ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

13 / 112
擦れッタが悪夢を見て決闘を楽しむだけの話

 

 

 

 

――忘れられない光景がある。

 

 

 

 一年前、地球での軌道エレベーターの防衛戦。

 今ほどスレッタ・マーキュリーが殺人者として洗練されておらず、かといって昔ほど無垢でもなかった頃。

 

 あるとき、ドミニコス隊が襲撃した拠点から、明らかになった敵の概要は驚異的なものだった。

 通常のモビルスーツとは定義そのものが相容れない、パイロットを爆弾の制御装置程度にしか考えていない、破綻した設計思想。

 低出力熱核兵器並みの破壊をもたらせる、悪魔のようなガンドアーム――その試作機が、ドミニコス隊が強襲する直前に移動されていたことが明らかになったのだ。

 その運用から見て、敵は単独飛行可能であることも明白。

 押収された資料から推測された予想襲撃地点は、ベネリット・グループも拠点を置く軌道エレベーター付近の都市であった。

 市街地に近づけただけでも大惨事になる、たった二〇メートル強の人型機動兵器を迅速に発見、破壊する――この過酷なミッションに、ガンビットという子機を持ち、索敵範囲が広い〈エアリアル〉も参加していた。

 

 結論から言おう。

 

 〈エアリアル〉とスレッタ・マーキュリーは当たりを引いた。

 夕闇に沈もうとしている空の下、オレンジ色の光に照らされて――装甲に塗装すら施されていない鈍色の巨人が、海上を飛んでいた。

 それを見つけたとき、スレッタの側に友軍機はおらず、SFS(サブ・フライト・システム)である輸送機〈ティックバラン〉に乗ったMS小隊は反対方向にいた。

 到着を待っていれば、市街地に到達される恐れがある。

 都市東端から海上二〇キロメートル、高度一〇〇〇メートル。

 敵発見の報を送ったあと、すぐさまスレッタ・マーキュリーと〈エアリアル〉は交戦を開始した。

 

 

――ガンドアーム〈ルブリス・ムスペル〉。

 

 

 全身にプラズマ発生機構を増設し、ガンビットを介してこれを広域散布、〈プラズマの嵐〉がすべてを焼き尽くす地獄を作り出せるモビルスーツ。

 最早、人型単座機動兵器というモビルスーツの定義を満たしているかも怪しい、モビルスーツの形をした爆弾。

 歪に着ぶくれしたような肥満体型の大型ガンドアームも、〈エアリアル〉のことを見つけたようだった。

 ロックオン警報。

 その腕部に装備されたビームライフルから射撃が飛んでくる。

 回避運動を取りながら応射する――巨体に見合わぬ機敏さで回避される――互いがガンダムである証左。

 

 

『スペーシアンの垂れ流す金に寄生して生きる害虫ども……燃やしてやる、オレが燃やしてやるぞ!』

 

 

 狂気じみた声が、オープンチャンネルで垂れ流されている。

 何の意味もない宣言は、搭乗者の異様な精神状態を表しているかのようだった。

 ブリーフィングの内容が正しければ、このガンダムはパイロットの生還を前提にしていない。

 パーメットスコアの上昇による負荷が及ぼすパイロットへの影響は未知数だ。

 せめて説得できないかと、スレッタ・マーキュリーはオープンチャンネルで呼び掛けた。

 

「こちらはカテドラル所属ドミニコス隊、あなたは南アメリカ自由共同体連合の領空を侵犯しています。直ちにこちらの指示に従って投降しなさい」

『スペーシアンの魔女狩り部隊が!』

 

 当然ごとく、返答は悪意だった。

 敵が装備していた遠隔操作型自律特攻兵器(ミサイル・ガンビット)が起動し、一斉に発射される。

 その数は六つ、それ自体が意思を持つかのように操られる魔女の使い魔、パーメットリンクによって思念誘導されるミサイルだ。

 

 

――スレッタ、撃ち落とすよ!

