キラキラと星が瞬く
機種はいずれも〈ベギルペンデ〉。
紫色と黒色で塗られた機体は、それらがスペーシアン企業体ベネリット・グループの監査組織カテドラル直轄の特殊部隊だと示している。
制御AIによる自動操縦での慣性航行――四機すべてが一つの生き物のようにぴったりと張り付き、盾を構えて移動。
ドミニコス隊ルーク小隊の任務は、不審な物資の流れから特定された地図に載っていないフロントへの強制執行――立ち入り検査であった。
慣性航行の長すぎる移動時間の間、短距離用のレーザー通信で話すのはやくたいもない雑談だ。
今の話題は彼らの愛すべきプリンセス、スレッタ・マーキュリーのことである。
『そういえばお嬢はどうしてるかな――デリング総裁の隠し子とかいう与太話がマジで広まってるのはどうかと思うが』
『お嬢の妾の子の噂の発端はお前だぞルーク1。正直言って最悪だな、死んだ方がいい』
『ルーク3、アレは仲間内の軽い冗談だったろうが。外にお漏らししたバカが悪い』
『ルーク1、お嬢が気にしてなかったからいいようなものですが、普通は思春期の女の子は傷つきますよ?』
仕事の時間がやってくる前は緊張を解いてリラックスするのも、彼らの仕事だった。
どのみちMSのOSに組み込まれている制御AIが予定座標への到着を知らせるまでは、彼らにやるべき仕事はほとんどない。
こんな状態でも、万が一の緊急警告が鳴れば即座に戦闘態勢に移行できる。
彼らはプロだからだ。
『ルーク1、ルーク3、ルーク4。おしゃべりがすぎないか?』
ルーク2からの苦言に肩をすくめて、ルーク1が話題を切り替えた。
『お嬢……スレッタと言えば、例の動画は見たか?』
『ええ、株式会社ガンダムですか』
『すげえネーミングセンスだよな、安全安心のガンダムって異次元の発想だぜ?』
『俺たちが命懸けで戦ってる相手とは別ものの新型GUNDフォーマットだとよ。お偉いさんは考えることが違う』
スレッタ・マーキュリーのMSがガンダムだったと知らされても、驚くような隊員はドミニコス隊にはいない。
あれだけ隔絶した運動性能のMSである。何かしらの秘密があると思うのが普通だし、それが総裁肝いりの新兵器で新型GUNDフォーマット使用のMSなのだと言われれば「ああ、なるほどね」と思うのが人情だった。
何よりあの機体に害がないのは、健康体そのもののスレッタ・マーキュリーを知っていれば誰だってわかる。
『決闘の動画も凄まじかったぞ。お嬢の戦いぶりたるや鬼神のごとし、だ』
『グラスレーの坊主は可哀想だったよな、あんな情熱的な告白してるのにボコボコにされてよ』
『そんなことよりお嬢がジェタークの御曹司に告白されてた方が大事だろ』
『青春してますよね』
『お嬢にはああいうのが似合うさ。こっちには戻ってこない方がいい』
『寂しくなるな』
『なんだ、ロリコンかルーク2。せめてあと三年は待ってから口説けよ』
『バカを言うなルーク1、俺は年上好きなんだ』
スレッタはみんなにとっての妹分だから、もし本当に口説こうとする馬鹿がいたら五秒であの世に送られるのは想像に難くない。
与太話をし終えた頃、制御AIが目的地の座標に着いたことを知らせてきた。
眼前にある巨大な岩塊――廃棄された資源衛星とその採掘基地の跡地が、問題の目的地だった。
文字通り巨大な鉱物資源の塊と、その表面に張り付くように設営された採掘基地があるだけの
そこは本来、ベネリット・グループが一〇年以上前に放棄した場所なのだが、最近、不審な物資の流入が見受けられたためにドミニコス隊が呼び寄せられていた。
