ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタがグエルと二度目の決闘をするだけの話

 

 

 

 

 

 

 

「スレッタ・マーキュリー、君を呼びに来た」

 

 

 

 その日、スレッタの下を尋ねてきたのは、見知らぬ男子生徒だった。

 いつも通り、地球寮のMSハンガーでエリクトに話しかけようとしていたスレッタは、インターホンを聞いて来客に対応。

 

 

 

――かくして少女(スレッタ)は、少年(エラン)と出会う。

 

 

 

「えっと……どちら様でしょうか?」

「僕はエラン・ケレス。君と同じパイロット科の三年で、決闘委員会のメンバーだ。先日、決闘を申請しただろう?」

「あー……あの、もしかして」

「うん、連絡先がわからなかったから、直接、来てみたんだけど」

 

 失敗した、と思った。

 現状、スレッタ・マーキュリーの交友関係は狭い。

 というのも編入して早々、御三家の一つジェターク寮に喧嘩を売って、ホルダーだったグエル・ジェタークを病院送りにしたからだ。

 

 どう考えても血に飢えた狂犬のプロフィールである。

 

 遠巻きに見られることはあっても、話しかけてくる勇気ある在校生はあまりいない。

 そういうわけで、エラン・ケレスは連絡先がわからなかったのだろう。

 

「え、えええ、えっと、あのっ、連絡先って」

「うん、交換してもらえるかな?」

「は、はは、はい!」

 

 ミオリネと地球寮の面子ぐらいしか、まだ連絡先を知らないスレッタにとっては渡りに船だった。

 ここから心機一転して学生生活を始めよう。

 そう思っていると、しばらく無言で立っていたエラン・ケレスが、突然、口を開いた。

 

 

 

「……個人的には、君に興味がある」

 

 

 

 表情一つ変えず、エランはそう言った。

 真顔である。

 

 

――ナンパ!? ナンパされてますか、これ!?

 

 

「ふぇえ!?」

「ひいきはしないけどね」

「あっ、はい」

 

 じゃあなんでこのタイミングで言ったんですか、この人――困惑と共にエランの顔を見たスレッタだったが、一つの事実に気付いた。

 どうしよう、すごい美形だ。

 緊張してカチンコチンに固まってしまったスレッタを見て何を思ったのか、エランはうなずいて。

 

「決闘、頑張ってね」

 

 表情は乏しいけれど。

 その声音はすごく優しかった。

 

「あ、ああああ、ありがとうございまっふ!!!」

「決闘委員会の部屋まで案内するよ。ついてきて」

 

 歩き始めた彼の後ろ姿を見つめて、スレッタは「ほわぁ」と気の抜けた声をこぼす。

 

 

――どうしよう、ものすごい美人(イケメン)さんに応援されちゃった。

 

 

 スレッタはアニメ・コミック・ゲームのオタクであり、わりと俗っぽい感性の持ち主だ。

 当然のことながら少女は人並みに美形が好きだし、背が高くてしゅっとした美男子と来れば大好物である。

 しかも物腰丁寧で柔らかくて優しい。

 

 

――どうしよう、どうしよう、これってアレだよね?

 

――ここから始まる二人の恋のヒストリーみたいなやつだよね?

 

 

 わりとエリクトのことを言えない程度に、スレッタ・マーキュリーはダメなオタクであり恋愛弱者(すごいザコ)だった。

 いくらなんでも美男子に弱すぎるし、ついでを言うなら美少女にも弱い。

 つまり美形に弱いのだが、本人がそういう自分の傾向――面食いを把握するのはまだまだ先の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、決闘委員会へ」

 

 

 そう言って芝居がかったお辞儀して見せた少年を見て、すぐにスレッタは気付いた。

 その動き方と声と顔に、覚えがあった。

 決闘のとき乱入してきて、スレッタの暴走を制止した白い騎士のようなMS。

 

「あっ……ま、まま、前の決闘のときはお世話になりましたっ!」

「あはは、あのときは肝が冷えたよ。まあ、誰も怪我がなくってよかったよ」

 

 微妙に本音がにじんでいる声色だった。

 本気で怖かったからね、という感じの。

 

 

()はシャディク・ゼネリっていう。よろしくね、水星ちゃん」

 

 

 まるで貴婦人に礼を取る騎士のように。

 (うやうや)しくスレッタの手を取ってみせるシャディク。

 今まで会ったことがないタイプの少年の対応に、スレッタはつい、ドキドキしてしまう。

 

「よ、よろしくお願いします」

 

 一方、決闘委員会の部屋――広々とした一流ホテルのラウンジを思わせる空間――では、グエル・ジェタークが絡まれていた。

 

「グエル先輩ぃ、本当にいいんですかぁ? 無様に負けて悲鳴あげてたの録画されてますよぉ? もう恥の上塗りはやめた方がいいんじゃないですかぁ? お父さんも見てることですしぃ?」

「なんだとッ! おい、セセリア……ブリオン社の製品の出来を確かめたいなら、いつでも決闘を受け付けてるぞ。お前のところにもパイロットぐらいはいるんだろ?」

「こっわ~!! マジになるぐらい張り詰めてるグエル先輩、超ウケるんですけど~!!」

 

 やたらと肉感的な体型の少女が、全力でグエル・ジェタークを煽っている。

 すごいねちっこい声音で、グエルの反応を面白がっているのは明らかだった。

 今にも怒り出しそうな雰囲気で低い声を発するグエルを見て、スレッタはこの学園の恐ろしさを痛感していた。

 

「が、がが、学園って怖いところなんですね……」

 

