ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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今回は下ネタがあるので苦手な方は注意してください。
ギャグ回です。









ミオリネ編
グエルがいかがわしい動画を見せられるだけの話


 

 

 

「何をやっとるんだ、お前は!」

 

 

 ヴィム・ジェタークは怒鳴り声と共に、息子の頬をビンタした。

 少年期を終えつつあり、青年期にさしかかっているグエル・ジェタークは、父親の振るった一撃を呆然と受け止めていた。

 体格や筋力で抗えなかったのではない。

 すでに骨格レベルでグエルの方が体格は良かったし、中年太りしているヴィムより、筋力トレーニングを欠かしていないグエルの方が身体能力でも恵まれている。

 あえて受けた、と言ってもいい。

 つまるところグエルは、父親のビンタを妥当なものだと感じてしまっているのだ。

 ジェターク社CEOの執務室での出来事である。

 あのプラント・クエタで起きたクーデター事件が終結してすぐ、グエルは父親に身柄を引き取られていた。

 バラバラに解体された〈ダリルバルデ〉の中で泣きじゃくっていたグエル・ジェタークは、誰の目から見ても敗北者であり、覇気というものがなかった。

 事情は〈ダリルバルデ〉の通信ログを聞けばすぐわかる。

 スレッタ・マーキュリーの新型MSに決闘を挑み、無様に敗北したという事実を知って、ヴィムは激昂したのである。

 

「勝手に会社の用事をでっち上げたのはともかく! 〈ダリルバルデ〉でグラスレーの馬鹿者どもを叩きのめしたのはいい、だがな!」

 

 そこはいいのかよ、とグエルは思ったが、口を挟むとますます怒られそうなので黙っていた。

 一般的にはどれもこれも大企業の代表の子息が取るべきではない問題行動である。

 しかしヴィム・ジェタークという男は基本的に破天荒さ、野蛮さを()()()()美徳と考える類の人種だった。

 ろくでもないマッチョイズムの化身である。

 ヴィムは公私の分別がついていないという意味で会社の権限の濫用は問題視するが、実戦で〈ダリルバルデ〉を乗り回して三対一で二体撃破しているのは立派な戦果と考える。

 そういう男なのである。

 そしてそういう男であるから、当然のごとく、愛息が〈エアリアル〉に惨敗したという結果を問題視するのだ。

 ちなみにヴィムもスレッタ・マーキュリーの悲惨な身の上話は通信ログ解析の過程で耳にしている。

 だが、それを聞いて出てくる台詞が凄まじかった。

 

「あの小娘の身の上話を聞いて同情したか!? MSに乗せるため作られた魔女、如何にもデリングがしそうな非道ではないか!」

「それは……違うっ! 俺は全力で戦った……戦って……!」

「それで無様に負けた、そうだな!?」

「ッ……!」

 

 事実であった。

 ゆえにグエルは下唇を噛んで、父親からの痛罵に耐えた。

 会社の資産である最新鋭モビルスーツを乗り回し、無残に大破させた負い目がそうさせていた。

 

「まだ混乱の最中のプラント・クエタで助かったがな! これが他人の目に触れてみろ、ジェターク社の株は暴落したかもしれんのだ! お前が負けるとは、ジェターク社が負けることに等しいのだ……!」

「……はい、父さん」

「しばらく決闘は禁止する! 俺の許可なくMSを乗り回そうとするなよ、いいな!」

 

 退室を促され、グエル・ジェタークはとぼとぼと力なくCEOの居室を跡にした。

 うなだれて力ない息子の姿を見送ったあと、ヴィム・ジェタークは深くため息をついた。

 考えることが多すぎるのだ。

 よもや保守派スペーシアンの代表のようなサリウス・ゼネリが血迷って、武力でクーデターを起こすなど誰に予想できただろう。

 グラスレー・ディフェンス・システムズのクーデター失敗と、それに伴う指導部の更迭がもたらす混乱は大きい。

 表向き、プラント・クエタで起きた死傷者は事故の犠牲者ということになっているが、この話はいずれ、外に漏れるだろう。

 そのときベネリット・グループがどのように再編されるか、ヴィム自身にも予想がつかなくなっているのが問題だった。

 

 御三家のうち二つがデリングに敗れたような形になっているのがよろしくないのだ。

 このままでは本当にデリングの独裁体制が完成してしまうし、ジェターク社だけではデリングの持つ権力を抑えることは不可能だ。

 デリングと御三家の間に、ある程度のパワーバランスを保たねば、いずれジェターク社も粛清対象になるかもしれない。

 猪突猛進な男であるヴィムも、ペイル社に続いてグラスレー社までもが武力で敗れたのを目にしてしまうと、暗殺やクーデターには慎重にならざるを得ない。

 ここはシン・セー開発公社や弱り目のペイル・テクノロジーズにすり寄っておくべきか、と思案して。

 最後にヴィムが考えたのは、〈ダリルバルデ〉の記録映像に残されていた、〈エアリアル〉の圧倒的な機動力だった。

 

