ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタの姉がみんなと交流するだけの話

 

 

 

『――というわけでスレッタは別にチャットAIしか友達がいない寂しい子じゃないことはわかってくれたね、みんな? 何せ、高度なAIである僕が家族だからね』

 

 

 一通りの自己紹介を終えたあと、エリクトはそう高らかに宣言した。

 いきなり姉に言葉の暴力で致命傷を加えられたスレッタは、困惑しながら叫んだ。

 

「なんで今わたしのこと刺したのエリクト!?」

『スレッタ、一般的にモビルスーツのコクピットでAIに話しかけてる子は可哀想な子なんだ、悔しいだろうけど仕方ないんだ』

「い、いるもん! 友達いっぱいいるもん!」

『決闘で作った友情奴隷(フレンズ)どもは友達にカウントしないからね?』

「ひどい!!」

 

 きゃあきゃあと言い争うスレッタとエリクトの姿を見て、その人間と寸分違わぬ様子に感心した様子でニカ・ナナウラが呟いた。

 

「……ヴァナディース機関のAIってすごいんだ……」

「え、ええ……私の専門外だからよくわからないけれど……流石はカルド・ナボ博士と先輩ね……」

 

 傍にいたベルメリア・ウィンストンも、あまりに人間味あふれるAIに少々、戸惑いながら応じた。

 あくまでGUND技術とその適合率の上昇に関する専門家であるベルメリアは、パーメットAIについては専門外であり、うっすらとした概要しか知らない。

 データストームの完全なフィルタリングを可能とする知性体をパーメットによって記述し、データストームの向こう側――レイヤー33と呼ばれる深度に配置する。

 それによってパイロットに逆流する過負荷を押さえ込む、というのがカルド・ナボ博士の理論だったはずである。

 最も無機質で機能的なAIを想像していたベルメリア自身、こうも人間くさい対話型インターフェースがあることに驚きを隠せなかった。

 

「その、先輩って方は……」

「スレッタ・マーキュリーさんのお母さんに当たる人ね。ヴァナディース事変が起きる前は、私も面識があったのよ」

「そう、なんですね」

 

 ニカはどこか実感がない様子だった。

 ヴァナディース事変という大事件も、その後、社会に吹き荒れた魔女狩りの嵐も経験したことのない世代らしい反応だ。

 ましてや元々の出身はアーシアンの中でも最底辺に近い児童労働者だったニカには、地球で起きていた反ガンダム運動など知るよしもないのである。

 彼女を送り出した反体制武装組織〈フォルドの夜明け〉は支援者(プリンス)を通じてガンダムと密接な繋がりがあったけれど――今となってはニカには知るよしもないことである。

 なおスレッタとエリクトの言い争いは、エリクトが口喧嘩で圧勝して幕を閉じた。

 大人げない姉(八歳児のすがた)である。

 

『そうそう、そこのワイルドに見えて実は繊細な一面を持ってそうな男子! グエル・ジェターク!』

 

 言葉の戦い(レスバ)に敗れて泣き崩れた妹を放って――ミオリネがよしよしと慰めている――おき、エリクトは背の高いイケメンを指さした。

 メッシュの入った特徴的な髪型。

 一際背が高く筋肉質な肢体――グエル・ジェターク、なかなかにエリクト好みの顔をしている。

 エリクト・サマヤは妹同様の面食いだった。ルッキズムと誹られようと、彼女はイケメンが好きだ。

 俗物である。

 それはそうとエリクトの呼び掛けに恐れおののいたのは、グエルの異母弟ラウダ・ニールである。

 

「このAI……一瞬で兄さんの人柄を言い当てるなんて……なんて高度なAIなんだ……!」

「ラウダ先輩、AIの判断基準がおかしくないですか……?」

 

 冷静なペトラのツッコミを余所に、新型ガンダムの恐るべき性能に震えるラウダだった。

 思ったよりだいぶ気持ち悪いなこのブラコン弟、顔がいいんだけどなあ――などと思いつつ、エリクトはグエルの方を向いた。

 突然の名指しに戸惑う少年に対して、エリクトはにっこりと微笑みかけた。

 

『君と決闘してからというもの、スレッタは毎日、青春をエンジョイしててすごく楽しそうなんだ。本当にありがとう、そのままの君でいて欲しい』

「お、おお……そ、そうなのか……そうか……」

 

 心なしか嬉しそうなグエルを横目に、赤面してスレッタは抗議の台詞を姉に叩きつけた。

 

「ちょ、エリクト!? そういうのバラすの禁止だから!!」

『敗者はそこで黙ってみているがいいさ……僕の可憐なトークをね!』

 

 ()()()()()のようなAIとスレッタのやりとりを見て、メカニック科二年のヌーノがぼやいた。

 

「マジで無駄に人間らしいAIだな……」

 

 その横でオジェロは、スレッタのコクピットでの長話に納得した。

 

「あんなAIがいたら、そりゃ長話もするよな」

 

 メカニック科三年のアリヤとティルは、何事かを考え込んでいる。

 

「占いだとスレッタには()()()()()と、()()()()()()って出たんだけど……どうやらAIユニットを家族同然にあつかっているかららしい」

「ちょうどビットステイヴとエリクトで一二人分になるね。でも兄が一人、っていうのはなんだろう」

 

 そんな二人の会話を抜け目なく聞き取りながら――その兄に当たる存在に彼女は心当たりがあった――エリクトは、スレッタ好みのしゅっとした怜悧な美貌のイケメンを見つけた。

 忘れようものか。あの大事件――ペイル・スキャンダル事件のおり、深く関わることになった美少年、エラン・ケレス改めエラン・フォースである。

 