 あの手この手という感じでグエルを煽る少女、セセリア・ドート。

 その横では小柄で気弱そうな少年――ロウジが、タブレット端末とにらめっこしている。

 なんだろう、やたらキャラクターが濃い。

 

「スレッタさんでしたっけぇ? あなたも、こんな決闘はやめたほうがいいんじゃないですかぁ? 負けたら何を失うか――」

「え、でもわたしの方が強いですよね?」

 

 場の空気が凍った。

 そしてすぐ、グエルが吹き出した。

 

「くっ……はははははっ! 一本取られたな、セセリア」

 

 舌打ち一つ。

 セセリアはすぐ、仏頂面になってスレッタから視線を外した。

 

「い~え。水星から来たっていうホルダーさんは、結構いい性格してるって覚えておきま~す」

「すねたな」

「スネタ! スネタ!」

 

 ラウンジのテーブルに置かされている汎用AIユニット・ハロとグエルの呟きがハモった。

 ひとしきり爆笑したあと、グエルは真っ直ぐにスレッタの方を見た。

 打って変わって真剣な表情。

 

「悪いが、今回はお前に勝ちを譲る気はないぞ。ジェタークの男として、俺はお前を倒す。それが学園最強(ホルダー)への礼儀だ」

「お父さんが、応援に来るんでしたっけ?」

「ん、ああ……応援、まあ、そうなのかもな。いつもはどうか知らないが、な」

 

 そう言うグエルだったがまんざらでもなさそうだった。

 そんな彼の姿を見て、思い出す。

 消えることがない記憶。

 

 

 

――スレッタ。お願い。どうか。

 

 

 

――私たちの過ちを、ガンダムを滅ぼして。

 

 

 

 データストームの火に神経を焼かれ、人としての生命機能すら奪われて。

 枯れ木のように朽ちて死んでいった母の姿を。

 その絶望に満ちた痛みを。

 

「わかります――親の期待だから、願いだから裏切りたくないんですよね」

「……知った風な口を利くんだな」

「私も同じだからです、グエルさん」

 

 それは、水星で育った無垢なスレッタ・マーキュリーの終わり。

 血まみれの道を歩むと決めたスレッタ・マーキュリーの始まり。

 

 

「わたしも…………お母さんから託された、願いがあるんです。わたしは、それを叶えてあげたい。だからこんなところで負けるわけにはいきません」

 

 

 すべてのガンダムを、呪いのモビルスーツをこの世から滅ぼして。

 いつか、母の悲願を叶えること。

 それだけが、スレッタ・マーキュリーの人生の道しるべなのだから。

 

 

――負けられない。

 

 

 目を見開いて、その言葉に聞き入ったあと。

 何を思ったのかグエル・ジェタークはこう言ってきた。

 いつもの険しい顔のグエルらしくない、優しい顔だった。

 

「なら、俺が勝ったら教えろ、お前の背負ってる願い」

「いいですよ、負けませんけど。私とエアリアルは無敵です」

「はっ、今はそうだろうな――俺が打ち破ってやる、覚悟しろよ」

 

 言葉こそ刺々しいが、むしろ親愛すら感じさせる軽口――それはたぶん、モビルスーツに乗って親の願いに応えようとしてきた子供たちの共感であった。

 親の期待を背負い、それを窮屈に感じながらも、前に進むための礎でもあったという感覚。

 それは重荷であり、呪縛であり、祝福でもある。

 そういう互いへの共感があった。

 

 二人だけの世界を断ち切ったのは、エラン・ケレスの声だった。

 

「じゃあ、始めようか。決闘の宣誓、もういいよね?」

「は、はい!」

「構わん」

 

 室内の照明が切り替わり、青を基調とした厳かな色に変わる。

 

 

「双方、魂の代償をリーブラに」

 

 

 意味はわからないが、雰囲気は抜群だった。

 

「決闘者はグエル・ジェタークとスレッタ・マーキュリー、場所は戦術試験区域七番。一対一の個人戦を採用、異論はないか?」

「は、はい」

「あぁ」

 

 エラン・ケレスが問うた。

 

 

「スレッタ・マーキュリー、君はこの決闘に何を賭ける?」

「わたしの託された願いを、グエルさんに教えるかを賭けます」

 

 

 少女は澄んだ瞳で対峙する少年を見つめて。

 

 

「グエル・ジェターク、君はこの決闘に何を賭ける?」

「スレッタ・マーキュリーの望むものを何でも一つ差し出すと、俺は賭ける」

 

 

 少年はただ、目の前の少女との決着を見据える。

 

 

賽は投げられた(アーレア・ヤクタ・エスト)――決闘を承認する」

 

 

 ぱん、と手と手を打ち合わせる音が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

――決闘当日。

 

 

 

 ジェターク社の用意した設備は、ジェターク寮で借り受けた指揮所だった。

 ここでは観測ドローン群からの情報を元に、MSパイロットに対して情報面でのバックアップができる。

 企業私設軍で使われているような最新設備が並んだそこは、大企業であるジェターク社だからできる支援体制だった。

 その中央、指揮官の席にどっかりと座り込んだヴィム・ジェタークを、息子が訪ねてきた。

 

「父さん」

「グエルか。どうした、決闘が近いはずだろう」

「いや……」

 

 しばらく言葉にしづらそうに押し黙ったあと、意を決したようにグエルは口を開いた。

 

「いつもの父さんなら、もっと、何か仕掛けるんじゃないか?」

 

 何を言うかと思えば、小細工を弄するなと言いに来たらしい。

 子供らしい浅慮だ、とヴィムは思う。

 

 