「……とはいえ、今の〈ダリルバルデ〉では勝てんな」

 

 息子には叱りつける手前、ああ言ったが、ヴィムとて一流のMSパイロットである。

 シン・セー開発公社の新型が、明らかにこれまでのMSとは一線を画する性能を有しているのは一目でわかった。

 グエルはよくやったのである。

 勝ち筋はあの手札――インファイトを挑んでからのドローン攻撃しかなかっただろうし、それに一瞬で反応して見せたあのガンダムが異常なのだ。

 つまるところヴィム・ジェタークは、まだ、息子を勝たせてやれるMSを用意できていない。

 やはりガンダムを駆逐するには、真の第五世代MSを完成させねばなるまい。

 そう強く決意して、ヴィムはMS研究開発部へと電話をかけた。

 

 

 

「俺だ。――〈シュバルゼッテ〉の進捗はどうなっている?」

 

 

 

 

 

 

 プラント・クエタでのクーデター事件から二週間が経った。

 それがクーデター事件だったことは表向き秘匿されていたものの、突然のサリウス・ゼネリCEOの辞任は関係者に勘ぐらせるのに十分なインパクトがあり、クーデターが起きたことは公然の秘密になっている。

 最初こそアスティカシア高等専門学園にも激震が走った――特にグラスレー寮の生徒はうろたえた――ものの、日にちが経つにつれて、びっくりするぐらい学生の暮らしには影響がないのがわかってくると、話題は「次のグラスレーCEOは誰か」という俗なものになっていった。

 経営陣の顔ぶれが変わるのは十分に大事件なのだが、下々にその影響が実感されるまでにはタイムラグがある。

 ましてや日々忙しい学生たちにとっては、雲の上の人々の政変など、そう実感できるものではなかった。

 

 そしてもちろんグエル・ジェタークは、我関せずの態度でジェターク寮のトレーニングルームで身体を鍛えていた。

 トレーニングマシーンで黙々と身体作りをしていると、ランニングマシンで走り込みをしていた巨漢が、グエルの横に近づいてきた。

 グエルの専属メカニックをしているカミルだ。

 彼は忠告するように声をかけてきた。

 

「噂になってるぞ……グエル・ジェタークが水星女に告白したら決闘で倒されて玉砕したって」

「……告白はしてない。決闘で負けたのは事実だけどな」

 

 グエル・ジェタークが水星女に決闘で負けたらしい――この噂の出所は、大破した〈ダリルバルデ〉の残骸の処理に関わったプラント・クエタの職員である。

 人の口を介してジェターク寮の生徒の間に広がった噂は、幸い、投資家筋の間では子供の戯れ言と思われているらしく、まだジェターク社の株価には影響していない。

 とはいえ学園の生徒たちは、いつもなら真っ先に怒り狂って否定しそうなグエルが、浮かない顔で黙々とトレーニングに励んでいるのを見て「真実なのでは?」と察していた。

 本人の口から事実確認をして、カミルは困ったような表情になった。

 

「……浮かない顔してるのは、それが理由か」

 

 カミル・ケーシンクとグエル・ジェタークは長い付き合いである。

 グエルがホルダーとして頭角を現してすぐ、彼の専属メカニックとしてその優れた腕を振るってきた大柄な少年は、グエルの良き友人である。

 彼はしばらく思案するように宙を見つめると、やがて意を決したようにグエルの肩を叩いた。

 

「落ち込んでるときは……エッチな動画だろ?」

 

 朝食にはスクランブルエッグだろ、みたいなさりげない物言いだったので、一瞬、自分が何を言われたのかわからず、グエルは思考停止した。

 そして数秒間フリーズしたあと、カミルの邪気のない顔を見て、ようやくその発言意図を飲み込んだ。

 何故そうなるのか、理解できない。

 

「――えっ?」

「遠慮するな、俺たちはジェターク寮の仲間じゃないか」

 

 そういうことになった。

 

 

 

 

 

 

