ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタが罪過の輪に繋がれるだけの話

 

 

 

――なんで邪魔するの!?

 

 

――()()!!

 

 

『――結論から言えば、敵MS〈ニーズヘッグ〉にはアミュレット・システムが搭載されているからだよ、エリィ。オーバーライドによる攻撃的干渉に対して、同等のスコア6に到達しているパーメットAIサーバーは独自の防衛機構を発現させた。アンチ・オーバーライドというべきかな。同等の深度のパーメットスコア同士ならば、より出力の大きい方が勝る。それだけの話さ』

 

 

――スレッタとその子を殺し合わせるのが君の目的!?

 

 

『まさか、私はそこまで冷酷ではないとも――君はもう、答えをわかっているはずだ、エリィ』

 

 

「ルイさん――何、を」

『何をごちゃごちゃと! 私を見ろ、スレッタ・マーキュリー!!』

 

 吠えるような少女の声に、現実感が戻ってくる。

 ルイとエリクトの会話はノレアには聞こえていないのだ、と悟る。

 電子戦による通信システムの掌握――おそらくは〈ファラクト〉との決闘のときに起きていた謎の通信障害と同一の現象。

 すべてがルイ・ファシネータによって恣意的に引き起こされていた可能性に思い至り、スレッタ・マーキュリーは青ざめた。

 自分がどれだけ巨大な陰謀の渦中にいるのか、今さら思い知らされるようだった。

 

『あなたと出会わなければ! こんなに苦しまずに済んだ! 楽しさを覚えなければ、こんなに惨めにならずにいられた!』

 

 そんなスレッタの思考などつゆ知らず、ノレア・デュノクは激情のままに叫び続ける。

 荒れ狂う感情を代弁するかのごとく、五連装ビームキャノンが熱線を吐き出し、着弾点をプラズマ爆発でえぐり穿つ――爆ぜる人工の大地の中、〈エアリアル〉は踊るように回避運動を取り続けた。

 カチ、カチ、カチ。

 バズーカから発射されたロケット弾頭は、三発のうち二発を〈ニーズヘッグ〉のビームマシンガンに撃ち落とされていた。

 ロケット弾頭の直撃で残り三基のバリア・ガンビットは損傷したものの、機能停止した様子はない。

 バズーカはこれで弾切れだった。

 実弾武器の欠点は、ビームドライブからの充填が効くビーム兵器に比べてはるかに弾切れが早いことだ。

 弾切れのバズーカを投げ捨てる――〈ニーズヘッグ〉のビームキャノンの掃射に巻き込まれて、一瞬でバズーカは溶けてなくなった。

 そのときだった。

 ノレアが決定的な言葉を言ったのは。

 

 

――あなたと友達になんか、ならなければよかった!!

 

 

 すっと頭が冷えた。

 自然と口をついて出てきたのは、あの異形のガンダムによって殺されたスレッタの大切な人たちの名前だった。

 皆、職業軍人であり、いつ死ぬかわからない危険な任務に就いている戦士たちだった。

 名誉の殉職だったと言うべきなのだろう。

 だけどスレッタ・マーキュリーはこう思ってしまうのだ――誰一人として死んで欲しくなんかなかったと。

 

「マコトさん、カークさん、マルセルさん、ドユンさん……ドミニコス隊ルーク小隊、あなたが撃墜したMSのパイロットの名前です。みんな、()()()()()()()()いい人たちでした」

 

 ノレアの震える声。

 

『……なんですか、それ』

「どうしてでしょうね、ノレアさん……わたしたち、友達になったはずなのに……こんなにも罪過の輪に繋がれて……抜け出せないままなんです」

 

 殺して、殺されて、さらに殺し返そうとする死の連鎖。

 その憎悪ですらない大きすぎる流れは、スレッタにとって、ガンダムの呪い以上に取り返しがつかない呪縛のように思えた。

 〈エアリアル〉の右手でビームサーベルを抜いて、二刀流の構えを取りながら――スレッタ・マーキュリーは哀切と共に殺意を口にした。

 憎しみはない。怒りはない。ただ悲しみだけがあった。

 

