ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタが理不尽な決闘を承諾するだけの話

 

 

 

「この流れから決闘って意味わかんないですよ!」

 

 

 無重力訓練室にて、向かい合う二人の乙女――スレッタ・マーキュリーとミオリネ・レンブラン。

 その片割れは今、いきなり決闘を申し込んでホルダーを困惑させていた。

 赤毛の少女からの抗議も聞く耳持たず、ミオリネは傲岸不遜に腕を組んでスレッタを見下した。

 

「決闘するのはグエルとエランよ、いいわね?」

 

『ミオリネ!?』

 

『……君の代理は嫌だな』

 

 管制室で二人の様子をハラハラと見守っていた男子二人――グエルは困惑しきっており、エランは不機嫌そうにため息をついた。

 しかし男子二人のそんな様子もガン無視して、ミオリネはにやりと笑って挑発を仕掛けた。

 

「はぁ!? ……ごほん、スレッタ・マーキュリーなら二対一ぐらいなんとかなるでしょ、それともホルダー様は戦う環境も選ぶのかしら!?」

 

 見え透いた煽りである。

 しかしながら効果は十分であり、散々に口で貶されて頭に血が上っているのもあってスレッタは逆上した。

 普段の彼女なら頭が冷える場面だが、ミオリネの嵐のような罵詈雑言を受けた後では、そうも言っていられなかった。

 

「わたしと〈エアリアル〉は負けません……! 相手がグエルさんだろうとエランさんだろうと同じことです!」

 

「はんっ、言質取ったわよ!! 絶対に決闘だからね!!」

 

「望むところです!!」

 

 内心ではガッツポーズしたいぐらいに「計画通り」と邪悪な笑みを浮かべるミオリネ――そう、今までの感情論まみれの罵詈雑言は、スレッタから冷静さを奪うための作戦だったのである。

 少なくとも半分ぐらいは作戦だった、たぶん。

 実際のところは六割ぐらいマジギレして思いついた罵倒を片っ端からまくし立てていただけなんてことはないのだ、きっと。

 

「上等よ、スレッタ! あんたを私たちの友情パワーが負かすんだからね!」

 

『僕は君と友情を育んだ覚えはないよ』

 

『エラン、今は抑えろ……!』

 

 男子たちの悲鳴のようなツッコミが虚空に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 ニカ・ナナウラは人気のない場所に呼び出されていた。

 壁にもたれかかったまま、少女はアスティカシア高等専門学園の空を見上げる。

 作り物の空だが、今ならそれを綺麗だと思えるのは、ニカにとって現在が一番充実しているからだ。

 だからそれを脅かすような呼び出しの合図――学園に入る前、〈フォルドの夜明け〉に教えられていた符丁が匿名で送られてきたのだ――に、彼女は顔を曇らせる。

 一体、今さら何の用なのだろう。

 足音が聞こえた。

 顔を音がした方に向けると、見覚えのある長身の男子がそこにいた。

 シャディク・ゼネリ。

 ついさっき、スレッタとミオリネの喧嘩を苦笑いで聞いていた三年生である。

 どうして彼が待ち合わせの場所に来たのかわからず、一瞬、ニカは思考が停止した。

 

「やあ、お疲れ様」

「えっ……ゼネリさん? なんで?」

「うーん、まあそれはね」

 

 ニコニコと人懐っこい笑顔で近づいてきたシャディクは、呼吸音さえ聞けそうな距離で、声を潜めてこう言った。

 

「俺が()()()()を知ってるからさ」

「――ッ!!」

 

 ニカの身体がびくん、と驚愕で震える。

 そんな少女の様子に、しまったと謝罪するようにシャディクは微笑む。

 

「ああ、安心してくれていいよ。もう君の正体がわかるような証拠は残ってない。今日はそれを伝えに来たんだ、君は晴れて無罪放免ってわけ」

 

 そんなことを言われても、本当かどうかさえわからないのに、どう受け取れというのだろう。

 困惑に満ちた心境のまま、ニカは口を開いた。

 

「……どうして今になって」

「俺は清算し損ねたからね、同類相哀れむってやつさ」

 

 戸惑うニカの様子を見て、シャディクは軽薄に手をひらひらと振って。

 不意に真剣な声音を発した。

 