 

 

 エリクトからの声と共に、〈エアリアル〉もガンビットを展開――ビットステイヴ一一基が、ビームの弾幕でミサイル・ガンビット全弾を撃ち落とす。

 ミサイルを撃墜した瞬間、苦痛に満ちたうめき声が聞こえてきた。

 

『がぁああああぁあ!』

「今すぐパーメットスコアを落としてください、あなたの命が危ないです――」

 

 ガンビットを使用したということは、現在の敵機のパーメットスコアは三相当。

 これ以上スコアを上げれば、確実に寿命が縮むことになる。

 

『黙れ偽善者ァ!!』

 

 瞬間、複数機の大型ガンビットが敵の背部ウェポンラックから射出された。

 事前のデータ通りの兵装――〈ルブリス・ムスペル〉の特徴とも言えるプラズマ発生機構の中継装置、ナパームビットだ。

 エネルギー超伝導粒子を内蔵したこのビットは、これを広域に散布することで〈ルブリス・ムスペル〉が発生させるプラズマフィールドを〈プラズマの嵐〉にまで昇華する。

 一体のモビルスーツを大量破壊兵器の域にまで到達させる悪魔の発明。

 

 

『お前たちスペーシアンさえいなければ――戦争は起きなかった!!』

 

 

 〈ルブリス・ムスペル〉のシェルユニットが、一際まばゆい光を発生させた。

 GUNDフォーマットの活性化を知らせる合図と共に、通信の向こうから苦悶に満ちたパイロットの声がもれてくる。

 〈ルブリス・ムスペル〉のナパームビットが起動されれば、放出されたエネルギーによって、局所的に超高温プラズマの地獄を引き起こす。

 空気がその熱と衝撃を伝播させる大気圏内においては、その破壊力は熱核兵器のそれに等しい。

 

「戦争を始めたのは、地球の人たちじゃないですか!」

『黙れ! 南米戦争で武器を売ったのはお前たちだ! スペーシアンが戦争を煽った! オレの家族を殺したァ!』

「――だから何の罪もない地球の人たちを殺すんですか?」

 

 それは理屈ではない。因果など関係ない。

 怒りが新たな殺戮を求める、人間の最も救えない本能のような攻撃性だ。

 

 

宇宙の貴族ども(スペーシアン)!! 犠牲を強いておきながら道徳を語るな!!』

 

 

 殺し、殺され、殺し、殺される連鎖――巨大なる憎悪の円環――その途切れることない輪の一部になった誰か。

 名前も知らない少女の悪意を受け止めながら、スレッタ・マーキュリーはビームサーベルを抜いた。

 たぶん彼女の言葉は正しい。

 

「それでも、わたしはっ!!」

 

 この世界の構造は歪んでいて、誰かの流した血を啜りながら肥え太る怪物のような仕組みが転がっている。

 だが一介のパイロットに過ぎないスレッタ・マーキュリーには、どうやってその怪物を倒せばいいかわからない。

 巨大過ぎる仕組みの犠牲者が、憎悪を再生産する循環(サイクル)と同化する――あまりにも救いがない構図を思い知らされながら、それでも少女は戦う。

 あのガンビットが使用されれば、背後の市街地が焼け野原になると知っていたから。

 〈エアリアル〉の推進装置を全開にして急接近、敵と交錯した一瞬。

 

 

――横一文字にビームサーベルを振り抜いた。

 

 

 荷電粒子の光が散った。

 それは装甲が溶断され、人間が蒸発して消え去る光景。

 コクピットごと上半身を両断された〈ルブリス・ムスペル〉が、断末魔のような駆動部の悲鳴をあげながら落ちていく。

 やがて駆動部のあげた悲鳴は動力部に伝播して誘爆。

 

 

――怒りに満ちた炎が爆ぜる。

 

 

 爆発した敵機の残骸が、海面へ落ちていく。

 

 

「ウィッチ1、目標を撃破。ナパームビットの機能停止を確認しました、オーバー」

 

 

 そう報告しながら、スレッタの目から涙がこぼれ落ちる。

 通信を切った。

 耐えられなかった。

 心が痛くて、苦しくて、吐きそうだった。

 

 

「わたしは……」

 

 

――スレッタ、スレッタ!