企業軍のセキュリティフォースではなく、彼らが投入されたこと自体、これがガンダム案件である可能性を匂わせていた。
『さて、ルーク小隊各員。これより我々はベネリット・グループの廃棄した資源衛星フロントへの強制執行を開始する。我々の存在は電子戦システムがセンサーから隠してくれているが、内部への進入までは推進装置の使用は最低限とする――ここまでは覚えているな?』
『ブリーフィングの繰り返しか、ルーク1』
『繰り返しは勉強の基本だぞ、ルーク3』
『ではルーク1とルーク3を前衛に、ルーク2とルーク4を後衛に。手はず通りだ、ここからはスピード勝負になる』
了解、の返答と同時に四機のMSは一斉に推進器を噴かして、眼前の資源衛星フロントに接近した。
基地の人工物が間近になると同時に四機は一斉に逆噴射、制動しながら物資搬入用のゲートに着地。
機密性を重視したのか、基地に設置されているセキュリティは最低限のもののようだ。
だが、動力炉の火を落とされてから一〇年経っている資源採掘基地とは思えないほどに――この施設は
〈ベギルペンデ〉に搭載された攻撃的電子戦システムが、レーザー通信で機能する出入り口を見つけてクラッキングを仕掛ける。
グラスレー・ディフェンス・システムズ製のクラッキングAIを積んだ電子戦ポッドが、システムを乗っ取って解錠するまでの時間はわずか三〇秒だった。
震動。
物資搬入用ゲートが開いていく。
大盾を構えた前衛の〈ベギルペンデ〉二機――いずれも武装には銃剣付きのビームライフルを選択――が、基地の物資搬入路へ飛び込んだ。
敵影はない。
だが、物資搬入路には真新しい輸送船が停泊していた。
とても一〇年間、放置されていたようには見えない船――船体識別番号を記録しておく。
『当たりだ。各員、戦闘態勢のまま突入するぞ。ルーク4、ドローンを飛ばしておけ』
『了解』
ルーク4の〈ベギルペンデ〉のバックパックからカプセル型のドローンが分離し、推進炎と共に飛び立った。
これでこの座標に未知の勢力が根を張っていたこと、使用されていた輸送船の船体識別番号を本隊に報告できる。
最悪、彼らが全滅しようとこの二点がわかっていれば無駄足にはならない。
全員が淡々とそれを理解し、行動する。
プロだからだ。
『ドローン射出完了。二〇〇分前後で母艦の回収コースに入ります』
『了解。ルーク2、システムをハックしろ』
『了解』
後衛のルーク2とルーク4の〈ベギルペンデ〉――こちらは大容量パワーパックの大型ビームライフルを装備――が、前衛の二機に続いて搬入路に侵入する。
侵入した採掘基地のシステムを使い、電力の流れから生きている区画を割り出す。
警報が鳴る様子はなかった。
おそらく施設が生きていること自体を外部に悟られないため、自動化されたセキュリティ以外は最低限の人員で運営されている施設なのだろう。
秘匿性という意味では確実な方法だが、こうして内に入り込まれると脆いやり方だ。
『マッピング完了。九〇〇メートル先に稼働中の施設があります』
『踏み込むぞ。いつでも撃てるようにしておけ』
ルーク小隊の目的は、この資源衛星フロントの奥で行なわれている何らかの活動ないしその痕跡を確認し、報告することだ。
それがカテドラルの協約に違反する研究や反社会的活動であるならば、直ちに本隊が駆けつけ、この施設を制圧する――そういう手はずになっている。
ルーク小隊のMS四機が、推進器を噴かして前進。
照明のついている通路は大きく、全高一八メートルの巨人であるMSが楽々と通れてしまうほど広い。
明らかにMSか、それ以上に巨大な何かの移動を前提に拡張された通路だった。