「馬鹿者。これは〈ダリルバルデ〉のデモンストレーションなのだぞ。ジェタークが策を弄したなどと後ろ指を指されては元も子もない。いいか、お前の責任は重いぞ?」

 

 

 あの妾腹の子(スレッタ)の一件で、デリング・レンブランのやり口はよくわかった。

 こちらが策を弄すれば、それを皮肉るように罰を与える――自身への暗殺未遂には、息子の命を奪いかける報復というわけだ。

 神にでもなったつもりか、とはらわたが煮えくりかえるが、今はそのときではない。

 デリングがどういう難癖をつけてくるかわかったものではない以上、下手な振る舞いをすればジェターク社は罠にはめられる可能性がある。

 それがヴィム・ジェタークの冷徹な判断であった。

 息子のやる気など、所詮は子供の稚気に過ぎないと思っている。

 だからこうして、よかれと思って彼は頭ごなしにグエルへ言いつけるのだ。

 

「自分が勝つことだけを考えるな、会社のためになるデモンストレーションをしろ」

「同じことだよ父さん、俺と〈ダリルバルデ〉の全部をぶつけなきゃ、あいつには勝てない。出し惜しみせず、こいつのすべてを使い切ってみせる」

 

 意表を突かれたのは、息子が真っ直ぐないい目で返事をしてきたことだ。

 昔の自分によく似ている、と思った。

 

「ふん……生意気を言いおって……」

 

 あるいは、とヴィムは考える。

 今のグエルであれば、あの卓越した技量のデリングの隠し子――スレッタ・マーキュリーともやり合えるのではないか。

 そう思わされる何かが、今の息子にはあった。

 すっかり大きくなったグエルの背中を見送って、ふとヴィムは思い出した。

 もう長いこと、家族でバーベキューをしていないな、と。

 

 

 

 

 

 

 そして今。

 アスティカシア高等専門学園、戦術試験区域七番――切り立った崖と森林のバトルフィールド。

 二機のモビルスーツの周りには、常の決闘よりもはるかに多くの観測ドローンが滞空しており、視聴者数も明らかに普段より多かった。

 それだけ「ベネリット・グループの次世代モビルスーツ同士のデモンストレーション」という宣伝文句は効いたらしい。

 立会人からの形式的な言葉のあと。

 その口上はホルダーであるスレッタ・マーキュリーから始まった。

 

 

「勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらずっ」

 

 

 続く言葉をグエル・ジェタークが唱えて。

 

 

『操縦者の技のみで決まらず――』

 

 

 最後に、二人は異口同音に誓った。

 

 

「『――ただ、結果のみが真実』」

 

 

 そして無感動に、決闘委員会の立会人エラン・ケレスが宣言する。

 

 

『――フィックス・リリース』

 

 

 

 

 決闘が始まる。

 

 

 

 

 

 〈エアリアル〉のコクピットの中では、いつものように〈カヴンの子〉――ガンビットを制御する人格転写型AIたちがやかましく騒いでいた。

 スレッタにしか聞こえない、情報共有元素パーメットを通じた思念言語だ。

 

 

――スレッタ、スレッタ、ねえねえ。

 

――今日はいじめていいの?

 

――撃っていいの?

 

――ころすのー?

 

 

「殺しちゃダメ。学園のレギュレーション通りだから、コクピットブロックは狙っちゃダメだからね。腕とか足とか狙いで頑張ろうね、みんな」

 

 

――はーい!

 

――あのグエルって子の腕とか足とかもいじゃおう!

 

――みんなで頑張るからね!

 

――がんばるぞー!

 

 

「あ、でも最初は様子見するから、〈エスカッシャン〉で大人しくしててね」

 

 

――えー、つまんなーい。

 

――仕方ないなあ。

 

――あとで倍返しするからねー。

 

 

 今回の〈エアリアル〉も標準的な武装である。

 右腕にはブレード機能付きのビームライフル、左腕には大盾〈エスカッシャン〉。

 背部推進装置は標準的なバックパックタイプで、二本のビームサーベルはいつでも抜刀できる状態。

 

 推進装置を起動させ、地面を蹴って〈エアリアル〉は跳躍。

 切り立った崖のような立体的地形を盾にしながら、しばらく索敵していると頭部センサーが敵影を捉えた。

 

 

――〈ダリルバルデ〉。

 

 

 ジェターク社が誇る次世代機であり〈ディランザ〉と同じ重量級MS。

 まずは小手調べにと、相手の武器へ照準してビームライフルを発射する――次の瞬間、ビームライフルの銃身が爆ぜた。

 えっ、と思いながらビームライフルを放り捨てる。

 見れば向こうでも手持ち火器のビームライフル――〈ディランザ〉と同等品――が爆発している。

 お互いの撃った荷電粒子ビームが、ビームライフルへ()()()()()したのだ。

 冗談みたいな流れだった。

 

「グエルさん、牽制以外の射撃もできたんだ……」

 

 てっきり前回の戦いやこれまでの決闘のデータログから、射撃戦は苦手なタイプかと思っていたけれど。

 どうやら決闘の見栄えのために、これまではなぶるように射撃を外す癖がついていたらしい。

 

「ずるいです、隙がないじゃないですか」

 

 そう言いながら、スレッタは口元がゆるむのが止められない。

 困った、楽しくなってきた。

 これでお互いに手持ちの携行火器を失ったことになる。

 となればあとは、近接兵装か内蔵火器、あるいは――ドローン兵器を使うしかなくなる。

 このときスレッタはまだ、切り札であるビットステイヴのカードを切る気はなかった。

 〈ダリルバルデ〉からビームバルカンが飛んでくる。

 荷電粒子の砲弾は収束率が低く、ビームライフルほどの射程はない。

 すいすいと推進器を噴かすだけで危うげなく回避。

 