 

 

「殺したくなんか……ないんです……!!」

 

 

 嘆きは絶望にも似ていて。

 スレッタ・マーキュリーの魂は奈落の底に落ちていく。

 

 

 

 

 

 

「ごめっ……ごめんなさ……」

 

 

 ミオリネ・レンブランが目覚めたとき、同室の少女は泣いていた。

 眠っているはずなのに、褐色の肌の目元には幾筋もの涙のあとがあって。

 こぼれ落ちた涙の雫が枕を濡らしている。

 

 ミオリネは自分のベッドから起き上がって、隣のベッドで眠るスレッタの(そば)に近づいた。

 ミオリネがスレッタと同じ部屋――地球寮の一室で眠るようになったのはここ最近のことだ。

 スレッタがよく眠れていないのではないか、という話を地球寮の三年生たちから振られて、姉心(姉としての自覚のこと。もし仮に血縁関係がなくとも生まれる)がついてきたミオリネは即座に決断。

 これまでプライベートでの生活に使ってきた理事長室を引き払い、スレッタと同じ部屋に引っ越してきたのだ。

 

 曰く、花嫁と花婿が同じ部屋で過ごすのは当然。

 この話を聞いたとき、グエルなどは「俺のときと態度が違いすぎないか」と呆れていたが、それはさておき。

 肝心のスレッタの方は「お友達とルームシェアって憧れてたんです!!!」と同居に乗り気だったため、突然のミオリネの引っ越しはつつがなく終わった。

 なおこのとき地球寮の面子が人足としてこき使われたのは言うまでもない。

 

 ともあれ、こうして同じ夜を過ごしてみれば――案の定、スレッタ・マーキュリーは眠りについている間、うなされているようだった。

 少女がどんな悪夢を見ているのか、ミオリネ・レンブランは知らない。

 彼女が決して話そうとしない過去にその原因があることは察せられたが、本人が喋りたくないことを尋ねたくはない。

 

「大丈夫、大丈夫よ、スレッタ……」

 

 白くてほっそりしたミオリネの指が、よく鍛えられたスレッタの掌を包み込む。

 それは今までスレッタが、どれだけ血のにじむような訓練をしてきて、この学園にやってきたかの証だ。

 スレッタの手を握って、ミオリネは悪夢にうなされる()()()に寄り添う。

 

 

「お姉ちゃん……会えて……うれし……」

 

 

 このときスレッタがこぼした寝言は、初めてエリクト・サマヤを姉と認識して話せたときの言葉だった。

 だが、スレッタのことを()()()()()と認識しているミオリネ・レンブランにとっては意味合いが異なる。

 本当に嬉しそうに微笑んで、ミオリネはスレッタの寝顔を覗き込んだ。

 

 

「……私もよ、スレッタ」

 

 

 スレッタの手を握るミオリネの顔はどこまでも優しくて。

 美しく、幻想的な風景だった。

 あるいはそれは、麗しき姉妹愛と言えたかもしれない。

 

 

 

 

――彼女がスレッタ・マーキュリーの()()()()()ことを除けば。

 

 

 

 

――不条理な喜劇を沿えて、少女たちの夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――はいはい、お姉ちゃん(本物)からの忠告だよ。

 

 

――姉を名乗る不審者(ミオリネ)に絆されちゃダメだよスレッタ。あいつデリングの娘じゃん。

 

 

――絶対やらかす血筋だよ。よかれと思って交渉の場で大虐殺とか引き起こすタイプだよ。

 

 

「それこの前、エリクトが見てた昔のアニメでしょ! あの追放された帝国の皇子が邪眼の力を使って革命を起こして復讐する痛快ピカレスクもの! あの皇女さん可哀想だったよね……主人公も泣いてたし……」

 

 

――いいよね……ルル……好きだな僕は……あの微妙にダメっぽいところが刺さる……

 

 

「また顔で応援する男の子決めてる……」

 

 

――なんだよー、スレッタだって顔で攻略する男の子決めてたじゃんかー! いっつも王子様とかクールとか病み気味のイケメンばっかり選びやがってさあ!

 

 

――まっ、同じ遺伝子で生まれて、同じアニメとコミックとゲーム食べて育った僕らの趣味が似るのは必然だよね!

