ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタが姉にマジギレ説教されるだけの話

 

 

 

――スレッタ、君の態度はクソだ。

 

 

 地球寮MSハンガーにて、絶賛〈エアリアル〉の中に閉じこもっているスレッタ・マーキュリーは、姉エリクト・サマヤからガチギレのお説教を受けていた。

 かつてなく口が悪くなっている姉は、視線を宙に泳がせているスレッタに対して、パーメットリンクで脳みそ直通の罵倒を叩きつけてくる。

 

 

――そうか!

 

 

――スレッタは要領が悪くて他にとりえがないから〈エアリアル〉に乗ることでしか自尊心を満たすことができないんだね。

 

 

――かわいそ……

 

 

 惨い。

 かなり一線(ライン)を越えてる罵り言葉だった。

 スレッタは逆ギレした。

 

「は、はぁああ!? エリクト、ちょっと今、わたしにひどいこと言ってない!? あんまり調子に乗ってると、エリクト用に使わせてあげてたアカウント、凍結しちゃうからねっ!?」

 

 いきなり姉に罵倒されたスレッタは面食らって、エリクトが漫画やアニメ、ゲームを楽しむために使っているライブラリサービスを使用停止に追い込んでやろうかとタッチパネルを操作。

 だが、この行為は無謀であった。

 人間の思考速度と手指での端末操作速度と、情報生命体の操作速度が同じわけがない。

 あっという間にスレッタが開いた「サービスからの退会」画面は閉じられ、スレッタからの操作は一切受け付けなくなった。

 

「あぁあ!? わたしの名義で登録してあるのに!」

 

 

――やめてよね、スレッタが僕と喧嘩して勝てるわけないでしょ。

 

 

――これから一方的にスレッタは詰られるんだ、悔しいだろうけど仕方ないんだ。

 

 

「なんでこういうことするの!?」

 

 スレッタが子供のように喚くと、エリクトはやれやれと身振りかぶりを振って――スレッタの脳内には、白い空間に浮かぶエリクトのイメージ映像が送り込まれている――二週間前の少女の醜態を突っつき始めた。

 じゃあ言ってやるけどさ、とびしっと指さし一つ。

 

 

――君のミオリネやグエル、エランへの態度はなんだい? 友達なくすRTAでも始めたの?

 

 

「うっ、そ、それは……あのときは、ちょっとわたしも混乱してて、めちゃくちゃなことやっちゃった自覚はあるけど……エリクトには関係ないでしょ!!」

 

 痛いところを突かれたスレッタがそう叫ぶと、エリクトは半眼で妹を見下ろすイメージを送りつけた。

 心の底からお前を馬鹿にしているという感じの表情だった。

 

 

――へえ。二週間経てばちょっとは頭も冷えたんだね?

 

 

――かわいそうな僕のリプリチャイルドのスレッタ・マーキュリー? それともお母さんに愛されなかったスレッタ・マーキュリー?

 

 

――通信でペラペラ喋ったおかげで、今頃はジェターク社の連中も君の悲惨な境遇を聞いてるだろうさ。

 

 

――どう? 不幸自慢大会を開催して楽しかった?

 

 

「う、ううううう……それは……」

 

 今になって指摘されて気づいたが、確かにそうなるのである。

 みっともなく泣きわめいて、グエルに当たり散らしていた当時のスレッタの言動ごと記録されているのだ。

 新型〈エアリアル〉との交戦記録でもあるそのデータログは、今頃、ジェターク社で何度も何度も念入りにチェックされているだろう。

 スレッタの秘密と一緒に。

 

「ひぃいいいいいいいい!? え、ええええ、エリクト!! 今からでもジェターク社のサーバーをクラッキングできないかな!?」

 

 

――君の醜態に一番戸惑っているのは僕なんだよね。

 

 

――っていうか遵法精神の欠片もない発想だよね、お姉ちゃん引いちゃう。

 

 

 いつもならノリノリで手助けしてくれる姉は、今回ばかりは何もしてくれそうになかった。

 ケナンジ・アベリーあたりが聞いたら怒るより先に天を仰いで放心しそうな問題発言である。

 慌て始めた妹を冷たい目で見下ろして、エリクトはため息をついた。

 人間だった頃のイメージから八歳児のアバターを使っているものの、その仕草は年の離れた妹に手を焼く姉そのものだ。

 

 

――だいたい可哀想対決なら八歳からこっち、このクソみたいなモビルスーツの檻に閉じ込められてる僕がダントツの一位だよ?

 

 

――ついでに頭がおかしくなって妹をネグレクトするお母さんを見守ることしかできないおまけ付きだ。

 

 

――もう自分で言ってて泣けてきたな……とにかく!

 

 

――道徳的に姉に妹は勝てないんだよ、反省したら?