 崖によって横方向の機動が限られている分、一度、互いを認識してしまえば展開は早かった。

 

 彼我の距離がどんどん縮まっていく――〈ダリルバルデ〉が左足を軸に回り蹴りのような動き――瞬間、この蹴り(キック)()()()

 否、これは有線分離式のクローアンカー。

 〈ダリルバルデ〉の右脚、その膝関節から下が分離して、足の爪がクローアンカー〈シャクルクロウ〉として機能。

 それが推進装置の勢いのままにカッ飛んでくる。

 彼我の距離は一四〇メートルほど、モビルスーツの機動力ならば一跳びで詰められるが、まだビームサーベルの間合いにはほど遠い。

 そういう距離であった。

 踏み込みの瞬間を狙われた、と理解したときには手遅れだった。

 咄嗟に頭部ビームバルカンで迎撃――〈ダリルバルデ〉の重装甲に弾かれる。

 衝撃。

 当てられた。

 クローアームはがっちりと〈エアリアル〉の腰の装甲に食い込んで(キャッチ)

 

「くぅうぅうう!?」

 

 強烈な遠心力と共に〈エアリアル〉を振り回して、ぶおんと離した(リリース)

 不味い。

 このままではフィールド内の質量構造体(ストラクチャー)に叩きつけられる。岩石の立体映像を投影されているものの、その実態は超強度建材で作られた軽量で頑強な障害物だ。

 如何にモビルスーツが宇宙活動を想定した頑丈なマシンとはいえ、遠心力をかけてぶつけられれば、ただでは済むまい。

 接近警報。

 エリクトからの警告。

 

 

――スレッタ、敵のビットが来るよ!

 

 

 グエル・ジェタークの〈ダリルバルデ〉から、二基のドローンが射出された。

 〈イーシュヴァラ〉タイプB。

 ビーム砲とビームサーベルを兼ねたビームデバイスを内蔵し、ダリルバルデの肘から先の腕部を構成する〈イーシュヴァラ〉タイプAとも互換性があるドローン兵器だ。

 その飛行型ドローンが、ビームサーベルを展開して迫り来る。

 二方向。

 〈エアリアル〉を上下から挟み込むようにして、ビーム刃を展開したドローン二基が急接近。

 このまま串刺しにして戦闘能力を奪うつもりなのだろう。

 右手でビームサーベルの柄に手をかける。

 

「逆噴射、今!」

 

 推進装置を全開にして、振り回された方向と逆方向に噴射。

 一瞬、凄まじいGが発生するが、慣性制御装置によって緩和される。そして両脚をバネにして、迫り来る障害物の壁面に着地。

 ビームサーベルを抜刀――上方から迫ってきたビームサーベル・ドローンと刃を交えて、勢いのままに吹き飛ばす。

 切断力に優れるビームサーベルを展開したドローン兵器は強力だが、軽量な本体と推進装置の分の運動エネルギーしか持てないから、超伝導モーターの膂力(パワー)で斬りつける〈エアリアル〉と鍔迫り合いにはならない。

 同時に左足を大きく振って、下方からやってきたドローンの腹を蹴りつける。

 弾き飛ばされバランスを崩した二基のドローンは、地面へ墜落していった。

 〈エアリアル〉に地面に着地させ、スレッタは感嘆する。

 

「強い、本当に強いです、グエルさん……」

 

 普通のモビルスーツとして斬り結ぶ分には、パワーと装甲の分、こちらの方が不利になるだろう。

 それほどまでにあのモビルスーツ〈ダリルバルデ〉は強い。頑丈で推力があって機敏で火力も侮れない。

 中のパイロットの技量も加味すれば、下手な()()()()()()()()()()()だ。

 

 

――いいんだね、スレッタ?

 

 

「だからわたしも、切り札でお相手します」

 

 決意に満ちた呟きに呼応して。

 

 

――〈エアリアル〉の大盾〈エスカッシャン〉がバラバラに解けたのは、そのときだった。

 

 

 

 

 

 

『兄さん、敵の新型ドローンユニットだ。数は一一基!』

「わかってる!」

 

 グエルの意思に応えて〈ダリルバルデ〉が頭部ビームバルカンを連射する。

 〈ディランザ〉の内蔵火器と同型のこのビームバルカンは、それ単体でMSを撃破可能なほどの火力を誇る。

 荷電粒子の砲弾を形成し、電磁力で投射する近接戦用の防御火器だ。

 電磁バレルが短い分、手持ち火器に比べて有効射程距離には劣るが、直撃時のダメージは計り知れない。

 だが、対空砲火が新型ドローンに当たることはなかった。

 到底、航空力学的に優れているとは言えない、シールドの板にカッターナイフで切れ目を入れたような形状のドローンたち――すいすいと浮力を得ているかのように空中を泳ぎ回り、〈ダリルバルデ〉のビームバルカンを避けていく。

 

『敵ドローンから高熱源体反応! ビーム兵器だ、避けて!』

「このサイズでビーム砲まで内蔵してるのか!?」

 

 〈ダリルバルデ〉の重装甲であれば、数発のビームには耐えられるだろう。

 だが、低出力モードで連続照射されれば、如何に〈ディランザ〉譲りの重装甲とて貫通されるのは想像に容易い。

 即座にグエルは決断し、右斜め前に全力で推進方向を定めた。

 突撃。

 降り注いだビームのうち、数発は肩部のシールドドローン〈アンビカー〉が自動で弾いた。

 あの特訓の日々で教育した甲斐があったというものだ。

 

――なんだ、この違和感は?

