ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタがシャディクと決闘するだけの話

 

 

「なんなのよ、あいつは! 今さら決闘とか遅いにもほどがあるでしょうがっ!! こちとら待ちぼうけ食らったような気分だったのよ、それをあのバカは――」

 

 

 ミオリネ・レンブランは怒り、戸惑っていた。

 突然のシャディク・ゼネリからの決闘申し込みに対して、その場では呆けたように沈黙するだけで何も言えなかった少女は、スレッタから決闘の条件を聞いてマジギレし始めた。

 何せ、向こうは最新型機とトップランカーを集めて六対三の集団戦である。

 あまりにもガチすぎて引くぐらい本気だ。

 そういうところはシャディク・ゼネリらしいのに、賭けるのが会社だとかガンダムではなく、花婿の座というのが理解できない。

 

 おさらいしよう。

 このアスティカシア高等専門学園では、MSでの決闘で最も強いパイロットがホルダーとなり、ミオリネ・レンブランの婚約者の地位を与えられる。

 つまり賭けの対価にするまでもなく、決闘で勝てば自動的に花婿の座は手に入るのだ。

 なのにわざわざ自分を指名してきた意図は何なのか――うんうん首をひねってうなっていると、スレッタがマグカップにハーブティーを入れて歩いてきた。

 

「はい、ミオリネさん。気分が落ち着くお茶ですよ」

「ありがと……今、私ってそんなに落ち着きない?」

「はい、かなり」

 

 スレッタから見ても気を遣われるというのは、かなりの重症であろう。

 弱音を吐くように、ミオリネは胸の内を明らかにした。

 

「わからないのよ、今回、なんでシャディクがそんな条件で決闘を仕掛けてきたのか……あいつらしくもない……」

 

 そう疑問を投げかけると、不意にスレッタ・マーキュリーは神妙な顔つきになって。

 こんなことを呟いた。

 

「……ちょっと、わかる気がするんです。ミオリネさんってすごく綺麗で、キラキラしてるから、手を伸ばすのがきっと怖かったんだと思います」

「……スレッタ?」

 

 一瞬、彼女の表情にらしからぬ憂いが見えた気がした。

 じぃっと凝視すると、スレッタは慌てた様子で両手を振った。

 

「なんとなくそうかなー、ってだけですよ? きっとシャディクさん、ああ見えて本命には奥手な人だと思いますし。勇気が出たから決闘を申し込んでみた、ってだけだったりして」

「まーたゲームの知識?」

「恋愛シミュレーションです!! 歴戦の猛者のわたしに任せてください、ミオリネさん!」

 

 これ以上なく信用できないタイプの発言である。

 スレッタの妄言はさておき、ミオリネ・レンブランはつい考え込んでしまう。

 

 

「仮に、仮によ? シャディクが何かの拍子におかしくなって、私に求婚する気で決闘を申し込んできたとしたら……あんたはどうするの?」

 

 

 ミオリネの白い頬にほんのりと赤みが差す。

 それはまあ、シャディクは胡散臭いし信用ならないし肝心なときに逃げた前科があるけれど、別に憎いわけではないのだし、向こうが熱烈に求婚してくるのであればこちらとしても応えるのはやぶさかではないというか――まあ幼馴染みとして多少の情はあるわけだし――などとミオリネが乙女回路を全開にしてやくたいもない思考をしていると、スレッタ・マーキュリーは元気よくこう言った。

 

 

 

「はい、もちろん全力で叩き潰します!!」

 

 

 

 ニッコニコの笑顔だった。

 あまりにもあんまりな返答にミオリネ・レンブランは叫んだ。

 

「なんでよ!?」

「決闘は友達作りの場ですよ、ミオリネさん!!」

「あんたは人類を滅ぼす狂ったAIかなんか!?」

 

 ギャアギャアと言い合いを重ねて、地球寮の夜は更けていく。

 翌日に決闘を控えていようと、彼女たちの日常は何も変わりなかった。

 

 

 

 

 

 

――翌日。

 

 

 その決闘は、異例の集団戦であった。

 通常、集団戦ルールでは同数のMSを用意するのが通例である。

 一対複数の戦いを行う一部のトップランカー、つまりスレッタやグエル、エランなどがおかしいのであって、相手が六機MSをそろえたら、対戦側も六機そろえるのが普通である。

 数の差が開けば開くほど、一度に相手しなければいけない敵の数は増えて、実力差にかかわらず被撃墜の恐れがあるからだ。

 あるいは六対三という条件だけならば、弱小寮の悲哀として流されたかもしれない。

 しかしながら今回、地球寮とその助っ人には、現在のホルダーとその前任者が加わっている。

 ホルダーと元ホルダーが組んでのチーム戦は前代未聞である。

 そういう意味で、今回の試合は非常に注目度が高い。

 それはさておき、別の意味でも学園は盛り上がっていた――というのも、決闘の参加者のほとんどが各々、個別のファンがいる面子だったからだ。

 まずグラスレー寮側であるが――

 

