ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタがデリングの妾腹の子とミオリネに勘違いされるだけの話

 

 

 

 

 スレッタ・マーキュリーがアスティカシア高等専門学園に転入する一ヶ月前。

 

 

 ベネリット・グループの巨大工業施設プラント・クエタに、スレッタ・マーキュリーとMS〈エアリアル〉の姿はあった。

 七八番格納庫に直立不動で固定されている〈エアリアル〉のコクピットの中に座り込み、燃えるような赤毛の少女は、コクピットシートに身を預けている。

 操縦のためではない。

 MSのOSに溶け込んでいる姉と話すためだ。

 

 

――大丈夫かなあ!? スレッタ、本当に学校に適応できるかなあ!?

 

 

 エアリアルのコクピットの中、パーメット・リンクによって繋がれたスレッタには、エリクト・サマヤの声が聞こえる。

 この姉は過保護でそのくせドライという大変いい性格をしているのだが、まあ、悪い人ではない。

 たぶん。

 

「わたしだって一七歳だよ? うん、不安しかないけど……進めば二つ、だよ」

 

 

――そうだよね。生命の進化の歴史を紐解けば、猛毒の酸素に適応して今の繁栄があるくらいだしね。

 

 

「ねえ、今わたし、すっごくバカにされてないかな……?」

 

 

――僕の妹が鈍い。絶望的だ。

 

 

「エリクトはさ……」

 

 〈エアリアル〉はオーバーホールに出される。

 装甲を外してフレームレベルで再点検を行うことになっているから、そのついでに偽装もかねて外見もリニューアルするらしい。

 今まで()()()()()()で使用してきた外見では、流石に潜入任務に支障が出るからだ。

 この判断にスレッタの意思は介在していなかった。

 

「寂しくなるね」

 

 

――大げさだなあ。点検と偽装が終わればすぐに戻ってくるからさ、それまでの辛抱だよ。

 

 

 〈エアリアル〉はスレッタ・マーキュリーに唯一、残された母親との絆の証だが、その所有権はスレッタ個人ではなくシン・セー開発公社にある。

 シン・セー開発公社は万能資源パーメットの採掘を主な事業とする辺境の資源採掘業者だが、その実態はベネリット・グループが極秘でガンドアームを運用するための隠れ蓑に過ぎない。

 かつてヴァナディース事変を引き起こし、文字通り、魔女狩りを行って技術者たちの摘発を行ってきた巨大企業体は、今ではその残党をかくまってモビルスーツの開発・運用を行わせているのだ。

 

 以前はスレッタの母親が代表だった会社だが、今はその()()()()()()()が代表を務めている。

 正直かなり胡散臭い会社である。

 現在の代表とスレッタは、実際に会ったことすらない。

 つまり信頼関係は実のところあまりなく、ここ二年間、地球へ追いやられていたこともあり、スレッタ・マーキュリーからの不信感は根強い。

 

「だいたい、今の代表の人、わたしそんなに信じられないっていうか……」

 

 

――シン・セー開発公社の方は任せてよ。メッセージぐらいは出せるから、疑問あるなら問い合わせておく。

 

 

「それこそ、ありえないよエリクト。モビルスーツに自我があってお話しできるなんて普通、信じないし悪戯だと思われるって」

 

 

――スレッタのアカウントで出せばいいじゃん。生体コードは僕らと同じだし?

 

 

「なりすましはやめてよぉ!? …………ねえ、この前、わたしの端末に身に覚えのない履歴があったんだけど」

 

 

――お姉ちゃん想いの妹がいて僕は幸せだなあ。

 

 

「エリクトのバカ!!」

 

 人間としてのアカウントを、生物学的には死者であるエリクト・サマヤは持てない。

 なのでこうして、妹のアカウントを間借りして趣味にふけっては、しょうもない喧嘩が起きるのが二人の恒例行事だった。

 だが、このとき不幸だったのは、コクピットハッチを開け放して、スレッタが会話をしていたことである。

 

 

 

「…………なあ、誰と話してるんだ?」

 

 

 

 プラント・クエタの整備担当チームの人が、コクピット前のキャットウォークに立っていた。

 今までの会話を聞かれていたらしい。

 気まずい。

 スレッタ・マーキュリーはすぅーっと深呼吸すると覚悟を決めた。

 誤魔化そう。

 

