ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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みんなが戦争の準備をするだけの話

 

 

 

 

「――ミオリネさんって詐欺師の才能ありますよね」

 

 

 

 誰もが浪花節に感動の涙を流しかけた頃合いだった。

 スレッタは真顔で暴言を吐いた。

 ミオリネはキレた。

 

「何よいきなり!?」

「いえ、だって……さっきから具体的なことには何にも触れないで浪花節に浸ってるじゃないですか、変ですよ!?」

 

 スレッタ・マーキュリーは天然だが、かなり曲者の姉エリクトとの対話を通じて欺瞞には敏感だった。

 なのでこうして、ミオリネが話したがらない本音を引き出そうと一発ぶちかましもする。

 思わぬツッコミに黙り込んだミオリネは、できれば誤魔化しておきたかったのであろう本音をぽろっとこぼした。

 

「面倒くさいわね……」

「誠意の問題ですよミオリネさん! そもそも、なんでクワイエット・ゼロ計画を、デリングさんがフェーズ3まで実行するのがダメなんです?」

 

 スレッタの鋭い切り口の問いかけ――ミオリネはチッと舌打ちすると、じーっとこちらを凝視しているスレッタの顔を見た。

 褐色の少女を誤魔化す術はないようだった。

 諦めて口を開いた。

 

「あのね……たとえルイ・ファシネータっていう高度なAIの補助があるとしても、地球圏すべてをたった一人の独裁者が統治するなんてどだい無理な話なのよ。今、ベネリット・グループが地球で行ってる戦争による兵器需要の喚起……戦争シェアリングだって、実際のところはうちのクソ親父の意向なんてろくに反映されてない張りぼてなのよ? あれって現地の民族対立とかにタダ乗りしてるだけの安い(チープな)陰謀だもの。その何万倍って規模の地球全土の紛争の掌握なんて、間違いなく破綻するわ」

 

「……ミオリネさんのお話を聞いてると、放っておいてもダメになるなら、わざわざ説得しに行かなくてもいいんじゃないですか?」

 

「バカねスレッタ。一度、世界征服の実例なんて示されたら、第二第三のクソ親父が現れるに決まってるじゃない」

 

「えーっと……?」

 

 ミオリネ・レンブランは頭の回転が速いから、自分の思考が行き届いた事象に関しては説明を省く悪癖がある。そのせいで度々、話題が移り気になるため、スレッタは話について行くだけでやっとである。

 ミオリネはぴん、と指を立てると、ホワイトボードに「クワイエット・ゼロについて」と書き出し始めた。

 

「大事なのはイメージよ。実は〈クワイエット・ゼロ〉が世界征服のための暗黒宇宙要塞でしたって知らされるのに比べたら、地球のAI汚染を止めてくれる金持ちの道楽で世論のイメージが止まる方が、事後処理はずっと楽になるわ」

 

「ミオリネさんはクワイエット・ゼロ計画を穏便に着地させて、戦後のことまで考えてるんですね?」

 

「ええ、そういうことよ。といってもまず、クソ親父が宇宙議会連合の強制介入を乗り切ってくれないとまとまる話もまとまらないんだけどね」

 

 そのとき口を開いた人物がいた。

 エラン・フォースだ。

 

「ずっと疑問だったんだけど……」

「何よエラン」

「今すぐ通信を入れるんじゃダメなのかい? 親子なんだろう?」

 

 場の空気が凍った。

 お前それをミオリネに言うのかよ、という意味で。

 当事者のミオリネはやれやれと肩をすくめると、めちゃくちゃ嫌そうな顔で解説を語り始めた。

 

「あのね、うちのクソ親父は通信越しだと絶対に話を聞いてくれないわよ? 対話の機会を作るには、株式会社ガンダム代表としてデリング・レンブランに直接、会談を申し込むのが一番勝率が高いのよ」

 

「僕なら忙しいときに見え透いた罠にはまらないと思うけど」

 

「戦場になりかねない場所に一人娘を放置するなんて真似、デリング・レンブランにはできないわ」

 

 親子の情を人質にとって対談に持ち込む。

 身も蓋もなく血も涙もない戦術が、ミオリネ・レンブランの作戦の大前提だった。

 

「だからわざわざ生身で押しかけるのか……君ってやつは本当にろくでもない人間だね、ミオリネ・レンブラン」

 

「何よ」

 

「僕なら君を拘束して監禁すると思うけど、その場合の対策は?」

 

「ない……と言いたいところだけど、一つだけ望みがあるわ」

 