 

「――()()()()()()()()()、わたしはみんなを守ります」

 

 

 オーバーライド機能を自己に転用し、学園仕様MSにかけられた首輪――FCSに組み込まれているロックオン制限機能を解除。

 スレッタは〈エアリアル〉と共に地面を蹴った。

 敵を排除するために。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、チュチュの〈デミトレーナー〉とグエルの〈ダリルバルデ〉は、逃げ遅れた生徒たちの乗っているMSを守っていた。

 皆、自走不可能なほど破壊されたMSであり、その人数は一〇人ほどである。

 たった三機のMSでは回収しきれない人数だった――MSの手のひらの上にのせて運ぶという手もあったが、ちょっとした事故で転落死が起きるため使えるアイデアではなかった。

 そういうわけで有志のMSはあえて退避せず、MSごとバトルフィールドに取り残された生徒を守ろうとしていた。

 残ったのはジェターク寮のグエル・ジェターク、ペイル寮のエラン・フォース、そして地球寮のチュアチュリー・パンランチである。

 焦った様子でグエルに通信をかけているのは、ジェターク寮のラウダ・ニールだ。

 

『兄さん、早く撤退を!』

『ダメだ、ラウダ。逃げ遅れた生徒がまだ大勢いる。MSのバイタルブロックごと守ってやらないといけない――全員を回収できる機体がないんだ!』

 

 不幸中の幸いだったのは、戦いの激戦区がホルダーファンクラブの面々の進路上に固まっていたため、要救助者の大半が同じエリアにまとまっていることだった。

 MSのバイタルブロックは頑丈に作られているから、直接、ビーム兵器を照射されなければ身の安全は保障される。

 エランの乗った黒いガンダム――〈ファラクト〉が推進器を全開にして飛び立った。

 

『できるだけ僕が撃ち落とす。撃ち漏らしは君たちに任せたよ』

 

 エラン・フォースはそう言うと、こちらに向かい来る六機のMS――いずれも無骨な形状でビームカービンと盾を手にしている――に長砲身の大型火器(アルケビュース)を向けて連射。

 敵MS〈ガンヴォルヴァ〉はすぐさま回避運動を取ったが、最初の数発はそれを誘発するための囮に過ぎなかった。

 

『パーメットスコア3……!』

 

 後発として射出されたスタンビット四対八基が、すぐさま赤いスタンビームの檻を作って〈ガンヴォルヴァ〉たちを飲み込み、その手足を機能不全に追い込んだ。

 推進装置に不具合が出てバランスを崩したところに、ビームアルケビュースの荷電粒子ビームが直撃し、その手足をもぎ取っていく。

 これでまず一機。

 スタンビットという未知の武装に対して戸惑い、とにかく撃墜しようとビームカービンを持った腕を動かした〈ガンヴォルヴァ〉に照準を合わせる。

 頭部と右腕を打ち砕かれたMSが、不完全な人型となって地面に墜落していく。

 しかしそれでもなお、こちらに向けて推進しようと向かってくる――とどめの三発目で推進器を撃ち抜かれて大人しくなったが、そのしぶとさにエランは注意を呼び掛けた。

 

『学園レギュレーションのFCSじゃ胴体を撃ち抜けない。こいつらは完全に機能停止するまで撃たないと止まらないよ』

 

 ビームアルケビュースが弾切れになり、エネルギーパックを交換する。リロードの間に接近してきた残り四機の〈ガンヴォルヴァ〉が、一斉にビームカービンを連射してくる。

 対地高度は高度三〇〇メートル。航空機として低空飛行だが、MSにとっては障害物に隠れられない高度だ。

 自機に集まってきたビームの弾幕をひらりひらりと避けながら、スタンビットによるビームの檻を再展開する――三機目の〈ガンヴォルヴァ〉がそれに捉えられ、動けなくなったところをビームアルケビュースで撃たれて右腕をもぎ取られる。

 確実に防御態勢を取らせずスタンさせ、撃墜できる〈ファラクト〉は〈ガンヴォルヴァ〉に対して優位を取れるMSだった。

 だが、さしものエランでも六機のMSすべてを落としきるのは不可能だった。

 