「あ、チャットAIとお話ししてしました。すごいですよね、悩みにも答えてくれるんです」

「そうか…………嬢ちゃん、人間の友達もできるといいな……」

 

 整備士のおじさんに可哀想な子を見る目で見られたのは、たぶんスレッタの勘違いではなかった。

 すべてエリクトのせいである。

 もっとも性悪な姉はそんな妹の姿を微笑ましく見守っているのだけれど。

 振り返ってコクピットのコンソールを見たスレッタは、めちゃくちゃ怒っていた。

 パクパクと唇だけ動かして、メッセージを送る。

 〈エアリアル〉の高性能センサー群は、それを正確に読み取っていた。

 

――あとでお説教だからね、エリクト。

 

 しばらくの間、エリクトが無害なチャットボットを装ってスレッタの怒りから逃げ回ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

――それから一ヶ月後。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本物の……クズね!!!!!」

 

 

 

 鬼気迫る独り言であった。

 この日、ミオリネ・レンブランはブチ切れていた。

 とあるよからぬ噂が情報筋から入った結果、地球への亡命という長年の夢――今は亡き母への思慕と強権的父親への反骨心からのロック極まる逃亡計画――を急遽中断してしまうほどに。

 怒りというのは、ある一定のラインを過ぎるとかえって冷静さを呼び起こすものだ。

 

 学園理事長の娘、籠の中の鳥、MSを使った決闘ゲームの景品、トロフィー女――鬱屈した暮らしを送っていた少女はこのとき、まさにこの状態であった。

 地球への亡命をするとして、その後の暮らしの見通しはまったく立てていないのだ。

 今はそのときではない。

 そのような冷静な判断ができるほどに、ミオリネ・レンブランは怒りくるっていた。

 本来、彼女にとって唯一心安らぐ場所であるはずの温室すらも、かっとなって壊してしまうのではないか、というぐらいに怒りで全身がはち切れそうになっている。

 

「おいミオリネ……」

 

 無断で温室に入ってきたグエル・ジェターク――身長も肩幅も大きな巨漢であり、筋肉質な肉体の少年だ――の方を振り返って、ミオリネは笑った。

 華のような微笑みだった。

 悪寒が走るぐらいに。

 

「あんた、私に刺されたいの? いいえ、そうね、花婿様だものね。花嫁に刺し傷の一つや二つ作られたいわよね?」

「ま、待て、落ち着けミオリネ。どうしたお前……」

 

 度重なる自分への暴言と、あの地球に逃げ出した方がマシという当てつけにしか見えない脱走未遂の数々――グエル・ジェタークは婚約者であるミオリネ・レンブランに不満を溜め込んでいた。

 この直前までは。

 しかし人間というのは不思議なもので、自分よりもはるかにキレている人間を見ると、すとんと怒りが収まってしまう。

 

「あんたこそ何の用よ。そんなにトロフィーの安否が心配ってわけ? それともパパみたいにご機嫌伺いに来たのかしら?」

「――お前、いい加減にしろよ」

 

 グエルを苛立たせたのは、父親との関係を揶揄するミオリネの一言だった。

 あふれ出した怒気にいつものミオリネならば、たじろいだかもしれない。

 だが、今の彼女はそれどころではない。

 

 ()()()()()()()()()とその取り巻きどもの気持ちなど、気にしている余裕がないぐらいに怒りが満ちあふれている。

 

「そうね、失言だったわ。ごめんなさい――うちのクソ親父と一緒にされたらあんたのところのパパが可哀想かしら?」

 

 皮肉たっぷりにそう言い放つと、話は終わりだとばかりにグエルに背を向けるミオリネ。

 不可解極まりない婚約者の言動に、グエルは混乱している。

 

「待て! 話は終わってない――」

 

 そのときだった。

 温室の入り口付近で推移を見守っていたグエルの取り巻き――腹違いの弟であるラウダ、そして下級生の女子二人組が、侵入者と揉めていた。

 

「今は取り込み中だ、あとにしろ」

「いえ、わたしはただ挨拶に来ただけで――」

「見慣れないやつ、転入生か? ここのしきたりもわからないなんてどこの田舎者だぁ?」

 

