ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタの初デートを見守るだけの話

 

 

――スレッタとエランがほわほわとしたデートをし始めた頃。

 

 

 そんな二人を物陰から監視する怪しい一団の姿があった。

 全員が美男美女でありながら、隠しきれない怪しさが全身からにじみ出ているような集団であった。

 

 

「私、ジェターク、グラスレー……ベネリット・グループの次代を背負うメンバーが集まった形になるわね? 言ってみればこれはそれだけの大事よ、自覚を持ちなさいよ?」

 

 

 地味な色合いの服装で男装しているのはミオリネ・レンブラン、スレッタの姉を名のる不審者である。

 

 

「ミオリネ、わかりきったことを言うな」

 

 

 やはり地味な色合いだが妙におしゃれに決めているのはグエル・ジェターク、ジェターク社の御曹司である。

 

 

「ねえ、俺帰っていいかな……?」

 

 

 そしてこれは何故かグエルに巻き込まれて連れてこられたシャディク・ゼネリ、グラスレー社代表の養子である。

 

「スレッタ・マーキュリーを見守ることより大事なことがあるのか、シャディク」

「グエル、今のお前は間違ってる……!」

「俺はやり遂げるぞ、シャディク」

 

 最近、図書館での勉強会を通じて妙に仲良くなっている二人は、よくわからない距離感でじゃれついていた。

 そんな二人を半眼でねめつけて、ミオリネが言った。

 

「シャディクとグエルが無駄にデカいせいで目立ってる気がするわ」

「人の身長にケチをつけるなミオリネ、行儀が悪いぞ」

「チッ」

 

 舌打ちしている美少女がベネリット・グループ総裁のご令嬢だという事実に、たぶん誰もが困惑することだろう。

 

「変らないな、ミオリネは……」

「お前はミオリネの何を見てそう言ってるんだ、シャディク……」

「口が悪いところ、かな」

「張り倒すわよ、シャディク」

 

 惚気ているのかふざけているのか、態度がわかりかねるシャディクをにらみつけつつ、ミオリネは物陰からスレッタとエランの様子をうかがった。

 瞬間、彼女は叫びそうになった。

 

「ちょっと待って、あの子、今、自分からエランの手を握りに行ったわよ!!」

「スレッタ・マーキュリー……デートでも攻めの姿勢か……!」

「ねえ、この実況ずっとやるの? 本気で?」

 

 テンション的に置いてきぼりのシャディクを放っておいて、ミオリネとグエルは握り拳で盛り上がっていた。

 もちろん二人にもそれぞれ、身内/初恋としてのスレッタへの好意があり、少女がデートする姿には複雑な感情がある。

 だが、いざ愛おしく思っている娘が可愛い挙動をすれば、盛り上がらずにはいられないのも「好き」という感情の側面だった。

 

「思い出すな、〈エアリアル〉との決闘を……」

「モビルスーツとデートの間にどんな関係があるんだグエル、落ち着いてくれ」

「わからないか、シャディク。〈エアリアル〉の攻撃的な機動と、今のスレッタ・マーキュリーの攻めの姿勢は似てると思わないか?」

「今日のグエルはおかしくなってる! ミオリネ、彼を止めてあげてくれ!」

「ちょっと黙っててバカ二人、あの二人に気付かれるでしょ……あっ、エランがエスコートしてるわね」

 

 歩き始めた二人に合わせて、何食わぬ顔で尾行を開始する三人――なんやかんや付き合いがいいシャディクも、寮に帰ることなく一緒に来ている。

 エランが決めたデートコースを辿るらしい二人は、ゆっくりと談笑しながら歩いている。

 それを追跡する三人はまるっきり不審者だった。

 

「ねえ、これってやっぱりストーカーじゃないか?」

「そんなわかりきったこと今さら言ってどうするの?」

「ほら、フロント管理社の自治警察とか出てきたら不味くない?」

「そのときはクソ親父の名前出して黙らせるから安心しなさい」

「最悪に近い親の威光の使い方だよミオリネ……」

 

 自分の無力と無知を思い知ったミオリネ・レンブランは積極的に使えるものは使う姿勢になっていた。

 わりと最悪のドラ娘の誕生である。

 

「スレッタとエランが映画館に入っていったぞ……」

「定番ね。ベッタベタすぎて面白みがないレベルだわ。まるでマネキン王子の顔面みたいにね」

「今のは暴言だぞミオリネ」

「そこがミオリネの可愛いところさ」

「黙れシャディク」

 

 古人曰く。

 映画館は定番に見えて難しいデートスポットである。

 どう足掻いても九〇分から一五〇分程度の時間、暗所で二人並んで座ることになるから、気まずくなった場合の仕切り直しが難しい。

 しかも選ぶ映画のチョイスによっては、その内容如何で地獄のような空気になることもあり得る。

 つまらない映画ならそれでいい。

 感想戦(感想を言い合いながら盛り上がるトークのこと)でつまらなかったのをネタにできる関係なら、それも一興だろう。

 だが、この感想戦が罠なのだ。

 如何にもデートらしい微笑ましい空気になると思われがちな感想戦だが、ここで感性の違いなどが明らかになり、冷めた空気になるカップルも少なくない。

 そんな感じの恋愛指南のSSWN(ネット)のページを見ながら、グエルは力強くうなずいた。

 強敵と書いて友と読む、そんな間柄の恋敵を試すように。

 

 

「難しい局面だぞ、エラン。お前はどう出る?」

 

 