「今はミオリネのために、君の力を貸して欲しい。グエルもエランもいいやつだけど、きちんとMSが整備されてなければ力は発揮できないからね」

 

「……本当にミオリネが大切なんですね、ゼネリさんは」

 

「ああ、まあね。それだけは裏がないと言っておくよ」

 

「…………わかりました。それじゃあ、私、今の会話のことは綺麗に忘れておきます」

 

 ニカがそう言うと、シャディクはにっこりと笑った。

 胡散臭い笑みだった。

 

「ああ、そうしてくれると助かるよ」

 

 今、二人の間には嘘つき同士の奇妙なシンパシーがあった。

 それはおそらく、これから一生、隠し事を抱えて生きていかねばならない人間だけの、後ろめたさがそうさせる共感だった。

 

 

 

 

 

 

――そして数日後。

 

 

 決闘委員会の立ち会いの下、関係者一同がそろって決闘の宣誓を終えた帰り道。

 赤毛と銀髪の少女が、パチパチと火花を散らすように顔と顔を突き合せている。

 

「私が勝ったら〈エアリアル〉は株式会社ガンダムが譲り受けるわ、文句はないわね?」

「どうせわたしが勝ちますから無駄ですよ。そっちこそ、わたしが勝ったら飛び跳ねて犬の鳴き真似したあとに土下座と謝罪してもらいますからね!!! 今さら逃げないでくださいよ?」

 

 ミオリネ・レンブランとスレッタ・マーキュリーが本気で喧嘩しているらしい、という噂を裏付けるように、二人は今、校内の通路でにらみ合っていた。

 とりあえず話を聞くだけでもミオリネの横暴振りがわかる条件に加えて、その破天荒さと裏腹に温厚な人柄で知られるホルダーがマジギレしている事実が、周囲をざわつかせていた。

 

 

「はっ、上等よ――あんたが嫌がろうと()()()()()()()、私の半径一〇メートルに入ったからには絶対逃さないんだから!」

 

 

 言い方があまりにもねちっこかったので、場の空気が凍った。

 そのときである。

 野次馬の中からミオリネを揶揄するような声が発せられた。

 

「うぬ、妖怪変化……肉欲獣(ビースト)……!」

「誰よ今、わけわからないこと言ったのは!?」

 

 アスティカシア高等専門学園の生徒たちは、たとえ有象無象に見えようとエリートである。

 当然、自我も強い。

 そのとき、経営戦略科の女子生徒が一人、つかつかとミオリネの方に歩み寄ってきて。

 意を決したように口を開いた。

 

「ミオリネ・レンブラン……あなたの悪い噂を耳にしました……」

「なによっ!?」

「それは口にするのもはばかられる外道の欲望……」

 

 すぅっと息を吸い込んで、女子生徒はわけのわからないことをのたまった。

 

異常性欲者(モンスター)――まさかホルダーの瑞々しい乙女の肉体を狙っていたとは」

「ぶっ殺すわよこいつら!?」

 

 ミオリネはキレた。

 愚弄に対する当然の怒りだったが、ほぼ自分の口の悪さが招いた災害であることに彼女が気づいているかどうか。

 ちなみに学園内では「ホルダーに肉体関係を迫ったミオリネが断られたのを逆恨みし、権力で言うことを聞かせたグエルとエランを刺客として差し向けた」というミオリネ悪役令嬢説に基づく噂が広まっている。

 何故か肉欲の権化のような扱いをされているところに、噂を立てた第三者の悪意が感じられるのは言うまでもない。

 しかしそんな有象無象からの風評被害に傷つくミオリネ・レンブランではなかった。

 何故なら普通にキレているからだ。

 

「いい!? 私はスレッタ・マーキュリーが気にくわないから喧嘩を売って、グエルとエランにこれからボコボコにさせるだけよ!? 勘違いしないでよね!!」

 

「人間的に最悪の発言だぞミオリネェ!!」

 

 チュチュからのツッコミも空しく、ミオリネはキレ続けていた。

 だがもう一方のスレッタも負けず劣らず怒っている。

 

「常識で考えてください、ミオリネさん。二人ともわたしにボコボコにされたんですよ? 今さら挑んできても黒星が増えるだけで可哀想です!!」

 

「お前もナチュラルに傲慢だぞスレッタ!! どうしちまったんだオイッ!」

 