 

 シャディク――学園のプリンスの一人として女子たちから注目の的。

 

 サビーナ――王子様然としたたたずまいから女子に絶大な人気。

 

 エナオ――俺たちはわかってるという感じの男子から人気。

 

 メイジー――その明るさゆえ男子たちから普通に人気。

 

 イリーシャ――独自の崇拝行為を行なうファン多数。

 

 レネ――こってりしたオタクのファン多数。

 

 

 一方、グエル・ジェタークはと言えば――今やグエルファンの間では、果たしてホルダーとグエルの関係はどうなのかで論争が巻き起こっていた。

 ホルダーがエラン・フォースとデートしていたという情報は光の速さで共有されているが、いかんせん「恋愛とかよくわからないです」とのたまう蛮族である。

 より強い方をつがいに選ぶのではないか、というのが今のグエルファンの間の定説である。

 すなわち。

 

「グエル様……今が勝負ですわよ!」

「グラスレー寮の王子などぶちのめして!」

「どうか……どうか……恋を叶えてくださいませ!!」

 

 このあたりがグエルファンの総意になっていた。

 

 そして最後に、スレッタ・マーキュリーを狂信する()()の様子である。

 学園に存在する講堂の一つを借りて集っているのは、男女を問わず、スレッタに敗北して()()()()()()()()()()パイロット科の学生たちだ。

 

 

「待っていた……ずっとあなたを待っていました!」

 

 

 号泣しながら大画面を見ているのは、先日、スレッタ・マーキュリーによって自慢のMSを破壊され情緒を焼かれたパイロット科の女子生徒だ。

 

「学園最強ォ~!! 俺たちのホルダァアアア!!!」

「今こそ覇道を見せるときだ、ホルダァアア!!」

 

 声を合わせて合唱しているのは、やはり自慢の自社製MSを見事な腕前で解説つきで解体され、見惚れてしまったパイロット科の男子生徒である。

 

 

「おお、見ろッ! スウォーム兵器を七つの冠と一〇の角のごとく身に着けてッ!」

「まさに黙示録(アポカリプス)の申し子! 青白き騎手(ペイルライダー)!!」

「あぁ、堕天使が出撃している!」

 

 

 余人には理解できない世界に浸っているのは、()()()()の被害に遭ってからというもの、スレッタ・マーキュリーに心酔しているパイロット科の生徒たちだ。

 六対三の不利な条件にもかかわらず、誰もが彼らのホルダーの勝利を信じ切っていた。

 何故ならば、彼女こそは――

 

 

「「「「学園最強(ホルダー)! 学園最強(ホルダー)! 学園最強(ホルダー)! 学園最強(ホルダー)!」」」」

 

 

――この学園で最も学園最強に相応しい人物なのだから。

 

 

 

 

 

 

『これより双方の合意の下、決闘を執り行う。立会人はペイル寮筆頭、エラン・フォースが務める。決闘方法は六対三の集団戦、勝敗はリーダー機のブレードアンテナを折ることで決するものとする』

 

 

 決闘を取り仕切るのは、グエル・ジェタークとシャディク・ゼネリが参戦中のため、消去法で選ばれたエラン・フォースである。

 画面に映るのは学園最強スレッタ・マーキュリーの顔だ。

 コクピットの中でそれを眺めるシャディク・ゼネリは、不思議な高揚感を感じていた。

 

 

『両者、向顔(こうがん)

 

 

 エランの声に応じて、スレッタから儀式の文言を唱え始めた。

 

 

『勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず』

 

 

 続けてそれを唱えるのは、神妙な顔つきのシャディクだ。

 

 

「操縦者の技のみで決まらず」

 

 

 少女と少年の言葉はやがて、異口同音に同じ言葉を発して。

 

 

『「――ただ、結果のみが真実」』

 

 

 最後にエランは淡々と、試合の始まりを告げた。

 

 

『――フィックスリリース』

 

 

 

 

――決闘が始まる。

 

 

 

 

 推進器が奏でる噴射音――出撃する五機の〈ベギルペンデ〉と〈ミカエリス〉――まるで異端審問官を引き連れた白騎士の出で立ち。

 

「サビーナ、エナオ、レネ。イリーシャ、メイジー。みんな打ち合わせ通りに頼む」

『『『『『了解!!』』』』』

 

