ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタが復活するだけの話

 

 

 

 

 

 クワイエット・ゼロ事変には謎が多い。

 AS122年に起きた宇宙議会連合とベネリット・グループの紛争は、最終的に宇宙艦隊を用いた()()に発展した。

 これはドローン戦争以来となる強大な列強同士の武力衝突であり、有人機動兵器MSによる史上初の大規模な戦闘行為であった。最終的に数千人の死傷者――今日のオートメーション化が進んだ戦争において、純粋な戦闘員の被害だけでこの数は特筆に値する――を出したこの紛争は、結果的に世界の趨勢を決めたと言っていい。

 この紛争において最も存在感を発揮したのは、強力なパーメット電子戦兵器〈クワイエット・ゼロ〉であり、その端末機動兵器である〈ガンドノード〉であり、新型GUNDフォーマットを使用したMSガンダムであった。

 

 重武装の戦闘母艦ケラウノス級と低コストの旧世代MSによる物量戦を指向した宇宙議会連合の大敗と、優れた新技術によって戦況を優位に運んだベネリット・グループ企業軍の活躍は、現代の宇宙戦争を語る上で欠かせないものと言っていい。

 だがそれ以上にインパクトがあったのは、この戦闘の勝敗そのものではなく、英雄デリング・レンブランによる紛争調停宣言と、これに伴う戦場における電子機器の麻痺状態――いわゆるクワイエット・ゼロショックであろう。

 パーメットを利用した究極の戦略兵器として運用された〈クワイエット・ゼロ〉は、人類史上、まれに見る結果をもたらした。

 

 すなわち、たった一基の兵器による地球圏全土の掌握である。

 このときベネリット・グループのデリング・レンブラン総裁は、確かに世界征服に王手をかけていたのである。

 その政治的意味合いは大きく、今日における世界秩序の根幹を形成したのは疑うべくもないが――多くの犠牲を出したクワイエット・ゼロ事変の総括については、歴史の評価を待たねばなるまい。

 

 重ねて言おう。

 クワイエット・ゼロ事変には大きな謎がある。

 両陣営の将兵の証言から明らかになっているのは、デリング・レンブラン総裁の紛争調停宣言と前後して、〈クワイエット・ゼロ〉周辺宙域で戦闘行為があったことである。

 このとき宇宙議会連合の艦隊は戦闘行為を停止して投降しており、これが両陣営の武力衝突ではなかったことは確かだ。

 

 とある情報筋によれば(※あくまで筆者の独自意見であり客観的事実ではない)ベネリット・グループ内部で反デリング派による反乱があったという証言もある。

 確実に言えることは、この戦闘において複数のガンダムが目撃されていることである。あの伝説のMS〈エアリアル〉もその中に含まれている、と言えば、この戦闘の重要性が伝わるだろうか。

 

 クワイエット・ゼロ事変はいくつもの顔を持っており、宇宙戦争のドクトリンに与えた影響も大きければ、その政治的な意味合いも巨大だった。この紛争における事実上の敗戦が宇宙議会連合の衰退に繋がったのは疑うべくもない。

 これはテクノロジーの発展、兵器開発の歴史に対しても同じことが言える。

 新型GUNDフォーマットを使用したMS〈エアリアル〉の登場とそのデモンストレーションによって、有人機動兵器モビルスーツはその存在意義そのものを揺るがされていた時期があった。

 すなわち遠隔操作型攻撃端末ガンビットさえあれば、MS本体の戦闘能力は不要ではないか――そのような論調がMS開発の現場にあったのは否めない。

 

 西暦時代のミサイル万能論による航空機のミサイルキャリア化と同じく、モビルスーツのガンビットキャリア化こそが正解だという論が存在したのである。

 クワイエット・ゼロ事変で投入されたMS型ガンビット〈ガンドノード〉とその強化型〈ガンドノード・アーラ〉――合計四基のガンビットのみを武装とする――は、その極致と言えよう。

 

 結果的に見れば、これは誤った思想だった。今日においてもモビルスーツは一定の戦闘能力を持った独立した戦闘単位に位置づけられているし、ガンビットの氾濫によって陳腐化はしていない。無人兵器が戦場を埋め尽くし、有人機が駆逐されるような状況にはなっていないのだ。

 だが、筆者はここに()()()()()()を見いだしたくはない。

 この紛争が当初、宇宙議会連合の圧勝に終わると考えられていたように――歴史に必然はないのである。

 一つ確かなことがある。

 これまで述べたクワイエット・ゼロ事変の複数の顔を調査していくと、必ずとある名前が出てくるのだ。

 

