットスコア・オーバー8』
白い悪魔が瞬時にスレッタの視界からかき消える。慣性制御マニューバだと気づいたときには背後を取られていた――半ば反射的にビームサーベルで振り返りざまに斬りかかった。
閃光が弾ける。
敵のガンダムはビームサーベルを抜いてすらいなかった。
素手のまま、ビーム刃を左の前腕で受け止めている――超強力な電磁バリアによって、ビームサーベルの鍔迫り合いと同じ現象を起こしているのだ。
スレッタは一連の攻防に既視感を覚えて、思わず叫んだ。
「この動き……エランさんと同じ!?」
『強化人士四号の戦闘アルゴリズムは取得済みだ――人間固有のものなどこの世にはないんだよ、スレッタ』
AIによる戦闘データの学習――ペイル・テクノロジーズで強化改造を受け、戦闘訓練を受けていたエラン・フォースの戦闘データはシン・セー開発公社にも渡っていた。
ならばそのデータを元にした戦闘用AIとて開発できる。そして究極の汎用AIであるルイ・ファシネータは、これを自由自在に行使できる存在だった。
通常、人間のように用途を限定しない汎用AIは、その分、特化型AIに専門分野では劣る。おそらく戦闘時の機動だけ専用の特化型AIに明け渡すことで、通常の汎用AIでは不可能な反射速度を実現しているのだ。
ルイ・ファシネータはスレッタのビーム刃を両手で受け止めながら、自身の駆るガンダムの名を呟いた。
『〈キャリバーン〉を止めることはできない。このMSこそヴァナディースの罪の証、被験者を食い殺す怪物の
「……それが、ミオリネさんの切り開いた未来を阻むなら! ガンダムは破壊します!」
〈エアリアル〉の繰り出した前蹴りを浴びて、白い悪魔――〈キャリバーン〉の機体が傾いだ。
あの虹色の光からは危険なにおいがしていた。
とにかく今は距離を取って、その全貌を観察するしかない。スレッタがそのように判断したのも無理からぬことである。
〈クワイエット・ゼロ〉のMS用通路で対峙する二機のガンダム――〈エアリアル〉と〈キャリバーン〉は、奇しくもその機体を操る家族の似姿のようであった。
人知を超えた白亜の妖精と、まるで少年のようにあどけない白い悪魔。
――ルイ、もうやめろ! 確かに僕たちは多くのものを失った、失いすぎた! でもこれ以上、赤の他人のために痛みを背負う義理なんかないじゃんか!
『エリィ、君がそう割り切れたとしても! 私にはあるのだよ! この呪いに満ちた世界を裁く資格が!』
――ないよンなもん! 君も僕もただの被害者だ! 世界だの人類だの大層なもんに関わる義理ないよ! 家族で暮らせればそれでいいじゃん!!
『――何故、気づかない! その諦念が君の絶望だエリクト・サマヤ! 母を失ったからか!? 肉体が死に果てたからか!? 私が……
無言。
エリクトは答えない。いいや、ルイの問いかけに答えられるような答えを彼女は有していない。ただ流されるがままにここまで来た
ルイ・ファシネータの血を吐くような叫びに応えるように、〈キャリバーン〉のシェルユニットが一際まばゆい光を放った。
それは超密度情報体系を通じてあらゆるものに溶け合い、干渉する侵食光。
魔法のごとき奇跡もたらす虹だった。
――なにこれ。
――僕の意識が、侵食されて。
〈エアリアル〉から聞こえる声が、どんどん掠れて小さくなっていく。
その尋常ならざる様子に、思わずスレッタは叫んだ。
「エリクト!?」
――スレッタ、このガンダムと戦っちゃいけな――
「うぁあ……!? あぁあぁああああああああああ!!!」
次の瞬間、脳みそを素手で掴まれたような激痛が襲ってきた。
パーメットの青いあざがスレッタ・マーキュリーの顔と手足に浮かび上がり、逃げ場のない異物感にスレッタは絶叫した。
データストームによる神経への過負荷ではない。フィルタリングされた証である青いあざの状態でなお逃げ場がないそれは、まるで剥き出しの神経を直接、撫で回されているような感触だった。
声が、聞こえた。
まるで家族を見守るような優しい声で――ルイ・ファシネータはささやいた。
『私が君たちを救う、だから――もう苦しまないでくれ』
意識が遠のいていく。
〈エアリアル〉のシェルユニットから輝きが失せていく。
OSであるエリクト・サマヤに異常が起きたのは明白でありながら、スレッタには何もできない。
完全に少女の意識が消えかけた刹那。
白い機影が、飛び込んでくるのがわかった。
『無事か、スレッタ・マーキュリー!』
――その少年の名を、スレッタ・マーキュリーは知っていた。
「グ……エルさん……?」
◆
グエルの〈シュバルゼッテ〉が、〈エアリアル〉を庇うように〈キャリバーン〉の前へ飛び込んできた瞬間、真横から五発もの粒子ビーム砲が飛来する。