 そうしてミオリネは、度々、こちらに干渉してきた胡散臭い人物の名を挙げた。

 

「――ルイ・ファシネータよ。あいつは私たちを〈クワイエット・ゼロ〉に呼び込みたがっている。ご丁寧に〈エアリアル〉と〈ファラクト〉の修理用の部品まで運んできてるしね」

 

「確かに……今回の流れを予期していたみたいに、大量のスペアパーツを送りつけてきていたね」

 

 ティルが頷いた。

 そのせいでマルタンが雑務に忙殺されていたのは記憶に新しい。

 つまり、とアリヤが言葉を引き継いだ。

 

「……ルイ・ファシネータはミオリネを〈クワイエット・ゼロ〉に呼び込みたがっていて、その準備を前から進めていた……?」

「そういうことになるわね。理由がさっぱりわからないし罠かもしれないけど……現状、私に切れる手札はこれだけよ。これでいいかしら、スレッタ」

 

 そう言って銀髪の少女がスレッタの方を見ると、赤毛の少女はにっこりと笑って。

 

「――はい! ミオリネさんって割と博打打ち(ギャンブラー)だったんですね!」

「一言多いのよあんたは!!」

 

 きしゃーと威嚇するミオリネだった。

 

 

 

 

 

 

――地球某所、難民キャンプにて。

 

 

 反スペーシアン武装組織〈フォルドの夜明け〉を率いる男、ナジは先ほどまでの放送――デリング・レンブランによる地球救済計画の概要と、それを妨げる宇宙議会連合への抗戦宣言の意味を噛みしめていた。

 あまりよろしくない展開だ、とナジは思う。

 彼が率いる〈フォルドの夜明け〉はスポンサーとの縁が切れた上、数ヶ月前の襲撃で戦闘員とMSを喪失しており、現在は難民と共に逃げ回りながら組織の再建に追われている。

 その最中に飛び込んできたスペーシアンの王というべき男、デリング・レンブランの発言は、地球に住まうアーシアンの間で世論を真っ二つに割っていた。

 

 あるものはこう言う――あの演説が本当ならデリング・レンブランは真の英雄だと。

 あるものはこう言う――所詮はアーシアンの生き血をすすってきたスペーシアンの戯言だと。

 あるものはこう言う――改革を志すデリングを潰そうとしている宇宙議会連合こそ真の巨悪なのだと。

 

 これまでスペーシアンへの怒りと憎しみで団結していた難民キャンプは今や、デリング支持派とデリング懐疑派で二つに分かれており、微妙な空気が漂っていた。

 こうなってくると立場がつらいのがナジたち〈フォルドの夜明け〉である。彼らは基本的に難民に寄り添い、その生活の不便や不満を聞いて、物資の融通や機材の修理などで支持者を増やすことで難民たちの間に浸透してきた。

 〈フォルドの夜明け〉の組織はそうやって、次世代の構成員をスカウトして規模を拡大してきた組織だ。

 それがデリングの演説で一変してしまった。

 今や難民キャンプのアーシアンたちは()()()()()()()()()()()()()()()の語る理想に目を輝かせるか、それに疑いを持つかで二分されてしまっている。

 こうなるとナジたちはとてもやりづらい。どちらの側に立っても、もう一方を敵に回してしまうからだ。

 

「やれやれ、これが狙いかねえ。オルコット、お前はどう思う?」

 

 ナジはそうぼやいて、義手をつけた隻腕の戦士――オルコットに話しかけた。

 〈フォルドの夜明け〉構成員において数少ない、高度な教育を受けた士官出身であるオルコットはナジにとっては腹心の一人である。

 オルコットのまなざしは厳しく、にべもなくデリングの言を切って捨てた。

 

「愚問だな。所詮はスペーシアンの側の都合を喋っているだけだ」

「手厳しいな、古巣だろ?」

「この世界はスペーシアンが上位者である限り変わらない。不正義も差別も腐敗もな……それが、俺の戦う理由だ」

 

 オルコットのため息は、世の真実を表しているかのようだった。

 今このときはまだ。

 

 

 

 

 

 

――宇宙、ラグランジュポイント1周辺宙域。

 

 

 

 

「これだけの数のケラウノス級がそろうとはな。壮観なものだ」

 

 