 〈エアリアル〉の足止めに〈ベギルペンデ〉三機、グエルの〈ディランザ〉――専用機としてマゼンタで塗装されているが一部の形状が従来と異なる――の足止めに〈ベギルペンデ〉二機を向かわせて。

 廃墟の都市部を模したバトルフィールドは、その遮蔽物の多さゆえに接敵すれば、即座に近距離戦の間合いから試合が始まりがちだ。

 案の定、ビームライフルとビームライフルの射撃戦が始まる――その結果、空いた防衛線の隙間を縫うようにして、シャディクの〈ミカエリス〉が空中を飛翔する。

 目標はただ一つ、後衛として前衛のスレッタとグエルを射撃でサポートするチュアチュリー・パンランチの〈デミトレーナー〉だ。

 行かせまいと〈エアリアル〉から射出された三基のビットステイヴが追いすがってビームを放ってくるが、〈ミカエリス〉はこれを難なく回避。

 機体推力に任せて〈エアリアル〉のビットステイヴを振り切り、チュチュの〈デミトレーナー〉目がけて突進する。

 

『チュチュさん、そっちにリーダー機が向かいました!』

『ちくしょう!!』

 

 チュチュ機がロングバレルのビームライフルを構えて、対空砲火をしてくる――だが、長距離射撃タイプのビームライフルゆえにその弾幕の密度は薄い。

 迎撃の荷電粒子ビームを避ける〈ミカエリス〉は、とても推力任せの突撃とは思えないほど、見事な空中での戦闘機動を取っていた。

 その肥大化した右腕、腕部戦術複合装備ビームブレイサーの装甲板が大きく展開され、内部の砲門があらわになる――内蔵されたビームデバイスが高密度エネルギーの輝きを放ち、次の瞬間、凶悪な砲撃を放った。

 ビームキャノンの閃光。

 着弾地点を跡形もなく吹き飛ばす高出力ビームが、チュチュ機の立っていた廃ビルの屋上を消し飛ばす。

 辛うじてビルから飛び降りて難を逃れたチュチュの〈デミトレーナー〉だったが、ミカエリスの追撃は止まない。

 自由落下するチュチュのMSは、大型のビームライフルを抱えており、お世辞にも小回りが利くとは言えないマシンである。

 シャディクの〈ミカエリス〉は推進装置を全開にして、まるで弾丸のような戦闘機動でチュチュ機を追撃――右腕のビームブレイサーがワイヤーを残して分離し、有線式遠隔攻撃端末として機能――ビームマシンガンを放ちながら襲いかかった。

 

『こなくそぉ!!』

 

 チュチュ――推進器を噴かして緊急回避。

 荷電粒子のペレットが背後のビルの壁面を穿つのを感覚しながら、チュチュは自分の専用デミトレーナーの性能を信じた。

 この機体は地球寮のみんながカスタマイズしてくれた自慢のマシンだ。

 シン・セー開発公社というスポンサーがついてからは、中古の部品を買いあさって、よりチュチュのパイロット適性に合った性能になるようチューンナップもされている。

 左腕に増設されたボックスタイプのビームサーベル、前腕と一体化した固定式ビームサーベルもその一つである。

 

『舐めてんじゃねえぞコラァ!!』

 

 迫り来る〈ミカエリス〉に対してビームサーベルを振るう。

 避けられた。

 刹那、魔女狩りの白騎士の左腕、大型の騎兵槍(ランス)――ジャベリンブレイサーからビームバルカンが放たれた。被弾する――咄嗟にブレードアンテナを庇ったものの、ビームライフルの銃身が爆ぜた。

 チュチュ専用〈デミトレーナー〉最大の武器をなくしてもなお、チュチュの戦意は衰えなかった。

 

『うおおおおおお!!!』

 

 相打ちでもいい。

 ここでこいつを落とせば、地球寮の勝ちは揺るがないのである。

 ビームサーベルを抜いて突撃する〈デミトレーナー〉に対して、シャディクは冷酷であった。

 醒めた呟きを一つ。

 

「手ぬるいんだよ、チュアチュリー・パンランチ」

『んだとォ!? ぐあっ!?』

 

 蹴撃(キック)――〈デミトレーナー〉の間合いを潰すように放たれた前蹴りがチュチュ機に直撃、姿勢が崩れた。

 次の瞬間、〈ミカエリス〉の左腕のジャベリンブレイサーから、円錐状の槍が射出されて――チュチュの〈デミトレーナー〉の頭部をえぐり取っていた。

 折れたブレードアンテナが、宙を舞って地面へ落ちていく。

 

『がぁああああああ!?』

『チュチュさん!』

 

