ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタがジェターク寮と仲良くなるだけの話

 

 

 

 

――伝説となった新旧ホルダー対決から一週間後。

 

 

 

 ()()()()()()()()()健康チェックやら、事後のモビルスーツの修理部品の手配やら、決闘でおろそかになっていた各種手続きやら、授業の予習復習やらで大忙しだったスレッタ・マーキュリーは、ようやく落ち着いて話す時間を持つことができていた。

 今日は休日であり、時刻は昼前。

 会う相手はよく見知った少年であった。

 

「あ、グエルさん」

「一週間ぶりか、スレッタ・マーキュリー」

「ええと、そのぉ……そ、そ、その後、ジェターク社の皆さんはどういう感じでしょうか!?」

「まあ結局、社の総力を挙げてお前と〈エアリアル〉に負けちまったからな……」

 

 はわわわ、と焦って震えるスレッタ。

 勝者も敗者も得をする決闘、という約束を違えてしまったのではないかと、少女は怯えていた。

 だってそれは、あんまりにも寂しい現実だから。

 不意打ちだった。

 グエル・ジェタークはにやりと笑った。

 

「うちの会社の業績は好調だ。ジェターク製のドローン防御ならこれまで以上にパイロットの生還率が高くなるってな」

「よ、よよ、よかったぁ……脅かさないでくださいよ、グエルさん!」

 

 すまんすまん、と謝りつつグエルは苦笑いする。

 結果としていい感じになったが、あの接戦は、どう考えても薄氷の上に立つような状況だった。

 

「だがまあ、実際ヒヤッとしたぞ。一瞬でも気を抜いたら撃墜されてただろ、アレ」

「あはは……結構、いっぱい撃ちましたよね」

「あれだけのビームを浴びせられても機体は健在だったからな、まあ、お前が容赦ないやつで逆に助かった」

「よ、よよ、容赦はしてます! 最初からビットを使っていれば、グエルさんにいい勝負なんかさせません!」

「はっ! 言ってろ、勝負に二度はない。元ホルダーとして忠告してやるよ、その台詞は負け犬の常套句だ」

「ぐぬぬぬ……!」

 

 流石に部外者に詳細は言えなかったが、実際問題、グエルと〈ダリルバルデ〉の戦いぶりは社内でも社外でも高く評価されていた。

 すでに意思拡張AIとシールドドローンのノウハウを詰め込んだ〈ディランザ〉の改修プランや、〈ダリルバルデ〉のアップデート案も浮上している。

 それにより〈ディランザ〉を購入・運用している取引先との新たな契約に結びついており、ジェターク社の株価も上がっていた。

 

 決闘に敗北した企業とは思えない好調であった。

 そのおかげかヴィム・ジェタークの機嫌もよく「今度、休暇を取ってバーベキューでもしないか」とグエルとラウダに言い出す始末だ。

 もう俺たちは子供じゃないっていうのにな、と思いつつ、グエルは頬がゆるむのを抑えきれなかった。

 気を取り直して、決意を口にする。

 

「それで、決闘の対価を払いに来た」

「対価、ですか?」

 

 それって何の話だろう、と首をかしげるスレッタ。

 

「俺は言ったよな、スレッタ・マーキュリーの望むものを何でも一つ差し出す、って」

「あ……」

 

 決闘の宣誓で口にしていた言葉だ。

 決闘にはいろいろな側面がある。

 個人のトラブルの解決、企業の製品PR、新技術のデモンストレーション。

 そして個人間での約束の履行。

 今、グエルが口にしているのは、その天秤に乗せた魂の代償を支払うことだった。

 これはあくまでグエル・ジェターク個人に支払えるものに限られるが、その範疇であれば、どんな要求にも彼は応じるつもりだった。

 そして、おずおずと口を開いたスレッタ・マーキュリーの要求は。

 

 

 

「――わたしが勝ったので、友達になってください」

 

 

 

 グエル・ジェタークはそれを聞いた途端、きょとんとした顔――年相応のあどけない表情――を見せて、やがて、ちゃんと了承してもらえるかと緊張しているスレッタを見て。

 ぷっ、と吹き出した。

 

