ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタが異なる世界の姉と話すだけの話

 

 

 

 

 

 

「エリ……クト……?」

 

 

 ミオリネ・レンブランとスレッタ・M・レンブランの邸宅の廊下。

 そこには今、三人の人間がいた。

 一人はスレッタ・マーキュリー、一人はカルド・ナボ、そして最後の一人は二五歳の大人の身体を持ち、翡翠色のドレスを身にまとったエリクト・サマヤ。

 自分そっくりの容姿で、そのように喋る誰か――スレッタ・マーキュリーが現状を認識し終えるまで五秒ほどのタイムラグが生じた。魅入られたように身体を強ばらせて凍り付いた少女に対して、カルド・ナボが気をしっかり持てと言わんばかりに声をかけた。

 その視線は鋭く、まるで親の敵を見るように刺々しい。

 

「騙されちゃいけないよ、スレッタ・マーキュリー。これは君の知ってるエリクト・サマヤじゃない。どこかの分岐枝(ブランチ)から紛れ込んできた……さしずめ別可能性(オルタナティヴ)というところか」

 

平行世界(パラレルワールド)のエリクトってことですか!?」

 

「ざっくばらんに言うとね……君はどうやら特異な状況でも飲み込みが早いようだ」

 

 そんなスレッタとカルドのやりとりを見てどう思ったのか知らないが、別可能性(オルタナティヴ)のエリクトは残念そうに肩をすくめた。

 

「ばあば、ネタバレが早すぎない? もうちょっとこう、ミステリアスな謎のヒロインごっこしたかったんだけどなー」

 

「ルイ・ファシネータの探知を誤魔化せる時間は短い。生憎、今はあんたと言い争いをしてる場合じゃないんだよ、エリィ」

 

「主観時間ではまだまだたっぷりあるでしょ、時間。現実(リアル)じゃ何秒間の出来事か知らないけどさ」

 

 その会話を聞いて、スレッタはようやく現状を認識した。自分がシミュレーション宇宙に囚われているというのは本当のようだが、タイムリミットの存在が明らかになって、彼女は緊張感を持った。

 どうやら今はカルドが何かして――パーメットに記述された情報生命体である今の彼女は、スレッタには想像もつかない手段でこの情報宇宙に干渉しているらしい――時間を稼いでくれているらしいが、それも無限に続くわけではないのだ。

 

「も、ももも、もしかして! この世界のエリクトだったりするの!?」

 

「んー、半分正解。パーメットにとって()()()()とか()()()()()()とかの区別はないから、こうやって遊びに行くこともできるんだけどね」

 

「厳密に言えば、このエリクトは君や私の属する世界とは根本的に別の可能性の存在だ。おそらく、パーメットスコア・オーバー8を経由したことで渡り鳥になったってところかい?」

 

「ばあば、ネタバレが早すぎない?」

 

 かなり難解なSFっぽい話をされているが、スレッタは辛うじて話しについて行くことができた。

 ありがとう、エリクトのチョイスしてた歴史改変と平行世界を扱ったアニメとかゲームの数々――自分のオタクライフに感謝の念を捧げつつ、彼女はふと思ったことを口にした。

 なんと言っても知りたいのは、この世界の自分がミオリネと結婚指輪をはめるまでになった経緯である。

 

「待って、それはそうとわたしのお嫁さんがミオリネさんなのってどういう経緯なんだっけ?」

 

「愛に理由はないのさスレッタ……正直、妹の恋愛事情とか割と気まずいから僕に訊かないでくれるかな……」

 

「で、ででで、でも! なんかこう、わたしも記憶が細切れで混乱してるから!」

 

「まあいいでしょ、誰が伴侶でもさ。ミオリネってツンデレで感情表現がだいぶアレだけど結構可愛いところもあるじゃん? 顔もいいしケツもでかいし……」

 

 最後が人間への評価としては最悪の部類だった。ものすごいルッキズム丸出しである。エリクト・サマヤはどんな世界であっても人を顔のよさで判断するタイプのダメ人間だった。