 

 

「か、顔じゃないもん! ちょっと寂しげで憂いのある男の子が好きなだけ……だもん……」

 

 

――でもまあ今のスレッタはリアル恋愛が楽しいもんね! 流石にゲームに(うつつ)を抜かす暇はないか!

 

 

 エリクトにそう言われた瞬間、かぁあっとスレッタの頬に赤みが差した。

 おそらくきっと無意識に図星だった。

 

 

「はぁ!? ち、ちちち、違うもん! グエルさんもエランさんも、そういうのじゃないし! ふっ、二人ともそりゃあ格好いいけど、恋愛とかじゃないし……」

 

 

――おやおや~? お姉ちゃんは一言もジェタークのスポーツマンとかペイルの王子様とか言ってませんけど~?

 

 

――クックック、妹の失言でご飯が美味しい! 愚か、愚か、愚かなスレッタ……!

 

 

「うぅ~……」

 

 

――それでどっちにするわけ? スレッタ的に本命は? それとも今の状態でしばらく三角関係(トライアングラー)しちゃう? お姉ちゃん的には二股はやめた方がいいと思います!

 

 

「……わたし、怒ったからね。しばらくエリクトとは口利いてあげない!」

 

 ぷんぷんと怒りながら〈エアリアル〉のコクピットから下りると、ちょうどキャットウォークを登ってきたところのミオリネと目が合った。

 ちょうどよかった、と彼女は呟いて。

 

「あんた、最近グエルやエランと仲がいいみたいだけど――」

問題なし(ノープロブレム)です、ミオリネさん!」

 

 ぐっと握り拳でスレッタは自信満々だった。

 まさか姉(本物)と姉(偽物)、両方から同じ話題を振られるとは思わなかったけれど。

 

「心配無用ですミオリネさん! わたし、恋愛シミュレーションはいっぱい遊んでるので恋愛強者(つよつよ)ですよ!」

「待って、恋愛シミュレーションって何?」

 

 ミオリネは聞き慣れない単語に困惑した。それがよくなかった。

 暇な時間をアニメ・コミック・ゲームで潰してきた重度のオタク、スレッタ・マーキュリーの早口解説オタクスイッチが入ってしまう。

 

「えっとですね、いろんな個性を持った架空の男の子たちと、選択肢を選んだりパラメータを鍛えたりしながらコミュニケーションを取っていくんです。そしてイベントを進めて、恋を育んでいくシミュレーターの一種です! 中世から異世界、宇宙時代(アド・ステラ)まで舞台も無限大です! わたしのオススメは異世界を舞台にしたインフィニティプリンス3とサムライたちの生き様を描いた月華血風録プレミアムエディションです! 特にインフィニティプリンス3の呪われた王子カナンはその愁いを帯びた表情と内面の激情のギャップがエグいんですよミオリネさん!!」

「ねえそれ、ただのゲームじゃ……」

「恋愛シミュレーションです!」

 

 言い切った。

 何故ならスレッタの思春期の半分ぐらいはオタクカルチャーに染まっていたからだ。

 そこに青春っぽい何かがあるから、たとえ虚構(ゆめ)でも愛さずにはいられないのだ。

 

「シミュレーターで何回も練習すれば、MSの操縦は上手くなります。恋愛だって、シミュレーションで何回も遊べば上達するはずです!」

「モテなさすぎて頭がおかしくなった男子みたいなこと言い始めたわね。いい? ゲームでいくら愛してるとか言われてもそれは虚構(うそ)、フィクションを売って集金するビジネスの商材でしかないのよ。統計的に売れ筋のキャラクターなんて作れるのよスレッタ。現実を見なさい」

 

 ミオリネは恋愛シミュレーションのオタクに厳しいタイプだった。

 そういう性格だから敵を作るともいう。

 しかしスレッタはへこたれない、何故なら。

 

 

「で、で、でもでも! ミオリネさん、わたしは可愛いですよ!?」

「腹立つ~~~~!!! たしかにあんたは可愛いけど、それ自覚してると普通の三万倍ぐらい腹立つわ!!!」

 

 