 ビームマシンガンでその両脚をもぎ取りながら、シャディク・ゼネリは淡々と呟いた。

 

「これで一機」

 

 地面に激突して土煙を立てているチュチュ機を横目に、〈ミカエリス〉は華麗に着地。

 戦況を俯瞰(ふかん)する。

 現在、〈エアリアル〉と〈ベギルペンデ〉三機は膠着状態にある。

 包囲網を組んでいる三機のうち一機が、絶えずアンチドートの展開を狙うことにより、〈エアリアル〉のガンビットの射出を牽制しているためだ。

 最大で一一基のスウォーム兵器からの十字砲火など冗談ではない。

 それもこれも、〈エアリアル〉が強力な電子戦機能(オーバーライド)の使用に制限がかけられている証左であった。

 

「君の不利だよ、スレッタ・マーキュリー。六対二の数の差、そしてオーバーライドは使えない――そうだろう?」

『侮らないでください、わたしとグエルさんがまだいます!』

『舐めるなよシャディク! チュアチュリー・パンランチの仇は討つ!』

 

 はっ、とシャディクは笑いつつ、グエル側の戦況を見た。

 メイジーとイリーシャはよくやっているが、やはりグエルは強い。

 あの〈ダリルバルデ〉を思わせるシールドドローンを身に着けた新型〈ディランザ〉は、的確に死角からの攻撃を弾き、グエルの猛攻を受けてメイジーの機体はすでにシールドを損傷している。

 これでメイジーの機体はアンチドートの包囲網には加われなくなった。

 このままでは各個撃破されるだろう。

 最悪なのはグエルによって分断が切り崩され、〈エアリアル〉と合流されることだ。

 そうなれば一気にこちらの勝ち目はなくなる。

 

「レネ、そろそろメイジーたちと合流しろ。〈エアリアル〉の相手は俺がする」

『あいよ、任せたよシャディク!』

 

 推進器を噴かして〈エアリアル〉包囲網から離脱するレネの〈ベギルペンデ〉――追撃しようとした〈エアリアル〉目がけて、〈ミカエリス〉からの砲撃が叩き込まれる。

 先ほどビルを崩落させたビームキャノンである。

 堪らず回避運動を取る〈エアリアル〉――着弾点の地面がプラズマ爆発を起こす。

 その爆発はグエル機のいる市街地からでもよく見えた。

 

『スレッタ!? くっ!!』

『ほらほら、元ホルダーの実力ってやつを見せてよ、グエル・ジェターク!!』

『メイジー、立て直そう』

『うん、そうだねイリーシャ!!』

 

 グエル機への包囲網に加わるレネ機――これで試合は三対一と三対一の形に再編された。

 サビーナとエナオの組に合流したシャディクは、ホルダーを煽るように言葉を吐き出す。

 

「君の過去を調べさせてもらったよ、スレッタ・マーキュリー。大した経歴だ、とてもここでは言えないようなね」

『――ッ! 何を!』

「卑怯と罵られようと構わない、これは決闘だ。ルールある戦いなんだ。君の知る実戦とは違う」

 

 〈エアリアル〉から分離した三基のビットステイヴが防御フィールドの盾を形成、サビーナとエナオからのビームライフルの集中砲火を防ぐ。

 同時に、背後から飛んできたジャベリンブレイサーの実体槍を、左手で抜刀したビームサーベルで切り払う〈エアリアル〉――まるで後ろに目がついているかのような動き。

 

「この学園に来て、楽しかったかい? 友達はできたかい? それが君を弱くした! 俺はそこにつけ込ませてもらうよ、騎士の誇りなんてものよりも――俺はミオリネを取る!!」

 

 〈ミカエリス〉はすかさず右腕のビームブレイサーからビームマシンガンを発射。

 多量のビームペレット弾が吐き出され、〈エアリアル〉に襲いかかる。

 白亜の妖精は跳躍し、これを回避。

 すかさず撃ち込まれた〈ベギルペンデ〉のビームライフルを推進器を噴かして緊急回避しながら、スレッタ・マーキュリーは叫んだ。

 

『さっきから陰湿です、シャディクさん! なんでこんな小賢しい真似ができて、ミオリネさんに告白はできないんですか!?』

「知った風な口を!!」

 

 シャディク・ゼネリの〈ミカエリス〉――白亜の騎士は有線式遠隔攻撃端末二つを同時に展開――ワイヤーの尾を引きながら〈エアリアル〉に追いすがるビームブレイサーが、ビームキャノンの閃光を吐き出す。

