ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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ペイル・スキャンダル編
擦れッタがペイル社に反旗を翻すだけの話


 

 

 

『おめでとう、()()()。君が勝利してくれて私も一安心だよ』

 

 

――うるさいバカ調子に乗るな。()()なんか友達じゃない、って前にも言ったよね?

 

 

――あのバカみたいなデータストームの情報量、人間が耐えられるわけがない。君が何かしたんだろ?

 

 

『むしろ感謝して欲しいぐらいなんだが。私が何もしなくても、エラン・ケレスは遅かれ早かれ、ペイル社の命令でスレッタと戦っていたよ。そしてGUNDの呪いで脳を焼かれて廃人になっていただろうね』

 

 

――よく言うよ。どうせ自分たちに都合がいい結果になるように利用しただけのくせに。

 

 

『デリング相手に予算と権限を引っ張ってくるのは大変なんだよ? 毎日アニメとコミックとゲームとインターネットやってるパーメット知性にはわからないだろうが』

 

 

――黙れ。僕はお姉ちゃんだぞ。

 

 

――それで、あのエランって子はどうなるの?

 

 

『ペイル社次第だが、難しいだろうね。彼を庇うつもりなら大変だよ? 少なくともスレッタはまた戦わねばならない――決闘ではなく企業の私兵との実戦をね』

 

 

『彼女の精神状態についてのレポートは私も承知している。折角、学園で癒え始めている傷口を開くような真似は――』

 

 

――だからだよ。スレッタに友達を見捨てたなんて傷は負わせない。

 

 

――()()()()人は殺させない。それが僕なりの妥協点だ。

 

 

『……いいだろう。デリングには私から話を通しておこう。あとは君たち次第だ』

 

 

『君は変わったよ、エリィ』

 

 

――知らなかったのかな、■■■■。

 

 

――今の僕はスレッタのお姉ちゃんなんだ。妹のためなら無理をどうにかするんだよ。

 

 

 

 

 

 

「わたしと一緒に〈エアリアル〉に乗ってください」

 

 そう言ってエラン・ケレスをコクピットに連れ込むと、スレッタ・マーキュリーは〈エアリアル〉を再起動させた。

 ハッチが閉じると、コクピットブロックが外部から遮蔽され、二人きりの空間が出来上がる。

 エランはコクピットシートの後ろに回って、背もたれに身体を預けるようにしてスレッタの後ろに回り込んだ。

 口火を切ったのはスレッタだった。

 

「…………エランさんがペイル社のガンダムに乗っていて、人体実験を受けていたって話……」

「全部本当だよ、信じられないかな?」

「いいえ、その顔を見ればわかります。パーメットの痣、ですよね。ガンダムに乗っていた人間特有の痕跡です」

 

 一息で言い切ってから、スレッタは決闘中から抱いていた疑念を口にした。

 

「……予想はつきます。カテドラルの協約違反の人体実験、その生きた証拠なんて……決闘に負けたら殺されるんじゃないですか?」

「そうかもね……連中なら殺処分してくるだろう」

「わたしがエランさんを守ります」

 

 生存を端から諦めている節がある少年を、そう言って叱咤する。

 エラン・ケレスはその眉目秀麗な顔を驚きに歪めたあと、スレッタに現実を教えようとした。

 

「……無理だよ。御三家の一つと潰し合いになって、君一人でどうにかなるわけない」

「……殺し合いになったっていいんです。正しくないことに目をつむって、自分だけ平穏に過ごすなんてわたしにはできません」

 

 そしてスレッタは少年の方を振り向いて、悪戯っぽく笑った。

 

 

「――それにわたし、エランさんが思ってるよりすごいんですよ?」

 

 

 通信装置を操作する。

 先ほどまでの通信封鎖状態が嘘のように、今は通信がクリアだった。人工物もないフロント外宙域なら、きっと繋がると確信する。

 通信方法は超光速同調――パーメット通信、同調先は一隻の軍艦だ。

 MS運用母艦〈ユリシーズ〉。

 少女にとってあらゆる意味で因縁深いその船に、直通回線で呼び掛ける。

 

 

「こちらドミニコス隊所属、ウィッチ1――ケナンジ・アベリー隊長に報告があります」

 

 

 目を丸くしているエラン・ケレスにふふっと笑いつつ、スレッタは為すべきことをした。

 ドミニコス隊所属のウィッチ1、魔女狩りの魔女として。

 

 

「ペイル・テクノロジーズによる違法な人体実験の証人を確保しました、()()()()()()です。これはグループ内企業への強制執行に値する事案と愚考します」

 

 

 

 

 

 

「通信に応答は?」

「さっきから地球寮とペイル寮の管制が呼び掛けてるけど応答なし」

「まだ繋がらないのか、くそっ、いっそ俺がMSで――」

「グエル先輩~? ただでさえややこしいんだからぁ、これ以上引っかき回さないでくださいよ~」

 

 決闘委員会の部屋は今、騒然としていた。

 淡々と通信状況を確認中のロウジ、焦ってとうとう自分が出撃するとまで言い始めたグエル、煽っているようで冷静に諫めているセセリア。

 実にいつもの決闘委員会である。

 決闘の決着がついたのに、勝者と敗者、双方の決闘者と連絡が取れないという不測の事態以外は。

 観測ドローンは二人が〈エアリアル〉のコクピットに引っ込んだところまでは確認したが、それ以降、二人からの連絡はない。

 