 しかしスレッタが反応したのは、そんなエリクトの残念な言動ではなかった。

 

「ミオリネさんは周囲の人間を台風みたいに巻き込んで振り回しながら大ボラを吹いてパワーショベルを運転する詐欺師みたいな人だよ!?」

 

「えっ?」

 

「……えっ?」

 

 エリクトとスレッタは顔を見合わせた。

 どうやらミオリネ・レンブランに関する見解が致命的に食い違っているらしいと二人は気づいて。

 

「やめようか、この話!」

 

「そうだね!」

 

 そういうことになった。

 こういうときだけ息がぴったりなのは、属する世界が違えど姉妹だからなのだろうか。

 呼吸がぴったり合ったのを感じて、なんだか嬉しくなったスレッタは、無邪気に姉へとこう呼び掛けた。

 

「そうだ、エリクトも手伝ってよ! わたし、この世界から元の世界に戻らないと――」

 

 だが、予想に反して――返ってきたのは沈黙。

 姉はしばらくの間、無言だった。

 緑色の瞳が、スレッタのことをじっと見つめていた。

 ようやく彼女がこぼしたのは、ほとんど拒絶に等しい一言だった。

 

「嫌だ。絶対に、行かせない」

 

 スレッタは困ったように微笑んで、壁に取り付けられた手すりを掴んだ。このシミュレーション宇宙での身体は、データストームの後遺症で不自由になっているから、こうして手すりを掴んで支えねばならなかった。

 

「……ここにはもう、わたしが関わる戦いがないっていうのはわかるよ。でも、この世界のみんなは失ったものが多すぎるよ……」

 

 カルド・ナボによれば、それこそがこの世界の不完全性――スレッタの思い描く理想世界との乖離なのだというけれど。いずれにせよ、元の世界でルイ・ファシネータが馬鹿げたことをしでかそうとしているなら、それを止めるのが兄妹である自分の務めだと思った。

 どんなに幸せな夢なのだとしても、一三〇億人もの人々の絶滅と引き換えであっていいはずがない。そうスレッタ・マーキュリーは考える人物だから、当然のように周囲もそう考えるだろうと思ってしまう。

 だが、彼女の姉はずっと酷薄で乾ききった意見の持ち主だった。

 

「ダメだよ、スレッタ。君はもう、戦う必要なんてないんだ」

 

「でも――」

 

 なおも言いつのるエリクトに対して、スレッタが説得の言葉を書けようとした瞬間だった。

 エリクト・サマヤはひどく冷酷な言葉を吐き出した。

 

 

 

「――エラン・ケレスは死んだ。グエル・ジェタークは父親を失った。そりゃあ気の毒な話だよね、でも()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 信じられないほど冷たい台詞にびっくりして、スレッタはむきになって反論を述べた。

 

「そ、そんなこと……ない、よ!! エランさんがいなくなったら、わたしは悲しい! お父さんのことが大好きなグエルさんが傷つくところなんて見たくない! ミオリネさんだって虐殺の責任を取って謝罪ばっかりしてて……そんなのよくないよ!」

 

「そうやって多少関わった奴らの生き死にを背負った挙げ句、君はずたぼろに傷ついてきたんじゃないか――スレッタ。もう君は戦わなくていいんだ、誰も君に戦士であることを求めたりはしない。今は不自由な身体だってこのままベルメリアの治療を受け続ければじきに治る。それの何がいけないって言うんだい?」

 

 どうしてエリクトがそんなひどいことを言うのか、本気でわからなくて、スレッタは一歩、後ずさった。翡翠色のドレスを着た貴婦人は、愛おしそうに廊下の壁に取り付けられた手すりを撫で上げる。

 

「この家は、スレッタとお母さんのためにミオリネが建てた家だ。あの子は本当に優しい子だよ……スレッタ、僕はどうして君とミオリネがくっついたかなんて知らない。興味もない。だけどどうして、この結末に収束したのかはわかるよ」

 