 何でもいいが、やってることはただのストーカーである。

 そういう自覚がありながら止まらない意思の強さを、ミオリネとグエルは備えていた。

 シャディクは「おうち かえりたい」と虚無の表情になっている。

 エランが眺めている映画のポスターを見て、寸評を始める二人。

 

「……『惨穢~住んではいけないフロント~』……ホラー映画か。どう思う、ミオリネ」

「悪手ね。ホラー映画は女子の間でも適性が分かれるジャンルよ」

「スレッタ・マーキュリーは……『ゾギラ~キング・オブ・モンスターズ~』? なんだ、怪獣映画か?」

「バカ! スレッタ! いきなりオタク全開すぎるでしょ! でっかい怪獣が暴れてよろこぶのは頭が幼児(ちびっこ)の連中だけよ!」

「む、移動したな……」

「無難に恋愛映画とかにして欲しいわね……」

 

 ある意味、当事者よりドキドキしている二人を横目に、シャディクは三人分のドリンクとポップコーンを買わせられていた。

 どうして世界はこんなにも苦しいのだろう――不思議だね水星ちゃん、と独りごちながら。

 

 

 

 

 

 

 それから二時間後。

 ミオリネ、グエル、シャディクは映画館のハコの中で心地よい鑑賞の余韻に浸っていた。

 

「面白かったわ……」

「最後の二〇分間のどんでん返しが最高だったな……」

「これは映画館で見るべき映画ね、端末の画面と音響じゃちょっとつまらないかも」

「最近のポリティカルアクションとサスペンスドラマのいいとこ取りって感じだったね。脚本家の名前を覚えておこう」

 

 結局、エランとスレッタが選んだのはサスペンスアクションの大作映画『裏切りのウォッチマン』だった。

 ド迫力のアクションと凝った筋書きの人間ドラマが見所の話題作である。

 単純にエンタメ映画として出来がいいこともあり、中々悪くないチョイスと言えよう。

 年若いカップルが見るには少々、難解なところもある映画だったが――二人を尾行して入場した三人の感想は大絶賛であった。

 銃器を用いたガンアクションのできばえ、実際のモビルスーツを使って撮影された戦闘シーンの迫力、登場人物の愛憎と謀略が絡み合い、結末に向けて加速していくクライマックス――どれを取っても一級品の娯楽映画だった。

 特にエンディングで何もかもをなくして宇宙を見上げる主人公の感傷的な絵には、グエルなどは号泣していたし、シャディクは思うところがある顔をしていた。

 ミオリネなどは素直に面白い映画だったと絶賛しているが、この辺の反応の違いが、鑑賞後の感想戦の醍醐味と言えよう。

 そして三人は大事なことを忘れていた。

 

「…………ねえ、水星ちゃんとエランは?」

 

「「あっ」」

 

 三人ともスレッタとエランのことを忘れていた。

 その後、三人で手分けして探し回った結果、いい感じのオープンテラスのカフェで談笑する二人を見つけることに成功した。

 向かいにあるファストフード店に入って、ドリンクとフライドポテトを注文して、窓際の席からスレッタとエランを観察する三人――完全な不審者×三。

 

「危ないところだったわ……」

「見失うところだったな」

「もう、こんなことは終わりにしないか?」

 

 シャディクの忠告は無視された。

 常識的な発言をしているからこそ、暴走している二人には聞き届けられないのだ。

 彼は「ひょっとして世の中の人間は自分が思っているほど理屈や理性で動いてくれないのでは?」「自分の革命は果たして上手くいくのだろうか」と疑念に駆られ始めていた。

 そんなシャディクを余所に、ミオリネとグエルはいい空気を吸っていた。

 

「へえ、ずいぶんといいカフェを選ぶじゃない、エラン……あそこはクロワッサンとカプチーノが美味しいのよ、いい店ね」

「お前の行きつけなのか」

「そうよ、意外?」

「ああ、部屋が壊滅的に汚いからな、お前」

 

 次の瞬間、シャディクの脳は粉々に破壊された。

 今にも血涙を流しそうな表情で、少年はグエルをにらみつけた。

 

「ミオリネの部屋に入ったのか…………グエル……俺の知らないところで」

「ああ、びっくりするぐらい汚い部屋の掃除のためにな」

「今度勝手に喋ったら殺すわよ、グエル」

 

 シャディクの脳は粉砕され続けている。

 

「なんでだ……ミオリネ……どうして……」

「スレッタが勝手に男手が欲しいって呼びつけたのよ! 私が好き好んで呼び込むわけないでしょ!」

「水星ちゃん……どうして俺だけ無視したんだ……」

「だってあんた、スレッタと交流大してしてなかったでしょ」

 

 つまりそういうことである。

 見るからに厄ネタの少女と安易に関わりを持たない慎重さがアダとなっていたのである。

 

「……俺が間違っていたよ、グエル」

「お、おう」

「…………ねえ、ちょっと。二人の姿が見当たらないんだけど」

 

 ミオリネの汚い部屋について話すうちに、二人は移動してしまったらしい。

 こうして三人はスレッタ・マーキュリーとエラン・フォースのデートの行方を見失ったのだった。

 そこから醜い言い争いに発展し、三人まとめてランチを兼ねた反省会と、ミオリネのショッピングの荷物持ちに付き合わされたのは言うまでもない。

 シャディクは終始振り回されていたが、それがどこか楽しそうなのを、ミオリネ・レンブランは見逃していなかった。

 

 

 

 

――スレッタとエランのデートが上手くいったかどうかについては不明だが。

 

 

 

 

――地球寮に帰ってきたときのスレッタ・マーキュリーの笑顔は、それはそれは幸せそうなものだったという。

 

 

 

 

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