ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタとみんなでドローンと戦うだけの話

 

 

 

 

 最初にその正体不明の襲撃者に気付いたのは、アスティカシア高等専門学園のフロント管理社警備部隊であった。

 

 

 彼らが使用する警備・哨戒用のモビルスーツ〈デミギャリソン〉は、こういった用途のための低負荷と高い稼働率が売りの機種だ。

 同じ規格の部品も市場に大量に流通しているから、デミ系列は訓練用・作業用など、あらゆる分野で幅広く使われているベストセラーモデルである。

 その四機編成の警備小隊がセンサーで捉えたのは、九機で編隊を組んだ大型ドローン全翼機の群れ。

 

 アスティカシア高等専門学園の戦術試験区域――フロント内に設けられたバトルフィールドを目指して突き進むそれらは、明らかに軍用の無人兵器であった。

 如何なる呼びかけにも応じないことから、完全に作戦遂行モードの無人自律兵器と判断されたそれに対して、フロント管理社は迎撃を決定。

 ミサイルポッドやロケットランチャー、長距離用ビームライフルなどで武装した迎撃部隊を派遣した。

 三六機の〈デミギャリソン〉は、マンタのような大型ドローンの予想進路上で待機、射程圏内に入り次第、一斉に火力を投射してこれを撃滅せんとした。

 

 過去形なのは、これが失敗した作戦だからだ。

 

 〈デミギャリソン〉部隊が敵を待ち伏せ、ロックオンしたドローン母機へ攻撃を仕掛けようとしたときだった。

 ドローンの翼からいくつもの部品がパージされ、ぽろぽろと剥離していったのである。

 分離したそれらの丸い部品は、三本の脚部を展開、昆虫を思わせる異形の姿をあらわにした。

 薄気味悪い虫のようなドローン子機の数は多い。

 あっという間にレーダーを埋め尽くした敵影は一〇〇を超えていた。

 一機の全翼機ドローンにつき、一一機以上の三本足ドローンを産み落としている計算になる。

 

『ドローン子機だと!?』

『野良の戦術ドローンの規模じゃないぞ!』

『フロント管理社、作戦室へ連絡! 非常事態だ! 応援を呼んでくれ!』

 

 かくしてアスティカシア高等専門学園に非常事態が宣言され、何も知らない学生たちはシェルターへの避難を余儀なくされることとなる。

 しかし例外はあった。

 後に判明したことであるが――このとき、ジェターク寮の寮長グエル・ジェターク、グラスレー寮の寮長シャディク・ゼネリとその取り巻き五名、そして地球寮の学生たちは戦術試験区域で合同訓練を行っており、避難が遅れた結果、外部からの救援が到着するまでの数時間、各々のMSで応戦。

 そのように報告書には事実が記載されている。

 始めに記しておこう。

 この事件においては、学園関係者および生徒すべてに死傷者は出なかった。

 多数の死傷者を出したフロント管理社の〈デミギャリソン〉部隊は奮戦し、彼らを守るためその職務を全うした。

 それが客観的に見たときの、このドローン襲撃事件の顛末である。

 

 

 

 

 

 

「たぶん僕の身体に発信器が埋め込まれてるんだと思う」

 

 

 エラン・ケレスがそう言ったとき、スレッタ・マーキュリーは大して意外そうでもなく「そうでしょうね」とうなずいた。

 ここは第一三戦術試験区域内のMSハンガーで、スレッタたちMSパイロットは待機中だ。

 あの通信のあと、決闘委員会の誘導により、空いている戦術試験区域に降り立った〈エアリアル〉は、そのままMSハンガーへと誘導され、地球寮の有志の手で急ピッチで修理を受けている。

 そして修理と補給が行われている間、エラン・ケレスとスレッタ・マーキュリーは休憩と仮眠を取っていた。

 そして仮眠から目覚めてすぐ、お互いに顔を合わせての第一声がこれである。

 明らかにふわっとしたノリで話す内容ではなかったが、スレッタも大概、天然なためにエランの言をふわっと流した。

 

「外科手術で除去はできないと思うけど、どうしようね」

「パーメット機器ですか?」

「たぶんね。今どきの通信機器ならみんなそうだと思うけど」

「なら、もう大丈夫です」

 