 エメラルドグリーンの衣を身にまとって、エリクトは歌うように言葉を紡ぎ出した。

 怜悧な視線がスレッタの心臓を射貫くように向けられて、呼吸が止まりそうなぐらいの緊張を帯びる。

 

「スレッタは神様じゃない、()()()()()()()()()()()()()で手一杯だったんだ。そして君が望んだ、世界が赦した……お母さんと和解して静かに暮らせる結末(おわり)を。ここはあらゆるものを振り落として、君がようやくたどり着いた約束の地なんだ」

 

 それだけが神ならぬ人の身に赦された救いなのだと、エリクト・サマヤは告げていた。

 

 

――誰もが何かを失ったからこそ、それ以上失わない薄氷の上のまどろみ。

 

 

 それがこの世界の本質なのだと、スレッタ・マーキュリーはようやく理解した。

 衝撃を受けた。

 確かに自分の心の中に、母との和解と共に過ごせる日々を望む心がなかったかと言われれば嘘になる。

 けれどその代償がこんなにも残酷に、知己の友人たちをズタズタに引き裂く不幸の嵐になるなど想像できるわけもない。

 もっと都合よく、誰も何も失わない世界を願えなかったのか――スレッタは疑問に思って。

 その理由を考えて、考えて、考えて。

 

 

――気づいてしまった。

 

 

 目を見開いて、スレッタ・マーキュリーは最も残酷な真実に肩を震わせた。

 そんな少女の様子をどう受け取ったのか、カルド・ナボが前に出て、スレッタを庇うように声を出した。

 

「そんな独善にこの子に巻き込むんじゃないよ、エリィ」

 

「ばあばこそ――もとはと言えば件のLF03だってヴァナディース生まれのAIじゃんか。ヴァナディース機関の不始末を、今さらスレッタにどうにかさせようっていうのがせこいんだよ。()()()()()()()()()()()()()()()、この子は()()()だ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それの何が悪いのさ?」

 

 そう啖呵を切ったエリクトの力強さに、カルド・ナボは言葉を失ったようだった。

 エリクト・サマヤは冷酷に、冷淡に、こう言ってのけた。

 

 

 

「――スレッタ一人に背負わせて滅亡が左右されるような世界、滅んじゃえばいいんだ」

 

 

 

 

 

 

「エリィ、あんた……」

 

 カルド・ナボはどうやら怒りに駆られているようだったが、奇妙にもスレッタ・マーキュリーは冷静だった。そうやって悪役ぶるエリクトの姿を見て、むしろスレッタは、自分の疑念に最後の答えをもらったような気持ちになった。

 何故、自分は都合よく幸せになれた世界の夢ではなく、選び取られなかった別可能性(オルタナティヴ)の夢を見ているのか。何故、カルド・ナボに続いて別可能性のエリクト・サマヤが現れたのか。最初はルイ・ファシネータの仕業かと思ったが、たぶん違う。

 事態はもっとシンプルで、それゆえに救いがないのだ。

 

「――ようやくわかったよ、エリクト」

 

 ぽつり、とスレッタは呟いた。

 エリクトとカルドの視線が自分に集まったのを感じながら、傷だらけの少女は自身の問いかけの答えを口にした。

 どうしてスレッタ・マーキュリーは、自分にとって都合がいい夢ではなく、こんなにも残酷に誰もが傷ついた世界の夢を見ているのか。

 その理由は簡単なことだった。

 

 

 

「ここが()()()()()()()()()()()()()()()()()なんだね。背負うものを家族だけにして、他の誰かが不幸になって、自分自身もボロボロに傷ついて……そうしてようやく、わたしは()()()()()()()()()()()んだ。ここが、わたしの幸福の釣り合いが取れた場所(ラグランジュポイント)……」

 

 

 

 それが()()()()()()()()()()()()()に想像できる幸福の限界であり、何の代償もない夢すら抱けなかった自分の痛みのかたちなのだと――そう、スレッタは悟った。

 沈黙した姉の姿を見かねてか、カルド・ナボはエリクトを諭すように言葉を紡いだ。

 