 曰く、〈クワイエット・ゼロ〉のテスト運用に関わっていた。

 曰く、〈クワイエット・ゼロ〉を巡る反乱で目撃されていた。

 曰く、ガンビットの濫用に歯止めをかけた抑止力たるガンダム。

 

 

――ガンダム〈エアリアル〉。

 

 

 この白いモビルスーツがクワイエット・ゼロ事変の謎に大きく関わっているのは間違いない。

 そしてこのMSに乗っていたのは、当時一七歳の少女であった。

 彼女の名はスレッタ・マーキュリー。

 謎多き天才パイロットである。

 

 

 

 

 

 

 〈クワイエット・ゼロ〉周辺宙域にて。

 今やエタニティハイロゥの展開により電子機器はおろか人間の意識すら掌握され、誰もが深い眠りに落ちた宇宙の片隅。

 虚空に二機の巨人が浮かんでいた――二機のモビルスーツ、二機の白いガンダム、二機の姉弟。

 呆然としている白い悪魔の目の前で、白亜の妖精が輝いている。

 それはまるで極地を夜空を照らすオーロラにも似て、まばゆく暗黒の宇宙を満たすシェルユニットの光であった。

 パーメットスコアの急激な上昇。情報元素パーメットを掌握し、この物質宇宙における存在にすら干渉可能な領域に至ったガンダムだけが放つ光輝。いわば物理現象として作用するオーバーライドという究極の事象が、〈エアリアル〉から放たれて、白い悪魔の掌握する支配領域を侵していく。

 為す術がなかった。絶望的な無力感に苛まれながら、ルイ・ファシネータの駆体〈キャリバーン〉は手を伸ばした。

 嫌だ。嫌だ。

 頼む、お願いだ――

 

 

 

――()()()()()()()()

 

 

 

 無垢なるAIの慟哭のような祈りは空しく裏切られて。

 〈エアリアル〉は虹色の光に包まれ、〈キャリバーン〉の目の前で完全に覚醒した。

 その様子が、情報体であるルイ・ファシネータには手に取るようにわかった。情報宇宙において天体に等しい高密度かつ大規模な存在になった彼は、目の前のMSが、自身と同じく高密度の情報体――エリクト・サマヤを宿したことをはっきりと感知していた。

 彼は叫ぶ。

 

『何故だ、何故なんだエリィ――』

 

 哀切に満ちた言葉に対して、エリクトの返答は無慈悲かつ端的であった。

 

 

――君を止めるためだよ、ルイ!

 

 

 次の瞬間、〈キャリバーン〉の顔面を〈エアリアル〉の拳が殴りつけていた。MS戦のセオリーもクソもない感情にまかせた打撃だったから、ルイの反応も遅れてしまった。結果としてクリーンヒットした正拳突きによって〈キャリバーン〉が吹っ飛ばされ、〈クワイエット・ゼロ〉の通路から外にたたき出すことに成功する。

 エリクトはすぐさま〈エアリアル〉を――自身の駆体を動かして、ルイを追撃しようとした。

 何のために、と頭の中のどこかがささやいてくる。

 たぶんこれ以上、ルイ・ファシネータを苦しませないために、決着をつけてあげるべきだと思うから。

 自分の中にいる妹の目覚めを待つまでもなく、エリクトは今ここですべてを終わらせようとしていた。十一基のビットステイヴAI〈カヴンの子〉らと対話して、エリクトが得た結論はシンプルなものだった。

 今ならスレッタ・マーキュリーの操縦がなくとも、ルイ・ファシネータの〈キャリバーン〉を落とせる。

 

 

――やっちゃおう!

 

 

――私たちでルイを止めよう!

 

 

――姉に逆らう弟には死刑だ!!

 

 

 無数の光が推進炎の軌跡を描き、解き放たれた。十一基のビットステイヴが〈エアリアル〉から分離し、ルイの〈キャリバーン〉を包囲、荷電粒子ビームの十字砲火を浴びせかける。

 直撃すれば容易く白い悪魔を落とせるはずのビームの嵐――しかし熱線がガンダムに当たることはない。

 見えざる障壁が荷電粒子を散らして、きらきらと光の壁を浮かび上がらせていた。〈キャリバーン〉の周囲を漂う十一基のビットステイヴが、電磁バリアを展開して全方位(オールレンジ)攻撃を防いでいるのだ。

 忌々しげな呟きが、純白のガンダムからパーメット通信で放たれた。

 

『こんな世界に未練があるのか、エリィ』

 

 

――こんなクソみたいな世界でも! ここにはスレッタの未来があるんだ、それを邪魔させたりはしないっ!