 次の瞬間、エラン・ケレスはまた不可思議な現象に出くわした。

 何か巨大な波動に飲み込まれて、時間と空間を超えて情報そのものを書き換えられるような感覚――その波が過ぎ去ったとき、エランはぽかーんと口を開いて愕然としていた。

 

「今のは……ガンビットをオーバーライドしたときの?」

「はい。エランさんの体内の発信器をオーバーライドして機能停止させました」

「そんなことが……いや、この〈エアリアル〉にはそういう機能があるんだね……すごいね……」

「すごいですよね。わたしもエランさんと決闘してて気付いたんですけど」

「えっ、ぶっつけ本番?」

「はい、ぶっつけ本番で何か、こう、隠された力が目覚めたんです! 漫画みたいですよね!」

「すごいね」

 

 スレッタとエランの会話は万事、こんなノリでふわふわしていた。

 横でそれを聞いていたグエル・ジェタークが、思わずツッコミを入れてしまうほどに。

 

「エラン・ケレス! そういう大事なことはもっと早く言え!!」

「グエル・ジェターク。でも結果としてここに敵をおびき寄せた方が被害は少なくなるよ」

「わかっていても相談しろ! 今は俺たちは仲間だろうが!」

「仲間か…………」

 

 しばらく黙り込んだあと、エランは顔を上げてグエルの目を見た。

 嘘偽りのない真っ直ぐな目だった。

 暑苦しい男である。

 

「そうだね、ごめん。気をつけるよ」

 

 だが嫌いではなかった。

 

 あのエラン――興味ないねが口癖の冷血漢――から謝罪されて、グエルは戸惑った様子で「お、おお」とうめいた。

 そんな彼から興味なさそうに視線を外すと、強化人士四号と呼ばれていた少年は、寂びしそうにMSハンガーを眺めた。

 ここには今、六機のMSが存在している。

 地球寮の〈エアリアル〉と〈デミトレーナー〉チュチュ専用機、ジェターク寮から持ち込まれた〈ディランザ〉ラウダ専用機――何も言わずにラウダが兄を送り出したのは言うまでもない――に、グラスレー寮の〈ミカエリス〉と〈ベギルペンデ〉二機。

 合計で六体のMSが集合している。

 所属も機種もバラバラのMSの集まりに、エランの乗機はない。

 

「僕の分はないんだ」

「お前は今、行方不明だからな。ここで待機してろ」

「ペイル寮に居場所がバレると面倒だからね。〈ザウォート〉でもあればよかったんだけど」

「エランさん、誰か頼れるお友達とかは――」

「僕に友達はいないよ」

 

 堂々と言われるとコメントに困る台詞だ。

 しかしスレッタ・マーキュリーの返答はひと味違った。

 

「と、とと、友達ならいます! まずわたし! そしてグエルさん! あとミオリネさんも! これで友達三人できました!」

「そうなるの?」

「そうなんです! 一緒にミオリネさんの汚い部屋を掃除した友達です!」

「嫌な友情のきっかけだな……」

 

 ミオリネの本当に汚い部屋を思い出して、グエル・ジェタークはなんとも言えない表情になった。

 本当にしょうもない思い出である。

 だが、それがよかったらしい。

 

「そうだね」

 

 何故かエランがうなずいていた。

 まあスレッタがそう言うなら、そういうことにしておいてやるか――そのようにエランとグエルは同時に思考していたのだが、今の二人にそれを知るよしはない。

 

「おうスレッタァ! もうすぐ〈エアリアル〉の整備終わるってよお!」

「あ、チュチュさん! 危ない真似はしないでくださいね」

「あーしのことなら心配ねーよ! クソスペーシアンのドローンを撃ち落とせばいいんだろ?」

「はい、チュチュさんの長距離ビームライフルが頼りです!」

 

 ぬっと現れたのは地球寮のパイロット科一年のチュチュだ。頭髪をピンク色のポンポンにしてまとめており、そのボリュームは凄まじいことになっている。

 すごい頭髪だ、とエランとグエルは思った。

 しかしそれを口に出すことはしなかった。

 賢明である。

 

「水星ちゃん、ちょっといいかな」

「あっ、はい」

 

 シャディクに呼ばれて、廊下の方へとてとてと歩いて行くスレッタ。

 彼女を待っていたのはパンチの効いている話の出だしだった。

 シャディク・ゼネリはいきなり爆弾発言をしてきた。

 