 

 ドローン兵器に対する訓練は何度も行っている。

 群体型自律無人兵器(スウォームドローン)を使った模擬戦も、この〈ダリルバルデ〉は何度もこなしているのだ。

 ゆえにグエルはすぐ、敵機の挙動の異常さに気付いた。

 

「こいつら、ただのスウォームドローンじゃない! 一つ一つが自律した上で連携してる……!」

 

 群体が群れとして狩りをするスウォームドローンの連携とは気色が違う。

 それぞれが役割分担をして獲物を追い込む、いわば猟犬のような存在が通常のスウォームドローンだとすれば。

 この新型ドローンシステムは、それぞれがバラバラに殺意を向けてくるのに、アドリブで互いをカバーし合う気まぐれで残酷な存在だった。

 読めない。

 アルゴリズムの偏りのようなものが感じられない、あまりにも自由なドローンたち。

 彼らの敵意そのものであるビームの雨が、〈ダリルバルデ〉目がけて降り注ぐ。

 避けきれない。

 どんどんシールドドローンが破損していく。

 あっという間に盾の耐久値が五〇%を切った。

 まるで中隊規模のMS部隊を相手しているかのような、恐るべき弾幕の数々。

 どうする。

 このままじゃジリ貧だ。

 

『グエルさん……』

 

 〈エアリアル〉。

 一一基の群体型無人(スウォーム)兵器を引き連れて、悠然と大地の上に立つモビルスーツ。

 片手に握ったビームサーベルを振るう様子なく無手の左指で敵を指し示し、〈ダリルバルデ〉を追い詰めるその姿は、まるで音楽を奏でる楽団の指揮者のよう。

 ビットステイヴから降り注ぐ荷電粒子ビームが、地面の土砂をガラス化させ爆発を起こす。

 それは射撃というよりも――最早、爆撃だ。

 大気を震わせる振動の中、グエルは悲しげな少女の声を聞いた。

 

――何の用だ?

 

 何故、そんな悲しそうな声を出すんだ。

 そんな素朴な疑問を抱いたグエルの耳に飛び込んできたのは、痛みに満ちた悲痛な言葉。

 

 

『これ以上は……あなたを、殺してしまうかもしれません……!』

 

 

 そんなことか、と心の底から思った。

 ああ、なるほど。

 最初の決闘のときの凶暴で残酷な振る舞いも、きっと、彼女の本意ではなかったのだ。

 あるいはこの冷酷な戦闘マシンのような動きが、身体に染みついてしまっているのが、スレッタ・マーキュリーというパイロットなのだろう。

 だから少女は恐れている。

 自分が勝負に熱中するあまり、グエル・ジェタークを命の危険にさらしてしまうことを。

 

 

――ふざけるなよ。

 

 

――この俺を誰だと思っている?

 

 

 激情のままにグエルは叫んだ。

 

 

「俺はッ! ()()()()()()()()()()()()()()()!!」

 

 

 その叫びに呼応するように――まるで()()()をはたき落としにかかったかのようだ――ガンビットから無数のビームの光が降り注ぐ。

 その荷電粒子ビームの弾幕を避けて、次の攻撃に繋げるための跳躍と飛行の戦闘機動を繰り返しながら。

 グエル・ジェタークは嘘偽らざる気持ちを叫ぶのだ。

 

「強くなってやるッ! 必ずお前のいる場所にたどり着いてやるぞ、スレッタ・マーキュリー!!」

『兄さん、落ち着いて!』

 

 ラウダの注意は聞こえなかった。

 ついにビームが本体にも被弾する。シールドドローンが意思拡張AIに基づいて追撃を弾くが、度重なる被弾で対ビームコーティングが剥がれていく。

 積層蒸散装甲が剥離して、荷電粒子ビームを無効化できなくなりつつあるのだ。

 着弾の衝撃で砕けていく盾を使い捨てながら、グエルは吶喊(とっかん)した。

 

 

 

 

「――()()()()()!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 今やグエルのファンガールたちは、鼻血を出しそうな顔で観戦していた。

 

「なんという情熱! なんという熱意! まあまあ、まあまあ!」

「グエル様……荒々しくも奮い立つような益荒男(ますらお)ぶり……ああ、わたくし、感涙してしまいますわ!」

「いけませんわ、血が! 血が出てしまいます!」

 

 学園のあちこちで、黄色い悲鳴があがっていた。

 これはほぼ告白だろ、というような熱い台詞が、元・学園最強の男の口から飛び出したのである。

 興奮せずにはいられない。むしろ積極的にする。

 

「すげえ、今の攻撃って反応できるもんなのか!?」

「ジェターク社の新型、動きがやべーな……重量級のくせに反応速度が〈ザウォート〉並みじゃん」

「噂の意思拡張AIってやつか。流石にグエルでもマニュアルじゃねーだろ、アレは」

 

 一方、パイロット科の生徒たちは新旧ホルダー同士の戦いを、ある種、冷静な目で見ていた。

 モビルスーツを自身の拡張身体として動かすからこそ、スレッタとグエルの卓越した技量、そしてマシンの性能の異常さに気付くことができるのだ。

 

「つーか、なんだあのドローン? 火力エグすぎだろ」

「モビルスーツが一〇倍の数いるようなものでしょ、あんなの」

「全弾防御してるジェタークのドローンもすごいよね」

 

 一一丁の自律飛行・自律射撃するビームライフルの群体と考えると、これほど恐ろしい兵装はあるまい。

 お披露目された新型ドローンシステムの脅威は、メカニック科の生徒たちにすぐに伝わっていた。

 