 さらにその回避先を見越して、射出されるジャベリンブレイサーの質量槍――逃げ道を潰すように〈ベギルペンデ〉二機がビームライフルで弾幕を形成。

 三機のMSによる十字砲火を前にして、〈エアリアル〉が取った行動は――

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 瞬時に分離したビットステイヴ六基が二枚の盾を形成――〈ベギルペンデ〉二機からのビームライフルを防ぐ盾が〈エアリアル〉の死角を防護。

 莫大な熱量を孕んだビームキャノンの光を全身の推進器を連動させ緊急回避。

 その予測位置に放たれたジャベリンブレイサーの実体槍――絶大な運動エネルギーを帯びた高密度質量体――を、〈エアリアル〉は身をひねって回し蹴りで()()()()()()

 攻撃の失敗を悟って、〈ミカエリス〉が両腕のビームバルカンとビームマシンガンを連射。

 これを廃ビルの側面を蹴って難なく回避すると、白亜の妖精は〈ベギルペンデ〉目がけてビームライフルを連射。

 アンチドートを展開しかけていたエナオ機が、慌てて後退する。

 スレッタ・マーキュリーは再び、口を開いた。

 

『誤魔化さないでくださいっ! 好きなのに、お互い気になってるのに!! 理由をつけて逃げて、挙げ句、わたしに八つ当たりですか!?』

 

 鋭い舌鋒はシャディクの心をえぐるようだった。

 あまりに真っ直ぐに心の柔らかい部分に踏み込まれたシャディクは、頭が真っ白になって。

 常の彼ならばありえない言葉を吐き出すのだった。

 

 

「わかりきったことを――」

 

 

 それは、シャディク・ゼネリの純情だった。

 

 

 

「――俺は、ミオリネを愛しているッ!!

 

 

 

 

 

 

 そして当然のことだが、この会話は全校放送されているし、それどころか特別枠として学園外のSSWN(ネット)にも全世界同時配信されている。

 すべては株式会社ガンダムの宣伝を目論んだミオリネ・レンブランの策である。

 それが盛大に裏目に出ていた。

 

 

「ちょ、誰か! この放送止めなさいよ!?」

 

 

 セコンドとして地球寮のオペレーションルームに詰めていたミオリネ・レンブランは、「きゃ~!!」とリリッケがはしゃいでるのを横に、頭を抱えながら頬を真っ赤にしていた。

 白磁のように白く透き通った少女の頬は、今や茹で蛸のように赤く染まっている。

 まさかあのシャディク・ゼネリが、こんな大胆な告白をしてくるとは想定していなかったのである。

 決闘を挑まれたスレッタには「あいつは他人を信用できないから大事なことは自分でやりに来る」「とどめを刺すときは必ず自分の手でやろうとする」と忠告しておいたが。

 何やら自分の想定外の方向に話が進んでいる気がする。

 

 

「なんなのよ!! こんな小っ恥ずかしい告白する前に勇気を見せなさいよあのバカ!!!」

 

 

 あらゆる意味で大惨事としか言い様がない状況の中、作業用防護服姿のミオリネ・レンブランは、画面の中の〈ミカエリス〉をにらみつけるのだった。

 年頃の少女の乙女心は複雑怪奇なのである。

 

 

 

 

 

 

 その告白を聞いていたグエル・ジェタークは、あまりにも大胆なその台詞に思わず口の端がつり上がるのが抑えられなかった。

 いけ好かないやつだと思っていた時期もあったが、中々どうして、意地を見せるじゃないか。

 正直、気に入った。

 

「はっ! あのシャディク・ゼネリがずいぶんと情熱的なことを言うなッ!!」

『シャディクやるぅ~!』

『これもう決闘に勝つ必要なくない?』

『真面目にやる! シャディクに花婿の座をプレゼントするってみんなで決めたでしょ!!』

 

 グエルの操縦するMSを囲むのは、三機の〈ベギルペンデ〉だ。

 十字型の大盾を装備しており、出力とパワーパックの容量に優れた大型のビームライフルで武装している。

 MSとしては運動性、出力、装甲いずれも高水準のハイエンド機種である。

 パイロットの質もいい。

 ランカーとしては一〇番台ながら、その一糸乱れぬ連携は手強く、こうして時間稼ぎに徹されるとやりにくいことこの上ない。

 あるいはこれまで、ランカーの順位すら偽装していたのではないかと思わせる強さだ。

 