 チュチュの嘆きを余所に、トントン拍子で決闘の準備は進んでいった。

 あのグエル・ジェタークのリベンジと聞いて、ジェターク寮の面子は盛り上がっていたし、ペイル・スキャンダル以降いいところがないペイル寮の面子もエランの活躍に期待を寄せている。

 お家騒動でそれどころではないグラスレー寮は、次期CEOが誰になるかに注目していたが、それはさておき。

 地球寮に搬入されている〈ファラクト〉と〈エアリアル〉の整備・点検で、メカニック科のメンバーはフル稼働だったが、見たこともないテクノロジーの粋が凝らされた両機にニカ・ナナウラは笑顔でメンテナンスをしていた。

 決闘賭博の常習犯であるオジェロとヌーノは、連戦連勝な上に改修された〈エアリアル〉を駆るスレッタに賭けるか、新型機をひっさげてきた上にエランを僚機につけたグエルに賭けるかで大いに悩んでいた。

 ティルとアリヤはそんな後輩たちを温かく見守りつつ、整備を任されているMSを分け隔てなく調整していた。

 ちなみにマルタンはその間、シン・セー開発公社から〈エアリアル〉と〈ファラクト〉の整備用の予備部品を大量に送りつけられ、先方へのお礼を言ったり、その部品の置き場を手配したりと雑務に追われている。

 苦労人である。

 

 

――かくしてスレッタとミオリネの喧嘩から一週間後。

 

 

 一対二の決闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

『これより双方の合意の下、決闘を執り行いまぁ~す。立会人はブリオン寮、セセリア・ドート~決闘方法は一対二の変則集団戦、勝敗はリーダー機のブレードアンテナを折ることで決するものとしまぁ~す』

 

 

 聞いているだけで周囲を挑発するような、ねっとりとした声音――決闘委員会メンバー、セセリア・ドートの声が高らかに放送設備から響き渡っている。

 アスティカシア高等専門学園全体に響き渡るような放送は、それだけこの決闘が注目されていることの証左である。

 ちなみにこの人選は必然である。決闘委員会メンバーのうち、グエルとエランが挑戦者として参戦し、グラスレー寮のシャディクが社内政治のために学校を休んでいるからだ。

 そういうわけで我が世の春とばかりに、セセリアはノリノリであった。

 

『皆さ~ん、リーダー機の紹介をしますよ~! 片や現ホルダーで連戦連勝のスレッタ・マーキュリーと〈エアリアル〉! 片や元ホルダーで今や()()()のグエル・ジェタークと〈シュバルゼッテ〉~! お二人とも新型で気合い入ってますねえ~』

 

『おい! この紹介要らないだろ、セセリア!』

 

 含みのある言い方にグエルが立会人へ抗議したが、無事にスルーされている。

 本当は挑戦者のくだりを敗北者と言いたいのを、ジェターク寮の面子をおもんばかってギリギリで修正したような言い回しなのだ。

 セセリア・ドートという少女はこういうやつであり、これでもグエルが本気で怒らないラインを見極めて攻めているのだから質が悪い。

 

 そんなわけで気が立っているグエルの様子を通信で聞きつつ、エラン・フォースは出撃の準備をした。コクピットの中で深呼吸し、〈ファラクト〉をMS用電磁カタパルトまで移動させる。

 固定具がロックされ、〈ファラクト〉が電磁カタパルトの上に乗った。

 決闘フィールドはフロント外宙域、あのときと同じだった。

 

『おい、グエル先輩に恥を掻かせたらただじゃおかないからな!』

 

『そうだぞエラン・フォース、兄さんをサポートすることを第一に考えろ……いや、お前ほどのパイロットなら言うまでもないことか』

 

『フェルシー、落ち着いて、ラウダ先輩も!』

 

「努力するよ」

 

 フェルシーとラウダ、そしてペトラのにぎやかな声を聞きながら、エランは加速に備えてコクピットの床に足を預ける。

 今のエランの境遇は複雑である。

 所属としてはペイル社の筆頭パイロットだが、機体はシン・セー開発公社の所有物であり、出撃するのはジェターク寮の艦艇と来ている。

 あの頃、スレッタ・マーキュリーと決闘した時期とは何もかも違う環境が新鮮だった。

 それもこれも、あの子が自分を生かして、変えてくれたからだ――そう、エラン・フォースは強く思う。

 