 

 

 

 

 たとえば戦術試験区域のスタッフ待機エリアにいる地球寮の面子。

 ニカ・ナナウラは興奮しきっていたし、よくわかってないリリッケにも戦闘のすごさは伝わってくる。

 

「なんてなめらかな群体自律制御なんだろう……あとでスレッタさんに聞かなきゃ!」

「スレッタ先輩ってやっぱりすごいんですねえ」

 

 三年生のティルとアリヤは、冷静に戦況を見守っている。

 

「勝負は一進一退だね」

「ああ、スレッタも切り札を使ったけど、グエルも強いままだ」

 

 チュチュは応援に夢中だったし、マルタンは相変わらず臆病で冷静だった。

 

「オイオイオイ! スレッタのやつ、まだ隠し球あったのかよ! しゃあ!! クソ傲慢なスペーシアンをぶっ飛ばせー!!」

「ちゅ、チュチュ……あの子もスペーシアンだけどね……?」

「スレッタはいいやつだろ!」

 

 オジェロとヌーノは、決闘賭博に賭けたお金がどうなってしまうかハラハラして見守っている。

 

「あぁぁああぁあ、オッズ微妙だからってグエルに賭けちまったよ俺ぇ!!」

「ばーか、スレッタが負けるはずねえだろ」

 

 

 

 

 

 一方そのころのジェターク側のスタッフ待機エリアおよびジェターク寮は――盛り上がりまくっていた。

 巨大モニターの設置されたラウンジには多くの生徒が集まり、各々、飲み物や菓子を持ち寄って応援している。

 このときばかりは寮の管理人も何も言わず、生徒たちの乱痴気騒ぎを見て見ぬふりするのが習わしであった。

 

「いけー、がんばれー! グエル先輩ー!!」

「グエル先輩ならきっと勝てます!」

「勝てよグエル!!! お前ならできる!!」

 

 パイロット科の生徒たちは自分たちの誇るべきチャンピオンの奮戦を見守っていたし、メカニック科の生徒たちは「あの新型機とグエル・ジェタークがそろって無様な勝負などありえない」と胸を張る。

 経営戦略科の生徒たちは一見すると距離を置いているようで、ジェターク寮の誇りである男の奮戦に固唾を呑んでいる。

 つまるところ全員がこう思っていたのである。

 

 

――グエル・ジェタークはできる男だ。

 

 

 そう、信じている。

 それがジェターク寮というコミュニティであった。

 

 

 

 

 

 そして一人、理事長室のモニターで中継映像を見守るミオリネ・レンブランは、ぎゅっと握り拳でスレッタを応援していた。

 今にも泣き出しそうなぐらい、もどかしくて、苦しくて、見ていられないのに。

 スレッタの繰り広げる戦いから目が離せない。

 

 

「勝ちなさいよ、スレッタ…………あんたの居場所を守るために!!」

 

 

 誰もが祈るように、自分たちの信じる学園最強(ホルダー)を応援していた。

 

 

 

 

 

 

 グエルの突撃は無謀なものだった。

 〈カヴンの子〉に統率された一一基のビットステイヴであれば、あの程度の速度のモビルスーツは撃ち落とせる。

 ああ、終わってしまう。

 それを少し残念に思いながら、スレッタはみんなに号令をかけようとして。

 エリクトの警告。

 

 

――スレッタ、ドローンが二基こっちに来る!!

 

 

 地面へ墜落したはずのビームサーベル・ドローン――〈イーシュヴァラ〉タイプB二基が、ビーム砲を撃ちながら〈エアリアル〉に迫り来る。

 衝撃によるエラーと、そこからの再起動に手間取ったのか。

 あるいは今この瞬間まで、伏せ札にするために取っておいたのか。

 いずれにせよ、その効果は劇的であった。

 〈イーシュヴァラ〉の迎撃に気を取られて、一瞬、ビットステイヴの弾幕が〈ダリルバルデ〉から外れた。

 

 

――その刹那で十分だった。

 

 

 薄くなった弾幕を躱しながら、深紅の鎧武者は死地へ飛び込む。

 質量のある実体剣の刃とビームデバイスのついた長柄武器ビームジャベリンを両手で握りしめ、〈ダリルバルデ〉が疾走してくる。

 スレッタはそれを面白いと思った。

 選ぶのは、後退しての引き撃ちではなく――真っ向勝負。

 左手で残りのビームサーベルを抜刀し、右のビームサーベルと十字に重ね合わせて〈ダリルバルデ〉に斬りつける。

 

 

――鍔迫り合い(バインド)が始まった。

 

 

 質量武器とビームデバイスを組み合わせた近接武器は、質量の分、ビームサーベルよりもあつかいが難しい。

 しかしビームサーベルと斬り結んだとき、その有用性は発揮される。

 押し込まれている。

 〈エアリアル〉のビームサーベルが、じりじりと〈ダリルバルデ〉のビームジャベリンに押されていた。

 

 電磁力で荷電粒子ビームを棒状に固めた武器であるビームサーベルは、同種の兵装同士で接触した場合、電磁気が反発し合う。

 この性質を利用したのが、俗に鍔迫り合い(バインド)と呼ばれるビームサーベルでビームサーベルを防御するテクニックである。

 近接戦に長けるスレッタ・マーキュリーも、このビームサーベルを使った精密な動作において誰にも負けない自信があった。

 だが、今は鍔迫り合いで押し負けている。

 これは質量を持った刃であるビームジャベリンと、〈ダリルバルデ〉自身のパワーに負けている証左。

 バチバチと飛び散る荷電粒子の飛沫をカメラアイで捉えながら、スレッタは驚嘆した。

 