「……シンプルな問題だよ、エリィ。彼女の知性は自分自身に都合がいいお花畑みたいな幸福を許容しなかった……高潔な人間なのさ」

 

「違う……それが、スレッタ・マーキュリーの抱えている根深い絶望のかたちだからだよ、ばあば!」

 

 絶望。

 そう言われて、静かにスレッタは納得した。

 たぶん自分はこうやって、苦しみ続ける道のりの中に、自分の選択の意味を見いだしているのだ。ゆえに、万事が都合よく整った世界を想像すらできず蓋然性(がいぜんせい)が高い可能性を思い浮かべることしかできない。

 そんな妹の姿を拒絶するように、エリクト・サマヤは激情を叫んだ。

 

「でもそんなの間違ってるでしょ!? どうして無邪気な夢を見られないのさ、スレッタ! 君はこの世界に傷つけられてばかりで、もっといろんなものを放り捨てていい人間だ! ミオリネなんて見捨てればいい! エラン・ケレスなんて放っておけばいい! グエル・ジェタークがどうなろうと彼の選択でしょ!? どうして君だけが、残酷な世界に傷つけられ続けてるのに、甘い夢すら見られない!?」

 

 それは妹を想う姉の心からの言葉だった。

 彼女の姉はきっと、困ったように微笑むことしかできない妹の代わりに怒ってくれていた。その目からこぼれる涙は、妹のために流される感情の雫だった。

 だが、すべてスレッタ・マーキュリーには見過ごせないことなのだ。自分が長い間、無垢でいられたIF(もしも)の世界の記憶を知ったからこそ、彼女はなおそう思ってしまう。

 この手は血に塗れているけれど、()()()()()()()()()()()()()()()

 それだけでスレッタは、救われたような気持ちになってしまう。

 

 

――異なる世界に属する姉妹は、致命的に価値観がすれ違っていた。

 

 

 エリクト・サマヤの慟哭はきっと、道徳的には褒められたものではない。たくさんの人の不幸を見過ごして、その生きながらえる姿を罵って、利己的に家族の幸せだけを願う。それは悪い子の理屈だ。神様に褒めて貰えるいい子なんかじゃない。

 だけどスレッタは嬉しかった。こんなにも自分のために泣いてくれて、叫んでくれて、想ってくれる誰かが、可能性の壁を飛び越えてなお存在してくれている。

 それはとてつもなく尊いことのような気がして。

 だから。

 

「ありがとう、エリクト。わたしのために怒ってくれて。わたしのために涙を流してくれて。わたしね、それがすごく嬉しいんだ」

 

 スレッタは笑った。

 ほがらかで邪気のない、心からの笑顔だった。

 それを見て今度こそ、エリクト・サマヤは二の句を告げなくなった。

 

「……スレッタ、きみは……」

 

 涙でべしょべしょに濡れた目を伏せて、うつむいたエリクトにスレッタは微笑みかける。

 妹として、目一杯の感謝と親愛を込めて。

 

 

「わたしは行くよ、エリクト。ミオリネさんたちを助ける()()()()、一三〇億人の人類だって救っちゃうかも」

 

 

 エリクト・サマヤはしばらく押し黙ったあと、視線を上げてスレッタの双眸(そうぼう)を見つめてきた。

 鬼火のように燃える緑の瞳と瞳が、鏡写しのように互いの姿を捉えていた。二人は遺伝子を同じくする双子のようにそっくりだったが、その魂はどこまでも別人で、隔たっていて――そのとき姉が浮かべたのは、本当に仕方のない子を見るような呆れ半分の愛情だ。

 

「君は僕が知ってるスレッタよりも強欲で傲慢で……傷ついてばかりの自分自身すら、そうやって誤魔化して生きていくんだね」

 

「それが――わたしの人生だよ、エリクト」

 

 今ならそう思える。

 この血に塗れた両手すらも、誰かの命に繋がっているのなら――きっと無駄なものも、無意味なものも、何一つなかったのだと信じられるから。

 

