ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

23 / 112
擦れッタがペイル社の悪事を暴露するだけの話

 

 

 

 ペイル・テクノロジーズ護衛艦隊がドミニコス隊に降伏した直後。

 スレッタたちには次の命令が下されていた。

 

『ウィッチ1、ナイト小隊と共に第一宇宙港に突入、安全を確保しろ。誰も逃すな。ビショップ小隊は第一宇宙港の外で待機だ』

『ナイト1、了解。ウィッチ1、行くぞ』

「ウィッチ1、了解です。〈エアリアル〉が先陣を切ります」

『任せた。お前の盾は頼りになるからな』

 

 〈ベギルペンデ〉四機と〈エアリアル〉が編隊を組み、ペイル・テクノロジーズ本社フロントのあるエリアの宇宙港を制圧すべく超巨大建造物(メガストラクチャー)の内部へ突入する。

 そこは広大な空間であり、多くの宇宙船が並ぶエリアだった。

 全長二〇〇メートルを軽く超えるような艦艇がひしめき合っているのが、この第一宇宙港だった。

 ドミニコス隊による強制執行が突然の報せだったこともあり、逃げ出す暇もなく多くの船がここに係留されていた。

 

「こちらドミニコス隊、これから本社フロントへの査察を強制執行します。宇宙船の乗組員は船を停止させて待機してください、港湾設備担当者は操作を止めて待機――」

『ウィッチ1!』

 

 呼び掛けに応えるより先に身体が反応していた。

 宇宙艦艇の影からビームサーベルを抜いて不意打ちしてきた〈ザウォート〉を、抜き打ちにビームサーベルで斬り伏せる。

 誘爆しやすい動力部とコクピットを外し、右腕と両脚を丸ごと切断。

 瞬時に無力化された〈ザウォート〉の上半身を壁際まで蹴飛ばし、何事もなかったかのようにアナウンスを続行する。

 

 

「抵抗は無意味です。こちらの指示に従い、速やかに武装解除して投降してください。繰り返します――」

 

 

 その一連の動きを見て戦意を喪失したらしく、多数の投降者が出ていた。

 よもや宇宙港の内部にまでMSを潜ませているとは、敵はよほど往生際が悪いらしい。

 スペーシアンにとって宇宙港のようなインフラ設備は生命維持に関わる必須のものであり、そこを戦場にするというペイル社の常識のなさは、スレッタを不安にさせた。

 相手が常識で図れず、何をしてくるかわからないのは怖い。

 最悪の場合、自爆テロ紛いの真似をしてくる可能性すらある。

 エラン・ケレスの暗殺のために一〇〇機を超えるドローン兵器を学園へ差し向けてきた件など、常軌を逸しているとしか言い様がない。

 カテドラルの決定に対して武力で反抗しようとした件もそうだが、ここ数日間のペイル・テクノロジーズの動きは全体的に奇妙だった。

 まるで()()()()()()()()()有様である。

 そこに不穏さを見出し、スレッタが顔をしかめた刹那だった。

 

 

――複数の艦艇が、警告を無視して発進準備を始めていた。

 

 

 発進しようとしているのは、一三〇メートル級の高速艦が四隻と、二〇〇メートル級の巡洋艦二隻。

 おそらくは企業上層部の乗っている脱出用の船であり、何隻かはこちらの追っ手を撒くための囮だろう。

 今からビットステイヴを使ってエンジン部を破壊することも考えたが、機関部の破壊は動力炉の誘爆に波及し、下手をすれば港湾設備全体に致命的なダメージをもたらす恐れがある。

 ゆえにスレッタ・マーキュリーに取れる手段は決まり切っていた。

 

「複数の艦艇が脱出準備をしています、オーバーライドで阻止します!!」

『ウィッチ1、勝手な真似は――』

 

 ナイト小隊リーダー機からの注意はもっともだ。

 強力すぎる電子戦能力であるオーバーライドは、安易に濫用(らんよう)されるべきではない。

 だが、ここで逃せばさらなる悲劇を引き起こす相手だという直感があった。

 何よりも、エラン・ケレスにあんな悲しみと苦しみを背負わせた元凶が、目の前にいるという確信がスレッタを突き動かしていた。

 〈エアリアル〉の中の姉に呼び掛ける。

 

「エリクト、お願い」

 

 

――はいはい、僕のオーバーライドの時間だね!

