それはある日の出来事。
ことの始まりはスレッタ・マーキュリーの思いつきだった、とエリクト・サマヤは述懐する。
勢いよくコクピットの中に飛び込んできた可愛い妹は、その日、褐色の肌を上気させて、それはそれは素晴らしいことを思いついたと言わんばかりの笑顔を浮かべていた。
この時点で嫌な予感はしていたのである。
エリクトの妹は人見知りのきらいがある割に、行動は大胆不敵で押しつけがましいところがある。
俗っぽく言えば光のコミュ障である。
「エリクト、エリクト。今日ね、話があるの!」
――え? 何? 〈エアリアル〉の中はペット厳禁だよ。
――イチャイチャチュッチュも厳禁です。ガンダムのコクピットで
「何その反応!? しかも破廉恥! 破廉恥だよ!」
――ガンダムの世界は奥が深いのさスレッタ……次世代を残すのに貢献したりもするさ……
「またエリクトがわけのわからないこと言ってる……」
いつものことなので、エリクトのボケは華麗にスルーされた。
順を追って話すと長くなるんだけどね、とスレッタが言い始めた時点で、エリクトは「あ、これ絶対長くなるな」と覚悟を決めていた。
概要をかいつまんで要約すると次のようになる。
始まりは今朝。
スレッタの親友にして姉気取りの女、株式会社ガンダム社長のミオリネ・レンブランがこんなことを言ったのだ。
「あんたのガンダムのAIって話せるの?」と。
この会話に至った要因はいくつかある。
たとえばパーメットAIなる概念について解説したシン・セー開発公社がいまいち信用できないとか。
たとえば現存する唯一無二のオリジナルである〈エアリアル〉のAIの実在を確認しておきたいとか。
たとえばスレッタがお話ししている、チャットAIの正体がパーメットAIなのではという疑念とか。
おおむね「ルイ・ファシネータとかいう胡散臭いホログラム野郎の説明だけだと不安なので実物が見たい」というのが理由であった。
だいたいあいつのせいじゃん、とエリクトはキレそうになったが、今さらそんなことを言っても仕方がなかった。
日頃から胡散臭いとわかっている相手に、対外折衝をすべてぶん投げてきた――パーメットスコアが上がるまではやむを得ないことだった――ツケが回ってきたのだろう。
コクピットシートに座るスレッタ・マーキュリーは、おずおずと上目遣いでこちらを見上げてきた。
あざとい。
お姉ちゃん的に最高に可愛いスレッタである。
画像で保存しておこう、と固く決意したエリクトであった。
「それで……わたしね、エリクトのこと、みんなに紹介したいって思うんだけど」
――ちょっと待ってスレッタ、僕の状態わかってるよね?
――君のかわいくて賢いお姉ちゃんは〈エアリアル〉の中の人なんだよ? 一般的には倫理的に
――絶対アレじゃん、ベルメリア・ウィンストンあたりが「うっ」とか吐き気をこらえたりしてくるよ!?
そうなのだ。
死にかけていた八歳児の生体コードを転写し、パーメット知性体として再構築した今のエリクトは、存在そのものが倫理的に危険なのである。
間違いなく実行者はマッドサイエンティストの誹りを免れない程度に、自分の存在がセンシティブなものだと、エリクト・サマヤは理解している。
まあ倫理問題を説かれようが、こうして存在しているエリクト・サマヤにとってはどうでもいい話なのだが、世間体というものがある。
流石に無邪気に妹が紹介するには、あまりに自分の存在は危ういものだと、エリクトは考えてしまう。
そのように妹を説き伏せようとしたエリクトだったが、スレッタの意志は固かった。
「大丈夫だよ、ルイさんもこの前、エリクトのことをオリジナルのパーメットAIってことにしてたみたいだし」
――あいつ本当に呼吸するように嘘つくよね。最低なんだ!
「それはエリクトを守るための嘘だよ。ともかくね、エリクトがAIのフリをすれば、みんなに紹介できると思うの!」
――えっ……つまり何かな、スレッタは僕に八歳児のアバターで喋る愉快なAIを演じろっていうの?