 

 

『こんな世界に残された未来など、誰にとっても苦しみしかないのに……!』

 

 

――わかってないよ、ルイ。未来っていうのはいいとか悪いとかじゃない。当然そこにあって欲しいものなんだよ。赤の他人に良し悪し決められたいわけないじゃん!

 

 

 ここにあるのは、未来への切なる祈りであり、どうしようもなくすれ違ってしまってしまった悲観主義者と楽観主義者の喜劇だ。

 そんな姉弟のやりとりに呼応するように、〈エアリアル〉の中で少女は目を覚ました。

 寝ぼけ眼のまま、スレッタ・マーキュリーは何度かまばたきをして。

 やがてこんなことを呟いた。

 

「……夢を見たよ、エリクト。わたし、ミオリネさんのお婿さんやってるバージョンもあるみたい。すごくない? 攻略対象豊富じゃない?」

 

 スレッタとしては自分の可能性の多様性に感心しての発言だった。

 しかし姉の反応は違った。

 現世でカースト上位の男子二人(※グエルとエラン)とデートして青春を謳歌してるスレッタ・マーキュリーがそういうことを言うと、姉としては困惑するしかないからだ。いい感じの仲の男子二人どっちかとくっつくならわかる。

 だがここでミオリネまで選択肢に入ると聞くと、ちょっとうちの妹の守備範囲広すぎないかと思いもする。

 「えっ」とうめいたあと、エリクトは呆れた感じの声音でこうコメントした。

 

 

――スレッタさあ……節操なさ過ぎない? 面食い極まってるね……

 

 

「め、面食いじゃ……な、ない、はず?」

 

 

――そこでどもる時点でもう黒だよ! スレッタは美少年と美少女が好きな肉欲獣(ビースト)なのさ! グエルもエランもミオリネもみんな顔いいし!!

 

 

 事実である。確かに三人とも顔がめちゃくちゃいい。

 だが、それはそうとこの心底ルッキズムに染まった姉の同類扱いされるのは嫌だった。

 あまりにあんまりな言い草なので、スレッタは正論で殴り返すことにした。

 

 

「それはエリクトが()()()()()()()からでしょ!!」

 

 

――本当のこと言われると泣くよ、僕は!?

 

 

 無慈悲な妹からの反撃に半泣きになるエリクトだった。

 顔しか見てなくてもいいじゃない、だって人間(?)なんだもの――控えめに言ってダメな姉は可愛い妹に正論で殴られると何も言えなくなる程度に雑魚だった。

 

『…………』

 

 姉妹の馬鹿馬鹿しいやりとりを横で聞きながら、ルイ・ファシネータは〈キャリバーン〉の腕を伸ばした。

 最早、対話による解決の機会はないのだ。

 ならば再びオーバーライドによってスレッタとエリクトを、エタニティハイロゥの夢に沈めればいい。

 今度こそ目覚めないほど深い眠りで、二人の魂だけでも救うのだ。

 傲慢な独善に満ちた意思に呼応して、そのシェルユニットがまばゆい虹色の極光を放った刹那――対抗するように〈エアリアル〉もまた、パーメットスコア上昇時の輝きを放っていた。

 白亜の妖精のコクピットの中で、スレッタは目を閉じてパーメットリンクに意識を傾けていた。

 

「……わたしに合わせて、エリクト! 今ならきっと、わたしたちにもパーメットスコアを上げられる!」

 

『無意味だ、〈エアリアル〉にはデータストームフィルターがある以上、この〈キャリバーン〉と並ぶことなど――』

 

 ルイの指摘は正しい。

 少なくとも技術的観点からいえば、安定性を上げて完成度を高めた〈エアリアル〉は、それゆえに〈キャリバーン〉ほどのパーメットスコア上昇――言い換えれば情報宇宙への干渉――を見込めないGUND-ARMだ。

 そう、あるいはエリクト・サマヤというパーメットAIが協力的でなければ、両者の性能差は歴然だったろう。

 逆説的に――つまり姉妹の心が一つになっている今、不可能はないのだ。

 

 

――行こう、スレッタ!