『今はエラン・フォースだっけ、この姿で会うのは初めてだね』

「……そうだね」

『君を助けようとしたときほど、スレッタが自分の意思で横紙破りをしたことはなかったよ。そのことを忘れないで欲しい』

「…………言われなくたって、僕は忘れないよ」

 

 本来、死する運命にあった誰かを救うために、スレッタ・マーキュリーは確かに歴史を動かす事件を引き起こしたのである。

 口でどういったところで、真の意味でその重責を背負うことなど個人にはできない。

 ただ積み上げた業だけを背負って、エリクトの妹は生きていくのだ。

 文字通り、その生きた証である少年に対して、エリクトは命を粗末にするような真似を決して許さない。

 存外、強い語気とまなざしで「言われなくたって生きてやる」と返されて、エリクト・サマヤは満足した。

 なので面白そうな方を弄ることにした。

 

『そしてミオリネ・レンブランに告白してたチャラい方!!!』

「俺だけ扱いがひどくないかなぁ!?」

 

 シャディクは思わずツッコミをいれてしまった。

 相手はAIなのだとわかっていても――いや、高度な自律型AIだと判明したからこそ、シャディク・ゼネリは戦慄を隠せない。

 ここまで人間と会話できる高度なAIが〈エアリアル〉に搭載されていて、オーバーライドという強力な電子戦能力を自在に使いこなせることの意味は大きい。

 これほど柔軟に思考して会話できるAIとなると、何らかの安全装置があるとしても、能動的に無効化される可能性がある。

 実際のところ、〈エアリアル〉とエリクトはシャディク・ゼネリの想定よりもはるかに危険な存在であり、今では如何なる制限もなく、完全自律稼働が可能(パーメットスコア8)な一個の知的生命体として確立されてしまっているのだが。

 

『世界は君が思っているよりは優しいと思うよ、こう、いい感じに一途な君を貫いた方が人生楽しいと思う』

「……なんで俺だけ妙に生やさしい感じなのかな……?」

『これはスレッタのお姉ちゃんからの真面目な忠告です』

「……AIに人生の助言もらうとは思わなかったな……」

 

 含みのある物言いに引っかかるものを感じつつも、深く追求すると、それこそ墓穴を掘ることになるのでシャディクは黙り込むしかない。

 ただ彼から見て、この〈エアリアル〉のAIは油断がならない相手なのは確かだった。

 そもそも機体の搭乗者であるスレッタ・マーキュリー自体、すっとぼけた人柄とふわふわした言動で忘れがちだが、ドミニコス隊のMSパイロットでありデリング・レンブランの懐刀なのである。

 本来、シャディクが真っ先に警戒すべき人種なのだ。

 

 それが今ではこうして、ヒヤヒヤしながらもふざけた会話ができる仲なのだから、人生、わからないものだった。

 もし、少しボタンが掛け違っていたなら――とシャディク・ゼネリは想像する。

 シャディクとミオリネはすれ違ったままだったかもしれないし、彼の暗躍は暗く救いのない惨状をもたらしていたかもしれない。

 自分にはそれをするだけの動機と能力があると、少年は自覚していた。

 今この瞬間がそうなっていないのは、スレッタ・マーキュリーという異分子の存在――ノレア・デュノクとの会話から察するに、〈フォルドの夜明け〉を襲ったのは彼女と〈エアリアル〉だったのだという――によって、あらゆる物事の歯車が狂ったからだ。

 言ってしまえば、今、ここにシャディクがいるのはすべて目の前の少女のアバターを持ったAIのおかげなのかもしれなかった。

 

「まぁ、いろいろと()()()には感謝してるよ」

『感謝されてあげるよ、シャディク・ゼネリ』

 

 それから細々とした会話を地球寮の面子とした――特にメカニック科は興味津々だった――あと、話題は〈エアリアル〉の修理になった。

 まず、フレームがガタガタなのだという。

 以前から繰り返された決闘による酷使に加えて、先のアスティカシア高等専門学園への襲撃事件での大立ち回りがトドメになって、今の〈エアリアル〉はオーバーホールが必要な段階なのだという。

 これには流石のエリクトも慌てた。

 

『え、せっかくお話しできるようになったのにいきなり工場送りなの!?』

「仕方ないでしょ、〈エアリアル〉酷使しすぎてフレームがガタガタなんだから」

『……あー、この前のノレア・デュノクとの戦いとかきつかったよね。ビーム無効のバリアの合間に攻撃とか高難易度死に(ソウルライク)ゲーかよって感じだったし。僕とスレッタはすごいので一発クリアしたけど』

 

 エリクト・サマヤは普段、暇を持て余しているためアド・ステラからしてみれば、もはや古典と化して久しい西暦時代のレトロゲームもたしなんでいる。

 エリクトの影響でやはりその手のゲームに親しんでいるスレッタは、エリクトの言わんとすることを理解したが、それゆえに苦笑する。

 

「ううん……オーバーライドの方がよっぽどひどいんじゃないかな……」

『オーバーライドはチートじゃなくて必殺技だもん!! エアリアル・エグゼキューション!!』

 

 おどけるエリクトに苦笑したあと、スレッタはミオリネに尋ねた。

 

「こういうときってどこにMSを送ることになるんですか、ミオリネさん」

 

 そんなの決まってるでしょ、という顔――ミオリネ・レンブランは腕を組んでこう答えた。

 

 

 

「――プラント・クエタね。ベネリット・グループのハイテク機器なら大概、ここで修理も改修できるわよ。ちょうどシン・セー開発公社からも新装備のテスト要請来てたし、ちょうどいいんじゃない?」

 

 

 

――かくして運命は巡り。

 

 

 

――別離の季節に向けて動き始める。

 

 

 









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