 人類最古の職業は売春である、という俗説がある。

 真偽は定かではないが、つまるところ人類という生き物が欲望を持つ限り、それに関わる産業も必ず生まれるのだ。

 アド・ステラの時代においては、発展したAIの利用により簡単に画像や映像の生成ができるし、ちょっとした映画ぐらいの映像も、手間をかければ作ってしまえる。

 このため性風俗産業は二極化した――つまるところ生身の人間と、AIを利用したポルノが、消費者の性欲という資源(リソース)を奪い合う熾烈な戦場が出現したのである。

 男女を問わず、この傾向は顕在化した。

 最新のコンピュータグラフィックスを駆使した立体映像のポルノ動画がある世の中では、人間の身体に対して性欲を向ける必要はないからだ。

 たとえそれが映像媒体や仮想空間にだけ存在するだけの空想上の存在だとしても、人間は、それを美しい他者の肉体だと認識してしまえば、性欲を喚起させられるのだ。

 ゆえに――

 

「やっぱ伝統のスクリーンタイプがいいと思うっすよ、映像作品としてのポルノの完成形っす」

「ばっか、今時はVRだろ! 臨場感が違うぜ?」

「グエル先輩は初心者なんだ、ここは無難に立体映像(ホログラム)タイプだろ!」

 

 

――年頃の男子生徒たちが、倫理規定上は持っていてはいけない(一八歳ないし二〇歳未満の購入が禁止されているフロントが大半)成人向けポルノコンテンツを持ち寄ることもありうる。

 

 

 ところでジェターク寮の男子寮には代々、人目をはばかる伝統がある。

 多種多様なポルノコンテンツを持ち寄り、時にシェアして、互いに助け合うダメな感じの互助文化があったのである。

 無論、女子に知られればゴミを見る目で見られることは確定しているため、ジェターク寮の男子たちは代々、女子に知られることなくこの秘密を継承してきたのだ。

 男性向けの性的かつ扇情的な動画(アダルトビデオ)を。

 まさにホモソーシャルの極みな馬鹿馬鹿しい伝統である。

 この伝統をグエル・ジェタークが知らなかったのにはわけがある。

 彼があまりにもストイックに強さを追い求める人間だったのもあるし、その取り巻きにして異母弟たるラウダ・ニールが、あえて兄を汚れから遠ざけていたからだ。

 かくして体育会系の園において、汚れなき姫君のごとく扱われてきたのがグエル・ジェタークなのだ。

 

 だが、今、その秘密は破られた。

 

 グエル・ジェタークは水星女に手ひどく振られて傷心なのである。寮長の心の傷を癒やすためならば、自身の恥部を曝すことに何のためらいがあろうか。

 そういう青臭い連帯感に基づいて、ジェターク寮の有志たちは今、あらゆる性的嗜好のポルノを持ち寄っていた。

 下劣な馬鹿の集まりである。

 しかしそれらが紛れもなく善意で行われているのが、ジェターク寮というコミュニティの特殊さであった。

 なお当事者であるグエル・ジェタークは呆然としており、「うちの寮、大丈夫なのか?」と呟いてしまったのは言うまでもない。

 メカニック科のカミル・ケーシンクが、男子寮ラウンジに座っているグエルに声をかけた。

 

「そんなに緊張するな、みんな嬉しいんだよ。グエルのために何かできることが」

「方向性、間違ってると思うぞ……?」

「まあ、そう言うなよ。試しに見てくれ」

 

 友人にそう言われては断りようもない。

 カミルは手のひらほどの大きさの立体映像の投影装置を取り出すと、グエルに手渡してきた。

 

「グエル向けのベストなポルノはこれだ。最新のホログラム・ムービーだ、臨場感が違う。カスタマイズ機能も俺の方で調整しておいた」

「お、おう……そ、そうか、すまん……?」

 

 エッチな動画のカスタマイズ機能って何だよ、とグエルは困惑した。

 ちなみにグエル・ジェタークとて身体的に健康な若い男子であり性欲はあるが、ジェターク寮の他の男子たちのように、ポルノコンテンツに対して知識が深いわけではない。

 否、むしろ知識は浅い。

 今時珍しいぐらいのピュアボーイがグエルであった。

 

「ああ、誰にだって一人でゆっくりする時間は必要だからな……」

 

 ぐっと親指を立てて見送られて、仕方がなくグエルは自室に戻ることにした。

 部屋に入ってすぐ、ドアをロックする。

 正直、気乗りしなかったが、カミルがあれだけオススメしてくれたのに手を着けないのも気分が悪い。

 そんな義理立ての気持ちでグエルは行動していた。

 ベッドに座ってすぐ、立体映像の投影装置のスイッチを押した。

 そんな気分ではなかったので、もちろんズボンもパンツも脱いでいない。

 部屋の壁に投影されたのは、広大な宇宙空間だった。

 星々が煌めく天を切り裂くように、無数の巨大な人型が動き回っている。

 