 スレッタの特に根拠ない自信は、エリクト・サマヤとの対話を通じて育まれた謎の自己肯定感である。

 仕方があるまい。

 姉(本物)にとって妹は無限に可愛いのだから。

 パーメットスコアで例えたらスコア一〇ぐらいは余裕のはずだ。

 ちなみに姉(偽物)にとってもめちゃくちゃ可愛いのは言うまでもあるまい。

 

「いい!? 誘われたからってホイホイついてっちゃダメよ!? 私はちゃんと忠告したからね!?」

「な、なんで、わたしが男の人についていく前提なんですか!? おかしくないですか!?」

「あんた、チョロそうだし……」

「チョロくないです! 恋愛強者です!!」

 

 そう、とミオリネはため息をついた。

 異母妹(そんな事実はない)のそういうところは矯正不可能だと悟ったのである。

 そのとき、スレッタの生徒手帳(デバイス)がメッセージの通知音を鳴らした。

 

「何?」

「あっ、今日の午後から決闘があるんですよ」

「はぁ!?」

 

 こともなげに言ったスレッタに驚愕するミオリネだった。

 

 

 

 

 

 

『今日がお前の年貢の納め時だ水星女! 私は絶対っお前の友達になったりしないんだからなぁ!!』

 

 

 全力で負けフラグを立てている少女の名はフェルシー・ロロ。

 アスティカシア高等専門学園パイロット科二年生、つまりスレッタの同期である。

 素晴らしい決闘日和(そんなものはない。アスティカシア高等専門学園の天候はコントロールセンターで自動制御されている人工的なもの)だった。

 スレッタ・マーキュリーは〈エアリアル〉のコクピットの中で、自信満々にこう言った。

 

 

「わたしが勝ったら友達になってもらいますからね、フェルシーさん!」

 

 

 フェルシーが喚いた。

 

『出た! 〈ブラッディ・スレッタ〉の友達狩り(フレンズ・ハント)だ! たとえグエル先輩もラウダ先輩もペトラも狩られたあとだとしても……私は一人でも戦うぞー!』

『フェルシー先輩! 私たちも一緒です!』

『ジェタークの誇りを見せてやりましょう!』

 

 フェルシーの後輩であるジェターク寮の一年生たちも、フェルシーに続いて荒野のバトルフィールドに入場する。

 乗機は〈ディランザ〉の通常型が三機。

 決闘のルールは変則的で三対一、ブレードアンテナがすべて折られた側の負け。

 いわゆるハンデ戦であり、凄まじくスレッタ側が不利な設定だった。

 決闘の立会人を務めるグエル・ジェタークは、それはもう申し訳なさそうな顔をしていた。

 

『いや、なんかすまん……うちのバカどもが本当すまん……』

「あのー、ジェターク社の製品をボロボロにして大丈夫ですか?」

『頭の痛いこと聞くなよ! …………うちの製品の弱点の洗い出しだと思ってデータは取らせてもらう、存分にやってくれ』

 

 グエルとスレッタの会話を聞いて、フェルシーが不満そうに声を張り上げた。

 

『ちょっとグエル先輩! なんで私たちが負ける前提なんッスか!』

『俺は決闘の立会人なんだからひいきするわけないだろ! そして正当な戦力評価だ、いいかフェルシー』

 

 真剣な表情でグエルはこう言った。

 

『せめて三分は保たせろ』

『……グエル先輩のバカ~~~!!!!』

 

 お馴染みの口上のあと、決闘はスタートした。

 〈エアリアル〉の武装はいつも通り――右手にビームライフル、左手に〈エスカッシャン〉から構成される大盾〈コンポジットガンビットシールド〉、背部バックパックにビームサーベルが二本。

 対するジェターク寮の後輩トリオ。

 まず〈ディランザ〉フェルシー機が右手にビームライフル、左手にビームトーチ、左肩に小型シールド装備のオーソドックスな仕様。

 次に〈ディランザ〉後輩Aの機体が、両手でビームキャノンを保持、両肩にミサイルランチャーを装備した砲撃戦仕様。

 最後の〈ディランザ〉後輩Bの機体が、両手にビームライフル二丁を保持、両肩に大型シールドを装備した射撃戦仕様。

 三機での連携が前提の美しい編成であった。

 

