ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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シャディクが義父と世間話するだけの話

 

 

 

 

――エリクトとの顔あわせから数週間後。

 

 

 

 スーツ姿のシャディク・ゼネリはベネリット・グループの本社フロントで、自らの義父である老人と対面していた。

 グラスレー・ディフェンス・システムズの系列企業が入っているエリアの一角に、その部屋――グラスレー社CEOの椅子はあった。

 ここに立ち入ることを許されているシャディクは、実子のいないサリウスの後継者レースの中でも有力視されている跡継ぎ候補の一人である。

 彼はまず、自分が代表を務める会社の経営状態について簡潔に報告した。

 

「グラスレー研究開発の方は好調ですよ。この前の〈ミカエリス〉のデータから、次世代機の研究を進めているところです」

「そうか」

 

 うなずく義父は、以前に比べてずっと老け込んだように見えた。

 デリング・レンブランが新型GUNDフォーマットとガンダムの保有を公に認めて以来、サリウスは心労が絶えない日々が続いたのだろう。

 なるべく手短に報告を終わらせるため、すぐに本題に入った。

 

「株式会社ガンダムのアドバイザーを務めている件ですが――」

「株式会社ガンダムについての報告書は読んだ。パーメット・サーバーによるガンダム専用OSの囲い込みと、それによる絶大なシェア獲得か……デリングらしからぬやり口だ。迂遠だが、確実な支配の仕方だな」

「私見ですが、新型ガンダム絡みの提案はシン・セー開発公社のルイ・ファシネータ代表が管轄しているように思います。アミュレット・システムとそれによるMSユーザーの囲い込みは、彼の発案ではないかと」

「なるほどな……変わったのはデリングではなく、やつと手を結ぶ相手というわけか」

「シン・セー開発公社は今やデリングお抱えの組織です。ルイ・ファシネータの正体は掴めていませんが、俺たちが考えていた以上にデリングと深い繋がりがあるように見えました」

 

 シン・セー開発公社の前代表プロスペラ・マーキュリー自体、おそらくデリングの手によって引き立てられ、CEOの座についた人物なのだろう。

 その悪魔的な手腕から社内では「水星の魔女」と呼ばれていたというスレッタの母親は、ヴァナディース機関の生き残りだと確定した。

 何せ、そのヴァナディース機関の生き残りであるベルメリア・ウィンストン自身が、故人であるプロスペラ・マーキュリーのことを知己であると認めたのだから。

 あのパーメットAI〈エリクト〉の存在を考えれば、スレッタの母親が、魔女の遺産を継承していることがわかる。

 不可解なのは、両者の繋がりであった。

 ヴァナディース事変によって狩られた魔女の残党たちは、当然、魔女狩りの元締めであるデリングを恨んでいたはずである。

 そしてデリングは独断専行で虐殺を行ってまでして、ガンダムをこの世から根絶しようとしていた。

 にもかかわらず、いつの間にか両者は結託し、デリング自身が魔女を囲い込み、共犯関係になったことになる。

 

「わからないのはデリングがいつ、どうやって魔女を囲い込んだのかという点です。両者の繋がりのきっかけがわからないままです」

「巷で言われているような、魔女の愛人などという噂は信じるなよ、シャディク。デリングは傲慢な男だが、少なくとも妻を愛している男だった」

「男女の情でもない、ということですか。ますますわかりませんね……」

 

 険しい表情で顔を会わせていた親子だったが――ふと、思い出したように真顔でサリウスが問うてきた。

 

「ところでシャディク。どうなのだ、ミオリネ・レンブランとは」

「義父さん、その話題は今――」

「お前たちが考えている以上に、若者でいられる期間は尊いものだ。楽しんでも罰は当たるまい」

 

 そう言ったあと、過去を懐かしむようにサリウスは目を閉じて。

 再び目を開けたとき、彼の顔にはある種の決意が宿っていた。

 その真意がわからぬまま、シャディクは義父の次の言葉を待った。

 

 

「だが、そうだな。楽観は若者の特権だが、それによって望まぬ未来を迎えることもある」

 

 

 そしてサリウスが続けたのは、おおよそ、今までの話題と関係のない突拍子もないものだった。

 