 ガヤガヤと騒がしいやりとりに、グエルは声のした方を振り返る。

 背の高い、褐色の肌をした赤毛の少女がそこにいた。

 緑色の一般生徒の制服を着ているが、所属する寮を示すようなカラーエンブレムはつけていない。

 見ない顔だな、と思いつつ、いつも通りに大きな声を張り上げるグエル――タフでマッチョなジェタークに相応しい男らしさに満ちた振る舞い。

 

 

「いいか、これは婚約者であるこのッ! グエル・ジェタークと! 花嫁でトロフィーのミオリネの問題なんだよッ! 部外者が首を突っ込むな!!」

 

 

 グエルとしてはこれで大概の学園生徒は黙らせられる、渾身の一言のつもりであった。

 しかしもちろん、そんなローカルルールには縁がないスレッタとしては、まったく意味のわからない戯れ言にしか聞こえない。

 精一杯の良識を振り絞って、少女は言うべきことを言った。

 

 

「女の子がトロフィーって、おかしいですよ!? この学園には人権がないんですか!?」

 

 

 無言。

 誰も返事をしなかった。

 スレッタは恐怖のあまり、どもって恐れおののいた。

 

 

「こ、こここ…………これじゃ不良漫画よりひどいです!! せめて乙女ゲームみたいな感じの学校生活がしたかったです!!」

 

 

 いきなり高望みの発言をし始めるスレッタだが、無理もなかった。

 スレッタ・マーキュリーの知っている学園生活とは、つまるところ、旧時代のアニメ・コミック・ゲームのアーカイヴから学習した「それっぽいフィクション」の寄せ集めである。

 ちなみにチョイスは九割がエリクトの趣味であり、その内容はイケメン(イケてる面貌(かお)、つまり美男子を意味する地球の古いスラング。アド・ステラの時代においては伝統芸能(アニメ)を楽しむ上での必須教養の一つ)に見初められてチヤホヤされたり、ぱっとしない女の子が特別な力に目覚めてチヤホヤされたり感じの内容が多い。

 重ねて言おう。

 エリクト・サマヤの趣味である。

 グエルの言動は、あまりにもひどい女性蔑視ではないかとドン引きのスレッタだったが、ふと、相手の名乗りを聞いて思い出した。

 

「……あれ? ジェターク?」

「ふん、今さら気付いたか……田舎者でもジェターク社のMSのことはわかるらしいな」

「機体重量が重すぎて〈ティック・バラン〉に乗っても鈍足なのが難点だってセキュリティフォースの人が愚痴ってる、あのジェターク社ですか!?」

 

 一応のフォローをするなら、別にスレッタは悪気があってジェターク社の製品を貶しているわけではない。

 幾度となく実戦を繰り広げ、ドミニコス隊や現地のセキュリティフォースの救援に向かったこともある戦士の経験がそう言わせたのである。

 配慮とか気遣いとかの視点が抜け落ちており、喧嘩を売っているようにしか見えないのはご愛敬。

 

 ちなみに〈ティック・バラン〉とはMS輸送用に発展した小型の輸送機で、数十トンある全高一八メートルの巨人を乗せて空中移動ができる優れものだ。

 MSという機動兵器システム本体を消耗させず、長距離移動ができるMSの脚であり、哨戒任務などには必須とも言える装備品である。

 大抵のMSは搭載可能なこの〈ティック・バラン〉であるが、MSという兵器の中でも特に重量がえげつないジェターク社の重MS〈ディランザ〉は、この持ち味を殺すと評判である。

 重装甲・大出力がモットーであるがゆえに、とんでもなく重たいせいだ。

 

 しかしそれはそうと、ジェターク社のCEOの御曹司が、目の前で自社製品をあげつらわれて大人しくしているはずもない。

 グエル・ジェタークはキレた。

 

「はあ!? 〈ディランザ〉はホバリング機能がついてる傑作機だろうが!? どこのどいつだ、そんなわかってない発言してるパイロットは!!」

「で、でも〈ザウォート〉の二倍の機体重量ですよ!? 即応性には難があると思います!」

「用途が違うんだよ、用途が! ジェターク社の質実剛健なMSが他社製品に後れを取ることはないッ!」

 