「今もそうだよね? エリクトって本当は二五歳だよね? なんで宇宙服着た子供のときの姿のままなの?」
きょとんとした表情で、心の底から不思議そうにそう問いかけるスレッタ・マーキュリーは容赦がなかった。
エリクトは妹から目をそらして一言。
――おねえちゃん八歳だからそういうのわかんない。
「エリクト!? 現実と向き合おうよ、エリクトはわたしのお姉ちゃんなんだから成人してるんだよ!?」
――くそー、僕のスレッタがどんどん可愛げがなくなっていく……おのれデリングの娘!
「ミオリネさんは関係ないでしょ……」
――いーや、関係あるね! あの女が来てからスレッタは毎日楽しそうで健やかだよ!!
「ほ、褒め殺し!? エリクトのミオリネさんへの感情わけわかんないよ!?」
そんなこんなで朝っぱらからコクピットの中で騒がしく会話していた二人だったが、長い長い説得の末、エリクトがとうとう折れたことで皆へのお披露目は了承された。
エリクト・サマヤ二五歳、人類初にして唯一のパーメット知性体。
今年で一七歳のスレッタ・マーキュリーには一向に勝てないシスコンの鑑であった。
◆
午後のカリキュラムが終わった頃合いであった。
地球寮のMSハンガーを兼ねた建屋の中には、株式会社ガンダムの関係者が勢揃いしている。
その顔ぶれは豪華である。
いずれも腕利き揃いの地球寮の面子に加えて、株式会社ガンダムの社長ミオリネ・レンブラン、アドバイザーのシャディク・ゼネリ、GUND技術者ベルメリア・ウィンストン、新型ガンダムのテストパイロットとして参加のエラン・フォース。
そして何も関係ないにも関わらず、
皆が一堂に会したMSハンガーで、エラン・フォースがすっと挙手した。
視線が集まる中、彼は一言。
「この中に部外者がいると思うんだけど」
図星を突かれてグエルが吠えた。
「エラン、面と向かって言うか普通!?」
「関係ないのは事実じゃないか」
「くっ……」
「兄さんのスレッタ・マーキュリーのすべてを見届けようという心意気がわからないのか、エラン・ケレ……フォース!」
さらに異母弟ラウダ・ニールが口を挟んだことで、さらに状況は混沌としていく。
最近、改名したばかりなのでうっかり名前を間違えたのはご愛敬である。
「そ、そうだそうだ! いくら〈
さらに横から口を挟んできたのは、パイロット科二年生フェルシー・ロロ。
グエル・ジェタークにちょっぴり片思いしている取り巻き女子コンビの一人である。
ちなみに〈女帝〉とは学園最強スレッタ・マーキュリーに新たに冠された二つ名だった。
学園を襲ったテロリストの大型MSを返り討ちにしたスレッタ・マーキュリーと、彼女と共に戦場に残ったグエルとエランは、今や生ける伝説になっていた。
そこでついたあだ名が〈女帝〉と〈騎士〉である。
あまりにも格好つけた二つ名で恥ずかしすぎるため、当事者たちには嫌がられているのは言うまでもない。
フェルシーの抗議にもどこ吹く風、エランは一言で彼らの言を切って捨てた。
「興味ないね」
「ぐぬぬぬ……」
にらみ合いになるエランと取り巻きトリオ――ペトラは身内の二人を押さえようと必死だが無力だ――を横目に、ミオリネ・レンブランが発言した。
「いいわよ、別に。これ会社の機密じゃないもの。余計な口挟まずに見てるだけならかまわないわよ?」
「…………すまん、本当にいいのか?」
「グエル、あんたもしおらしくなったじゃない。ええ、スレッタの家族だから気になるんでしょ、構わないわ」
すごく上から目線の「構わないわ」だった。
銀髪の少女は傲岸不遜に言い放つと、ぱんぱんと手を叩いて場を収めた。
いいのかそんなノリで、と地球寮の面子は思ったものの、まあグエルならいいかという空気――学園での二度の戦いでくつわを並べた連帯感が彼らの間にはあるのだ――のまま流された。