「どうすべきか迷ったけど、連携上も問題があるから最初に言っておくよ――俺たちは君の〈エアリアル〉がガンダムだって気付いてる」

「えぇ!? ……いつからですか?」

「種を明かすと簡単な話でね、義父さんたちの会議に出席したら、シン・セー開発公社の方から発表があったのさ」

「わたし、そんな話、全然聞いてないですよぉ!?」

「あははは……コミュニケーションを大切にね、水星ちゃん」

 

 内心では「やはりデリングは水星ちゃんを駒としてあつかっているようだな」と分析しつつ、にこやかに笑うシャディク。

 

「相手が遠隔操作型のドローン兵器なら、〈ミカエリス〉と〈ベギルペンデ〉の電子戦能力(アンチドート)が役に立つ。でもこいつの範囲内にガンダムがいれば、そっちまで巻き込んでしまう」

 

 実のところオーバーライドに目覚めた〈エアリアル〉であれば、アンチドートの効果範囲内であっても再起動できるのであるが、そのことを二人はまだ知らなかった。

 オーバーライドに目覚めたのが、ガンダムとの決闘で追い詰められたからという経緯ゆえの誤解である。

 いずれにせよ、オーバーライドとアンチドートは相反する機能であり、食い合わせは最悪に近い。

 

「わたしがドローンの母機……たぶんいると思うんですけど、そっちを抑えに行くって手もありますよ?」

「それは魅力的な提案だけど……現状、俺たちは手数が足りない。〈エアリアル〉は貴重な戦力だから、防衛戦を成立させるためにもここにいて欲しいかな」

「タイムリミット……わたしの呼んだ応援が到着するまで持ちこたえるってことですか」

「ああ、そのことなんだけど水星ちゃん」

 

 シャディクはにこやかな笑みのまま探りを入れた。

 

「二四時間以内の到着はいくら何でも早すぎる。その応援っていうのは、最初からこの事態を予想してないとありえないんだ。君はこうなることを知ってたのか?」

「……いいえ。わたしがエランさんの事情を知ったのは、決闘中のことです。皆さんと通信が切れている間に、エランさんと口喧嘩みたいになってわかったんです」

「喧嘩ねえ……あのエランがらしくもない。でも、わかったよ水星ちゃん。つまりこの一件は、俺たちにはうかがい知れない権力ってやつが絡んでるらしい」

「そう……なんでしょうか」

「まあ、話を戻そうか。グラスレーの電子戦デバイスと〈エアリアル〉の相性は悪い。となると方法は一つだ」

 

 スレッタはすぐ、シャディクが言わんとすることに気付いた。

 

「部隊を二手に分けるんですか?」

「ああ、それがいいと思う。お互いすぐに助けにいけるぐらいの間隔にしておこう。そっちの指揮は水星ちゃんが頼むよ」

「えぇ!? な、なな、ななな、なんでぇ!?」

 

 動揺するスレッタに、シャディクは道理を言って聞かせた。

 

「そっちの一年の子、スペーシアン嫌いで有名だろう? グエルの言うこと聞くと思う?」

「あー、あー……そうですよね、はい、わ、わかりましたぁ……」

「グエルなら心配ないよ。あいつはプライド高いけどバカじゃない、君の言うことなら聞くさ。後方からの管制はうちのエナオとイリーシャとメイジーがやってくれる」

「い、いぃ、至れり尽くせりですね、ありがとうございます!」

 

 そのときだった。

 待機室にいた全員の生徒手帳が警報音を発した。

 画面を見れば、そこには非常事態を知らせる表記と最寄りのシェルターへの避難指示が出ている。

 スレッタとシャディクの表情が険しくなった。

 

「いよいよですね」

「……そのようだね」

 

 それから一〇分後、第一三戦術試験区域内のバトルフィールドに、数十機のドローンが侵入した。

 

 

 

 

 

 

 

 予想される敵の出現位置は特定できていた。

 襲撃までの猶予時間があるうちに、手が空いている面子で手分けして、戦術試験区域のあちこちにセンサーや観測ドローンを設置してきたからだ。

 本格的なジャミングに対しては弱い、民生用のセンサー類だが、相手がドローン兵器ならば十分な監視網になるはずだった。

 

 