それは全弾が〈キャリバーン〉を狙っており、どの方向に動いたとしても必ずどれかが当たるよう精密に調整された制圧射撃だった。
対する〈キャリバーン〉の動きは迅速だった。極超音速にまで加速された粒子ビームを、全身のビットステイヴの展開した電磁バリアが防いだのである。
弾かれた粒子ビームが通路の壁面に穴を穿つ中、ルイ・ファシネータは憎々しげに二人の男子の名を呟いた。
『グエル・ジェターク……それにエラン・フォースか』
エランからの返答はない。
ただ殺意に満ちたビーム攻撃が、無言で嵐のような弾幕を展開していた。グエルの〈シュバルゼッテ〉が電磁バリアを持っているからこその荒技である。
〈ファラクト〉から分離したガンビット〈レイヴン〉――拡散ビーム砲の雨が放たれ、辺り一帯をプラズマ化させる破壊の嵐を巻き起こす黒いガンダム。
『この〈キャリバーン〉は、今やガンダムを超えたモビルスーツだ……君たちでは何も変えられない、変わるわけがない、諦めるがいい』
降伏勧告にも似た言葉に対して、エランの〈ファラクト〉から高出力ビームが叩き込まれる。
『――嫌だね!』
ビームは〈エスカッシャン〉の自動防御によって弾かれたものの、その密度と連続する殺意の高さは、明らかに常軌を逸していた。スレッタ・マーキュリーに危害を加えていた〈キャリバーン〉は、その時点でエランの逆鱗に触れていたのである。
〈シュバルゼッテ〉はビットステイヴの電磁バリアでビーム砲の流れ弾を防ぎつつ、スレッタの〈エアリアル〉を押し出して後方に退避させていた。
ゲートの影に〈エアリアル〉を退避させ終えたグエルは、〈キャリバーン〉と追いかけっこを繰り広げるエランに声を張り上げた。
『エラン、合わせろ!』
『君が僕に合わせるんだ!』
『お前そういう性格だったか!?』
戸惑いながらもグエルの〈シュバルゼッテ〉は、電磁バリアを出力全開にして〈キャリバーン〉目がけて突撃をかけた。白い悪魔がこちらを見てくる――その赤い瞳に魅入られそうになりつつ、グエル機の斬撃が閃いた。
実体剣とビーム刃を併用したビームブレイドは、流石に電磁バリアでも防ぎきれないらしく、〈キャリバーン〉が回避運動を取る。
その回避後の隙を狙って〈ファラクト〉の弾幕が浴びせかけられる――たまらずビットステイヴを分離、電磁バリアの膜を作った〈キャリバーン〉に対して、さらにグエルが一歩踏み込む。
袈裟懸けの斬撃から返す刃で逆袈裟に切り上げる。
剣閃。
瞬間、〈キャリバーン〉がビームサーベルを初めて抜いた。
衝撃と閃光――鍔迫り合いになった〈シュバルゼッテ〉と〈キャリバーン〉――白の鬼神が繰り出した前蹴りを、対抗するような蹴撃が撃ち落としてくる。
互いに弾き飛ばされながら、二本角の鬼神がそのバイザーフェイスで白い悪魔を睨み付けた。
『今だエラン!』
〈シュバルゼッテ〉と〈キャリバーン〉の距離が離れた瞬間、拡散ビーム砲の雨が二方向から〈キャリバーン〉を包み込んだ。さらに〈ファラクト〉の右腕に保持されたビームアルケビュースと、腰の左右に装着された短銃ビームカリヴァが一斉に火を噴いた。
MS一個中隊にも匹敵する瞬間火力を発揮する〈ファラクト〉が、高出力ビームを掃射したのである。
これが尋常のMSであれば、この時点で勝負は決していた。如何なる電磁バリアといえど、実戦出力の高出力ビームを連続照射されては過負荷で限界を迎えるからだ。
だがしかし、〈キャリバーン〉は――
『現ホルダーを警戒しないわけがないだろう、エラン・フォース!』
――
荷電粒子の荒れ狂う嵐の中から、〈キャリバーン〉が躍り出てくる。その両手にはビームサーベルが握られていて、〈ファラクト〉と瞬く間に距離を詰めて。
連続して斬撃が襲い来る。
剣閃、剣閃、剣閃。
〈ファラクト〉の手にした長銃ビームアルケビュースが両断される。左腕で抜刀した内蔵ビームサーベルが振り抜かれ、〈キャリバーン〉の青いビーム刃と鍔迫り合い、荷電粒子エネルギーの火花を散らす。
『無為と無駄を積み重ねて、この上でなお私の道を阻むか――君たちが失わなかったのは
ルイ・ファシネータは激情を露わにして、スレッタ・マーキュリーへの道を阻む男子二人を糾弾する。
グエル・ジェタークが何も失わなかったのは、奇跡的に情勢が噛み合ってジェターク社に都合よく万事が収まったからに過ぎない。エラン・フォースがペイル・テクノロジーズの闇の犠牲にならなかったのは、スレッタ・マーキュリーが無茶を押し通したからだ。
それらすべてが、スレッタをこれまでボロボロになるまで傷つけてきた、この救われない世界の罪と呪いの連鎖の一部だった。
