ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタの仲間がガンダムの勉強をするだけの話

 

 

 地球寮の一室。

 会議室として拡張されたMSハンガーの一角、プレハブの建屋に地球寮のメンバー以下、株式会社ガンダムの関係者が勢揃いしていた。

 他寮の寮長であるエラン・フォースとシャディク・ゼネリも出席しているし、アドバイザーとしてベルメリア・ウィンストンも来ている。

 そんな彼らの視線を集めるのは奇妙な空中浮動型ドローンだった。

 極度の秘密主義者、ルイ・ファシネータの代理たるドローンは、シン・セー開発公社の企業ロゴを立体映像で投影しながら口上を述べ始めた。

 

 

『――皆様、お集まりいただいてありがとうございます。本日は弊社、シン・セー開発公社のルイ・ファシネータがガンダムについて解説致します』

 

 

 その発言に続いて、株式会社ガンダムの社長であるミオリネが口を開く。

 

「ルイ代表、本日はお忙しいところありがとうございます」

『いえいえ、株式会社ガンダムの事業が上手く行くことは我々にとってもプラスですから。むしろ最重要事項です、お気になさらずミオリネ代表』

 

 あくまであなたと私は対等なのですという口調でその実、目に見えない恩を売られている感じ――ミオリネはますます、ルイ・ファシネータという男はやりづらいタイプだと認識する。

 韜晦した胡散臭い話法はシャディクにも似ているが、あちらと違って可愛げがない。

 徹頭徹尾、胡散臭いのである。

 シャディクが聞いたら泣きそうなことを考えていると、ルイが話始めた。

 

『まず皆様はガンダムとGUNDフォーマットについてどの程度、ご存じでしょうか?』

「……協約で開発が禁止されてて、乗ると死ぬ呪いのモビルスーツ?」

「人間の神経組織では耐えられないデータストームのフィードバックで、人を死に至らしめるBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)の一種……です」

 

 メカニック科のヌーノとニカがそう答えると、ルイは満足そうな声を漏らした。

 

『お二人とも、忌憚ないご返答ありがとうございます。お二人の発言通り、ガンダムとはいずれパイロットを死に至らしめるMSであり、それはGUNDフォーマットにデータストームという致命的な欠陥があったためです。これは元々、医療用サイバネティクスだったGUNDを、一八メートル級の機動兵器を動かすインターフェースとして流用した弊害ですね』

「……」

 

 ルイ代表の発言を気まずそうに聞いているのは、ベルメリア・ウィンストンだ。

 現在はアスティカシア高等専門学園の来客用の宿泊施設に寝泊まりしている彼女は、自分の知らないGUNDフォーマットの関係者だというルイ・ファシネータを警戒している様子だった。

 そんな彼女の視線を気にも留めず、ルイ・ファシネータは面白おかしく説明を続ける。

 

『さて、このデータストームを克服した〈エアリアル〉ですが――結論から申し上げれば、ブラックボックスになっている内部の構造(コンポーネント)部分では従来のGUNDフォーマットと大きな違いはありません』

「ちょ、ちょっと待ってください、それはどういう――」

 

 いきなりの爆弾発言にミオリネ・レンブランは慌てた。

 何せ、ペイル・スキャンダルのような非人道的なペテンが明らかになったばかりのご時世である。

 これで株式会社ガンダムの前提である人道的なGUNDフォーマットまで虚偽だったなら、ミオリネのやってきたことはすべて無駄になってしまう。

 そんな彼女の慌てように目を丸くして――わざわざドローンのモニターに目を丸くするアニメーションまで出してみせた――ルイ・ファシネータが発言を訂正する。

 

『おっと、驚かせてしまいましたか、ミオリネ代表。もちろんこれには理由がありますし、〈エアリアル〉が無害な新型GUNDフォーマットというのも嘘ではないです。むしろ現在、呪いのモビルスーツ……ガンダムの根源として知られているGUNDフォーマットこそ、当初の完成予想図からほど遠い欠陥品なのです』

 

「……未完成、ってことですか?」

 

 ニカがそう尋ねると、ルイは嬉しそうにうなずいてみせた。

 ドローンのくせにやたらと器用なやつである。

 

『その通りです、ニカ・ナナウラ様。〈エアリアル〉の新型GUNDフォーマットは、設計当時の理想をようやく実現したモデルということになります。ヴァナディース事変より前、GUND研究者たちはとある研究をしていました。データストームを完全に無害化できる究極の汎用AI――パーメットAIと呼ばれるものを開発し、データストームと人体の間の架け橋にしようとしたのです』

 

