ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタが決闘委員会を巻き込むだけの話

 

 

 

「エランが……ペイル社の人体実験の犠牲者?」

 

 

 呆然とそう呟いたのはグエル・ジェタークだった。

 爽やかでまさにスペーシアンの御曹司という感じの少年には想像もつかない、どす黒い世界の裏側の話題を聞かされて。

 彼は明らかに戸惑っていた。

 決闘委員会の他の面子――セセリアやロウジも同様だ。

 流石にMS同士の決闘という見世物からかけ離れた概念過ぎるのだろう。

 こうなることはわかりきっていたから、シャディク・ゼネリは自分の役割を演じきると決めた。

 

 

「やってくれたな水星ちゃん。これでこの会話を聞いていた地球寮と決闘委員会の全員が、関係者ってことになった。エランだけ切り捨てればいい問題じゃなくなったんだよ」

 

 

 真っ先に反応してきたのはグエルだった。

 直情的で真っ直ぐな熱血漢、本当にそういうところが嫌いだ。

 

「シャディク、切り捨てるだと――」

「グエル・ジェタークはペイル社との全面戦争がお望みなのか? 実家にかける迷惑も考えるといい」

「……くっ」

 

 諭せばわかる頭脳もあるのがまた気にくわない。

 まったくどうしてミオリネの婚約者の座を他の人間に渡してしまったんだ、こいつは――そんな憤りが湧いてくるのをぐっとこらえた。

 そういうグエル・ジェタークへの個人的な感情はさておいて、彼のポジションと話しやすさは、この場を円滑に進める上でとても重要である。

 そのときスレッタ・マーキュリーが口を開いた。

 

『――シャディクさん。わたしは今、無責任な言葉しか言えません。ただ外から、わたしの伝手で頼れる大人は呼びました。彼らが到着すれば、この場の全員の安全が確保されるはずです。幸いにも近郊宙域にいましたから、今から二四時間後には到着しているはずです』

「で、ペイル社の刺客はそれよりも早く到着するんだね?」

『……はい、わたしなら保険はかけておきます』

 

 最悪に近い。

 スレッタ・マーキュリーは彼が思っていたよりずっと頭がよく、もう今後の状況がどうなるかを見据えて布石を打ってきている。

 どこでどんな英才教育を受けたのか知らないが、デリングの子飼いの魔女は伊達ではないらしい。

 はあ、とため息をつく。

 

「そういうことかい、水星ちゃん」

「どういう意味だ、シャディク」

 

 グエルの疑問に答える――通信で会話を聞いている地球寮の面子にまで、今の状況がわかりやすく伝わりやすくするために。

 

「水星ちゃんが俺たちを巻き込んだ理由だよ。グエル、この学園で合法的にモビルスーツを動かす権限を付与できるのは誰だと思う?」

「そりゃ俺たち決闘委員会……そういうことか?」

「ああ。水星ちゃんはその()()()()()とやらが呼び込めるまで、俺たちに時間稼ぎをしろって言ってるんだ」

 

 それを聞いてすぐ、グエル・ジェタークは席を立った。

 

「スレッタ、敵の規模はどんなものだと思ってる? 俺の〈ディランザ〉で――」

「やめろグエル。お前が戦う義理はない」

 

 思わず声を荒げてしまったのは、グエルへの屈折した感情のせいだろうか。

 それとも決闘委員会の友人として身を案じたせいだろうか。

 わからない。

 

「ここは戦場じゃない、ここは学園で、決闘は見世物だ。命懸けで戦う義理なんて誰にもない、いいかい? やりたいなら君一人でやってくれ、みんなを巻き込まないで欲しいね」

 

 冷たい物言いに、画面の向こうからミオリネ・レンブランが突っかかってくる。

 彼の幼馴染み、頭脳明晰な才媛のくせに激情家で人情で動く世話焼き。

 そういうところはまったく変わらないらしい。

 

『シャディク、あんた――』

「ミオリネ、これは真剣な話だ。水星ちゃんのわがままで済むような問題じゃない。俺にはこの場の誰にも死んで欲しくない」

『わかってるんでしょう? それってエランとスレッタに死ねって言ってるのと同じよ』

「…………だとしても、俺には責任がある」

 

 これは本音だった。

 少なくとも決闘委員会のシャディク・ゼネリとしては誰にも死んで欲しくなかったし、グラスレー寮長としても安全が第一だ。

 そうではない彼の顔、現体制への革命を夢見る部分だけが、この事件は使えると理性にささやいてくる。

 そのときであった。

 それまで黙って話を聞いていた、地球寮メカニック科の三年生が口を開いた。

 