「バカだ。君は大バカだ。きっと後悔するよ」

 

 吐息と共に言葉を吐き尽くして、エリクトは妹の顔を見つめてくる。

 大人の身体で、大人の顔つきのはずなのに、泣きじゃくっているエリクトは子供っぽいぐらい可愛かった。

 無言で見つめ合う姉妹の肩に手を置いて、カルド・ナボは言い含めるようにこう言った。

 

「私が送っていこう。このシミュレーション宇宙でルイ・ファシネータの探知をかいくぐれるのも、あと少しの時間だ。やつの介入が始まる前に君の意識をレイヤー33より上の深度まで浮き上がらせる」

 

「よろしくお願いします、カルドさん」

 

 うなずいたあと、スレッタは別可能性のエリクトに微笑みかけた。

 結局、最後までこの黄昏の世界に慣れることはなかったけれど――それでも告げるべき言葉はわかっていた。

 

「そっちのミオリネさんによろしくね、わたし、どういう人か知らないままだったけど――そっちのわたし、幸せなんだよね?」

 

「……うん、絶対に幸せだよ」

 

「なら、よかった」

 

 もうエリクトは妹の道を阻もうとはしなかった。ただこの異なる世界の妹の顛末を、悲しそうに見守るだけだった。

 そして少女は、最後の思い残しを片付けることにした。

 

 

 

 

 

 

 リビングのドアを開けると、そこには車椅子に乗ったエルノラ・サマヤがいた。ちょうど午睡から目覚めたところらしいエルノラは、眠たげな目でスレッタを見つめている。

 

「スレッタ……声がしたけど、誰かいるの?」

 

「うん……遠くからね、友達が来てくれたんだ」

 

 嘘をついた。

 スレッタは一歩一歩、慎重に両足で床を踏みしめて、ゆっくりとエルノラの元へと近づいていく。

 びっくりしたように母が目を見開くのがわかった。

 

「スレッタ、あなた、足が……」

 

 何を言うべきか迷った末、スレッタ・マーキュリーは平凡な言葉を口にすることにした。

 

「うん、お母さん。わたしね、()()()()()()()()()()()

 

「……そう、よかったわ、本当によかった……」

 

 元々、半ば夢見心地の覚醒だったせいか、エルノラの意識は長く続かなかった。エルノラ・サマヤはすぐに眠りについて、うとうとと午睡の続きに落ちていった。

 

 

 別可能性で育った娘は、そっと母へと手を伸ばして。

 まどろみの中にいる母の頬に手を触れようとしたが、途中で手を引っ込めて、スレッタ・マーキュリーはその寝顔を眺めるに留めた。

 かつて復讐の魔女プロスペラ・マーキュリーだった人。

 ヴァナディース機関の生き残り、エリクト・サマヤとスレッタ・マーキュリーの母親エルノラ・サマヤ。自分はもうすべてを知っている。彼女が自分のことをエリクト復活のための道具にしていたのも、何らかの変心を経て、親子の情が湧いてしまうことも。

 毒々しいエゴが抜け落ちて、髪に白いものが混じり始めたエルノラの寝顔は本当に穏やかで――スレッタはそこに複雑な愛憎を抱いてしまう。

 きっとたくさん傷つけられた。利用されてきた。それでもなお、この心に残った感情は嘘なんかじゃない。

 

 

――たとえあなたが、わたしのことを見てくれたのが死の間際の後悔からだったとしても。

 

 

――それがどんなに利己的で、救いようがなく愚かしくて、身勝手な感情だったのだとしても。

 

 

――わたしはきっと、あなたのことを()()()()()から。

 

 

 今度こそ、別れは笑顔で終えると決めていた。

 

 

 

 

 

 

「お母さん――さようなら」

 

 

 

 

 

 

 

――祈るように。

 

 

 

 

 

――少女は別離の言葉を口ずさんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 















推奨BGM「Happy Birthday to You(ルブリス起動時のテーマ)」。



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