そんな場の様子にシャディクは苦笑していたが、そこまでミオリネにとって不利益になることはないため、口を挟むことはしなかった。
さて、と皆が視線をスレッタ・マーキュリーに向けた。
集まった面子の先頭に立っている少女は、〈エアリアル〉の前でお辞儀をして。
「そ、そそそ、それではっ! わたしの家族のパーメットAI……のお披露目をしますっ!!!」
「水星ちゃん、緊張しすぎ。肩の力を抜こうよ」
「は、ははは、はいぃ!!」
「ちょっとシャディク、黙ってなさい。スレッタが余計緊張するでしょ」
苦笑するシャディクとそれを見咎めるミオリネ――いつものやりとりである。
そのときであった。
突如としてMSハンガーに直立不動で固定されている〈エアリアル〉のシェルユニットが青く発光し始めた。
オーバーライドの光。
周囲の空間への情報的侵食を示す青い光が、MSハンガー全体を包み込んでいく。
その眩い光に一瞬、誰もが目を閉じて。
再び目を開いたとき――スレッタの隣に、一人の幼い少女の姿を見つけた。
子供用の宇宙服を着た、赤い髪に褐色の肌の女の子だ。
年齢は一〇歳にも満たないぐらいだろうか。
その突如現れた少女の幻影に目を見開いたのは、ベルメリア・ウィンストンであった。
「この光……パーメットを情報の投影媒体に利用して……いいえ、三次元的な光の屈折をパーメット自身が作り出しているの? これがパーメットスコア8のパーメット操作能力だというのなら……いいえ、それよりも……」
本来、情報媒体に過ぎないはずのパーメットが物理現象として光の屈折に作用し、精巧な立体映像を生み出している。
それがどれだけオカルトに片足を突っ込んだ現象なのか、この場で理解できているのはベルメリアだけだった。
そしてもっと衝撃的だったのは、その人影が彼女の知るとある人物そのものだったことである。
「…………エリクト・サマヤなの……?」
それは二一年前、ヴァナディース事変が起こる前。
一度、ベルメリアも会ったことがある先輩の娘の姿形だった。
当時、エリクト・サマヤは四歳ぐらいの幼子で、この立体映像の少女は八、九歳ぐらいという違いこそあるが――その身体的特徴は彼女の記憶と一致している。
ベルメリアの呼び掛けに対して、その少女の幻影はうっすらと微笑んで。
『はじめまして、ベルメリア・ウィンストン。僕は〈エアリアル〉の中枢、パーメットAI〈エリクト〉――君たちヴァナディース機関がLF-03に積み込んだAIさ』
その返答でベルメリア・ウィンストンはすべてを察した。
何故、〈エアリアル〉のAIのアバターがエリクト・サマヤそっくりなのか――享年八歳だった愛娘と同じ名前と姿を、エルノラ・サマヤは〈ルブリス〉のパーメットAIに与えたのだろう。
愛娘を失った母親がどんな感情でそれを成したのか、ベルメリアには想像もつかない。
そして今は亡き姉と同じ姿形とパーソナリティを与えられたAIを家族として、もう一人の娘であるスレッタ・マーキュリーは育ったのだろう。
それは母親にとって、どれだけ辛い出来事だったのだろう。
「先輩はそこまで……心を……ううっ」
ベルメリア・ウィンストンは目元を押さえて涙をこらえている。
目を伏せて静かに泣き始めたベルメリアは、エリクトの幻影が若干しらけた空気になっているのに気づかない。
誤解のなきようあえて補足するなら、ここまでのベルメリア・ウィンストンの想像と推測はすべて外れである。
シン・セー開発公社が用意した設定を元に、そう思い込むようにエリクトとスレッタが作った台本が見事にはまった結果と言えよう。
つまり今、この場には「本物のエリクトの
エルノラの悲嘆を思って涙する中年女性――もうこの女ぶっ飛ばしていいかなという顔になっているエリクト・サマヤだった。