「モビルスーツ……?」

 

 どうやら架空の企業のモビルスーツ――どことなくグラスレー社の〈ハイングラ〉っぽいパチモノ――が、宇宙海賊とMS戦をしている設定らしい。

 戦闘シーンのアニメーションはよくできていた。

 西暦時代なら小国の国家予算ぐらいの額が注がれていたであろう、大作娯楽映画(ブロックバスター)めいた映像である。

 AIを使った映像制作の発展により、はるか昔には膨大な予算と人員を必要とした高度なVFXを少人数で作れるようになったのである。

 グエルが素直に映像美に感心していると、MS戦が終わって、宇宙海賊を撃滅したMSが母艦に帰投した。

 そこからの展開が良くなかった。

 〈ハイングラ〉っぽいMSのコクピットハッチが開き、パイロットスーツを着た人物が降りてきたのである。

 その人物がヘルメットを脱いだ瞬間、グエルは目を見開いた。

 

「……は?」

 

 褐色で太眉でたれ目で背が高い赤毛の女パイロットが、パイロットスーツを半脱ぎにして、インナーに包まれた肉感的(グラマラス)な肢体をあらわにした。

 ちょっとどころじゃなく、主演女優(AIによって生成された3Dモデルであり、生身の人間は一切存在していない)がどこかの誰かに似ていた。

 具体的にはスレッタ・マーキュリーの面影がありすぎる。

 不味い。

 これはすごく道徳的にダメな動画の気がする。

 情緒不安定になったグエルは思わず叫んだ。

 

 

「…………露骨すぎるだろ!!!!」

 

 

 カミルの要らない気遣いだった。

 実在の人間をモチーフにするのは倫理的に最悪な気がしたし、こんなものを見ていることがバレた日には、グエルの初恋は儚く散るどころか人生の汚点に成り果てるだろう。

 思わず動画の再生を止めた瞬間、宇宙母艦のMSハンガーの立体映像はかき消えて、赤毛で太眉でたれ目で褐色肌の女パイロットも消滅した。

 明らかに実物より盛られている豊かな胸の膨らみも消えた。

 ドキドキと高鳴っている胸の鼓動に、少年が自己嫌悪に陥りそうになった瞬間である。

 来客を告げるブザーが鳴った。

 

『グエル・ジェターク、いるかい? 急ぎの用事なんだ』

「……エラン?」

 

 ドアの向こうにいるのは、スレッタを巡る恋の三角関係の好敵手であり、また友人でもあるペイル寮筆頭エラン・フォースであった。

 ジェターク寮に一人で乗り込んで来た挙げ句、空気を読まずに男子寮にまで入り込んだらしい。

 相変わらず変な行動力だけはある男である。

 

「ああ、今開ける」

 

 グエルとしては、あの立体映像ポルノのことは忘れたい気分だったから、来客も大歓迎だった。

 ドアのロックを解除すると、エランがするりと室内に入ってきた。

 いつも通りのポーカーフェイスだが、何か相談したいらしい、とその微妙な表情から読み取る。

 

「どうしたんだ、こんな時間に」

 

 時刻は夜である。

 男子同士とはいえ、他の寮を訪ねるには遅すぎる時刻だった。

 

「ああ、ちょっとね」

 

 エランに悪気はなかった。

 ただ彼はグエルに勧められるままに、ベッドに腰掛けただけだった。

 その拍子に、グエルが仕舞い忘れた立体映像の投影装置に手が触れてしまったのは、質の悪い偶然だった。

 カチッとスイッチが入る音。

 

 

――そのとき、立体映像ポルノが再開された。

 

 

 グエルの部屋に再びMSハンガーの立体映像が投影され、まるで実写のような3Dモデルの肉感的な美女――赤毛で太眉でたれ目で褐色肌の女パイロットが、二人の目の前に現れた。

 ゆっくりとパイロットスーツのジッパーが下げられていき、インナー姿のむちむちした肢体があらわになる。

 その乳房は豊満であった。

 

「…………………???」

「…………うぁ」

 

 男子二人の間に、気まずすぎる沈黙の(とばり)が下りた。

 グエルとエランは無言で顔を見合わせたあと、絶妙にスレッタっぽいが実物より明らかにセクシーなCGの美女を眺めて。

 エランはゴミを見る目でグエル・ジェタークを一瞥(いちべつ)すると、わざとらしくため息をついて一言。

 

「そうか。つまり君はそういうやつなんだな」

 

 状況に流されるがままのグエルは、ここに来て始めて、自身の置かれている異様な状況に気づき叫んだ。

 

 

 

誤解だ!?

 

 

 

 

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