ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタたちが現状を整理するだけのお話

 

 

 

 ルイ・ファシネータからの衝撃的な告知に続いて、デリングの演説が流れたあとの地球寮にて。

 学園に戻った生徒たちの話題は宇宙議会連合から強制介入宣言と、それに対する宣戦布告に等しいベネリット・グループ総裁の演説で持ちきりだった。

 勇壮な演説に感動するもの。企業がフロント自治区の連合組織に楯突くことを無謀と評するもの。戦争という非常事態に落ち着かないもの。

 ざわつく学園の喧噪を余所に、地球寮のMSハンガーに集った先の決闘の関係者一同――つまりグエルとエランも含めた学園の生徒たちは、ミオリネを中心にしてミーティングを開いていた。

 議題はずばり「今後の身の振り方について」。

 ホワイトボードには現在の世界情勢をまとめた、ミオリネお手製のニュースまとめがある。

 流石の才女だった。

 さて、株式会社ガンダムはGUNDテクノロジー全般を扱い、これをPRする会社であるから、〈クワイエット・ゼロ〉とそれを巡る騒乱も無関係ではない。

 しかし建前の上ではベネリット・グループのGUND関連企業であろうと、実際のところ、株式会社ガンダムは誰からも重要視されていなかった。

 所詮は新興の学生ベンチャーである。

 いくらネットでバズった動画があろうと、その実態は貧相な出発したての企業でしかない。

 こと宇宙国家と企業帝国の武力衝突という段になって出番があるような存在ではないのだ。

 そのような前提で険しい顔をしている地球寮の面子を余所に、ミオリネ・レンブランは涼しい顔をしていた。

 スレッタ・マーキュリーは意を決して、みんなを代表して口を開いた。

 

「ミオリネさん、クワイエット・ゼロのことなんですが――」

「ええ、わかってるわ。結論から言うとね――私は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 言ってることが先刻と一八〇度違うので聞き間違いを疑い、スレッタはミオリネの顔を二度見した。

 すっきりと涼しい顔をしてやがる。

 まったく理解不能だった。

 

「――は?」

「ダブスタだね」

「どういうことだミオリネ、説明しろ!」

 

 若干キレるスレッタ、すかさずツッコミを入れるエラン、二人の様子に慌てるグエル。

 そんな決闘を終えたばかりでテンションが高い三人に対して、ミオリネは傲岸不遜に腕を組みながらこう言ってのけた。

 

「クワイエット・ゼロ、別にいいじゃない? 地球のAI汚染を取り除くフェーズ2まではやっても全然ありでしょ? そうすれば無意味に煽られた戦争とかはなくなるわけだし? 地球の再開発っていうのも、アーシアン間での格差の拡大とかがネックになるけど現状維持よりはずっとマシよね」

「お、お前がそれ言うのかよ……もうわけわかんねーよ……」

 

 チュチュなどはもうツッコミを入れる気力もないのか、疲れ切った表情でぼやくだけだった。

 はいはい、とそれを受け流しつつ、ミオリネは最後にこう総括した。

 

「つまり私は、クソ親父の独裁を止めたいだけなのよ。別に地球なんかどうでもいい、みたいな気持ちで動いてるわけじゃない。それだけはわかって欲しいの」

 

 そう言って地球寮の面子やスレッタたちの顔を見渡すミオリネ。

 なるほど、と納得する雰囲気が彼らの間に広がった頃――エラン・フォースが手厳しい指摘を行った。

 この少年は顔あわせしてからというもの、どうにもミオリネと噛み合わず態度も素っ気ないのが常だった。

 

「で、止めるって具体的にどうするの?」

「私が乗り込んで説得するわ」

 

 エランは微笑した。

 皮肉な笑みである。

 

「君はずいぶんと楽観的なんだね、ミオリネ・レンブラン」

「あんた私にだけ当たり厳しくない?」

 

 たぶん気のせいではなく、エラン・フォースはミオリネ・レンブランのことが嫌いだから当たりが強い。

 これはもう人間性の相性と呼ぶしかない問題で、エランにもミオリネにも解決できない類の問題である。

 そのときミオリネの生徒手帳(デバイス)から着信音が鳴った。

 件名はトマトのゲノム解析情報について。

 添付されたファイルに目を通したあと、安堵したように深々と息を吸い込んで、ミオリネは目を閉じた。

 

 

「――ええ、これなら、たぶん、いける」

 

 

 そしてニッコリと天使のように笑った。

 銀髪の美少女の満面の笑顔は、何故か見るものに毒虫の警戒色を連想させるような攻撃性に満ちていた。

 

「私ってクソ親父とお母さんに愛されてるみたい、肉親の情って厄介よね。どんなに鋼の男(マッチョ)を気取っても心の弱さは守れないのよ。これって最高の切り札だと思うけど」