 

 

――コントロール権を奪取して動けなくしちゃう!

 

 

 〈エアリアル〉のシェルユニットが青く発光し、一際まばゆい光を放った。

 パーメットに干渉する青い波動が灰色のガンダムから放たれ、宇宙港から発進しようとしていた無数の艦艇を飲み込んでいく。

 パーメットスコア六のオーバーライドの光。

 あらゆる情報構造体を掌握し、支配のための権限を書き換える力――その光が艦艇群を包み込んだとき、スレッタは確かに見た。

 

 

――諸悪の元凶と言うべき四人の共同代表たちを。

 

 

 脳にインプラントされたパーメット通信機器がオーバーライドされ、未知の感覚に苦しむ四人の老婆たち。

 その脳内インプラントチップに記録された数々の機密情報が、今やスレッタには手に取るようにわかった。

 それは数え切れない犠牲と搾取の記録だった。支配と蹂躙の記憶だった。

 

 悪逆なるもの。

 そこにあったのは、あまりにも単純で妥協の余地なき征服者の論理。

 労働条件の改悪やハラスメントに対する裁判を、非合法な手段を含めた圧力で取り下げさせてきた事例など序の口だ。

 

 ドローン戦争の遺物を密かに確保し、プログラムを入れ替えた暗殺用戦術ドローン群。

 市民IDのない貧困層を拉致し、洗脳し作り上げた、死体から足のつかない暗殺部隊インビジブル・ソルジャー。

 市民IDのないアーシアンやスペーシアンの孤児を素材に、中枢神経を人工神経に入れ替え、ナノマシンで肉体を強化した強化人士。

 

 その実用化の過程で消費された膨大な数の犠牲者たち――そのすべてを数字として処理し、次なる犠牲による科学技術の前進を尊ぶ悪魔のごとき倫理。

 それがペイル・テクノロジーズという狂った王国の支配者たちの頭の中にあるものだった。

 

 

――そこに悪意はなく、利益を追求する論理だけがあった。

 

 

 そして彼らが未だに強化人士四号――エラン・ケレスを名乗る彼の抹殺を試みていることを知って。

 ああ、もうどうでもいい、と思った。

 心の底から湧き上がってくるこの感情の名前を、少女は知っている。

 ゆえに、スレッタ・マーキュリーは決断した。

 〈エアリアル〉の全機能を掌握する姉に尋ねた――この()()()()()()()を。

 

「オーバーライドでこの情報を外部ネットワークに流せる?」

『おいウィッチ1、何をするつもりだ!?』

 

 通信を切った。

 彼らには申し訳ないが、スレッタはもう我慢がならなかったのだ。

 

 

――できるよ?

 

 

――今ここでやるんだね、スレッタ?

 

 

「わたしは何も知らなかった……エランさんのこと、本当に、何にも知らなかったんだ……エリクト、わたしね」

 

 彼の激情の告白を聞いて、わかったような気になっていた。

 けれど実際に行われていた悪魔の所業は、スレッタの想像の何十倍も醜悪で残酷だった。

 この救いがたい痛みの根源に、正しく裁きが下って欲しいと思ってしまう。

 逃げ切る余地など与えたくなかった。

 だから。

 

「こんな卑怯で汚いやり方がペイル社の戦い方だって言うんなら、わたしは……わたしのやり方で、この人たちと戦うよ」

 

 

――うーん、職業軍人(ドミニコス)としてはマイナス評価だと思うよ今の発言。

 

 

――でもお姉ちゃんはスレッタにダダ甘なのでいいと思います!!