自分で騙しておいてこの感想なのだから、エリクトはいい性格をしていた。
そのときであった。
まるで幽霊のようにいきなり現れたエリクトに、大半の生徒たちが恐れおののき、目を見開いている中――真っ先に言葉を発したのは銀髪の少女だった。
彼女の名はミオリネ・レンブラン。
株式会社ガンダムの社長である。
「初めまして、エリクト。わたしは株式会社ガンダムの社長で、スレッタの友達のミオリネ――」
『あ、デリングの娘だ』
場の空気が死んだ。
ミオリネ・レンブランは不気味なほどにこやかな笑顔で固まっている。
正直めちゃくちゃ怖い。
笑顔のままミオリネはスレッタの方を振り返る。
ヒィッ、と悲鳴を漏らすスレッタ。
「スレッタ、このAIちょっとバグってるから修正するわよ?」
「いきなり私情全開じゃないですかミオリネさん!?」
エリクトは自分の素が出て失言したことに気づいたが、あとの祭りである。
ゆえに彼女はこうなれば、と素知らぬ顔をして。
『――君のことはよく知っているよ、ミオリネ・レンブラン。これからもスレッタと仲良くしてね』
「このAI、失言をなかったことにしようとしてるわよ!?」
「え、ええ、エリクトは高度なAIなんですよミオリネさん!」
「よくわかったわよ、高度に失礼なやつだってね!!」
ミオリネ・レンブランも外行きの仮面が剥がれて、地が出ているのはご愛敬である。
ぎゃあぎゃあと騒ぐミオリネ、それをなだめようとするスレッタ(婚約者)とシャディク(幼馴染み)、そしてグエル(元婚約者)という面白い絵面を眺めたあと、エリクトはふと思い出したことを口にした。
『そういえばいい機会だから聞いておきたいんだけど――』
「なによ!?」
『けんか腰は辞めて欲しいな、大人げないよミオリネ・レンブラン』
「こ、このAI……ええ、何かしら?」
自分は八歳児のなりきりをしつつ年下の未成年に大人げないとのたまう、高度な面の皮の厚さを見せつけるエリクト――うわあ、という表情の
だが彼女が投げつける爆弾はこんなものではなかった。
『――ミオリネ・レンブランの今度の誕生日で二人の結婚が確定するんだよね。ホルダーのスレッタとの婚約、君はどう考えているのか聞かせてもらえるかな?』
そうなのである。
ミオリネ・レンブランはスレッタ・マーキュリーのことを異母姉妹だと思い込んでいたりするが、それ以前の問題として、この学園には
スレッタがわりと流れで勢いのままにグエル・ジェタークをぶちのめしてからこっち、彼女は常勝無敗の〈友達狩り〉で〈女帝〉として学園に君臨しているが―――当然、それによって花婿の座も奪ってしまっていた。
ちなみにこの制度、ミオリネの人権が深刻に無視されているが、別段、男尊女卑というわけでもないため花婿には女性もなれる。
蛮族的な価値観を極めた結果、異性愛者・同性愛者・両性愛者の区別なく強者こそが花婿に相応しいというマッチョイズムあふれる制度が生まれたらしい。
やっぱり虐殺おじさんことデリング・レンブランは頭がおかしいなと思うエリクト・サマヤだった。
スレッタとミオリネの双方にとって厄介な花婿問題について、当事者がどうするつもりなのか――エリクトは前々からこれが気になっていたのである。
果たしてミオリネ・レンブランの返答は――
「あっ……」
やばっ、という感じの「あっ」だった。
重々しい沈黙のあと、数秒間、周囲からの視線に射貫かれていたミオリネは、観念したようにため息をついて。
「…………忘れてたわ」
ぶっちゃけた。
あまりにも正々堂々とした本心だった。
きっとミオリネさんのことだから深い考えがあるんだろうと思っていたスレッタ・マーキュリーは、呆気に取られてうめく。
「えっ……えぇえぇえぇええ!?」
途中から半ば奇声になっている魂の叫びだった。
ミオリネは自棄になってキレた(本日二回目)。