「水星ちゃん……どういうつもりだい?」

 

 シャディク・ゼネリはらしくもなく焦っていた。

 まず状況が致命的によろしくない。

 エラン・ケレスが持ち出したモビルスーツは、その武装とパーメット流入値から判断して明らかにガンダムだった。

 果たしてそれが件の「無害化されたGUNDフォーマット」とやらなのかすら定かではないから、それ単体では違法性があるか判別できない。

 そしてもう一体のガンダムを駆るスレッタ・マーキュリーはデリング子飼いの魔女であり、考えるまでもなくガンダムとの相性は最悪である。

 一体エラン・ケレスが今、どういう状況なのか、予断を許さないのだ。

 そのときだった。

 唐突に通信が繋がった。

 画面にはスレッタ・マーキュリーとエラン・ケレスが、コクピットシートを挟んで前後に並んでいる。

 

『す、すす、すいません! ちょっと手間取っちゃって、連絡が遅れました。わたしとエランさんは無事です!』

 

 そう言って謝罪してくるスレッタ・マーキュリーはいつも通りだった。

 一つ違うのは、その後ろにいるらしいエラン・ケレスの顔色がいつもより優れないことぐらいか。

 嫌な予感がした。

 

『ちょっとスレッタ! あんた連絡おっそいのよ! どれだけ心配したと思ってんの!?』

『ひぃいぃいい!? み、ミオリネさん! これには深い事情があってぇ……』

『いいから! 無事ならさっさと伝えなさいよ、バカッ……』

 

 いつも通りに姉貴面で情が深いミオリネにちょっと癒された。

 こういうミオリネもいいものだね水星ちゃん、と現実逃避半分に思いつつ、シャディクはスレッタと地球寮組の会話を聞いていく。

 すると不穏な会話が始まった。

 

『あと地球寮の皆さんにお願いがあります。できるだけ早く、エアリアルのバックパックを通常型に戻して欲しいんです。本体の修理や点検は最低限で構わないので』

『おいおい、どこかの寮とまた喧嘩でもするのかよ?』

『はい、喧嘩になります。被弾した右脚以外は見た目ほどひどくないと思いますから――』

「水星ちゃん、まだ決闘の予定あったのかい? 申請はこっちに来てないんだけど」

 

 そう言いながらもシャディク・ゼネリは膨れ上がる嫌な予感が止まらなかった。

 というよりも、ほぼ答えにたどり着いているのに、それは自分の裁量を超えた事態だから外れていて欲しいと祈っているような状態だ。

 デリング子飼いの魔女が、明らかにガンダムであるMSと戦い、そのパイロットを確保した状態で次の戦いに備えている。

 そんな物騒な条件がそろっていて何もわからないほど、シャディクは愚鈍な男ではなかった。

 ゆえに胃がキリキリと痛んでいる。

 頼むから違ってくれ、と本能が叫んでいるが、理性はもう無理だろこれと諦めている。

 そんな状態だった。

 

 

『いえ、わたしの喧嘩の相手は――御三家の一つ(ペイル・テクノロジーズ)です』

「うぇっ」

 

 

 そして答え合わせを聞いた瞬間、シャディク・ゼネリは彼らしからぬ間抜けな声を漏らすのだった。

 勘弁してくれ、とうめくぐらいに。

 

 

 

 

 

 

「強化人士四号が敗れたようね。存外、使えないものね」

「デリングの子飼いの魔女には、すべてバレてしまったと考えた方がいいでしょう」

「魔女のことをよく知るのは魔女だものね」

「ベルメリアには五号の準備をさせましょう」

 

 ペイル・テクノロジーズ本社、共同代表たち四人の部屋。

 そこでは決闘の一部始終を見ていた老女たちが、今後の活動方針について話し合っていた。

 茶飲み話のような軽いノリで話されているのは、ずばり、強化人士四号――ペイル・テクノロジーズが誇るナノテクと人工神経で強化された少年の処分方法だ。

 

「学園に戻ったところで本社に連行、というのは現実的ではなくなったわね」

「おそらく向こうも気付いているでしょうし……」

「通信が途切れていた間、四号が何を口走っていたかも気がかりです」

「如何に相手がデリングの隠し子と言えど、子供一人よ。証拠がなければ戯れ言で済ませられるわ」

 

 四人が話し合ううちに、戦略型高度AI〈ペイルグレード〉から新たな指示が来た。

 それ受け取った途端、老女たちは議論の方向性を一致させ始める。

 より非情に、より冷酷に。

 

「要するにペイル社の関与だという証拠がなければいいのです」

「他のことはすべて言い訳が立つわね。人命も施設も、多少の被害は仕方がないわ」

「第一目標は四号の身柄の確保ないし跡形もない抹殺よ。目撃者は殺しても構わない」

「確保してあったドローン戦争の遺物が役に立ちそうね」

 

 企業の悪意が、少女たちに牙を剥こうとしていた。

 

 

 

 

――アスティカシア高等専門学園・現ホルダーであるスレッタ・マーキュリーとエラン・ケレスの決着。

 

 

 

 

――それが後にペイル・スキャンダルと呼ばれる事件の始まりだった。

 

 

 

 

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