「それは、私も聞いたことがある研究だわ。当時、私たちGUND研究者全員の師匠というべき人……カルド・ナボ博士が進めていた計画よ。でも起動試験が上手く行かないままだった、と聞いているわ……」

 

『ベルメリア・ウィンストン女史、ご説明ありがとうございます。結局、ヴァナディース事変までパーメットAIの起動は上手く行きませんでした。その後、この研究を引き継いだのが、今は不在のスレッタ・マーキュリーさんのご母堂プロスペラ・マーキュリー氏でした。彼女の研究成果が、今のシン・セー開発公社のガンダム開発の基礎になっています』

 

 今はもう亡くなっている人物の業績をたたえる言葉に、ベルメリアがうなずいた。

 

「……そういうこと、だったのね」

 

 エルノラ・サマヤとプロスペラ・マーキュリーが同一人物だとわかっているからこそ、ベルメリア・ウィンストンにはこの説明がしっくりきた。

 師が果たせなかった研究を引き継ぎ、LF-03を起動にまでこぎ着けた――如何にも、情熱と執念の人であるエルノラ・サマヤらしい生き様だった。

 説明に仕込まれたペテンに気付かないまま、彼女はまんまと騙されている。

 

「つまりそのパーメットAIが、〈エアリアル〉には積み込まれているんですね?」

『ええ、〈エアリアル〉とそれ以外のガンダムのGUNDフォーマットを隔てているのは、このパーメットAIの有無です。いわば新型GUNDフォーマットとは、旧型GUNDフォーマットに欠けていた最後のピースを付け足した完成品と言えるでしょう』

 

 なるほど、とその場の全員が納得しかけたとき。

 意外な人物が手を上げて発言を要求した。

 

『おや、エラン・フォース様。どうなされましたか』

「……その説明では説明しきれないことがあるね」

 

 そして。

 良くも悪くも天然ボケでつかみ所のない人物像が知れ渡ってきた少年の発言に、誰もが息を呑んだ。

 

 

「僕は新型GUNDフォーマット――アミュレット・システムを使ったことがある」

 

 

 

 

 

 

「エラン!? ちょっと待って、そんなの一度も――」

「黙っていたからね、今まで」

 

 涼しい顔でミオリネにそう言ってのけると、エランはルイ・ファシネータのカメラアイをじっと見つめた。

 

「スレッタ・マーキュリーとの決闘のとき、僕は謎の人物からアミュレット・システムを提供され、言われるがままに〈ファラクト〉にインストールしたんだ。そうしたら、パーメットスコアを上げても後遺症なく、こうして無事に過ごせている。確かに効果はあったんだ、でも……そのパーメットAIっていうのは、メカニックの素人のパイロットが、データチップ一つでインストールできるようなものなのかい?」

 

「エラン、あんた……」

 

「アレがなければ今頃、僕は神経組織を焼き切られて廃人になってたと思う。それは感謝してる」

 

 それは明らかに人体実験の類の香りがするシチュエーションだった。

 ミオリネはルイ・ファシネータをにらみつけた。

 

「どういうことですか、ルイ代表。まさか、エランを使って――」

 

『試供品を提供したのは事実です。当時、我々はすでにペイル・テクノロジーズのスキャンダルの一部を掴んでいました。そこで重大な証人である彼の生存を意図し、アミュレット・システムの提供に踏み切ったのです。もちろん実戦での運用データ欲しさだったのは否定しませんが――結果としてスレッタ・マーキュリーがそれと知らずに我々の意図を拾ってくれた形になりますね』

 

 スレッタは利用されたのだ、とミオリネは直感する。

 あるいはエランとの決闘自体、この男が何か吹き込んだのではあるまいか。

 そのようにミオリネが考えているのを余所に、エランはマイペースに自身の疑問を口にした。

 

「それで、アミュレット・システムというのは、どんな仕組みなのか教えてくれますか?」

『いいでしょう、エラン・フォース様。実際にご使用いただいたあなたには、我々としても説明する義務があります』

 

 ルイ・ファシネータのドローンが、新たな立体映像を投影する。

 そこに映っているのは、俗に〈ルブリス量産試作型〉と呼ばれるガンダムだった。

 二一年前、ヴァナディース事変が起きるきっかけとなった呪いのモビルスーツである。

 

『そもそも現存するほとんどのガンダムは、すべて〈ルブリス〉と呼ばれるMSのGUNDフォーマットを搭載しています。〈エアリアル〉と〈ファラクト〉も、そういう意味では親である〈ルブリス〉から派生した兄弟のようなものですね。GUND技術者がほとんどいなくなった現在では、二〇年以上前に設計されたコンポーネントを流用するしかないからです。機体のフレームが別物だとしても、機体の制御システムの中枢は同一機種のものを用いている。ここまではよろしいですか?』