――そして奴らはやってきた。

 

 

 荒野のバトルフィールドに発進した〈ディランザ〉ラウダ専用機――現在はグエル・ジェタークの搭乗機である――が見たのは、戦術試験区域内のハッチをこじ開けて、外部から押し寄せてくる巨大な虫の群れだった。

 それはドローンという言葉で連想されるそれに比べて、はるかに醜悪な甲虫を思わせる姿をしている。

 三本の長い脚で地面を這い回るドローンは、モビルスーツの膝ほどの高さもある巨体を持っていた。

 それがうじゃうじゃと、あちこちのメンテナンス通路から這い出してくるのは、生理的嫌悪感を催させる何かがあった。

 

「なんだこりゃ……地球の昆虫とかいうやつじゃないのか!?」

『地球にこんなでけえ虫はいねえよスペーシアンのボンボン!』

「誰がボンボンだ、誰が!」

『ふ、二人とも喧嘩はしないでくださいっ!』

 

 早速、地球寮+ジェターク寮チームは解散の危機に瀕していた。

 人当たりがいいとは到底言えないチュチュと、これまたプライドの高いグエルの相性は最悪だ。

 もちろんスレッタはその仲裁に追われてあわあわと慌てている。

 一方、僚機を引き連れて五〇〇メートルほど離れた場所に展開するシャディクは大型トレーラー並みの巨大な昆虫を見ても、動じることなく冷静に分析していた。

 

『ドローン兵器〈プルーマ〉――うちのアーカイブで見たことがある機種だ。宇宙対応の近接型ドローンなんてそう多くないからね』

『どんな機体なんですか?』

『そうだね水星ちゃん、特徴は専用の輸送機で運ばれて、近接用のクローユニットとビーム砲を持ってること、かな』

『え、つまり――』

 

 ちかちか、と光って。

 

 

――ものすごい数の砲門からビーム砲が吐き出された。

 

 

『――グエルさん、チュチュさん!』

 

 二人を庇うようにビットステイヴを展開するスレッタ――ビットが巨大なシールドを形成し、バリアのような力場を発生させてビームを弾く。

 凄まじいのはその防御力だ。

 如何に収束率の低い小型ビーム砲とはいえ、三〇発を超えるビームの雨を浴びてもびくともしていない。

 まだ俺の見たことがない機能があったのか、とグエルは舌を巻いた。

 そして即座に、戦況を見抜いて叱咤を飛ばす。

 

「スレッタ・マーキュリー! お前は遊撃に回れ! そのドローンは防御じゃなくて攻撃に使うんだ! 敵の数を減らせ!」

『命令すんなクソスペーシアン!』

「ええい、今は俺たちで協力するしかないんだ、いくぞ!!」

 

 〈ディランザ〉がホバー機能で加速し始めた瞬間、負けじとチュチュの〈デミトレーナー〉もローラーダッシュを開始。

 荒野に湧き出した大量の陸戦ドローン兵器〈プルーマ〉の群れに突っ込んでいく。

 

「援護は任せたぞ、スレッタ!」

 

 言うだけ言って、グエル・ジェタークは一目散に敵陣に突っ込んでいく。

 相手は無人兵器で、これは決闘ではなく、生命の保証はない。

 そう頭ではわかっているのに、不思議な高揚感があった――それはおそらく、スレッタ・マーキュリーと共に戦えるという充実感にも似た感情だ。

 加速する。

 〈プルーマ〉からのビームを、〈ディランザ〉の肩部シールドで弾きながら突っ込む。

 〈プルーマ〉のビームは実戦出力だったが、元々、小型の機体に内蔵されている火器ということもあり火力そのものは低い。

 非装甲目標ならば跡形もなく焼き尽くせるだろうが、世代を重ねて進化してきた第四世代モビルスーツの敵ではないのだ。

 

『二人とも、今、援護します!』

 

 スレッタの声がした瞬間、幾条もの荷電粒子ビームが降り注ぎ、視界を埋め尽くす数の〈プルーマ〉が爆ぜた。

 〈エアリアル〉のビットステイヴからの援護射撃だ。

 あの〈ダリルバルデ〉を追い詰めた火力は健在のようだった。

 援護射撃で弱まった敵の弾幕を突っ切り、両手で保持した巨大な戦斧――ヒートアックスを振るう〈ディランザ〉。

 その大質量の一撃を食らい、何機もの〈プルーマ〉が砕け散り、ひしゃげて宙を舞った。

 だが、敵の数は膨大である。

 二、三機を一度に叩き潰しても、その一〇倍以上の敵がすぐに押し寄せてくる。

 