『ごめん、三機そっちに向かった』

「っ! くっそ!」

 

 エランからの通信を聞きながら、チュチュは震える手で操縦桿を握った。以前、ドローンの軍団と戦ったときは味方が大勢いて、自分は後方から支援する役割だったから恐怖感が麻痺していたのだ、と悟る。

 チュチュの〈デミトレーナー〉は補助アームで保持するタイプの大型ビームガトリングガンを装備しており、その火力は高い。

 自分がしっかりしなければ、後ろにいる生徒たち――いけ好かない差別主義者(ろくでなし)だって混じっているだろうが、それでも同じ学園の子供なのだ――を守り切れなくなる。

 そう、自分に言い聞かせる。

 不意にグエル・ジェタークが尋ねてきた。

 

『チュアチュリー・パンランチ、中距離戦は任せていいか?』

「はん、誰に言ってやがるんだボンボン! あーしが撃ち落としてやんよ!!」

『俺が盾になる。防御は俺に任せろ』

「かっこつけやがって!」

 

 どのみち、これが実戦であれ模擬戦であれ、やることは変わらないのだと自身を奮い立たせて――チュアチュリー・パンランチはビームガトリングガンの引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

 走る。

 もう息が切れて限界になりそうなのに、肺が悲鳴を上げているのに。

 それでもなお、ミオリネ・レンブランは校舎内を走っていた。未確認機からの襲撃が発生しているのは、学園の教育施設があるのとは全然別のエリアだから、避難するだけならここまで焦る必要はない。

 事実、見学に来ていた一般人たちは不安そうな表情を見せながらも、しっかりとしたアナウンスに誘導されてシェルターに大人しく向かっている。

 中継映像が打ち切られているため、危機感が持たれていないのだ。

 シャディクの判断なのだろう。

 オープンチャンネルでテロリストがわめき散らし、今まさにスレッタと殺し合っているという現実は、大半の生徒や見学客には知られていない。

 パニックの抑制――嫌味なぐらいにこういうときの手腕は頼りになる男である。

 今もなお現地にチームのメンバーが取り残されている寮だけが、現状を正確に把握しているのだ。

 地球寮のメンバーから連絡をもらって現状を把握した少女は、今、自分にできることをするために、決闘委員会の部屋に向かっていた。

 そしてミオリネ・レンブランは部屋の扉に猛然と突撃し、ここを開けるようシャディク・ゼネリに叫んだ。

 

「開けなさい、シャディク!!」

『ミオリネ!? ああ、もう君ってやつは!』

 

 それだけでこちらの意図を察したらしく、通行許可が出た。

 扉が開いた瞬間、オープンチャンネルで交わされている会話が聞こえてきた。

 それは件のテロリスト――おそらくミオリネたちより若いぐらいの少女――とスレッタ・マーキュリーの会話だった。

 

『ソフィを殺しておいてぇぇえ!!!』

『ノレアさん……もう終わりにしましょう』

 

 明らかにスレッタとテロリストの少女は顔見知りの様子だった。

 一体いつどこで知り合ったのかは定かではないが、それが両者にとって望まざるものだったのは明白であった。

 画面の中では戦術試験区域の戦闘がドローンによって中継されており、〈エアリアル〉と未確認MSの戦い、そして複数のガンダムに襲われるチュチュたちの映像が映っている。

 

「無人で動かせる車両を汎用人工知能(ハロ)つきでグエルたちの元に送るんだ。ロウジ、準備は?」

「今セッティングしてます……あと三分はないと厳しいです」

「すまない、間に合わせてくれ」

 

 要救助者を守っているグエル、エラン、チュチュの元に、要救助者を乗せるための車両を送る腹づもりらしい。

 本当にこういうときは頼りになる男だと思いつつ、ミオリネはコンソールを弄った。

 

「ちょ、何やってるんですか!?」

 

 セセリア・ドートからの制止も意に介さず、ミオリネは顔も上げずこう応えた。

 