 ぎゃあぎゃあとわめき立てるグエル、よせばいいのに客観的事実で言い返すスレッタ。

 

「うわー、あの転入生いきなりグエル先輩に喧嘩売ってるよ」

「セキュリティフォースに知り合いがいる子? それともMSオタクとか――」

 

 グエルの取り巻きである二人の少女、フェルシーとペトラはその様子を遠巻きに見守っていた。

 グエル・ジェタークは親分肌の気持ちのいい男ではあるが、直情型で熱くなりやすい欠点がある。

 そういう気性をわかっている二人は、「まあ転入生があんまりやらかすようなら仲裁してやってもいいか」ぐらいの温度で、だらーっと口論を見守っていたし、兄を崇拝する異母弟ラウダなどは「どいつもこいつも兄さんのことをわかってないな……」と腕を組んで後方理解者面している始末。

 このままグダグダになってお開きになれば、誰にとっても幸いな結果になったのだろうか。

 

 しかしそうはいかなかった。

 騒ぎを聞きつけて、温室の奥からミオリネが顔を覗かせてきたのだ。

 その目が、「今日やってきた転入生」だという少女――スレッタの顔に向けられる。

 

「へぇ…………もしかして、あんたが今日から転入してきたっていう?」

「え、あ、はい……パイロット科二年、スレッタ・マーキュリーです。ミオリネ……さん、であってますよね」

 

 実際に会ってみたミオリネ・レンブランは、写真で見るよりずっと美しい少女だった。

 艶やかな長い銀髪は銀糸のよう、切れ長の目は長いまつげで彩られて芸術品に似て、端整な顔立ちは神様が「宇宙一美しくなりますように」と手作りしたみたいに綺麗だ。

 その面差しがあまりにも綺麗だったから、つい、手を伸ばしたくなるぐらいに。

 この華奢な少女が、あのデリング・レンブラン――ヴァナディース事変を引き起こし、母から人生のすべてを奪った男の血族だなんて。

 運命の数奇さに思いを馳せつつ、とりあえず友好の証に握手でも求めようかとして。

 

 

――凄まじい眼光でにらみつけられた。

 

 

 ところで最近、ドミニコス隊とその関係者の間には、とある醜聞の噂が流れている。

 

 曰く、あの英雄デリング・レンブランには一人娘がいるが、実はそれとは別に妾腹の子がおり、自分の手元で飼っているのだ――とか。

 曰く、その妾腹の子というのはミオリネ・レンブランと同じぐらいの年頃の少女で、MSパイロットとして育てられているのだ――とか。

 

 控えめに言って悪意ある噂であり、フェイクニュースと一笑に付されるべきものである。

 だがしかし、もし事実だったなら第三者にとっては最高に面白い醜聞だ。

 そして人の口をふさぐことはできない。

 如何にドミニコス隊司令官ケナンジ・アベリーが「よからぬ噂はやめろ」と部下を戒めたところで、上司のそういう態度がかえって信憑性を生む始末。

 どこかの誰かが、面白がって理事長の一人娘にそんな噂を吹き込むことだってある。

 ゆえに。

 ミオリネ・レンブランは般若の面のような凄まじい形相で叫んだ。

 

 

 

「知ってるわ、あんたが……あのクソ親父が()()()()だったことの証明ってこともね!!」

 

 

 

 ヤバい。

 思い込みが強いタイプの変な人だ。

 まったく意味がわからないけれど本能的に危機を覚えて、うぇええ、とうめき声を上げながら後ずさるスレッタ。

 敵のガンドアームがガンビットで十字砲火をかけてきたときぐらいの脅威を覚えている。

 助けてエリクト、〈カヴンの子〉のみんな!