 アーサー・グッドマン准将はそう言って、自身が預かった艦隊を艦橋(ブリッジ)から眺めた。

 宇宙議会連合の本部フロントを出発し、並んで宇宙空間を航行する灰色の艦船――数十隻の軍艦の名は、ケラウノス級戦闘母艦。

 二四門の二連装ビーム砲塔による高い砲撃能力とモビルスーツ運用母艦としての機能を備えた、全長四〇〇メートル超の大型艦艇である。

 このタイプの艦艇は船体の右舷と左舷に一個ずつ、巨大なコンテナ状の格納庫を備えており、二〇機をゆうに超えるMS展開能力を獲得している。

 戦闘領域をありったけの艦砲射撃と艦載機によって埋め尽くし、制圧する。

 そのような運用思想が察せられるケラウノス級は正しく、宇宙議会連合という勢力の権威を形にしたような船だった。

 グッドマン准将の呟きに反応して、この船の艦長の男が応じた。

 

「それだけ上も件の〈クワイエット・ゼロ〉を警戒しているのでしょう」

 

「投入されるMSは一〇〇〇機を超える見込みだ。これだけの大戦力を投じて撃破できない目標などありえんさ」

 

 これまで企業グループの躍進に手をこまねいているばかりだった宇宙議会連合が、真にこの太陽系の盟主として存在感を発揮するときがきたのである。

 まさに宇宙議会連合の武威を形にしたようなケラウノス級の群れを前にして、グッドマン准将は笑みを隠せなかった。

 軍人にあるまじき肥満体型だったが、その指揮能力を買われて出世してきた金髪碧眼の男は、企業のトップを揶揄するように口を開いた。

 

「しかしあのデリング・レンブラン大佐――ドローン戦争の英雄も血迷ったものだな。よもやアーシアンなどのためにベネリット・グループの資産を投入するとは」

 

 アーシアンに対する差別感情を隠そうともしない、侮蔑のこもった物言いだったが、この場においてそれを咎めるものはいない。

 むしろ追従するように、陰湿な笑いがブリッジに飛び交っている。

 

「欲に目がくらんだのでしょう、地球にそんな価値はないというのに」

 

「驕り高ぶる企業に正義の鉄槌を下してやるのが、せめてもの慈悲というわけだな」

 

 そのときだった。

 一隻の巨大な船が、グッドマン准将たちの乗るケラウノス級戦闘母艦の真横を通り過ぎた。

 それは異様な構造の艦艇であった。ベースになっている船体こそケラウノス級に近しいが、船体から突き出し固定されている構造物はどう見ても巨大な砲身だ。

 艦橋にいるブリッジクルーがその威容にどよめく中、グッドマン准将は得意げに胸を張った。

 

 

「諸君、見たまえ。ケラウノス級をベースに改装した戦略特装砲艦〈ヘグニ〉――此度の〈クワイエット・ゼロ〉制圧作戦の要だよ」

 

 

 魔剣の担い手の名を冠した船が、ゆっくりと向かう先はラグランジュポイント4。

 ベネリット・グループの超巨大生産施設プラント・クエタがある宙域であった。

 艦隊の指揮を執るアーサー・グッドマンは、来るべき栄光の未来に思いをはせて、にやりと笑った。

 

 

 

「傲慢なる企業、地球圏統一政体の母体になるであろう我々に刃向かう愚か者ども……奴らに必殺の一撃(ダインスレイフ)を思い知らせるときが来たのだよ」

 

 

 

 

 












・ケラウノス級戦闘母艦
宇宙議会連合のMS運用母艦であり戦闘艦。
MS母艦と戦艦を兼ねた万能艦であり、戦場へのMS投射能力に重点を置いている。
コンテナ状のMS格納庫を船体左右に持つ独特の構造をしており、横幅の広い艦影を持つ。
最大24機のMS運用能力に加えて、船体の上下で24門に及ぶ艦載ビーム砲、多数のミサイル発射管を備えており、高い火力を誇る。
その反面、被弾面積が広く、同等以上の火力の戦闘艦との撃ち合いは想定されていないため、その船体サイズに反して打たれ弱い構造である。
艦隊戦においては明確に弱点と言えるが、射程と物量によって圧倒するドクトリンの元、この艦種は複数が建造されている。
ケラウノス級はAS90年代(ドローン戦争末期)から建造されている船であり、その仮想敵は宇宙議会連合に反抗的な敵対フロント群であった。
ある種、「格下を制圧する」想定で設計された船体は、本艦を運用する宇宙議会連合軍の体質が現れていると言える。
兵装
・電磁カタパルト×2
・2連装高エネルギービーム砲×12
・多目的ミサイル発射管
・対空レーザー砲





ケラウノス級は「ドゴス・ギアをいっぱい作れば最強じゃね?」という小学生並みの発想を実行に移した宇宙議会連合軍の艦隊戦力の要です。







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