「後ろは任せたぞ、チュアチュリー・パンランチ!」

『テッメエ、いいとこ持って行きやがって! しゃーねーなあ!!』

 

 〈ディランザ〉に組み付こうとした〈プルーマ〉が、チュチュの長距離ビームライフルに撃ち抜かれ爆発した。

 さらにそのチュチュ機を狙っていた陸戦ドローン群の一団に、〈エアリアル〉の弾幕が浴びせられる。

 グエル、スレッタ、チュチュは即席のわりにはバランスの取れた、前衛、後衛、支援の役割分担の出来ているチームだった。

 

 

――戦斧が振り抜かれ、ビットステイヴがビームの雨を降らせ、長距離ビームライフルが確実に敵を撃ち抜いていく。

 

 

 ビームバルカンを撃ちながらヒートアックスで一六体目の〈プルーマ〉を打ち砕いたグエルだったが、まだ湧いてくる敵にいい加減、弱音が出そうだった。

 何せ少しでも気を抜けば、脚部や背中に組み付いて動きを止めようとしてくるのだ。

 前衛のグエルの消耗は計り知れなかった。

 

「キリがないぞ、シャディク!」

『待たせたね、みんな。そろそろアンチドートの時間だ』

 

 三人から離れてた場所で交戦していたシャディクたちも、連携して周囲に〈プルーマ〉の残骸の山を築いていた。

 一定数の敵を排除することに成功し、必要な隙を確保できたと判断したシャディクたちは、〈ミカエリス〉――白い騎士のような左右非対称のMS――を中心に敵陣へ突入した。

 彼の僚機を務めるのは、サビーナとレネの搭乗するMS〈ベギルペンデ〉だ。

 ハイエンド機として開発された試作機〈ベギルベウ〉をベース機とする〈ベギルペンデ〉は、巨大な十字型の大盾が特徴的なMSである。

 跳躍からの着地と同時に、その大盾ノンキネティックシールドの各部の装甲が展開され、内蔵されたパーメット・電子対抗装備――電子戦デバイスが発動。

 刹那、周囲のあらゆるパーメットおよび電波を利用した遠隔操作技術が無効化され、うじゃうじゃとフィールド上でうごめいていた〈プルーマ〉の動きも止まる。

 強力なジャミングによって、母機からの遠隔操作型ドローンである〈プルーマ〉の制御が阻止された結果だ。

 

『ジャミング中は俺たちは動けないし、水星ちゃんの新型ドローンも使えないからね! あとは任せたよ!』

「お前この作戦、俺の負担がデカ過ぎるだろうが!」

『元ホルダーの意地を見せてくれよ、グエル』

『グエルさん、わたしも前衛で参加します!』

 

 シェルユニットを青く発光させた〈エアリアル〉が、空を舞いながら参戦してきた。

 右手にビームライフル、左手にビームサーベルを握った姿で、機体各所にビットを装着したビットオンフォーム――飛び跳ねるように宙を舞い、着実に〈プルーマ〉を撃破していく〈エアリアル〉。

 流石にここまで見事な操縦を見せられては、意地を張るしかなかった。

 

「負けてられん!」

 

 グエルは操縦桿を握りしめ、さらに戦斧を振るい続けた。

 引き裂かれた〈プルーマ〉の残骸が宙を舞い、ビームバルカンに撃ち抜かれた機体が爆発し、スレッタに撃破された残骸が跳ね飛ばされる。

 何十分、何時間戦っているのかもわからなくなるような戦いの連続だった。

 命懸けの掃討戦である。

 

『ずりーぞオメーら! あーしの分も残しておけー!!』

 

 なのにそれが、奇妙に青春めいて楽しかった。

 グエル・ジェタークは消耗しながらも、集中力が途切れることなく、いくらでも戦い続けられるような気がした。

 だからだろうか。

 それに真っ先に気付いたのもグエルだった。

 

「おい、アレ!?」

 