 そんな気持ちになるが、残念ながら〈エアリアル〉はまだスレッタの下に届いていないし、対人コミュニケーションは専門外なのだけれど。

 

「お、()()()()のことを悪く言うのは、その、よくないと思いますよ?」

 

 あくまで一般論としての発言である。

 スレッタ・マーキュリーとて、もう世の中には「日々の暮らしの糧を得るために子供をガンダムのパイロットに売り飛ばす親」がいることや、それが実のところ、貧困が蔓延して困窮している地域では珍しくないことも知っている。

 自分がリプリチャイルドという故人の遺伝子的複製であることを差し引いても、自分が愛されていた側の子供だと、スレッタなりに信じられるぐらいに。

 ともあれ、一般論で「お父さん」という単語を使ったスレッタであるが。

 悪手だった。

 

 

()()()()、ね。そう、やっぱり…………()()()()デリングのやつの娘なのね」

 

 

 壮絶な誤解が生じていた。

 スレッタは何故どうしてそんな誤解が生じているのかわからないまま、混乱の中、とびきり正直な自分の素性を明かす。

 

「ご、ごご、誤解です!! わたしに()()()()()()()()()し!」

 

 失言である。

 この場に〈エアリアル〉もといエリクト・サマヤがいたなら、このときの失言を向こう一〇年は当てこするレベルだ。

 事情を知る人間が聞けば、人工子宮の中で育った遺伝子的複製(リプリチャイルド)の悲痛な言葉に聞こえたかもしれない。

 しかし今この場においては、シングルマザーに育てられた少女が、何らかの事情で()()()()()()()()()()()()()()と受け取られかねない言葉選びだった。

 

 

「そう……やっぱり! そういうことだったのね!」

 

 

 ミオリネ・レンブランは本来、繊細で心優しく面倒見のいい少女なのである。

 だがこのときは違った。

 マジギレしているので、それはもう悪鬼羅刹のごとき有様まである。

 それはそれは悪女そのものという表情で、その端正な顔を歪ませて、思いついただけの嫌がらせを口からぶっ放した。

 

 

「――グエル、この娘と決闘しなさい。ぶちのめしてクズ親父のところに突っ返すのよ!!」

 

 

 気に入らない横暴な花婿様と、クズ親父が寄越してきた妾腹の子、二人に対する一石二鳥の策である。

 めちゃくちゃ性格が悪い。

 あまりにもあんまりな状況にどうしていいかわからず、グエルはおろおろと情けない言葉を吐き出した。

 

「な、なあミオリネ……お前は、少し、おかしくなってる。落ち着け、な?」

 

 横暴にして傲岸不遜を絵に描いたような少年グエル・ジェタークは、いつになく荒れているミオリネ・レンブランの醜態にドン引きしていた。

 取り巻きであるフェルシーとペトラの二人も同様で怯えているし、異母弟ラウダに至っては「ミオリネ! よくも兄さんに無礼な口を!!」と斜め上の逆ギレをしている。

 素直にひどい状況だった。

 手がつけられないとはまさにこのことだったが、ミオリネは腰に手を当てると、ふんすと鼻息荒く挑発を口にする。

 

「できないの? 学園最強(ホルダー)のくせに案外、小心なのね?」

「なんだとぉ……!」

「この子に負けるのが怖いんでしょ? 所詮は井の中の蛙、学園でイキってるだけの最強だものね!!」

 

 外野ではラウダが「よすんだ兄さん! 見え透いた挑発に乗っちゃダメだ!」と熱い説得をしている。

 混乱と熱狂が、温室を支配していた。

 

「え、ええ……な、なんなんですか、この学校……!!」

 

 怖すぎる。

 何かこう、自分の知らないところでとんでもない話が進んでいるのは理解できた。

 あまりにも意味不明な事態だったが、これまでたしなんできた無数のコミック・アニメ・ゲームの知識から、スレッタ・マーキュリーはすぐにこのシチュエーションにぴったりの単語を引き出した。

 

 

 

「あ、あぁ……悪役令嬢にいじめられてます!!」

 

 

 

 ミオリネは顔を真っ赤にして叫んだ。

 

 

 

「誰が悪役令嬢よ!!!」

 

 

 

 アド・ステラ一二二年。

 ラグランジュポイント四フロント七三区――宇宙空間に浮かぶ超巨大建造物(メガストラクチャー)、アスティカシア高等専門学園にて。

 

 

 

――水星の魔女スレッタ・マーキュリー。

 

 

――英雄の娘ミオリネ・レンブラン。

 

 

――二人はかなり最悪の出会い方をした。

 

 

 

 

 

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