 

「KP-002、〈ファラクト〉――出る」

 

 

 MS用の電磁カタパルトが動作し、〈ファラクト〉の機体が真っ直ぐに加速する。星の光が瞬く宇宙空間に放り出された勢いのままに推進装置を噴かして、エランと〈ファラクト〉は接敵可能な軌道に乗っていく。

 続いてグエルの白いモビルスーツ――〈シュバルゼッテ〉が電磁カタパルトから射出されて、エラン機に追いすがってくる。

 速い。

 ジェターク社の〈シュバルゼッテ〉は七〇トン以上ある重量級のMSのはずだが、それを感じさせない高推力を秘めているのだ。

 これまで何度もジェターク社のバトルフィールドで特訓してきたエランとグエルは、声に出さなくても互いの取る挙動がわかっていた。

 阿吽の呼吸、というやつである。

 〈ファラクト〉と〈シュバルゼッテ〉が並んで宇宙を駆け抜けていると通信。

 スレッタからだった。

 

『グエルさんにエランさん……本当に挑むんですね、わたしに』

 

『ああ、俺たち二人でお前に挑む。悪いが手段は選ばない、それが今の俺の矜持だ』

 

「そういうわけだから、スレッタ・マーキュリー。今度は君を落とさせてもらうよ」

 

『わたしと〈エアリアル〉は負けません!!』

 

 意地になって叫ぶスレッタは、とても可愛らしかった。

 エランは無言で頷いた。

 

 

――かわいい。

 

 

 ぷんぷんと怒るスレッタからの通信が切れる。

 入れ替わりにセセリアの声が聞こえてきた。

 

 

『それでは~、両者、向顔(こうがん)

 

 

 遠く、望遠カメラで捉えられる宙域の彼方に、白亜のMS〈エアリアル〉の影があった。

 推進炎を伴わない独特の光――あれがグエルを一方的に蹂躙し打ち破ったという、新型の機動ユニットの輝きなのだろう。

 果たして今の〈ファラクト〉がどれだけ通用するか、エランは楽しみになっていた。

 そうだ、認めよう。

 エラン・フォースは今、ガンダムに乗って()()()()()()()()に心躍らせている。

 人生で二度目――あのデートの日以来かもしれない高揚感を胸に刻みながら、エランはそっと口の端をつり上げて微笑んだ。

 

 

『勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず』

 

 

 最初にお馴染みの口上を始めたのはスレッタだった。

 

 

 

『操縦者の技のみで決まらず』

 

 

 

 続いてグエルが言葉を紡ぎ。

 

 

 

『『――ただ、結果のみが真実』』

 

 

 

 両者の言の葉が異口同音に発せられて。

 

 

 

 

『――フィックスリリース』

 

 

 

 

――負けられない戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 











・〈ファラクト〉改修型/〈ファラクトE〉
ペイル社への制裁後、ガンダム開発部門の買収によって譲渡され、シン・セー開発公社によって改修されたファラクト。
ルイ・ファシネータの新型GUNDフォーマット、アミュレット・システムを搭載したMSであり、その操縦においてデータストーム負荷は存在しない他、パーメットスコアの上昇制限も解除されており、スコア4以上のパーメットスコアの出力が可能となっている。
スタンビーム・ガンビット〈コラキ〉×8に代わり、エアリアルのそれを元にした簡易AI搭載の拡散型ビーム・ガンビット〈レイヴン〉×4を搭載。
これによりスウォーム兵器の迎撃、十字砲火などの多彩な戦術が取れるようになった他、ビットオンフォームではビームの射角を制御し、固定砲台として運用可能。
GUNDフォーマットによる射撃管制により、中距離~遠距離での射撃戦においてMS二個小隊(MS6~8機)に相当する火力を獲得している。
Eはエンハンスド(強化)とエクエス(騎士)の意。

固定武装
・頭部ビームバルカン×2
・腕部内蔵ビームサーベル×2
・拡散ビームガンビット〈レイヴン〉×4
・脚部内蔵ビームガン×2

携行武装
・ビームアルケビュース
・ビームカリヴァ×2/ビームマスケット

※原作での強化人士5号仕様のファラクトの武装+新型ガンビットを換装したモデルです。
※MSサイズのサイコガンダムみたいな火力お化け。




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