 一台の車両が彼らのはるか後方を走っていた。目視できたのは、砂塵が光学迷彩――透明化スキンを解除させたからだ。

 おそらくそれは、これまで光学迷彩をかけて潜伏し、〈プルーマ〉の群れがこじ開けたメンテナンスハッチから侵入してきたのだろう。

 兵員輸送車両と思しき装甲車が、いつの間にか、グエルたちの防衛線を突破して、彼らが出撃時の拠点としていた地下MSハンガーに迫っていた。

 そこには当然、地球寮の面子やグラスレー寮の少女たち、そして彼らが守ろうとしているエラン・ケレスがいる。

 モビルスーツ部隊は〈プルーマ〉を押しとどめるため、前に出すぎていた。

 

『お、おい!? どうすんだよアレ!?』

 

 その隙を突かれたのだ、と気付いたときには遅かった。

 グエルの機体は前に出すぎていたし、重量級ゆえ今から反転して追い付くには厳しい。

 そして射撃武器を持っている後衛のチュチュは有人車両かもしれないそれを撃つことにためらいを覚えている。

 グラスレーのMS三機は、ジャミングで〈プルーマ〉の軍勢を無力化している真っ最中だから動くことができない。

 だからそう、消去法で答えは決まっていたのである。

 この中で最も軽量で機動力が高く、腕のいいパイロットが乗っているモビルスーツ――〈エアリアル〉が身を翻して空を飛んで。

 

 

『わたしが止めます!』

 

 

 そう言って兵員輸送車両に迫ったスレッタ・マーキュリーは。

 無慈悲にビームライフルの引き金を引いた。

 

 

 

――荷電粒子ビームの閃光。

 

 

 

 ちかっとプラズマの光が弾けて。

 装甲車は跡形もなく消し飛んでいた。

 おそらく、その中に乗っていた乗員ごと蒸発したのだ。

 

 

「――なっ」

『えっ……?』

 

 グエルとチュチュは何が起きたのかわからず、身体が硬直してしまう。

 戦いの最中だというのに、目の前で起きたことが飲み込めず、呆然と立ち尽くす二人。

 

『残りのドローンはわたしが処理します!』

 

 声を張り上げるスレッタが、無理をしておらず、いつも通りに振る舞っているように見えて。

 どうしていいかわからず、グエル・ジェタークはコクピットの中で震える手を呆然と見つめた。

 

 

――人を、殺したのか?

 

 

――あいつが?

 

 

 〈エアリアル〉によって殲滅されていくドローンの群れ。

 その強さの裏にあるどす黒い何かが、わかってしまったような気がして。

 少年は不条理な現実を受け止めきれず、踊るように戦う白亜の妖精を呆然と眺めることしかできなかった。

 

 

 

 

――それは彼がまだ、何も知らない子供でいられた最後の時間。

 

 

 

 

――その初恋の残酷さを、思い知る前の戸惑いだった。

 

 

 

 




・「プルーマ」
羽根の意味を持つ無人兵器。
三本足の戦車型ドローン。
アラス(翼)と呼ばれる宇宙用輸送機兼指揮ユニットから制御される。
拠点突破用のヒートクローとビーム砲で武装している。
見た目のわりに軽量な無人多脚空挺戦車であり、対人兵器である。

元ネタは鉄血のMA子機。
当然のことながらナノラミネートアーマーもエイハブリアクターもない世界なので耐久値は見た目相応。

・「アラス」
全幅六〇メートル、全長四〇メートルの全翼機タイプのドローン運用母機。
子機であるプルーマを大量に運搬可能。
全翼機型の機体は、フロント(いわゆる宇宙コロニー)内部への侵入まで想定した結果である。
戦術型AI搭載の無人兵器の指揮に特化した機体だが、自衛用にビーム砲内蔵クローアームなどを装備する。
フロント間の紛争で使用され、敵対フロントに対する制圧作戦に投入された。


見た目が気持ち悪くなったハシュマルっぽい何か。
スレッタたちが〈プルーマ〉と激戦を繰り広げている間、画面外では〈デミギャリソン〉部隊が死闘を繰り広げて学園への被害を防いでいました。
暗殺部隊(装甲車)の輸送もこいつがしてます。


ドローン戦争はあくまで人間のコントロール下に置かれた兵器が、人間の暴走と堕落によって際限なく濫用される地獄でした。
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