『僕たちは今すぐ〈エアリアル〉を修理する。ペイル社が襲撃してくるなら、一番強いスレッタが動けるようにするのが生存確率が高いからね』

『スレッタが私たちにわざわざ聞かせたのは、どのみち巻き込まれるだからだろう?』

 

 三年生のティルとアリヤからの問いかけ。

 

『ごめんなさい、皆さん。少なくともこれは、わたしがエランさんを助けると決めたから発生したリスクです』

『そう思ってるなら全員しっかり守って欲しいな。できるかい?』

 

 ティルに対してスレッタは力強くうなずいた。

 

『表だってペイル社の関与が疑われるような戦力は投入できないと思います。〈エアリアル〉が動く状態なら問題なく処理できます』

『となるとドローン兵器の類か……フロント管理社に相談しなかったのは何故だい?』

『皆さんが学園の教師を頼らないのと同じ理由です。彼らはより強い権力に逆らえません』

『頼りにならない、か』

 

 しかし地球寮内部でも意見はまとまっていないようだった。

 

『ま、待ってくれよ、みんな!? 企業の私兵とやり合うなんて無茶苦茶だよ! こんなの大人に任せて――』

『それでエランは始末されるってオチか? スレッタはそれがゆるせねーって言ってんだろ!!』

『やめろチュチュ、マルタンは間違ってねえ!! 危ねえしおっかねえ話なのには違いない』

『お前マジで今回の件終わったら飯おごれよ、じゃないとやってられねえよ』

 

 最終的に協力はするが納得はしていないという態度――スレッタは頭を下げて応じた。

 

『はい、皆さん……本当にごめんなさい』

『まあ、そんなに緊張しなくてもいいよ。いざとなったら僕を売ればいい』

 

 場の雰囲気をぶち壊しにしたのは、当事者であるエラン・ケレスその人だった。

 自分の命に無頓着すぎる発言に、周囲が二の句が継げないでいると小首をかしげて一言。

 

『そのときは僕の代わりが来ると思うから、仲良くしてあげてね』

『エランさん、そういう冗談はちょっと……』

『いや、ただの事実なんだけど……』

 

 先ほどまでの場の殺伐とした緊張感が消えてしまっている。

 これを演技でやっているなら大した才能だな、と思いつつ、シャディク・ゼネリは熟考を重ねて。

 ついに結論を出した。

 

 

「わかった…………俺、シャディク・ゼネリはこの件について、スレッタ・マーキュリーの味方につく」

 

 

 

 

 

 

「――というわけで、水星ちゃんに一杯食わされたよ」

「シャディク。説明しろ」

 

 グラスレー寮長の部屋で、シャディクはいつもの面子に囲まれていた。

 だいたいの経緯を伝えたのだが、最後の決断に関しては補足が必要だったらしい。

 それはね、とソファに座り込んで肩をすくめるシャディク。

 

「まず水星ちゃんがエランの件を真っ先に俺たちにバラした時点で退路はなくなったんだよ。あの場では反対派として振る舞ってみんなの不満を代弁したけどね。おかげで意見がまとまるのが早くなった」

 

 そして何故、スレッタの提案に乗ったのかについて話を進めていく。

 

「現状、俺たちの革命は詰みに近い。政治でも武力でもデリング・レンブランに首根っこを掴まれてて、義父さんすら対抗できそうにない。俺たちの理想の成就なんて夢のまた夢だ――今回みたいなスキャンダルがなければね」

 

 まず、シャディク・ゼネリの立場を明かそう。

 彼は表向きはグラスレー・ディフェンス・システムズCEOの養子であり、その意思のままに動く優秀なスペーシアンということになっているが、実際には違う。

 再教育施設から送り出され、経歴を抹消され、新たな名前を与えられたアーシアンとスペーシアンの混血(ハーフ)

 地球と宇宙で二つの身分階級に分かたれた時代においては、まるで別の生き物同士を掛け合わせたかのように表現される出自が、シャディクの本当のアイデンティティだ。

 これまでずっと、彼は宇宙経済圏を支配するスペーシアン企業体、ベネリット・グループに身を潜め、この歪な社会の革命を夢見てきた。

 その一環としてベネリット・グループに敵対的なスペーシアン政治勢力、宇宙議会連合――こちらもベネリット・グループに負けず劣らずの俗物の集まりだ――と接触したり、匿名でアーシアンの武装勢力に援助を行ったりしてきたのだが。