「私の経験を話そう。シャディク、お前は()()()()()()()()についてどの程度、理解している?」

「……ベネリット・グループの抱える地球での既得権益の一つだと認識しています、義父さん」

 

 シャディクの如才ない受け答えに対して、サリウス・ゼネリは深々とため息をついた。

 それは動かしがたい現実に対する諦念の表れのようだった。

 

「既得権益、か。そうだな、今となってはそう形容するしかないシステムだ」

 

 ここではないどこかを見つめていた義父は、長きにわたる宇宙滞在によって肉体が老化しており、見た目以上に体の節々にガタが来ている。

 だからこそ室内では電動車椅子に乗っての移動が多いのだが――今日の彼はどういうわけか、いつもよりずっと眼光が鋭いように思えた。

 

「昔話をしよう……最初は極些細な政治工作に過ぎなかった。企業の地球での利権を守るための囲い込み、ロビー活動として合法的に有力議員へ働きかける……大なり小なり、企業体であれば当然行うような活動だ」

「……義父さん、それは一体……」

 

 これまで聞いたことがない、義父自身の過去の話だと察して、シャディクはただ困惑した。

 その意図がわからなかったのである。今までサリウスとシャディクの関係は、優秀な後継者候補を欲した義父と、その期待に応えるエリートの養子という前提の上に成り立っていた。

 だが、この昔話は明らかにその一線を越えていた。

 サリウスの昔話はどこか懺悔にも似ていて――おぞましい真実へと向かっていく。

 

「だが我々は企業が持つ力の強大さと、利潤を追い求めて際限なく肥大化しようとする仕組みを甘く見ていたのだ。ドローン戦争を終わらせるため生まれたモビルスーツを商材にあつかうベネリット・グループが、その影響力を行使するとは、つまるところ死の商人の振る舞いなのだ。その事実に対して、我々はあまりに無頓着だった」

 

 それはスペーシアンとアーシアンの垣根を越えた、巨大な共犯関係が生み出した悪夢だった。

 そこに悪意はなかった。害意はなかった。殺意はなかった。

 誰もが善意で動き始めて、仲間たちの利益を最大化しようと努力した。

 そして無思慮な試みの果てに、利益を最大化する道具存在(AI)は極限の悪を吐き出した。

 

 

「――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が生じた。我々は楽観の代償を払うことになった――極めて民主主義的なプロセスを経て、熱狂と共に北アメリカ連邦の内戦は勃発し、一つの国が分裂するまでそれは続いた」

 

 

 歴史の教科書にも載っているような事件の一つ、ドローン戦争の終結後に勃発した北米の紛争状態。

 その元凶がベネリット・グループであり、しかもその経緯は事故のようなものだった――まるで質の悪いジョークのような真実。

 醜悪な現実に対して、シャディクは目眩を覚えた。

 スペーシアンたちが私利私欲のために始めた制度だとばかり思っていた戦争シェアリングは、あまりにもくだらない、浅慮が重なった事故だったなど。

 何の免罪符にもならないグロテスクさに、少年は怒りを覚えた。

 そんなシャディクの様子を眺めながら、訥々とサリウスは昔話を続けた。

 

「それが()()()()()()()()()()()()。あの戦争によって証明されたのは、スペーシアン企業グループがその影響力を行使するならば、弱体化した地球の国家勢力を操作するなど容易いという事実だった。当時、アーシアンにおいて大国だった北アメリカ連邦の惨状は、我々に一つの教訓を与えたのだ」

 

 (むご)すぎる現実に対して、サリウス・ゼネリは疲れ切っているように見えた。

 

「ドローン戦争を終わらせたはずの我々が目にしたのは、この世界において機能すべきセーフティなど、何もないという薄ら寒い現実だ。自らが戦災を作り上げる側の当事者になってなお、愚かしい我々は世界の正常化ではなく――猜疑心に満ちた過ちの継続を選択した」

 

「……戦争の意図的な操作が可能であると示してしまった時点で、他のスペーシアン勢力が地球を食い荒らす絶好の機会だから、ですか」

 