資源採掘基地の本来のスケール感ではあるまい、と判断しながら四機の〈ベギルペンデ〉が通路を進む。
そして。
通路を進んだ先には、巨大なゲートがあった。
縦横それぞれに幅四〇メートル以上はあろうかという扉である。
艦艇でも建造しているのかと思いたくなるが、造船所にしては設備が足りない。
一体、どんな場所なんだ、ここは――小隊長であるルーク1は内心で毒づきつつ、指示を出した。
『内部を撮影後、全速力で離脱する。敵対勢力と思しき機影への発砲を許可する。ルーク2、開けろ』
『了解……アンロックまで二〇秒』
ゲートが開いていく――ここが気密されていれば、音を立てて開いたかもしれない。
開ききった扉の中にルーク1とルーク3の〈ベギルペンデ〉が飛び込むと、そこにあったのは広々とした空間だった。
おそらく資源採掘によって掘り抜かれた空洞を補強し、何らかの格納庫ないし試験場に転用した思しき施設。
その中心に座しているのは――
――
それを目にしたルーク1の感想は、おおよそ軍事作戦の最中に思い浮かべるようなものではなかった。
まるでファンタジーゲームに出てくる幻想生物のような巨体が、小惑星をくりぬいた広大な空間に座している。
それはモビルスーツと呼ぶにはあまりに大きすぎた。
二対四本の手足から辛うじて人型機動兵器と識別できるような特徴があるものの、体型は真っ当な人型からかけ離れている。
身長も肩幅も〈ベギルペンデ〉の二倍はあろうかという巨躯に加えて、その背中には四つのユニットが連結して構成された翼のようなものが生えている始末だ。
その長い首の先端、頭部と思しき場所に
『撃て!!!』
ビームの閃光。
ショートバレル二門とロングバレル二門、合計で四門の砲口から荷電粒子ビームが投射された。
超高速で発射された莫大なエネルギーの塊が、異形の巨躯へと突き刺さり――霧散。
機械仕掛けの竜の翼がうごめいた瞬間、何らかの
『離脱するぞ!!』
『『『了解!』』』
機体の推進装置を全開にして反転、全速力で資源採掘基地の通路をとって返す。
背後から凄まじい熱源反応。
カメラを見れば、あの巨体が急加速しながらこちらを追ってくるのがわかった。
丸っきりホラー映画の化け物に追われているような気分――ドラゴンもどきがその両手の指をこちらへ向けてきたとき、ルーク1は嫌な予感がした。
『防御態勢!』
全員のMSが再度、反転し左腕で保持した大盾を構える――〈ベギルペンデ〉の大型シールドは、単純にその強度だけでも並みのモビルスーツのそれよりも優れている。
次の瞬間、一対二本の腕の五指――合計で一〇門の砲口から、極太のビームキャノンが吐き出された。
『――ッ!!』
あるいはここが狭い通路でなければ回避の余地もあっただろう。
だが四機のMSが回避運動を取るには、この基地の通路は狭すぎた。
結果、まともに一〇発のビームキャノンを浴びせられた〈ベギルペンデ〉部隊――その前衛二機の大盾が砕け散り、左腕部が衝撃でもぎ取られていく。
後衛の二機を庇ったことで集中砲火を浴びて、シールドの対ビームコーティングが耐えきれず物質的に盾が崩壊したのである。
推進器を噴かして姿勢制御。
物資搬入路のゲートから外の宙域に飛び出すと、そのまま減速せずに後退するよう、無傷の二機へと指示を出す。
片腕をもぎ取られたルーク1とルーク3の〈ベギルペンデ〉は、すでに決死の覚悟であった。
『ルーク2、ルーク4! 後退してこのデータを射出しろ!!』
『了解!』
『……了解』
あとの指揮はルーク2が引き継ぐ。
部隊の全滅だけは防がねばならない。
『ルーク3、ルーク1のお供をします』
『背中は任せたぞ』
ゲートから化け物が飛び出してくる。