 ここ最近、その雲行きが怪しくなってきた。

 

 まず急に虎の子のガンダムの居場所を突き止められ、ドミニコス隊の襲撃を受けて戦力は壊滅。

 こつこつと育て上げてきたアーシアン武装勢力は、また時間をかけて再建する羽目になった。

 そしてとどめになったのは、デリング・レンブラン総裁による新型GUNDフォーマットの発表と、事実上のガンダムの公認と言える事態だ。

 アーシアンとスペーシアンの戦力不均衡を是正する手段として、ガンダムの実戦配備を目論んでいたシャディクにとっては致命傷だった。

 チート行為というのは相手がルールの中で戦っているから強いのであって、より多くのリソースを持つ側が手を出してきたら、順当に弱い側が負けてしまうのだ。

 

「でも、これはいい機会だ。御三家の一つの大スキャンダルは上手く使えれば、ベネリット・グループの屋台骨を揺るがせる。そうしてできた隙に食い込むのが賢いやり方だよ」

「ミオリネに対する情ではないのか?」

 

 サビーナの指摘は容赦がなかった。

 ミオリネ・レンブランがスレッタ・マーキュリーを妹のように可愛がっている以上、当然、情にほだされておもねったのではないかという指摘は出てくる。

 だが、シャディク・ゼネリの顔に動揺はなかった。

 

「それがない、と言い切れるわけじゃないが。今回は完全に利害が一致している。私情で判断を誤ったつもりはないよ、サビーナ」

 

 それに納得したように、ヨガのポーズを取っていた少女――エナオがうなずいた。

 

「シャディクがそう言うならそうなんだろう。私はシャディクを信じる」

 

 続いてレネ、メイジー、イリーシャの三人も肯定的な意見を口にする。

 

「しゃーないなー、まあシャディクが苦労人なのは昔からかな?」

「私たちのモビルスーツで戦うの?」

「ちょっと怖い……ね」

 

 全員の意見が固まったのを見て、サビーナも無言で首肯。

 

 

「ありがとう、みんな。たぶん学園では、俺たちが一番実戦に適応できる。いざというときはみんなの力を借りたい、よろしく頼む」

 

 

 シャディクが囲っている五人の女子は、理想を共にする同志であり、全員がパイロット科の上位ランカーだった。

 想定される敵のことを考えても、グラスレー・ディフェンス・システムズのMSが一番相性がいいだろう。

 

「シャディク、では」

「ああ――俺の〈ミカエリス〉の準備もしておいてくれ」

 

 そう言ってシャディク・ゼネリはまだ見ぬ敵との交戦に備えるのだった。

 

 

 

 

 

 

――スレッタ・マーキュリーとエラン・ケレスの決闘から一八時間後。

 

 

 アスティカシア高等専門学園があるラグランジュポイント四、フロント七三区の存在する宙域を無数のドローン編隊が突き進んでいた。

 それはフロント内での飛行を意識した大型ドローン兵器であり、ペイル・テクノロジーズが用意した強化人士四号の抹殺のための刺客だ。

 完全自律型無人兵器――キラーロボットとも称される悪魔の発明。

 全幅六〇メートル、全長四〇メートル。

 まるでマンタのような機影の巨大な全翼機は、ドローン母機〈アラス〉と呼ばれている。

 

 (アラス)の名を冠したこの機体は、ドローン戦争の時代、ヨーロッパ解放同盟が開発した戦術型AI搭載のドローン母機である。

 あの狂気の時代、ドローン戦争の主戦場は地球だったが、少数の事例ながら宇宙もまたその舞台になっている。

 宇宙の人工開拓地(フロント)がまだ宇宙植民地(スペースコロニー)と呼ばれていた時期、宇宙開拓者(スペーシアン)の拠点の所有権が地球人(アーシアン)資本にあるのは珍しくなかった。

 そして地上で対立する陣営の所有するスペースコロニーが、敵対するもの同士で殺し合うのも珍しくはなかった。

 

――貴重な資産である人工物をなるべく傷つけず、ABC兵器で汚染することなく、人間だけを殺す無人自律兵器群。

 

 コロニー制圧のため開発されたそれらは、呪わしい戦争の亡霊そのもの。

 無数の羽根(プルーマ)をその翼に携えて、破壊を振りまく無人兵器が高速でアスティカシア高等専門学園に迫っていた。

 

 

 




最後に出てきたのは鉄血のあいつのそっくりさん。
他人のそら似でそのものではありません。
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