「そうだ。我々は()()()()()()を愚かにも繰り返した。元々、戦争の火種がくすぶっている地球は積み上げられた薪の山のようなものだ。国家というパイを外敵に切り取られてしまう前に、我々は狂った仕組みを生み出した――すでに存在している戦争の火種を感知し、自動的に着火し、できるだけ小規模な形で燃やし尽くすために。そしてその前提となるベネリット・グループによる支配を維持すべく、戦争シェアリングは誕生した」

 

 無秩序状態を最小限度に押さえ込みながら、持続可能な利益を吸い取るための仕組み。

 ベネリット・グループによる支配を永続させるために、戦争シェアリングというシステムは生まれたのである。

 それがアーシアンの生き血をすする悪魔の所業と知りながら、義父たちはその契約書にサインをしたのだ。

 無数の屍の上に成り立つスペーシアンの平和のために。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――そんなものが戦争シェアリングの免罪符になると言うんですか、義父さん!」

 

「そうだ、認めよう。戦争シェアリングこそ我々の世代の最大の過ちだ。私は約束された破滅のときを数十年、先延ばしにしただけだった……アーシアンの世界に紛争状態を押しつけ、切り捨てることでスペーシアンの世界の安寧を守ろうとし……結局のところ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 サリウス・ゼネリの長い懺悔が終わった。

 シャディクは告げるべき言葉もなく、ただ立ち尽くすことしかできなかった。

 室内にはサリウスとシャディク以外、誰もいない。あるいは彼が激情家だったなら、これまで流された血のため怒り、義父に殴りかかっていたかもしれない。

 しかしシャディク・ゼネリは賢い男だった。そんなことをしても何の解決にもならないとわかっているから、何故このタイミングで義父が懺悔してきたのか推し量ろうとする。

 その慎重さが仇となった。

 

「お前はスペーシアンとアーシアンのハーフだったな、シャディク……アナトリア戦争の申し子であるお前が、この世界の秩序を憎むのも当然のことだろう。だからこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「――っ」

 

 シャディクにとって致命的な情報を、義父はすでに掴んでいた。

 少年の背後で扉が開き、音もなく黒服の男たちが現れた。

 まるで子供のいたずらを叱るような口調で、サリウスは淡々とこれまでのシャディクの暗躍を列挙していく。

 

「ニカ・ナナウラの入学の偽装工作は見事だったな。私の方で瑕疵は握り潰しておいた。もう彼女の経歴をたどれるものはいない。〈フォルドの夜明け〉は国際指名手配しておいた。彼らはベネリット・グループのセキュリティフォースの優先排除対象となるだろう」

 

 息が苦しい。

 呼吸できなくなるような恐怖が、喉元までせり上がってくる。

 悲鳴を噛み殺してうつむくシャディクに対して、車椅子に座った義父は、審判を下すように彼の顔を見上げていた。

 

「上手く隠し通していたようだが……私の目を欺こうなどと考えるべきではなかったな、シャディク」

 

 黒服の男たちがシャディクの両側に立ち、彼の腕を掴んだ。

 

「連れて行け」

「義父さん、何を――」

 

 シャディク・ゼネリを見送る義父の顔は、どこか優しげですらあった。

 とても罪人に対するものとは思えないその表情に、言いようのない不安を覚えてシャディクは言葉を発しようとして。

 とうとう、口にすべき台詞を選べなかった。

 義理の息子の背中に対して、ぽつり、とサリウス・ゼネリは呟いた。

 

 

 

「――()()()、私がすべて終わらせる。それまで大人しくしていろ」

 

 

 

 











Q:小難しい話だったけどつまりどゆこと?
A:ごめんねシャディク、義父さん最低の搾取システムを作った側だけど頑張って贖罪するからねあとテロリスト飼ってるんじゃねえぞオイ(豹変)

原作では宇宙開発事業の費用捻出のために死の商人ムーブしてますが、今作では宇宙経済圏そのものが巨大化しているため、費用捻出の意味は薄いです。
どちらかと言えばベネリット・グループの影響力と安全保障のため、地球居住者にドローン戦争の負債を押しつけ、ツケを溜め込んできたのが今作での戦争シェアリングの実態です。
どのみちスペーシアンは最悪という結論は変わりませんが(ノレア並みの感想)。

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