ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタを助けにグエルとエランが動くだけの話

 

 

 エリクト・サマヤは焦っていた。

 何故かというと彼女がいるMSハンガーの内部に次々と兵士が押し寄せてきて、自分のことを取り囲んでいるからだ。

 集音センサーで拾った会話はとびきり物騒だった。

 制圧だの戦闘だの爆破だの、明らかにヤバい単語が聞こえてくるではないか。

 ガンダムであるモビルスーツ〈エアリアル〉は、つい先日、オーバーホールのためここプラント・クエタに送られてきて、大規模な改修を受けたところなのである。

 改修とは名ばかりで実際のところはほぼ新造に近い。

 人間で言えば脳みそに当たる機体中枢のコンポーネント――エリクトが宿っているパーメットAIの記憶領域以外、すべて交換しているわけだから、ほぼ新型機と言っていいだろう。

 外装こそ今までの〈エアリアル〉と同じだが、フレームはより頑強に、超伝導モーターはよりパワフルになっているし、背中には四つの機動ユニットが妖精の羽のように生えている。

 実戦仕様の〈エアリアル〉の戦闘データを元に開発された、パーメットスコア8以上での運用が前提の新型高機動ユニット〈精霊の翼〉。

 その加速性能と推力はこれまでの比ではない。

 つまり動けばめちゃくちゃ強いし、今のパーメットスコア8に到達したエリクトならば、パイロットがいなくても自由自在に機体(からだ)を動かせるのだけれど。

 

 

――あれ、この状況ってヤバくない? マジでヤバくない?

 

 

 足下でちょこまかと動き回る兵士たちの通信内容はぱっと傍受できる内容だけでも物騒だった。

 どうやら連中はクーデターを起こしたグラスレー社の兵士たちで、〈エアリアル〉の確保ないし破壊を命じられているらしい。

 あのチャラ男ことシャディク・ゼネリの属する企業グループである。

 

 

――どーなってんのさ、しっかりしろシャディク!

 

 

 さらに悪いことに、こういうときに役立つ陰謀屋の愚弟――ルイ・ファシネータと連絡がつかないではないか。

 プラント・クエタ全体に強力なジャミングがかけられていて、パーメット機器を通じたハッキングができなくなっていた。

 おかげで今のエリクトは、スレッタ・マーキュリーや株式会社ガンダムの面子の安否すらわからない。

 つまりうかつに動けないのであるが、かといって動かないでいるとますます状況が悪くなるのも明白だった。

 ノーマルスーツに自動小銃を手にした兵士たちは、有線通信で連絡を取り合っている。

 おそらく外部のレーザー通信装置か何かとケーブルで繋いで、直接、通信のやりとりをしているのだろう。

 幸いなことにまだ爆薬などを取り付けられてはいないが、このままでは時間の問題だろう。

 どうやらグラスレー社の兵士たちは、パイロットのいない〈エアリアル〉の扱いで迷っているらしい。

 エリクトとしても、生身の人間をハエ叩きみたいにチョップで潰れたトマトにするのはやりたくないのである。

 いくら何でも野蛮すぎるし掃除が大変である。

 ミンチになった人間の血肉など、どう足掻いてもグロ画像なのだ。

 そのときだった。

 突然、兵士たちがMSハンガーを出て通路の方へと撤収して行くではないか。

 

 

――ひょっとして僕の祈りが神様に通じたのかな、やったね!

 

 

 そんな風にエリクトが楽観的になったのも束の間、〈エアリアル〉のセンサー群が接近する熱源を探知した。

 数は三機、モビルスーツサイズの熱源がMSハンガーの共用通路を通ってこちらへ近づいてくる。

 エリクトは慌てた。

 

 

――まさか、嘘でしょ?

 

 

 〈エアリアル〉が格納されている第七八番格納庫の前で止まったのは、グラスレー・ディフェンス・システムズ製のMS〈ハインドリーシュトルム〉三機。

 西洋甲冑を思わせる意匠の装甲を身にまとい、左肩に大型のビームキャノンを背負った、頭頂高一八・八メートルの巨人である。

 アスティカシア高等専門学園や民間に卸している下位グレードのモデルと区別して、実戦仕様などと呼ばれる純軍事用のモビルスーツだ。

 三機の〈ハインドリーシュトルム〉は、手にしたビームライフルを〈エアリアル〉の方に向けてきて。

 被ロックオンを示すアラートが聞こえてきて、エリクトは死ぬほど焦っていた。

 

 

――うっわ、こいつら僕を殺す気かよぉ!!