 

 肉親の情を武器にすると宣言するミオリネ・レンブラン。

 卑劣な悪役令嬢そのものの邪悪な笑顔でニタァと笑う銀髪の少女だった。

 もちろんグエルはドン引きした。

 

「ミオリネ……お前それでいいのか……?」

「なによっ!」

 

 自分の卑劣さを棚に上げて噛みつくミオリネは平常運転、ゴーイングマイウェイである。

 一時期の廃人同然の状態からすると、驚異的と言うほかない回復の仕方である。

 雑草のような精神性と言うほかない、とエランは無言で頷いた。

 口に出さない程度の分別が彼にも存在した。

 

「エラン、あんた今、私に失礼なこと考えてなかった?」

「言いがかりはよしてくれないかな」

 

 まさに的中だったが、しらを切る余裕がエランにはある。

 そのときだった。

 さっきからずっとそわそわしていたニカ・ナナウラが、意を決したように前に進み出た。

 その顔には常ならぬ緊張が浮かんでいる。

 

「ニカ?」

「みんな……実は私、言わなきゃいけないことがあって……」

 

 堰を切ったように、と言うべきであろうか。

 ニカは一気呵成にまくし立てた。

 

「実は私、なんか悪そうな人たちにこの学園に送り込まれてて……平たく言うと不正入学なの!!」

 

 

――「え、今それ言うの」という空気になった。

 

 

 ニカ的にはスッキリする時間だった。ちなみにシャディクとの約束めいた時間はなかったことになった。

 何故ならしんどかったからだ。

 後ろめたい秘密など抱えるべきではない、というのがここ最近の沈黙の末、ニカ・ナナウラが出した結論だった。

 唐突すぎるカミングアウトに困惑したのは、彼女を姉貴分として慕うチュチュである。

 

「ニカ姉、絶対それついでで言ったろ!?」

「うん」

「うん!? どうすればいいんだよ、あーしらは!?」

「ごめん、ちょっとスッキリした。ちなみに証拠は隠滅されてて出てこないって悪い人が言ってた」

「嫌な共犯だ!?」

 

 マルタンは両耳を押さえて何も聞いてない、と主張。

 それを冷ややかな目で眺めていたミオリネ・レンブランは、深々とため息をついたあと叫んだ。

 

「よし、私たちは何も聞かなかったわ!」

「ミオリネさんの開き直りが早い!?」

 

 スレッタのツッコミに対して、ミオリネは怒鳴るように開き直った。

 

「こっちはクソ親父で頭がいっぱいなのよ!!! ニカのことは全部終わってから適当に考えるわ!!」

「適当!? 今、適当って言ったよな!?」

 

 オジェロは混乱しており、ヌーノに「落ち着けよ」とたしなめられている。

 ニカのカミングアウトからしばらくして、ようやく落ち着いてきたみんなの顔を見回して、何事かを決心したかのようにスレッタが無言で頷いた。

 それを見逃すミオリネではなかった。

 

「…………スレッタ?」

 

「もしミオリネさんが説得に失敗しても問題ありません。クワイエット・ゼロはわたしと〈エアリアル〉が責任を持って止めます」

 

「止めるって……どうやって?」

 

 ミオリネの問いかけに、強いまなざしと共にスレッタ・マーキュリーは返答する。

 

「ルイおにい……ルイ・ファシネータCEOは〈エアリアル〉の代替コアユニットの準備が整ったと言っていました。たぶん〈エアリアル〉と同じガンダムが、〈クワイエット・ゼロ〉専用に用意されたんだと思います。それを破壊すれば、オーバーライドによる世界征服は止められると思うんです……!」

 

 論理的な回答である。

 少なくともミオリネの「親子の情をフックに説得してやめさせる」よりは、実現可能性があるように周囲には思われた。

 とはいえ無謀と言えば無謀である。

 デリングの娘が総裁と無理矢理に会うのは不可能ではないかもしれないが、武装したモビルスーツが、ベネリット・グループの戦力が集中されるであろう施設の中枢に侵入し、計画の要を撃破するなどよく考えれば無茶な話なのである。

 その程度の破壊工作はデリング側も想定しているだろうし、株式会社ガンダムに〈エアリアル〉の所有権が譲渡された今となっては、余計に警戒されていそうだった。

 そういうもっともな指摘をミオリネがしようとした瞬間、先に口を開いた人物がいた。

 グエルだ。

 

「……お前一人に背負わせたりはしないぞ」

「ちょ、ちょっと待ってください、グエルさんはジェターク社の人じゃないですか。お父さんのこととか……」

「……それは、そうなんだが……!」

 