 これに対してマゼンタ色に塗られたグエルの乗機――〈ディランザ・ルナ〉は、先日、ジェターク社から送られてきたばかりのテスト用MSであった。

 〈ディランザ・ルナ〉の売りとなるのは、〈ダリルバルデ〉の意思拡張AIを限定的に搭載、意思拡張AIによって制御されるシールドドローンである。

 あの伝説となった〈エアリアル〉と〈ダリルバルデ〉の一戦以降、ジェターク社の対スウォーム兵器技術は高く評価されている。

 それを現行機種である〈ディランザ〉に反映した〈ディランザ・ルナ〉は、まさに待ち望まれたMSなのである。

 実際に決闘で使ってきた感じでは、グエルとしても乗りやすいMSという印象だった。

 ジャミング対策で有線制御されるシールドドローンは、こちらの意に沿って自動的に動き、側面や後方からの攻撃も防いでくれる。

 わざわざ防御に意識を割かなくても、適切な防御行動を取ってくれる意思拡張AI――〈ダリルバルデ〉のデータが反映されていることもあり、〈ディランザ・ルナ〉は彼の操縦によく馴染んだ。

 

「だが、アンチドートはやはり不安だな! 速攻をかけさせてもらうぞッ!」

『させると思ってんのォ!?』

 

 一定の距離を保ってこちらに張り付いてくるイリーシャとメイジーに対して、新たに加わったレネ・コスタの操縦は荒々しく攻撃的だ。

 グエル・ジェタークの〈ディランザ・ルナ〉は、十字型の槍ビームパルチザンを片手に、ビームサーベルを抜いたレネの〈ベギルペンデ〉と激突する。

 今まさにビーム刃同士が鍔迫り合いに持ち込まれようとした瞬間、シールドドローンに先行入力していた動作の実行を命じる。

 刹那。

 〈ディランザ・ルナ〉の肩部に接続されていた巨大な盾が、レネ機目がけて射出された。

 

『はぁああ!?』

 

 それを最低限の身のこなしで躱すレネ・コスタ――回し蹴りの要領でシールドドローンを蹴り飛ばす。

 だが、その一瞬の隙があればグエルには充分だった。

 〈ディランザ・ルナ〉が踏み込む――ビームパルチザンを振りかぶって。

 一閃。

 

『しまっ……きゃああああああ!?』

「これで一機!」

 

 頭部と両腕を切断され、レネの〈ベギルペンデ〉が吹き飛ばされる。

 だが、代償は大きかった。

 これまで防御に徹していたからこそ、〈ディランザ・ルナ〉はイリーシャとメイジーの正確な射撃に持ちこたえられていたのである。

 シールドドローンの片割れを射出した隙を見逃す二人ではなかった。

 十字砲火。

 射出済みの左肩のシールドドローンが、付け根のワイヤーケーブルごと荷電粒子ビームに焼かれて脱落する。

 しかしその隙すらもグエルは織り込み済みだった。

 〈ディランザ・ルナ〉の背部に装備された二門の対空榴弾砲をセット、メイジー機目がけて発射。

 発射されたのはドローン撃墜用の対空マイクロ機雷――学園のレギュレーションでも認可されている範疇の実弾兵器――である。

 MSの重装甲を抜けるほどの威力はないが、その爆発がもたらす衝撃と熱によってドローン兵器を無効化するのを目的にしている。

 当然のことながら、その爆発は目潰しとしても使えた。

 ホバー推進を活かして一息に突っ込む。

 

『きゃあああぁああ!?』

「二機目!!」

 

 元々、盾が欠損していたこともあり、動きがわずかに鈍かったメイジー機を狙った斬撃。

 それは正確に〈ベギルペンデ〉の右腕と両脚を切り裂いていた。

 直後、被弾した。

 ビームライフルによる狙い撃ち。

 シールドドローンを喪失していた左腕が、付け根から千切れ飛ぶ。

 

『メイジー! このっ、よくもぉ!!』

 

 ぐるん、と反転して最後の敵に向き合う――機体の損傷具合からして、〈エアリアル〉の救援に行けるかは大いに怪しい。

 俺もまだまだ鍛錬が足りないな、と嘆息。

 あるいは〈ダリルバルデ〉ならば一蹴できたのかもしれないが、無い物ねだりしても仕方ない。

 今のグエルにできるのは、一機でも多くの敵を道連れにして、スレッタの負担を減らすことだった。

 リーダー機である彼女さえ生き残っていれば、いくらでも勝負はやりようがある。

 シールドドローンを前に突き出して、推力を全開にして〈ベギルペンデ〉に襲いかかる。

 打って変わって攻撃的な戦闘機動になったグエルに、イリーシャは一瞬、戸惑った。

 その一瞬さえあれば、グエルには充分だった。

 我に返った〈ベギルペンデ〉がビームライフルを捨ててビームサーベルを抜いた。

 交錯する両機。

 

 

――グエル機のビームパルチザンが敵の上半身を切り飛ばして。

 

 

――イリーシャ機のビームサーベルが〈ディランザ・ルナ〉の脚部を切り裂いた。

 

 

 倒れ込む重MS〈ディランザ・ルナ〉。

 その衝撃に耐えながらグエルがうめくように呟いた。

 

 

「すまん、足をやられた……あとは任せたぞ、スレッタ・マーキュリー」

『任されました!!』

 

 

 こうして四機のMSが集団戦から脱落した。

 

 

 

 ◆

 

 

 

『レネ、メイジー、イリーシャ! ……グエル、やってくれるじゃないか』

『シャディク、私たちだけでも』

『仕掛けるぞ!』

 

 〈エアリアル〉のコクピットの中で、スレッタ・マーキュリーの胸は弾んでいた。

 

 

――すごい、すごい、すごい!