「考えてもみなさい!? クソ親父がクズ親父だったと判明したと思ったらグエルが病院送りになって、あっという間にペイル・スキャンダルが起きて、そこから株式会社ガンダムを起業することになったのよ!? このドデカいクソみたいな学園のクソそのものの婚約制度とか気にしてる暇ないわよ!?」
「卑語を言い過ぎだぞミオリネ」
「うっさいわね、この……グエル! 元婚約者だからって態度がデカ……っていうか身長もデカいわね!! むかつくわ!!」
「人の身体的特徴にキレるのをやめろ!?」
とうとう特に悪いことをしていないグエル・ジェタークに噛みつき始めたミオリネの醜態に、エラン・フォースは無表情なまま一瞥をくれて。
しみじみと呟いた。
「ミオリネ・レンブラン――君って思ったよりライブ感で生きてるんだね」
「エラン!! あんた今、私のことを馬鹿にしたでしょ!?」
「うん、したけど」
「こいつ性格悪いわ!!!」
ミオリネのキレ芸に対して塩対応で返すエランは天敵だった。
そんなミオリネを余所に、スレッタは絶望的な表情で天を仰いでいる。
半泣きだった。
「ちょ、ちょっと待って!? ガチで嫌がられると傷つくんだけど!? 私ってかなりの美少女だし、そこはちょっと照れるぐらいでちょうどいいんじゃないかしら!?」
「ミオリネ、自分で美少女って言い切るのすごく厚かましいと思うよ」
「黙りなさいシャディク」
シャディクのもっともな突っ込みを封殺し、ミオリネはスレッタを見た。
うるうる潤んでいる瞳が小動物的でチャーミングだった。
ヤバい。家で飼いたい可愛さ。
かなり危険人物寄りの発想――ミオリネ・レンブランはぶんぶんと頭を振って邪念を追い出した。
端から見てると挙動不審そのものだった。
「ううっ……だって、このままじゃ、わたし、恋愛もまだしてないのに結婚させられて
「うっ……あー、そうよね……まあ離婚すればチャラにできるけど、経歴はマイナスか……」
言われてみるとスレッタにとっても、しゃれにならない不条理なのである。
それはあまりにも異母妹(※そんな事実はない)が不憫ではないか――そう考えた末、ミオリネは名案を思いついた。
「待ってスレッタ、仮面夫婦で恋愛は別腹という線もあるわ! 愛人を作ればいいのよ!」
一周回って中世に思考が回帰したミオリネ・レンブランだった。
本人に言うと確実に逆上するが、そういうところがデリング・レンブランと親子なのである。
「
スレッタは困惑した。
ついでに後ろで話を聞いていたグエルも、あまりにもぶっ飛んだ話の流れに、やや赤面しつつ話に加わった。
「やめろ不健全だ、不健全! あ……愛人なんて作っても……家庭は……」
「兄さん……」
二人そろって夫と我が子を捨てて出て行った母親たちのことを思いだし、グエルとラウダは押し黙った。
そうなのだ。
如何に今のアド・ステラ社会が格差社会の果てに貴族めいた特権階層が生まれていると言っても、愛人を囲って都合よく物事が進むほど世の中は甘くない。
その生き証人である兄弟は、軽率なミオリネの提案に沈黙を返すことしかできなかった。
「うっ……わ、悪かったわよ」
流石に自分の軽率な発言に気づき、謝罪するミオリネ。
話を聞いていたエランが口を開いた。
「君が婚約破棄すれば済む話じゃないか?」
「…………それができれば苦労しないわよ」
「デリング・レンブランに直訴してみたら?」
「あのね、私が何度、苦情を言ったか――」
「君が諦めるのは勝手だけど、それにスレッタ・マーキュリーを巻き込むのは違うんじゃない?」
ド正論である。
ぐぬぬぬぬ、とうめくミオリネを見つめながら、エリクト・サマヤはため息をついた。
『――人間って愚かだね』
ミオリネはキレた(本日三回目)。
「――こいつも性格悪いわ!!!!」
本編で言うと時系列は総裁選前後あたりです。