 

 

――行けーっ! 僕の最強の妹!!

 

 

 次の瞬間には、エリクトによって操作された〈エアリアル〉の電子戦機能は、掌握したペイル・テクノロジーズ本社フロントの通信設備を使って、太陽系全域にまたがる情報通信ネットワークにアクセス。

 パーメット通信で繋がれた太陽系通信SSWN(ソーラー・システム・ワールド・ネットワーク)上から、内部告発専門の信頼度の高い情報サイトをピックアップ。

 そこにペイル・テクノロジーズ本社フロントから抜き取った機密情報を漏洩(リーク)させた。

 ついでに、かねてからこのスキャンダルに熱心だったグラスレー系資本のマスメディアに詳細な情報の載せられたファイルを送信。

 

 

――これによって、一時間後には太陽系全域で火がついた。

 

 

 スペーシアン社会のネットワークは、地球からの汚染情報に対しては厳重な情報防壁を築き上げており、フィルタリングも慎重に行っているが、宇宙社会に対してはそこまで厳重な情報統制を敷いていない。

 これは宇宙空間という極限環境では、情報の行き違い一つが重大な事故や災害に繋がるためだ。

 情報統制による管理社会などを夢見てきたアーシアンにはわからない感覚だが、宇宙生活者にとって情報の行き来の自由とは、酸素や食料と並ぶ重要な生存に必須の資源(リソース)なのだ。

 

 ゆえに今回のスペーシアン大手企業による深刻な人権侵害は、凄まじいインパクトを持って世界中を駆け巡った。

 あくまで関係者からのリークに過ぎなかった疑惑の段階から、確定的な情報――それも多数の死者が出ている異様な事件であることの証拠――がもたらされたことで、ペイル・テクノロジーズに関する報道は激化。

 その悪評は太陽系社会すべてに轟こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

「……………………いや、やりすぎじゃないかなあ、これ」

 

 

 一方その頃、ニュース速報でこの事態を知ったシャディク・ゼネリは、この暴露に対する率直なコメントを独りごちた。

 グラスレー寮長の部屋で、いつもの取り巻きの女子五人と生放送のニュース報道を見ていたシャディクは、あまりにもあんまりな事態に手が震えている。

 たしかに御三家の一つに大打撃を与えられれば、ベネリット・グループにつけいる隙ができ、それは自分たち革命家にとって有利になるとは言った。

 事実、シャディクもそう考えてはいた。

 だが、ここまでドン引きものの真っ黒な証拠を、何の意図もなくぶちまけられると利用するどころではない。

 これまではペイル社の疑惑を報道するよう、傘下のマスメディアに命じてきたシャディクだが、ここにきてあまりの炎上ぶりに血の気が引いてきている。

 

「シャディク、お前の目論見通りにペイル・テクノロジーズは大打撃を受けているが?」

「ここまでシャディクは考えてたんでしょ、えっげつなー」

「シャディクは陰湿。流石、私たちが見込んだ男」

「シャディクってそういうところあるよねー」

「こ、怖いね……」

 

 五人の女子たちからの追い打ちにシャディクは頭を抱えた。

 

「……微妙に俺への悪口言ってない?」

「言ってない、尊敬してる」

「みんなのことを信じられなくなりそうだよ……」

 

 アスティカシア高等専門学園に潜伏する革命組織は、空中分解の危機を迎えていた。

 

 

 

 

 

 

『結論から申し上げますが、この大規模な機密漏洩は〈エアリアル〉の仕業です。オーバーライドによってペイル・テクノロジーズ本社のシステムをクラッキングし、SSWN(ネット)へ放流したと思われます』

 

 