 

 

 誰もが持てる技のすべてを使って、戦っていた。

 なのに、そこに憎しみはない。怒りはない。

 これが決闘という見世物(ショウ)ならば、スレッタはその楽しさをいつまでも味わっていたいと思う。

 それが絶対王者の傲慢だとわかっていながら、少女は一途にそうこいねがう。

 今のスレッタ・マーキュリーには、すべてが見えていた。

 いつ、どこから敵が来るのか、自身を中心とした三六〇度、地面の下以外のすべてが知覚されている。

 

 

――スレッタ、右から来るよ。

 

 

 エリクトからの警告が聞こえる頃には、そちらの方向に一瞬だけバリアを展開し終わっている。

 荷電粒子ビームを弾きながら、今の射撃をしたMSのパイロットを意識する。

 エナオ・ジャズの〈ベギルペンデ〉――物静かだけれど、しっかりとした意思の強い操縦をする人だった。

 堅実で隙がなくて、遊びのないMSの動かし方。

 ああ、すごくいい。

 スレッタはにんまりと笑って、〈エアリアル〉を疾走させた。

 

『エナオ!!』

 

 シャディクとサビーナのMSがビームを放ち、エナオ機に接近するスレッタを牽制する。

 だが、たとえ真後ろからの射撃だろうとスレッタには見えている。

 難なくそれを躱して、右腕に握ったビームライフルに銃剣ガンブレイドを展開――後退しながらビームサーベルを抜刀するエナオの〈ベギルペンデ〉。

 

『なんなの、あなた……気持ち悪い操縦……!!』

「ちょっと傷つきましたっ!」

 

 すれ違い様に〈ベギルペンデ〉右腕を切断。

 ビームサーベルを握った右腕が地面に落ちるよりも早く、その両脚を背後から撃ち抜いた。

 これでシャディク陣営の脱落者は四機目。

 

『すまない……シャディク』

 

 崩れ落ちるエナオの〈ベギルペンデ〉――猛然とビームライフルを撃って牽制に努めるサビーナ機。

 その弾幕すべてをステップするようにしてギリギリで躱し、最短距離で接近して。

 蹴り飛ばした。

 

『ぐうううぅう!?』

『サビーナッ!!』

 

 吹き飛ばされ廃ビルの壁面に叩きつけられるサビーナ機。

 〈エアリアル〉に向けてビームマシンガンを連射する〈ミカエリス〉――互いの距離が縮まった瞬間、白騎士は左手のジャベリンブレイサーを再び射出。

 弧を描くようにして側面から襲いかかってきた実体槍が、〈エアリアル〉のビームライフルを刺し貫いた。

 爆発。

 瞬時に武器を手放したガンダムは、まるで人間そのものの動きで右側のビームサーベルを抜刀。

 ジャベリンブレイサーを蹴って加速、加速、加速。

 まるで踊るように宙を舞って、〈エアリアル〉が飛翔する。

 それはまるで白亜の妖精。

 

『まだだ……俺は負けられないッ!』

 

 ジャベリンブレイサーの隠し武器であるナイフを引き抜き、右腕のビームブレイサーを展開、ビームキャノンをチャージする〈ミカエリス〉――地面を蹴って推進器を噴射、大型MSが飛び跳ねる。

 〈エアリアル〉の左腕のビームサーベルが振るわれ、ビームブレイサーが右腕ごと切断される。

 それでも彼は諦められなかった。

 王冠に手を伸ばすように、シャディク・ゼネリの〈ミカエリス〉はナイフを握って左腕を伸ばして――

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()!!!』

 

 

 

――横凪ぎに振るわれたビームサーベルが、〈ミカエリス〉の頭部をブレードアンテナごと消し飛ばしていた。

 

 

 

 そして。

 シャディク・ゼネリの激情に満ちた操縦を思う存分、堪能しながら、スレッタ・マーキュリーは晴れやかな笑顔を浮かべるのだった。

 

 

――WINNER

 

 