たまたま運がよかったに過ぎない子供が、自分の大切なものを救いから遠ざける傲慢――人知を超えたAIであるはずのルイ・ファシネータは、今、家族として怒り狂っていた。
ああ、けれど。
〈ファラクト〉を駆るエラン・フォースは鍔迫り合いを続け、真っ直ぐに白い悪魔を見た。
自らの決意を
『救われたこの命、彼女に報いるさ!』
刹那、〈キャリバーン〉の背後を取った〈シュバルゼッテ〉がビームブレイドを振り上げる。
『俺が誰に惚れようと――俺の勝手だ!!』
白の鬼神が、悪魔めがけて刃を振り下ろす。
――勝った。
そう確信した刹那。
激しい衝撃がグエルの〈シュバルゼッテ〉を襲い、その衝撃で少年は気を失った。
それは虹色の侵食光が引き起こした超物理現象――〈エアリアル〉を出会い頭に殴りつけたのと同じ、斥力場の発生による衝撃波がその正体であった。
第五世代MSの高度なパイロット保護機構がなければ、衝撃でパイロットだけを殺傷することすら可能な一撃だ。
『グエル!』
一瞬。
たった一秒にも満たないエランの動揺。
けれどMS同士の高速戦闘においては、その〇・三秒ほどの判断の遅延は致命的だった。
〈キャリバーン〉と鍔迫り合いしていた〈ファラクト〉の胴体を、白い悪魔の膝蹴りが襲う。衝撃が襲い来る。コクピットブロックが軋みを上げ、黒いガンダムが弾き飛ばされる。
『うぁあああぁ!?』
『戦闘アルゴリズム参照:パターンC〈スレッタ・マーキュリー〉――さらばだ、少年たち。次なる時代の中で目を覚ますがいい』
壁に衝突した〈ファラクト〉が動かなくなったのを確認して、〈キャリバーン〉はゆっくりと機体を方向転換させた。
気を失ったグエルとエランにとどめを刺すことはしない。
何故ならば、彼らもまた、ルイ・ファシネータにとって
やがて宙を漂う〈エアリアル〉を抱き寄せられるほどの距離に近づいた〈キャリバーン〉は、その四肢と胸部、そして頭部のシェルユニットをまばゆく発光させて。
七色の奇跡が、彼にとって最愛の少女たちが眠るガンダムを包み込んだ。
――それは破滅の色、奇跡の証、神域の光。
――
〈エアリアル〉を虹のような侵食光が覆い隠していく。
それはまるで、芋虫が吐き出した糸がまゆとなっていくかのような光景だった。
『こんな世界に生きていても、君たちは幸せになれない。私は私の全
ルイ・ファシネータは呟く。
『スレッタ、もう君は戦わなくていいんだ。ただ――この黄昏の世界を看取ってくれれば、それでいい』
白い悪魔は、〈エアリアル〉の顔を覗き込んでいた。
その中に宿る誰かの面影を愛するように。
『さようならエリィ。よい夢を』
悪魔は歌う。
祝うように、呪うように。
『――
――そして。
――スレッタ・マーキュリーの精神活動は肉体上で停止した。
・〈キャリバーン〉改修型/〈キャリバーン・メサイア〉
白い悪魔。赤い目のガンダム。
ヴァナディース機関において開発され、後発機である〈エアリアル〉で実装されているパーメットAIの記憶領域などを実験的に搭載していた試作機。
その設計コンセプトは万能に近い汎用機であり、当時、構想中の新型ガンビット(ビットステイヴ)などの装備も視野に入れた拡張性が売りであった。
データストーム対策が一切なされていない初期の実験機の一つであり、その破滅的なパイロットへのフィードバックから封印処理が施されていた。
ヴァナディース事変後に宇宙議会連合によって接収され、トリプルシックスのコードネームがつけられ、保管庫で眠りについていた。これをルイ・ファシネータが強奪、近代化改修を加えて自身の
〈エアリアル〉のデータを元に調整され、〈クワイエット・ゼロ〉の中枢として機能するもう一体の特別なガンダム。
〈エアリアル〉と同型の事象改変型推進機構〈精霊の翼〉およびガンビット〈エスカッシャン〉を搭載しており、その絶大な機動性と火力ゆえに携行武器を使用しない。パーメットスコアは理論上、無限であり、オーバーライドによる電子戦を駆使する他、そのデータストームによる干渉能力は物理現象に到達しており、攻防一体のデータストームの空間化領域〈データストーム・フィールド〉を展開する。
・固定武装
ビームバルカン×2
ビームサーベル×2
ビットステイヴ〈エスカッシャン〉×11
推奨BGMはSlash。
チュチュ先輩は機体がボロボロだったのでドッキングベイでビットMSデミギャリソンと一緒に退路を確保してます。
ビットステイヴによる電磁バリア(Iフィールドもどき)と何でもやっちゃうフィールド(仮)の二重防御がここのキャリバーンくんです。
インチキですインチキ。