「グエルさんは……強い。すごく強い」

 

 相手の強みを潰して自分の強みを押しつける。

 水星時代のシミュレーターでも、ドミニコス隊に入ってからの訓練でも、嫌というほど教えられてきた戦闘の基本。

 だがそれを、ビームの雨が降り注ぐ中で実行できるパイロットが何人いるだろう。

 確信する。

 グエル・ジェタークは間違いなく戦闘の天才だ。

 

 

「こんなに()()()戦い、わたし初めてだ……」

 

 

 嬉しくてたまらない。

 こんなに強い人と、殺し合い以外で戦える事実が嬉しい。

 ギリギリと押し込まれているのを自覚しながら、スレッタは〈エアリアル〉の足腰のバネを活かし、すべての推進装置(ブースター)を使って踏ん張った。

 そして負けじと〈ダリルバルデ〉が推進器を使った瞬間、その股間目がけて膝蹴りを撃ち込んだ。

 どごぉ、と凄まじい轟音。

 

 総重量四三・九トン――〈ダリルバルデ〉の六割程度の質量しかない〈エアリアル〉は、格闘戦では圧倒的に不利だ。

 しかし推進装置の出力を活かし、相手の機体が浮いた瞬間を狙えば、その体格差と重量差すら覆しての打撃が可能となる。

 姿勢を崩した深紅の鎧武者に、とどめのビームサーベルを振るう。

 だが、勝負は決まらない。

 

 ダリルバルデの左腕が、長柄武器(ジャベリン)を握ったまま、肘関節から分離して突っ込んできたのだ。

 〈イーシュヴァラ〉タイプAドローン――〈ダリルバルデ〉の両腕として装着されていたドローン兵器、その片割れが武器を握ってきたままミサイルのように突撃。

 ビームサーベルの切り払いで武器ごと両断。

 爆発から逃れるため、スレッタは横方向に緊急回避。

 

 

――ビームバルカンの掃射が襲ってくる。

 

 

 被弾した。

 〈エアリアル〉の左肘関節に、ビームバルカンの粒子砲弾が直撃。

 その前腕ごと関節が千切れて、地面へと落下する。

 爆炎の晴れた中には、左腕を失った〈ダリルバルデ〉がおり、全身の推進器を使ってこちらに追いすがってくる。

 さらに膝分装甲に内蔵されたマイクロ機雷――ペレットマインを放出。

 時限信管をセット、空中で起爆。

 その凄まじい爆風が、〈イーシュヴァラ〉タイプBドローンを撃墜し終えたビットステイヴ一一基を揺らし、空中できりもみ落下させてしまう。

 数秒間、〈エアリアル〉はビットステイヴの守りを失ったのだ。

 

 凄まじい密度の攻防であった。

 

 どれか一手、判断を違えていればそれだけで決着がついたであろう。

 〈エアリアル〉も〈ダリルバルデ〉も互いに被弾し、五体満足とは言いがたい状況。

 重量級で重装甲の〈ダリルバルデ〉は、高密度のビームの弾幕を浴びて、すでに両肩のシールドドローンと左腕を喪失。

 軽量級に分類される〈エアリアル〉は左腕を失い、ビットステイヴを一時的に無効化され手数を欠いた状態。

 

 そして逃げ回れるほどの距離に二機はなかった。

 

 

「――グエルさん!!」

 

 

 互いに、声の限りに叫んだ。

 

 

『――スレッタ・マーキュリー!!』

 

 

 そこからの攻防は一瞬だった。

 互いに突撃した〈エアリアル〉と〈ダリルバルデ〉――右手にビームサーベルを握っていた〈エアリアル〉は、スレッタの意思に応じて。

 ビームサーベルを〈ダリルバルデ〉目がけて投げつけた――頭部ブレードアンテナを狙った投擲(とうてき)――グエルは辛うじて、それをビームバルカンで撃墜。

 しかし爆炎で視界が潰される。

 

 

 

――白亜の妖精が、誰にも追いつけない速度(スピード)で地面蹴り上げて空を舞う。

 

 

 

 残された右手で握り拳を作り、深紅の鎧武者のブレードアンテナへ叩きつけるために。

 グエルも動いた。

 やはり残された右手で手刀を形作り、突撃してくる白亜の妖精を迎え撃つために。

 激突、衝撃、破壊音。

 

 

 

 

――ブレードアンテナが、宙を舞う。

 

 

 

 

 〈エアリアル〉の正拳がダリルバルデのブレードアンテナを打ち砕いたとき、〈ダリルバルデ〉の手刀が〈エアリアル〉の角をへし折った。

 あまりにも見事なクロスカウンターだった。

 人間の目ならば、ほぼ同時としか言えない見事な決着――すべてを見届けていた観測ドローンと判定AIだけが、その正確な勝敗を知っている。

 動きを止めた両機が、抱き合うように互いの重量を両脚で支え合う中。

 

 〈エアリアル〉のコクピットの中で、はぁはぁと荒い息をつくスレッタ・マーキュリー。

 コンソールの画面には決闘の勝敗が映し出されている。

 

 

――WINNER

 

 

 そして一件のメッセージ。

 差出人はエラン・ケレス。

 内容は――

 

 

『おめでとう』

 

 

 ああ、自分が勝ったのかとようやく実感が湧いてくる。

 自然と笑みがこぼれた。

 

「あは、あははは……!」

 

 

――スレッタ?