 

「ええ、ルイ代表」

 

『結構。さてエラン様のご指摘通り、パーメットAIは簡単に複製できるものではありません。専用の記憶領域を用意した上で、高度なAIを育成して初めて使い物になるからです。〈ファラクト〉のように旧型GUNDフォーマットに最適化されたマシンに、パーメットAIを後付けするのは不可能でした。そこで我々が開発したのがアミュレット・システム――その機能はパーメット通信を介したネットワークの確立、パーメットAIとの接続権限の付与です』

 

 投影される立体映像が切り替わり、MSと人体の間をデータストームの嵐が飛び交うアニメーションが挿入された。

 これをフィルタリングする装置としてパーメットAIが投入され、情報の嵐が浄化される様子が描かれる。

 

『これはパーメットの情報同期――どんなに距離が離れていようと同じ形質に同調する性質を利用して、遠隔地にあるパーメットAIサーバーと、アミュレット・システム搭載機を接続する仕組みです。言ってみればデータストームという汚水に、パーメットAIサーバーというフィルターを噛ませるわけですね。従来であれば直接、パイロットに流し込まれていたデータストームを転送後、最適化された情報量に調整して再転送しているわけです』

 

 

 

旧型GUNDフォーマット

【MS】→【データストーム】→【パーメットリンク】→【人体】――――――――――――――と書かれた図が差し替わり、

 

新型GUNDフォーマット

【MS】→【データストーム】→【転送】→【パーメットAI】→【再転送】→【人体】――――と表示される。

 

 

 

「……MSの制御に必要なほどの膨大な情報を、瞬時に遠隔地と通信でやりとりするなんて……遅延がなかったっていうんですか?」

 

 確かに人類の宇宙進出を支えたのは、タイムラグのない超光速通信を可能とするパーメットの利用だったが、それをMSの制御において一々、利用するというのは想像の埒外の発想である。

 言われてみれば基礎技術そのものは確立されているが、パーメットAIというパラダイムシフトなしには無駄が多すぎるのだ。

 ベルメリア・ウィンストンからの質問に対して、ルイ・ファシネータは饒舌だった。

 どこか自慢げですらある。

 

『その鍵となる超密度情報空間を利用した超広域パーメット通信こそ、プロスペラ・マーキュリー女史が残した最も偉大な知見と言えるでしょう。〈ファラクト〉の場合、〈ルブリス〉の亜種であり、コンポーネントが我々の知る実験機と同一のものなのが幸いしました。結果としてフィルタリングは成功し、こうしてエラン・フォース様は生存しています。我々はすでに〈エアリアル〉のデータを元にして、パーメットAIサーバーの開発に成功しています。新型GUNDフォーマットとは、いわば、アミュレット・システムとパーメットAIによるネットワークの総称と言えるでしょう』

 

「お話を伺う限りでは、新型GUNDフォーマットにも二種類あるように見受けられますが、そちらの分類はどうされているのでしょう?」

 

 ミオリネ・レンブランがそう尋ねると、ルイ・ファシネータはよどみなくこう答えた。

 

 

『我々は便宜上、〈エアリアル〉のようなパーメットAI搭載型をガーディアン・タイプ、アミュレット・システム搭載型をコントラクト・タイプと呼んでいます』

 

 

守護者(ガーディアン)型と契約(コントラクト)型、ですか」

 

『少々オカルトじみた物言いですが、GUNDの呪いなどという観念にはよく馴染む発想だと思いませんか?』

 

 あまり趣味がいい呼び方ではないな、とミオリネは感じた。

 その呪縛によって苦しみ、血まみれの手で生きている少女を知っているから、なおのことそう思ってしまう。

 愛想笑いを浮かべる彼女の姿に気付いたのか、ルイ・ファシネータはそのものズバリな問いかけをしてきた。

 

 

『そういえば、スレッタ・マーキュリーはどちらに?』

 

 

 問いかけに対して、ミオリネ・レンブランは表情を曇らせる。

 本当に寂しげなスレッタの背中を思い出して、胸が締め付けられるように悲しくなりながら。

 銀髪の少女はこう答えた。

 

 

「……知人の葬儀に出席するために、学園外に出かけています」

 

 

 








ルイの説明は意図的な嘘があります。
エアリアルとパーメットAIの関係では、LF03=エアリアルのAI(エリクト)と誤認するように虚偽を申告しています。




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