 

 

 スレッタとエリクトの思考が混じり合う。互いの心が溶け合いながら、〈エアリアル〉にもうけられたフィルターを通り抜けて、膨大なデータストームの嵐をその掌中に収めていく。それは嵐の海を渡る船のような、危うい旅路だった。少し間違えれば転覆してデータストームの海で溺れ死ぬであろう無謀だ。

 しかしスレッタ/エリクトは、この大嵐の波を乗りこなして、逆に支配していた。

 今やスレッタ・マーキュリーはエリクト・サマヤであり、エリクト・サマヤはデータストームそのものだった。知的生命体の精神活動が、パーメットと感応して周囲の空間――データストームが可視化されるほどくっきりと浮かび出ている――を侵食し始めていた。

 それはMSのパーメット伝達系を通じて、集積されたパーメット演算装置にも伝わっていた。

 それは光だった。

 〈エアリアル〉の全身に埋め込まれたシェルユニットが光り輝き、虹色の極光を放っていく。

 パーメットスコア・オーバー8。

 物質と空間を支配する究極のオーバーライドを示す光輝を観測して、ルイは驚愕した。

 そう、それは起こりえない事象に対する動揺であった。万に一つもあり得ない、おとぎ話のような事象が容易く引き起こされたことへの反射が、言葉となってあふれ出た。

 

『バカな!? 〈エアリアル〉の基幹システムを創り変えたというのか、この刹那で!?』

 

 そしてルイは気づく。

 これまで〈クワイエット・ゼロ〉を支配していた自身の指令が、上手く伝達されなくなっていることに。

 パーメットを通じて物質すら自在に操作できる、神に等しい力を得たはずのガンダムが、その力の根源との接続を断たれつつあった。

 ノイズの根源は眼前に広がる虹色の極光であった。

 

 

――〈エアリアル〉がある限り、君のエタニティハイロゥは実行できない。〈クワイエット・ゼロ〉の管制機が二機、完全に拮抗しているからね。

 

 

 エリクトの勝ち誇った声。

 次の瞬間、〈キャリバーン〉はビームサーベルを抜いていた――同時に飛び込んできた〈エアリアル〉の斬撃と斬撃がぶつかり合い、ばちばちと荷電粒子の火花が飛び散る。

 白い悪魔と白亜の妖精が、刃を交えながら激情を叫ぶ。

 

 

『――私の道を阻もうというのか、スレッタ! 君はすでに少し錯乱している、エリィ!』

 

 

――愚弟(おとうと)が姉に勝てると思わないでよね、ルイ!

 

 

 ためらいはなかった。

 少しでも気を抜けば、次の瞬間に撃墜(おと)されるのは自分だとわかっているから、スレッタ/エリクトも、ルイも微塵も容赦がなかった。

 鍔迫り合いを繰り広げる二機のガンダムの周囲――完全に同型のビットステイヴ二二基が光の軌跡を描いて飛び交い、ビームの雨を降らせながらドッグファイトを繰り広げる――青白い高出力ビームが空間をなぎ払い、星間物質を焼き焦がす。

 その嵐の中で、赤毛の少女はおのれの決意を口にした。

 

 

 

「――あなたを止めます、ルイお兄ちゃん!」

 

 

 

 

――この瞬間から。

 

 

 

――馬鹿馬鹿しいほどに盛大な姉弟/兄妹喧嘩が始まった。

 

 

 

 

 

 

 













・〈ガンドノード〉※独自設定です
シン・セー開発公社によって開発されたMS型ガンビット。
〈ルブリス〉を元にルイ・ファシネータにより設計された無人兵器であり、超大型移動式パーメットAIプラットフォーム〈クワイエット・ゼロ〉の艦載機として数百機が搭載されている。
宇宙空間での使用のみを想定し、重力下での運用を想定しないことから、その手足の構造は簡略化されており、空間戦闘に特化している。
これはコスト低減の意味合いもあり、本機はMSとしての機能性や戦闘能力よりも、生産効率と後述のオーバーライド機能を優先したMS型ガンビットである。
本機はガンダムと同じくGUNDフォーマットを搭載しており、〈クワイエット・ゼロ〉の中枢コアユニットと共鳴することでオーバーライドの中継機として機能する。

・武装
連装ビームガン×1



・〈ガンドノード・アーラ〉※独自設定です
〈ガンドノード〉用のオプション装備として、モビルアーマー化する大型バックパックユニット〈アーラ〉を装着した姿。
モビルアーマーはモビルスーツ開発以前の機動兵器であり、西暦時代の爆撃機やガンシップに近しいコンセプトの火力トランスポーターである。
〈アーラ〉ユニットの開発には、シン・セー開発公社に売却されたペイル・テクノロジーズのガンダム開発部門が関わっており、大型シェルユニットによる推進装置の連動制御など、〈ファラクト〉のノウハウが詰め込まれている。
この形態では極めて高い推力による機動性と、搭載された四機の大型ガンビットによる制圧火力の高さが特徴。
多数の〈ガンドノード・アーラ〉は管制機である〈キャリバーン〉によって統制され、〈クワイエット・ゼロ〉の番人として機能する。

・武装
大型ガンビット×4






推奨BGM「Liberation from the Curse」。
いよいよラストバトルです。





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