 

 

「反省って言ったって……何をすればいいのか、今は見当もつかないよ。エリクト、この二週間、わたしが報告書の作成に追われてたの知ってるでしょ?」

 

 プラント・クエタでの事件の終結後、スレッタ・マーキュリーを待っていたのはクーデター事件当時の行動についての詳細な報告書の作成義務だった。

 それはそうであろう。

 ルイ・ファシネータとの面談の詳細――彼の正体やクワイエット・ゼロ計画について――は省くにしても、カービン銃とドローン兵器を引き連れてデリング・レンブラン総裁の救出に現れたかと思えば、すぐにその場を立ち去り、自動操縦モードの〈エアリアル〉に乗り込んで〈ダリルバルデ〉と交戦してこれを撃破。

 以上が事件当時のスレッタの行動である。

 何を考えてこんな行動を取ったのか、文面で読んでもさっぱりわからない。

 当然、フロント管理社からの事情聴取は念入りに行われたし、取り調べが終わったかと思えば、今度はドミニコス隊へ提出する報告書の作成が待っていたのである。

 スレッタはすっかり弱り切って、落ち着いてエリクトと話す時間が取れたのは、今が初めてなのだ。

 ついさっきまで報告書の作成作業に追われていた、ともいう。

 だが、そんな妹のぼやきをエリクトは一刀両断した。

 

 

――仕事は言い訳にならないよ、スレッタ。

 

 

――君は言葉で三人も大事な友達を傷つけた。それは変わらない事実だ。

 

 

「…………わたしもミオリネさんも、傷つけ合いすぎたんだよ。こんなの、今さら謝ったって元通りにはならないし……」

 

 

――へえ、それで悲劇のヒロインごっこかい? 今時、闇堕ち主人公なんて流行らないよ?

 

 

――ああ、クエタのときのスレッタはすごい闇のヒロインって感じだったね?

 

 

――なんだっけ、†ガンダムを滅ぼす魔女†だっけ?

 

 

「……さっきから、わたしのことひどく言い過ぎじゃない!? わたしだって辛くて、悲しくて、それで――」

 

 

――それでミオリネが忘れてたトラウマを思い出させたんだね。自分が可哀想な被害者なら、何してもいいってわけだ。

 

 

「…………それ、は」

 

 

――いいかい、スレッタ。

 

 

――君が悲惨な境遇の生まれ育ちで、自分を愛してくれる親を持ってる彼らと違うって思うのは勝手だ。

 

 

――だけどね、それは彼らを傷つけていいって免罪符なんかじゃない。

 

 

――どんなに辛くても、悲しくても、苦しくても、傷つけていいわけじゃない。

 

 

 教え諭すようなエリクトの物言いに、心の底から困惑した様子でスレッタは反論した。

 それはほとんど悲鳴のような声だった。

 

「い、いつもなら他人なんかどうでもいいって言うじゃない、エリクト! なんで今だけこんなこと言うの!?」

 

 いつもの二人の関係なら、ドライで身勝手なエリクトに対して、外付け良心回路のスレッタが注意するのが定番の流れだ。

 だが、今回のエリクト・サマヤはひと味違った。

 本当に痛ましそうな顔で、自由気ままを絵に描いたようなスレッタの姉は口を開いて。

 

 

――だってあの子たちは、スレッタを()()()()()()()()()()()()()

 

 

――それはお母さんにも僕にもできないことなんだよ、スレッタ。

 

 

――そんな大事な人たちを、君は一時の感情で失っていいの?

 

 

 それはエリクト・サマヤの嘘偽りない心境だった。

 結局のところサマヤ家の血は、どこまで行ってもスレッタ・マーキュリーを縛る呪いになってしまう。

 プロスペラの遺言然り、〈エアリアル〉の存在然り、それらは絆となってスレッタを支えると同時に、血まみれの世界へ結びつけてしまう呪縛だ。

 いっそのことすべてをしがらみとしてうち捨てて、妹が自由になってくれればいいのに――そうエリクト・サマヤは願ってしまう。

 それが叶わぬ夢と知りながら、妹であるスレッタ・マーキュリーの解放を待ち望んでしまうのだ。

 だが、スレッタにとって、それらは母の愛情が幻想だったとしても、最後にすがるべき(もや)いだ。

 ゆえに少女は、こう言ってコクピットにうずくまる。

 

「わからないよ、エリクト……わたし、自分でもどうしたらいいかわからなくて。お母さんが、わたしを道具だと思ってたこともつらいけど……ミオリネさんや、グエルさんや、エランさんにひどいこと言っちゃったのが、すごく怖いんだ……」

 

 

――そっか。

 

 

――うん、今は存分に悩むといいよ、スレッタ。

 

 

――僕は新作の乙女ゲーの攻略しなきゃいけないから、今日はもう引っ込むね!

 

 

「へっ? え、ちょ、エリクト!? まだ相談したいことが――」

 

 

 それっきりだった。

 呼び掛けても、もうエリクトからの応答はなくて。

 スレッタ・マーキュリーは途方に暮れて、一人、大切な友達のことを思うのだった。

 

 

 

「…………ミオリネさん……大丈夫かな……」

 

 

 

 

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