 そうなのだ。

 少なくとも今のところ、表だってデリング・レンブラン総裁への謀反を起こしたりはしていないジェターク社の子息が、ミオリネのやろうとしているクワイエット・ゼロ計画阻止作戦に参加したら、立場がガタガタになるのは目に見えていた。

 それに考えが及ばないほどグエルは愚かな少年ではなかった。しかしかといって、好きな女の子を一人、鉄火場に放り出せるほど物わかりがよくもなかった。

 なのでグエルは情熱のままにこう叫ぶのだ。

 

 

「――なんとかする!!!」

 

 

 スレッタは目を丸くした。

 

「えぇーっと……」

「スレッタ・マーキュリー、諦めた方がいいよ。彼の諦めの悪さは君が一番よく知っているだろう?」

「エラン、その言い方だと俺がストーカーみたいだろ!」

「自意識過剰だね、グエル・ジェターク」

「お前なあ……」

 

 わいわいがやがやと騒ぐスレッタ、グエル、エランを余所に、地球寮を代表してマルタンが口を開いた。

 気弱な少年は、それでも目一杯の勇気を振り絞って傲岸不遜なる株式会社ガンダム社長にこう言い渡す。

 

「……僕は地球寮の代表として、そんな危ないことにみんなを巻き込ませるわけにはいかない……」

「でしょうね。いいわよ、参加しなくても」

「へ?」

「一応、会社社長として説明責任があるから伝えただけよ。勘違いしないで、みんなには立場がある。ただでさえ地球出身って理由で差別されてるのに、失敗しても成功してもベネリット・グループ総裁に楯突いたって経歴が残るような仕事には巻き込めないわ」

 

 そう言ってミオリネは微笑んだ。

 それは日頃、気丈で口が悪すぎる少女が見せた、心からの思いやりであった。

 何事かを言いたげなティルやアリヤを横目に、マルタンは何かを喋ろうとして――ミオリネに遮られる。

 

「まあなんとかなるわよ。みんなは私の交渉の結果を大船に乗ったつもりで――」

「いや、無理だろ」

 

 即座に突っ込んだのはチュチュだった。

 ガラが悪く、ミオリネとも一応友達ぐらいの関係の少女は真顔である。

 いきなりの全否定にミオリネは機嫌悪そうに声をもらした。

 

「はぁ?」

 

「お前一人で何ができんだよ、ミオリネ。宇宙船の操船だってペーパーだろお前。プラント・クエタに行ったときだって、()()()()()でシート磨くことしかしてなかったし」

 

「でけえケツって何よ!? ……じゃなくて、私は主席のミオリネ・レンブランよ、ぶっつけ本番でなんとかしてやるわ」

 

「危なっかしいって言ってるんだよ、この自信過剰スペーシアン!」

 

「はぁああ!?」

 

 チュチュとミオリネががるるるる、と獣めいてにらみ合う中、アリヤが口を挟んだ。

 

「……まぁ、マルタンの言うことももっともだとは思うけど……ミオリネを一人で行かせるのは、もっとないな」

「僕も賛成だ」

 

 続いてティルが頷いて。

 ヌーノとオジェロ、ニカとリリッケも当然のようにそれに続いた。

 慌てふためいたのはマルタンである。

 

「み、みんな!? わかってるのかい、これはすごく危険な事態なんだって」

「……わかってるよ。でもよ、しょうがねーだろマルタン。ダチが気合い入れてるときに見捨てるなんてできねえよ」

 

 チュチュがそう言うと、マルタンはがっくりと肩を落とした。

 みんな同じ気持ちらしいと悟ったからだ。

 フォローするようニカが口を開く。

 

「別に寮長が間違ってるとは思わないけど……うん、でも、ミオリネの助けになりたいかな、今は」

 

「あぁああ、ニカまで……あーもう、本当にみんな向こう見ずなんだから! わかったよ、寮長だけ不参加ってわけにもいかないしっ!!」

 

「え、ちょっと? みんなマジで言ってる?」

 

 ミオリネは目を丸くして驚いている。

 それはそうだろう。彼女とて自分の舌禍癖は自覚しており、自分にひどく人望がないのは把握しているのだから。

 まさかの地球寮全員からの人情あふれる協力の申し出に、ミオリネ・レンブランはちょっと泣きそうになった。

 思わず、湿っぽい声が喉からあふれた。

 

「……ミオリネ、お前、泣いて……」

 

 ミオリネは頬を伝い落ちる雫を手で拭いながら、ちょっとだけ鼻声で喚いて――

 

 

ばっかじゃないの!!! みんな大馬鹿よ!!! …………………ありがと」

 

 

 

 

――心からの感謝を口にした。

 

 

 

 

 













脳内でLiberation from the Curseが流れてガンダムSEEDの呪縛から解放されました(報告)


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