「ちょっと通信借りるわよ、戦術試験区域内限定の回線だけ!」

「はぁあ!?」

 

 繋がった。

 その瞬間、すべてを呪うようなテロリストの少女の声が聞こえてきた。

 

 

『消えろ、消えろ、消えろ、消えろ!! 死ね、死ね、死ね、スペーシアン!!!』

 

 

 それはまさに呪詛だった。

 聞いているものの心をどれだけ傷つけるのか、想像もつかない憎しみのこもった言葉。

 実際の殺意と共にそれを浴びせられているスレッタ・マーキュリーの苦しみを思い、ミオリネはこみ上げてくる感情を口にする。

 せめてスレッタの心を凍てつかせないために。

 

「――スレッタ、そいつの言うことを間に受けないでっ! 殺すのも、殺されるのも間違ってる!!」

『ミオリネさん!?』

 

 驚愕に満ちたスレッタの声を聞き、まだ少女が暗闇に堕ちきっていないことに安堵する。

 そしてすぐに、自分の声が相手のテロリストにも聞かれたことを悟った。

 聞くものすべてを威圧するような、低くうなるような声がオープンチャンネルで流れてくる。

 

『ミオリネ・レンブラン……私たちアーシアンの屍の上でのうのうと生き続けたスペーシアンが!』

「自分が一番世界で不幸だって言いたいわけ!? 誰も幸せにできない論理を振りかざさないで欲しいわね!」

 

 地球に対する宇宙居住者の抑圧的な政策を知っていても、実感として知るわけではないミオリネ・レンブランは、平気でそういう言い返し方ができてしまう。

 案の定、それは少女の怒りに火を注いだようだった。

 

『うるさい黙れえぇ!! 私はあなたたちを許さないっ!!』

「あんたに許される筋合いなんかないわ! スレッタまで()()()()に行かせたりなんか絶対にしない!!」

 

 そう言い放つと、甲高い笑い声が聞こえてきた。

 スレッタにノレアと呼ばれていたテロリストは、糾弾するように声をあげた。

 

『株式会社ガンダム……知っていますよ、あなたがどういう人間か。安心で安全なガンダムとかいうプロパガンダに使われてるんでしょう?』

 

 そう言われてミオリネはようやく気づいた。

 顔も知らぬ少女が子供兵(チャイルドソルジャー)であり、根本的に自分たちとは立場が異なるのだと。

 テロリストの子供兵で、危険なガンダムに乗ることを宿命づけられた存在。

 それは同じく一〇代で戦場に身を置いていたスレッタよりも、さらに救いのない境遇にいるということなのだ。

 

 

『ガンダムに乗るのがどういうことか、わかりますか!? 乗るだけで神経を焼かれて、痛みに苦しみ、じわじわと身体を蝕まれ、最後には呼吸もできなくなって死ぬ!! 無害なガンダムだなんて笑わせないで! ――これはそこにあるだけで人を蝕む呪いなんですよ!!』

 

 

 呆気に取られて声が出なかった。

 ミオリネ・レンブランは籠の中の鳥として育てられた子供だから、ガンダムの危険性も、それを駆る子供兵の境遇も、薄っぺらいテキストの知識としてしか知らない。

 だからこうして当事者の怒りと憎しみをぶつけられたとき、声が出なくなってしまう。

 何も言えずに黙り込んだミオリネを無視して、ノレアは呪うようにスレッタに呼び掛けた。

 

『あなたはそんな呪いに蝕まれた子供たちをいっぱい殺してきた、そうでしょうスレッタ!! 私たちとあなたたちの何が違うんですか、答えてよぉ!!』

 

 答えはない。

 その沈黙に込められた決意を感じ取って、ミオリネは叫んだ。

 

 

「スレッタ、殺しちゃダメ! あんたが戻れなくなる、だから――私たちのいる場所に戻ってきて!!」

 

 

 スレッタ・マーキュリーの返答は手短だった。

 それは罪科を背負った罪人の懺悔にも似ていて、どうしようもなく絶望的だった。

 

 

 

『――ごめんなさい、ミオリネさん』

 

 

 

 

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