 戦いはまず、三機並んで三角形のようなフォーメーションを組んだ〈ディランザ〉の突撃から始まった。

 〈エアリアル〉はこれを迎え撃つべく、ジャンプしながらゆっくりと距離を詰めていく。

 かと思えば、突如として加速。

 

 一息で先頭のフェルシー機と距離を詰めた。

 

 それは異色の決闘であった。

 スレッタがこれから倒すモビルスーツの実況解説を始めたのだ。

 

「ジェターク社の〈ディランザ〉は装甲が分厚く、スピードもあってすごくやりにくい相手です。ですから――」

 

 フェルシー機がビームトーチで斬りかかってきた瞬間、盾で殴りつけ(シールドバッシュ)ながら推進器を全開にして上方へと跳躍。

 フェルシー機の肩部装甲を踏み台にして、高く高く飛んだ。

 

『私を踏み台にした!?』

「――こうして正面は避けます」

 

 フェルシーは踏み台にされた。

 背後からの攻撃を警戒し、直ちに制動をかけながら急旋回(クイックターン)するフェルシー機。

 だが、振り向いたときには〈エアリアル〉は次の獲物に狙いを定めていた。

 

『狙われてるぞ後輩!!』

『うわあああ!?』

 

 慌てて両肩のシールドを展開した後輩Aの〈ディランザ〉を無視して、さらにその頭上を飛び越える〈エアリアル〉。

 ビームライフルのロックオンがフェイントだったことに気付いたときには、後輩Aの〈ディランザ〉は背後に回り込まれており――ビームライフルから展開される銃剣のビーム刃が、その両膝を切断していた。

 両脚を一度に失い、ずしーんと音を立てて前のめりに倒れ込む〈ディランザ〉。

 その頭部のブレードアンテナがビームバルカンで撃ち砕かれた。

 これで一機脱落だ。

 

「重量級モビルスーツの欠点は三次元的な機動に弱いこと、そして運動性の低さです。推進装置やホバー機能を取り付けても、質量分の慣性は簡単に打ち消せません」

 

 パイロットや内部フレームにかかる負荷を軽減する慣性制御装置はあるが、数十トンの大質量を帯びた莫大な運動エネルギーをいきなり打ち消せるような慣性制御は、未だに人類の手には余るテクノロジーなのだ。

 つまり大きくて重たいボディに大出力のエンジンをつければ速度は稼げるが、小回りが利くようになることはない。

 そこを逆噴射や急旋回を駆使してカバーするのがパイロットの腕の見せ所なのだが、この後輩Aのように守勢に回るタイミングを間違うと、その鈍重さを突かれてなぶり殺しに遭いもする。

 フェルシー機が仇討ちとばかりに撃ってきたビームライフルを躱しつつ、身を翻して宙を舞う〈エアリアル〉。

 

「重量級の理想的な運用は、グエルさんの〈ダリルバルデ〉がわかりやすいですね。ああいう風に装甲の厚さとパワーでゴリ押しされると〈エアリアル〉みたいな軽量機は辛いんです……がっ!」

『よくも仲間を、喰らえ!!』

 

 仲間の仇討ちに燃える後輩Bの〈ディランザ〉が、肩部のミサイルを一斉発射。

 一〇連装ミサイルポッド×二の合計二〇発のミサイルが飛んでくる。

 上下左右から〈エアリアル〉を包み込むように襲ってくるミサイルに対して、スレッタ・マーキュリーは――

 

「ミサイルは十分に引きつけてから、バルカンとライフルで落とします」

 

 

――冷静に対応した。

 

 

 軽量級モビルスーツの運動性の良さと推力を活かして、斜め後方に引きながらバルカンとビームライフルを連射。

 ミサイルの八割ほどをたたき落とすと、残りのミサイルを振り切って後輩Bの〈ディランザ〉へ戦闘機動で突撃をかける。

 それを迎え撃とうと〈ディランザ〉は手持ち武器のビームキャノンを構えて。

 撃った。

 外れた。

 AIが偏差射撃の補正をかける前に引き金を引いてしまったのだろう、ビームキャノンは明後日の方向に飛んでいった。

 