右腕に保持したビームライフル――ジェターク社の出している銃剣付きのビームライフルだ――からビーム刃を展開すると、二機の〈ベギルペンデ〉は猛然と迫り来るドラゴンもどきに向けて突撃を仕掛けた。
敵が何らかのバリアでビームライフルを防ぐならば、至近距離からビーム刃を叩き込むまでである。
強力な電磁場によってビーム刃を形成しているビームサーベルは、ビーム砲をねじ曲げるほどの電磁障壁であろうと貫通して攻撃を通すことができる。
彼我の速度が合わさり、凄まじい相対速度ですれ違うドラゴンもどきと二機の〈ベギルペンデ〉――交差する瞬間、巨獣の指が全長二〇メートルはあろうかというビーム刃を五本展開。
横凪ぎに振るわれたそれが、ルーク3の〈ベギルペンデ〉を飲み込み、バラバラに引き裂いていくのをルーク1は間近で見た。
『うおおおおぉおお!!!』
ルーク3だった残骸が爆発を起こすのを横目に、ルーク1の〈ベギルペンデ〉はビーム刃で斬りかかり――刹那、巨大な尾によって機体を両断された。
何が起きたのか理解できないまま、衝撃と機体の爆発に飲み込まれ、ルーク1の肉体は焼け焦げた肉片と成り果てる。
脳組織が粉砕される刹那、彼が思考したのは、スレッタ・マーキュリーに妾腹の子の噂のことを謝り損ねたな、という未練だった。
閃光。
爆砕されたMSが光の球体となって弾け飛ぶ。
二機の〈ベギルペンデ〉を瞬く間に破壊したドラゴンもどきは、離脱していく二機の〈ベギルペンデ〉を追撃。
『ルーク4、ドローンは射出したな!?』
『はい、ルーク2。逃げ切れそうにないですね?』
『ドローンから気を逸らすぞ、ビームサーベルを使う!』
ルーク2とルーク4の〈ベギルペンデ〉がビームサーベルを抜刀し、光刃を振り抜いて敵機に斬りかかる。
ドラゴンもどきの巨体が加速を続けながら、その長い首を〈ベギルペンデ〉に向けたかと思うと――銃火、銃火、銃火。
頭部に備え付けられた合計六門のビームマシンガンが、恐るべき密度の弾幕を展開。
荷電粒子ビームのペレットが嵐のように吐き出され、光弾が視界を埋め尽くすようにばらまかれる。
そのすべてをシールドで受け止めながら突進、ルーク2とルーク4の〈ベギルペンデ〉がビームサーベルで斬りかかった――その盾ごと二機のMSが粉砕される。
絶大な破壊の嵐、掃射されるビームキャノン。
『ぐ、がっ』
『――あっ』
ドラゴンもどきの二本の腕から放たれるビームキャノンの雨が〈ベギルペンデ〉二機を跡形もなく消し飛ばすのに時間は要らなかった。
爆発、爆発。
その閃光を浴びながら、ドラゴンもどき――〈ニーズヘッグ〉は産声をあげる。
この世界により多くの死と破壊をまき散らす怪物は、憎悪に駆られる少女を心臓にして。
自身の誕生を祝福していた。
◆
三時間後、ドミニコス隊のMS運用母艦によって回収された二機のドローンには、停泊中の輸送船の船体識別番号と未知のガンダムの映像が収められていた。
本隊が現場に急行した頃には、資源採掘基地は証拠隠滅のため破壊され尽くしており、もぬけの殻だった。
その後、発見された残骸からドミニコス隊ルーク小隊全員のKIA(作戦行動中の死亡)が確認された。
輸送船の船体識別番号を照会した結果、該当する船はラグランジュポイント1のとある民間企業が所有しているものと判明した。
――集められた情報はこの企業そのものが活動実態のないペーパーカンパニーの可能性を示唆。
――その後の輸送船の足取りは現在も追跡調査中である。
某アレサとかTR-6ギガンティックアームユニット形態みたいなブツ>ニーズヘッグ
あるいは30MMのプロヴェデルあたり。