 

 

 まあ〈カヴンの子〉のビットステイヴを出せばビームライフル程度は防げる。

 しかし間に合うかなこれ、とこれまでの暢気さのツケを払う羽目になりかけたその刹那。

 

 

『――やらせるかぁああ!!!!』

 

 

 隣の七七番格納庫から、深紅の機影が飛び出してきた――鳴り響く叫びは、うっかりオープンチャンネルになったらしいグエル・ジェタークの咆哮。

 同時に〈エアリアル〉が起動し、ビットステイヴが電磁バリアを展開。

 グラスレー社のMS小隊は、一瞬、突如動き出した〈エアリアル〉を狙い撃つか、乱入してきた〈ダリルバルデ〉に対応するか迷った。

 その迷いが致命的だった。

 ビーム刃の一閃。

 抜き打ちに斬りかかった〈ダリルバルデ〉のビームカタナが、一撃で〈ハインドリーシュトルム〉の胴体を切り裂いていた。

 学園仕様OSゆえにコクピットブロックは避けていたが、神速の斬撃である。

 上半身と下半身が泣き別れになった〈ハインドリーシュトルム〉を蹴り飛ばし、深紅の鎧武者が二機目の〈ハインドリーシュトルム〉へ突進する。

 MSとMSが鼻を突き合わせるような距離では、肩のビームキャノンは使い物にならないし、ビームライフルも距離が近すぎて邪魔になる。

 そしてジェターク社のMSは、近距離戦でのパワーと装甲を重視した設計である。

 二機目の〈ハインドリーシュトルム〉は、為す術なくビームカタナで逆袈裟に切り裂かれ、壁に激突して沈黙した。

 

『うおおおおおお!!!!』

 

 だが、〈ダリルバルデ〉の快進撃もそこまでだった。

 三機目の〈ハインドリーシュトルム〉がその背後を取って、ビームサーベルを抜刀した。

 冷酷な刺突がグエル機を襲いかけた次の瞬間。

 

 

『――お姉ちゃんキック!!!』

 

 

 コクピットブロックに容赦なく飛び蹴りを叩き込まれ、〈ハインドリーシュトルム〉のパイロットは脳しんとうを起こして気絶、モビルスーツは通路の壁にめり込んで動かなくなった。

 これにびっくりしたのはグエル・ジェタークだった。

 スレッタの大切な相棒が、目の前で壊されようとしている――そんな状況にいても立ってもいられず、思わずMSを動かして戦闘を仕掛けたのだ。

 まさに考えなしのアホである、とグエル本人も認めるような無鉄砲さであった。

 ともあれ、びっくりもするはずである。

 てっきり無人で壊されるのを待つばかりだと思っていた〈エアリアル〉がひとりでに動き出し、自分のピンチを救ってくれたのだから。

 

『〈エアリアル〉!? 誰が乗って――』

『僕だよ! 超高性能AIのエリクトが操縦しているのさ!』

『はぁ!? いや、無人でMSは動かな――』

『超高性能AIだからね』

『いや……倫理問題が』

『超高性能AIだからね』

 

 エリクトはゴリ押ししてグエルを黙らせた。

 

『まあ、よくやったグエル・ジェターク! あとでスレッタにキスしていいよ!』

『き、キスぅ!? な、何を言って……!』

『ごめん嘘。お姉ちゃん、スレッタのことをぞんざいにあつかうやつは殺すから。ビームで焼き払っちゃう』

『理不尽だな!?』

 

 姉とは理不尽なものというこの世の真理を知らないらしい――グエル・ジェタークは青いね、とエリクトは思う。

 そのときだった。

 愚弟ことルイ・ファシネータから通信が入ってきたのは。

 どうやらジャミングの影響を受けない通信回線を構築するのに時間がかかっていたらしく、ルイは相当焦っていた。

 何せ、いつもの長ったらしい前口上もなく、いきなりこんなことを言い始めたのだから。

 

 

『――私の不始末の結果、スレッタ・マーキュリーが暴走して銃器片手に鉄火場に突っ込んでいきました。助けてくださいエリィ』

 

 

 何言ってんだこいつ。

 エリクトは絶句したあと、何がどうなってそうなったのかなんとなく察して――どうせ上手いこと言いくるめるか、なだめすかすかしようとしてスレッタの地雷を踏んだのだろう――沈黙。

 考えをまとめた五秒後、一息で罵倒を吐き出した。

 

 

――ちょっと待て、ふざけんなよこの慇懃無礼ボンクラ人工無能!!

 

 

 エリクトはキレた。

 

 

 

 

 

 

 悪い知らせだった。

 エラン・フォースが攻撃を受けている真っ只中のCブロックに飛び込もうと決意したのは、自分の生徒手帳に届いたメッセージが理由だった。

 差出人はルイ・ファシネータ。

 内容は「スレッタ・マーキュリーがCブロックに向かった。身の安全が保障できない状況にある。彼女の現在座標を送る」と手短なものだ。

 何故、自分にそんな内容のメッセージを送ってきたのかはどうでもよかった。

 ただ、あの娘が危険に曝されているのだけは看過できなかった。

 株式会社ガンダムの面子には止められたが、自分が必要な戦闘訓練を受けていることを説明すると、何も言えなくなったようだった。

 無謀なのは承知だったし、身の安全を最優先すべきだという地球寮の寮長の言は正しい。

 