「大出力ビーム砲は強力ですが、次弾発射までの間隔が長いのが欠点です。なので」

 

 スレッタはビームライフルを三連射。

 一発目を避けた後輩B〈ディランザ〉だったが、二発目が胴体の装甲に直撃し、その衝撃でよろめいたところに三発目で追い打ち。

 そして四発目の荷電粒子ビームが、〈ディランザ〉の頭部をブレードアンテナごと消し飛ばした。

 これで二機目が脱落。

 

『きゃあああ!?』

「こうして接近されると打たれ弱いです」

『実況してる場合か――ッ!!!』

 

 最後に残ったフェルシー機は、反転して突撃。

 ビームライフルを撃ちながら果敢に距離を詰めていくが、〈エアリアル〉の側に動揺はない。

 推進器を噴かして、すいすいとビームを避ける白亜のMS。

 そして両機の距離が再び、近接戦の間合いに入った瞬間――〈エアリアル〉が飛び蹴りを繰り出した。

 

「そして近接戦にはカウンターです!!」

『はぁ!? うごわあああああ!!!??』

 

 きょとんとした間抜けな声を出したあと、ものすごい悲鳴をあげて吹き飛ばされる〈ディランザ〉フェルシー機。

 エアリアルのキックをまともに食らった彼女の乗機は、やはり頭部が千切れ飛んでおり――

 

 

――WINNER

 

 

 エアリアルは無傷で勝利した。

 試合開始から終了までの時間は、一分四七秒だった。

 三分保たなかったことに「少しは容赦しろよ」とぼやくグエルの声を聞きつつ、スレッタは無情にも王者らしい傲慢な発言で、実況解説を締めくくる。

 

 

「どんな企業のMS、中量級でも軽量級でも、わたしと〈エアリアル〉は相手をします。無敵のモビルスーツなんてありません、どんどんかかってきてください」

 

 

 ものすごい威圧感のある動画が出来上がっていた。

 これを見て〈ディランザ〉が弱いと考える人間はあまりいないだろう。

 どう見ても現ホルダーが異常なまでに強いだけだからだ。

 スレッタは満面の笑みを浮かべて、フェルシーに決闘の賭けの履行を促した。

 

「じゃあ、フェルシーさん、友達になってくださいね!」

『こ、怖いッス~!! グエル先輩ぃ~!!』

 

 

 

 

――〈血まみれの(ブラッディ)スレッタ〉の友達狩りである。

 

 

 

 

――フェルシーの慟哭が木霊した。

 

 

 

 




・〈ルブリス・ムスペル〉
オックスアース製の〈ルブリス〉亜種の一つ。
炎の巨人(ムスペル)の名の通り、強力なプラズマジェネレーター機構を搭載し、ナパームビットを介した広域へのエネルギー伝達粒子散布により、低出力熱核兵器並みの破壊規模を発生させる大型モビルスーツ。
機体各部に増設されたジェネレーターにより肥大化しており、MSとしての運動性や防御力は低い。
パーメットによる情報共有を利用したプラズマナパームの制御にパイロットの意識を用いる。
これにより本来は一瞬のプラズマ爆発が精々であるプラズマ兵器を、広域かつ長時間にわたって自在に制御する〈プラズマの嵐〉が可能となっている。

ウル、ソーンとは別の工廠で改装されたルブリス亜種であり、瞬間的な破壊力は凄まじいがパイロットの消耗が激しすぎるため、類似の機体は製造されていない。
この問題を子供兵を使い捨てにして解決しており、ほぼ自爆テロ同然の運用が前提のモビルスーツ型の爆弾である。
地球の軌道エレベータ基地周辺へのテロ攻撃で投入され、〈エアリアル〉によって撃破された。




この物語初のオリジナルモビルスーツです。
スレッタが交戦し撃墜してきたガンダム、〈ルブリス〉亜種の一つです。
人命軽視のびっくりドッキリMSとの戦いが、彼女の二年間を彩っています。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。