 

 

「どうしよう、わたし……こんなに楽しくモビルスーツに乗れるなんて、知らなかった……うん、()()()()()

 

 

 次々と生徒手帳(デバイス)の着信音が鳴る。

 学園中の生徒から送られてくる祝福のメッセージも目に入らず、ただ、楽しくて仕方がないスレッタは笑う。

 不意に、エリクトが話しかけてきた。

 

 

――スレッタさあ、もっと塩試合(つまんないの)にできたじゃん。

 

 

――あれ、手を抜いてたの?

 

 

「ごめん、もっとみんなを頼ればよかったよね……でも、ううん、そうじゃないんだ。わたしは今、すっごく満ち足りてて……そのために、全力を尽くしたと思う」

 

 

――なるほど、なるほど。青春してるね。

 

 

――僕は馬に蹴られないうちに退散するよ。

 

 

 今回はイマイチ頼られなかったのが(しゃく)なのか、エリクトはすねていた。

 馬というと、たしか地球の慣用句だったろうか。

 人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られて死んじまえ、とかいう。

 その意味を理解して、スレッタは慌てた。

 

「……グエルさんのこと? ち、ちがうし、だって……青臭くて、甘いだけで、全然好きになれないよ!?」

 

 

――お姉ちゃんは何も言ってませーん!

 

 

――あーあ、僕のスレッタが()()()に引っかかってるー!!

 

 

 そのとき、新たな通信の着信音。

 モビルスーツ同士の接触通信(ふれあい)――公開放送に流れることがない、二人だけの会話。

 顔中が汗まみれのグエル・ジェタークは、虚脱感にあふれた顔でこう言った。

 

 

『コクピットの外に出ないか』

 

 

 そういうことになった。

 コクピットハッチを開けて、外に出る。

 〈エアリアル〉と〈ダリルバルデ〉は向き合うように立っているから、前開きのコクピットハッチを採用している両機は、ちょうどパイロットも向き合うことになる。

 ポタポタと汗がしたたる中、お互いにヘルメットを外した。

 空が晴れて、日が差し込んでくる。

 

 

「あのっ、グエルさん!」

 

 

 最初に呼び掛けたのはスレッタだった。

 言いたいことはいっぱいあって、それは感謝とか驚きとか歓喜とか、いろんな感情がグチャグチャに混ざり合っていて。

 だからスレッタ・マーキュリーは、つい、わけのわからないことを口走ってしまう。

 

 

 

「――わたしが認めます、()()()()()()()()()()()()。わたしの次に、ですけど」

 

 

 

 その言葉をどう受け取ったのか、むすっとしていたグエル・ジェタークは、途端に顔をほころばせて。

 破顔一笑した。

 

 

「……ははっ、偉そうに!」

「え、えらいんですっ! ほ、ホルダーですから!!」

 

 

 戦技の限りを見せ合った少年と少女は、そうして、晴れ渡った人工の空の下で笑い合う。

 

 

 

 

 

 

――同じ景色を見た戦友(ともだち)として。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そしてもちろん、判定へのブーイングは起きた。

 

 

 当然のことながら僅差での勝利ともなれば、運営による不正疑惑だの審判への不満だのはつのる。

 名勝負であったがゆえに勝利の名誉を諦められない厄介なグエルファンから、決闘委員会へ向けて抗議のメッセージが山のように届き始めていた。

 それを見て決闘委員会の紅一点セセリアなどは、「あ~あ大変ですね、エラン先輩も~」などと今回の勝負の立会人を煽ってくる。

 

「別に。問題ないさ、どんな判定AIで再検証しても結果は同じだ」

 

 エラン・ケレスはそういう俗世での自分の評判に興味はない。

 どうせそんなもの、あの世には持っていけないのだから。

 何より見たいものは見られた。

 やはり、あの機体は。

 

 

――ガンダム。呪いのモビルスーツ。

 

 

 そんなときだった。

 突如として決闘委員会のラウンジの扉が開け放たれたのは。

 ぜーはーぜーはーと肩で息をするような有様の少女は、学内SNSにあふれかえった「今のはグエルが勝ってただろ」派に言いたいことが山ほどあった。

 決闘委員会に乱入したその美少女は、エラン・ケレスを押しのけて生中継の画面に映って――学園すべてに向けてこう言い放った。

 

 

 

「スレッタ・マーキュリーは私の家族(みうち)よ! 文句があるやつは出てきなさいっ! 真っ向から受けて立ってやろうじゃない!」

 

 

 

 めちゃくちゃである。

 かえって疑惑の判定を加速させるような物言いであろう。

 理屈ではそうなのだが、実際にこの発言を聞いた生徒たちの多くはこう思ったという。

 

――じゃあ仕方ないな、と。

 

 アド・ステラ一二二年、ラグランジュポイント四、アスティカシア高等専門学園にて。

 まるで玉座についた王がそうするように。

 

 

 

 

――傲岸不遜のお姫様、ミオリネ・レンブランの高らかなる宣言。

 

 

 

 

 

――この日、デリングの隠し子(むすめ)疑惑が公然の秘密になったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 





このスレッタは足癖がめちゃ悪いです。

彼女は決闘者として全力を尽くして戦いました。
戦士としてのスレッタだったなら、もっと効率的な圧殺ができた、というのがエリクトの指摘です。
手を抜いたのではなく、選んだ戦術の傾向の話というわけですね。
技を見せ合う過酷なプロレスを理解しないエリクト。

アー〇ード・コ〇で例えると、エアリアルは動作後の隙がないうえにキック使ってくるアイビスシリーズみたいな感じです。
クソゲーを強いられたグエルくんはすごい(結論)
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