 だが、エランはそれらを振り切って、スレッタの元へ向かうと決めた。

 ノーマルスーツ姿でCブロックへ突入したエランを待ち受けていたのは、疑似重力機構が壊れて無重力状態になった区画だ。

 ルイ・ファシネータからの誘導に従って、警備員の詰め所に立ち寄る。

 そこで彼が見たのは、射殺された二人の警備員の姿だった。

 さっと周囲を見回し、殺戮者が側にいないことを確認。慎重に死体へ近づいたエランは、ブービートラップの類がないことを確認すると、その腰のホルダーから拳銃を拝借した。

 

「……借りていくよ」

 

 拳銃が正常に動作することを確認し、予備マガジンをポシェットに入れる。

 ベネリット・グループの警備部門で正式採用されている標準的な拳銃で、エランも訓練で取り扱ったことがある銃だった。

 これならば問題なく使用できる。

 照明が消えて非常灯に切り替わっているCブロックは薄暗く、底なしの闇が向こう側にあるように思えた。

 しばらく携帯端末に示された道順通りに進んで、いくつかの区画を通り過ぎたあと。

 遠くで銃声が聞こえることに気づいた。

 何者かが銃撃戦を繰り広げているのだ。

 エランの全身に緊張が走る。

 急げ、と自分に念じながら通路の床を蹴って。

 

 ふと壁際に感じた違和感――エランにとって幸運だったのは、銃弾の消費を惜しんだ敵が、背後からナイフで彼を仕留めようとしたことである。

 光学迷彩を展開していようと、移動に伴う空気の揺らぎは隠せない。

 そういう微妙な風の変化、いわば気配と呼ぶべきものを、エラン・フォースの鋭敏な感覚器は捉えていた。

 背後から振り下ろされたナイフを身をひねって避ける――肘を打ち込むと、突進してきた相手の光学迷彩が揺らいで、透明化が解除され全身をボディアーマーで覆った兵士の姿があらわになる。

 骨格や筋肉を人工のものに入れ替え、瞬発力や膂力を強化されたサイボーグの兵士たち。

 無重力状態――二人そろってもみくちゃになって宙を漂いながら、右手に小銃、左手にナイフを持ったサイボーグがエランを殺そうとしてくる。

 そのナイフの切っ先を避けながら、少年は反撃の機会をうかがう。

 

 銃の使い方も、近接格闘術も、ナイフファイトのやり方も――エラン・フォースは最初から知っている。

 強化人士の素材として集められた子供たちは、ペイル・テクノロジーズにおいてはただの加工前の原材料に過ぎず、その中で生き残るにはすべてを十全に身につける必要があったからだ。

 それは訓練と選抜という形であったが、過酷な生存競争であり、淘汰圧をかけられる環境だった。

 そして骨格レベルで整形され、MSパイロットに必要な身体能力を与えられた強化人士の肉体は、見た目こそ秀麗だがサイボーグのそれと大差ない。

 人外の膂力でエランを刺し殺そうとしたサイボーグ兵の腕をひねり上げ、相手の力を利用して振り回す。

 相手が向けてきた自動小銃の銃口を腕でそらしながら、エランは果敢に敵の懐に飛び込んだ。

 

 

――僕は迷わない。

 

 

 エラン・フォースは手にした拳銃――その銃口を敵の頭部、装甲化された部位以外、首の隙間に押し当てて引き金を引いた。

 パァンパァンと乾いた銃声。

 接射された二発の銃弾は、速やかにサイボーグ兵の脳組織を正確に撃ち抜いて絶命させた。

 不随意運動でびくびくと痙攣する手足を横目に、壁を蹴ってもう一つの違和感――光学迷彩に潜む二人目の兵士へ飛びかかる。

 自動火器の銃弾が足下で弾けるが、相手の予想よりエランの身のこなしが早かったため、辛うじて被弾を避けられた。

 宙を漂いながら拳銃を構え、兵士の頭部を狙い撃った。

 ヘッドショット。

 装甲化されていないセンサー部分を銃弾が刺し貫き、銃弾とセンサーの破片が生身の体組織をズタズタに引き裂いて。

 苦痛に絶叫する兵士の頭部に銃口を押し当て、引き金を引いた。

 銃声。

 敵の苦痛は未来永劫、その命と共に失われた。

 装甲化されたボディアーマーの塊のような兵士二人の死骸が、血の雫を浮かべながら宙を漂う。

 上手くいった。

 初めての殺人だった。

 しかし思いのほか、何の感慨も湧かない自分に気づいて、エランはため息をついた。

 

 

「――あの子にもらった命だ、君たちにはやれない」

 

 

 悔恨も懺悔もあとでいくらでもできる。

 相手の使用していた自動火器が、生体認証などがないまっさらな小銃なのを確認し、それを奪い取った。

 より強力な武器を手にして、エラン・フォースはただ通路を駆け抜ける。

 

 

 

――自らの恋に殉じるように。

 

 

 

 













新型エアリアルはエアリアル初期型+改修型のバックパックって感じの見た目です。
光の翼とか出せる(?)。


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