 少女はコンソールに浮かんだ決闘勝者の証を眺めてご満悦である。

 むふーっと満足げなため息。

 

「わたしの勝ちです」

『…………ちょっとは容赦してくれてもいいんじゃないかな、水星ちゃん……』

 

 未練がましいシャディクの言葉を、スレッタはバッサリと切り捨てる。

 

「ミオリネさんには気持ちが伝わってますよ、あっ……」

『水星ちゃん?』

「あの……ミオリネさんが電動車両(ビークル)に乗って近づいてきてます……」

『えっ』

 

 

 

 

 

 

 片膝をついたミカエリスを降りて、地面に足をつけたシャディク・ゼネリを待ち受けていたのは、分厚い作業用防護服を着込んだミオリネ・レンブランだった。

 ずかずかとこちらに近づいてくるミオリネは、そんな野暮ったい服を着ていてなお、やはり美少女だった。

 この廃墟のバトルフィールドは危険だから、早く帰るように声をかけようとした刹那。

 ぱぁん、といい音が響いた。

 頬に走った衝撃と痛みに、自分がビンタされたのだと気付くまで五秒ぐらいかかった。

 

 

 

勇気出すタイミング間違えてるでしょ、このバカ!!

 

 

 

 そう叫んだミオリネの頬は真っ赤で、恥ずかしさと怒りとうれしさで感情が高ぶりすぎて目に涙がにじんでいた。

 ミオリネは衆目を意に介さず、幼馴染みの遅すぎる告白にキレ続けた。

 

「遅いのよ、言うのが!!!」

「ミオリネ……」

 

 そしてシャディクが二の句を継げる前に、電動車両に乗り込んで。

 

 

「――帰る!!!」

 

 

 ミオリネ・レンブランは嵐のように去って行った。

 その一連の光景を、中継用撮影ドローンは太陽系全域にパーメット通信で生中継していた。

 青春である。果たして振られたのかどうかすらわからないやりとりである。

 美味しすぎた。

 この壮大な告白劇のオチは、動画配信サイトで何百万回も再生される人気コンテンツになるのだが――それはさておき。

 

 

――シャディク・ゼネリは呆然と戦術試験区域に立ち尽くしている。

 

 

 そんな二人のすれ違う純情を横に、あわわわ、と慌てているスレッタ・マーキュリーは、自分に近づいてくる人影に気付いた。

 足音だけで誰かわかった。

 グエル・ジェタークだ。

 

「グエルさん!」

 

 振り返って弾むような笑顔を向ける。

 グエル・ジェタークは妙に緊張している様子で、少女に近づくと開口一番、こう言った。

 

「約束。覚えているか?」

「決闘に勝ったら何でも言うことを一つ聞く、ですよね。はい!」

「あ、ああ……それで、だな」

 

 沈黙。

 果たして何秒間、彼は押し黙ったろうか。

 五秒か、一〇秒か、二〇秒か。

 長い長い沈黙の末、冷や汗をだらだら流しながら、グエル・ジェタークはその言葉を口にした。

 

 

 

 

「――スレッタ・マーキュリー、()()()()()()()()()

 

 

 

 

 それはいろんな意味で後戻りが利かない魔法の言葉だった。

 

 グエル・ジェターク一八歳。恋愛経験なし。

 人生で生まれて初めて、好きな子をデートに誘うという経験をしていた。

 二人の背後では、〈エアリアル〉から古いアニメソングが流れ始めている。

 三角関係の恋愛(トライアングラー)を歌った歌詞は、()()()()()()()()()()()と主人公に問いかけている。

 もちろん状況に流れてばかりのスレッタ・マーキュリーに、持ち合わせている答えなどないのだけれど。

 

 

 

「ほわぁ!?」

 

 

 

――生まれて初めてデートに()()()()ことに気付いて。

 

 

 

――スレッタの間抜けな声が、空しく宙に木霊した。

 

 

 

 

 




・〈ディランザ・ルナ〉
〈ダリルバルデ〉のドローン技術を応用、意思拡張AIの限定搭載に成功した〈ディランザ〉の改修機。
シールドドローンとバックパックの対空榴弾砲を意思拡張AIで制御する。
攻撃型の〈ディランザ・ソル〉に比べて対ドローン防御に性能が振られており、ジャミング環境下でも有線接続されたシールドドローンを運用可能。
対空榴弾砲は〈エアリアル〉のガンビットとの交戦データから開発されており、爆発の衝撃での軽装甲目標の撃墜を目的としている。
〈ダリルバルデ〉の活躍を受けて、そのデータを元にジェターク社が開発したプロトタイプであり、学園でのデータ収集のためグエルに引き渡されていた。


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