 ベネリット・グループ本社フロントにて。

 シン・セー開発公社代表ルイ・ファシネータは、暗号通信越しにグループ総裁デリング・レンブランに今回の事態の報告をしていた。

 自社の所有戦力による過激な行動――はっきり言えば大失態の類だが、ルイ・ファシネータの口調に澱みはない。

 むしろどこか誇らしげですらある。

 デリングの横に控えていた副官、ラジャンが口を開いた。

 

「この機密漏洩による被害は甚大だ。シン・セー開発公社と〈エアリアル〉の有用性にも疑問がつく」

『ラジャン様。それには誤解があるかと。今回の事件こそ、〈エアリアル〉の真価のデモンストレーションになったとお考えください』

「……総裁」

 

 長年の付き合いの上司の判断を仰ぐように、椅子に腰掛けたデリングへ視線を向けるラジャン。

 豊かなあごひげを蓄えたデリング・レンブランは、ただ一言こう述べた。

 

「やり過ぎだな」

 

 一瞬、室内が緊張感で満たされる。

 だが続いた言葉には、まんざらでもなさそうな響きが籠もっていた。

 

「〈エアリアル〉の真価は示された。我々の計画――()()()()()()()()()が理論上のものに過ぎないという疑念は払拭された」

『ありがとうございます、閣下』

「……よろしいのですか?」

 

 重々しくうなずいて、デリング・レンブランは語る。

 おのれの真意を。

 

「もとよりペイル・テクノロジーズの有り様は目に余っていた。今回の事件は、粛清と見せしめのいい口実になる。ヴァナディース事変も二一年前だ、記憶が風化してくる頃合いにこそ引き締めが必要になる」

 

 そして続けてこう言った。

 

 

「〈エアリアル〉のパイロットを呼べ、私自ら問わねばならんことがある」

 

 

 

 

――アド・ステラ一二二年。

 

 

 

――ガンダムと魔女を巡る物語は、転換期を迎えようとしていた。

 

 

 

 




「アド・ステラのモビルスーツの世代区分」※独自設定です
・第一世代
黎明期のMS。
ドローン兵器に対して、有人単座人型機動兵器というMSの概念を確立した世代である。
他作品で例えるならば、ガンキャノン最初期型や旧ザク、ファントンのような性能。
単純な機体性能や操縦性の問題から、AS122年ではほとんど使用されていない。

・第二世代
全体的な性能の向上により、第一世代を完全に上回る性能となり、より人型に近づいている。
第三世代以降と比較した場合、高出力ビームドライブの有無によるビーム兵器の運用性能が大きな差である。
製造難易度の低さや運用負荷の低さから、一部の地域では現役で使用されている。
デスルター、プロドロスなど。

・第三世代
モビルスーツという兵器カテゴリの一つの完成系が成立する。
ビームドライブの標準搭載、高度なパーメットリンクによる柔軟な操縦性が確立された。
現在、運用されているMSのほとんどが第三世代以降か、それに準拠した改修機である。
第四世代相当にアップグレードされた三・五世代機(デミギャリソンなど)も存在する。
デミトレーナー、ハイングラなど。

・第四世代
AS122年現在の主力機たち。
その特徴は装甲材質のアップグレード、推進装置の最適化による機動性向上。
第三世代に対して軽量化され出力も上昇しており、パーメットリンクなどの操作性も上がっている。
ミカエリスのように第五世代機に近いコンセプトの四・五世代機も存在する。
ディランザ、ザウォート、ハインドリー、ベギルペンデなど。

・第五世代
機体サイズの大型化や操縦支援AIの機能向上、遠隔操作兵器の運用機能などを模索中。
新型GUNDフォーマットもこれに含まれるかは不明。
ダリルバルデ、エアリアル(?)など。

※ルブリス量産試作モデルはこの世代区分に含まれない独自の技術ツリーである。
※ヴァナディース事変当時では、本体性能は第三世代相当だったと推測される。



推薦いただきました!!!
うれしい!!!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。