 

 

「――もうなってるだろ。賭けの報酬になってないぞ、これ」

 

 

 

 そう言われて、緊張の糸が切れてしまったのか。

 スレッタ・マーキュリーもへにゃりと相貌を崩して、明るく弾んだ笑い声を漏らした。

 

「あは、あははは! そうですね、それもそうでした!」

「何か代わりの願いは――」

 

 グエルがそう尋ねると、両手を前に突き出して、スレッタは「ストップ!」のジェスチャー。

 

「いえ、いいんです! わたし、あの決闘でいっぱい、いっぱいもらいましたから! グエルさんと戦えて、本当に楽しくて、嬉しかったんです!」

「……バトルジャンキーか?」

「ち、ちち、違います! あんなにMSに乗るのが楽しかったの、()()()()()()()()!」

 

 ()()()()()()()()と聞いて、一瞬、グエルは神妙な表情になった。

 これまでスレッタ・マーキュリーの歩んできた人生の苦難を、彼なりに想像して、どうにかわかりたいと思ったからだ。

 たとえそれが、醜悪で残酷な現実(リプリチャイルド)に比べれば、甘っちょろい夢のような想像に過ぎないとしても。

 少年は今、未知の塊である少女と、わかり合いたいと願った。

 それは、きっと嘘ではない。

 

 

「そうか。ならいいんだけどな」

 

 

 そしてすぐ、砕けた表情でモビルスーツの性能や操縦について話題(トーク)の花を咲かせるのだった。

 

 

 

「ちょっと待って……なんであいつら、いい感じの空気になってるの? あのグエルよ? ここは田舎者が云々とか嫌味を言う場面じゃないの?」

 

 

 

 そんな二人を見て独りごちたのは、長い銀髪の美少女――ミオリネ・レンブランだ。

 困惑しているミオリネに、同じく建物の影から様子をうかがっていたラウダ・ニールは小馬鹿にしたような視線を向けた。

 

「やれやれ…少しは成長したかと思ったが、情緒が未発達なデリングの娘には兄さんの良さは早すぎたようだな……」

「べたべた気持ち悪い距離感の弟は言うことが違うわね、あいつの小姑にでもなるつもりかしら?」

「なんだとぉ……」

「よしてください、ラウダ先輩! 安い挑発に乗っちゃダメです!」

 

 兄のこととなると激発するラウダをなだめる後輩の女子生徒(ペトラ)だったが、彼は止まらない。

 暴走特急のような男だった。

 

「水星女は実力で兄さんと互角以上だと示し、兄さんはその強さに敬意を払っているんだ。そんな二人の気高い友情がお前にはわからないのか?」

「友情……友情ねえ……いえ、いいわ。あんたの脳みそがブラコンで幸せなのはよくわかったもの」

「……ミオリネ・レンブラン、兄さんへの愚弄は許さない」

「愚弄してるのはあんたの方だからね!?」

「なら、まだ許そう」

「えっ、怖っ」

 

 ぎゃーぎゃーと物陰で喚く人騒がせな一団(さんにん)は、とっくの昔に二人に気付かれていた。

 呆れた顔でそれを見るグエル、困ったような眉根だが笑顔のスレッタ。

 

「何やってるんだ、あいつら……」

「みんな心配性なんですよ、きっと……そうだ!」

 

 スレッタは手を振りながら走り始めて――

 

 

 

「ミオリネさん、と……ら、らら、ラウダさんとっ、えーっと、ぺ、ペトラさん! い、いい、一緒にランチ行きませんか!?」

 

 

 

――友達を増やすのだった。

 

 

 

 

 

 

 決闘の前後では、決闘者の身体検査を行い、その健康を確認するのが習わしになっている。

 今では決闘者からの自己申告がない限り、簡易検査で終わらせるのが通例ではあるが――何事にも例外はある。

 たとえば試合中、決闘委員会がモニタリングしていた数値に異常が見つかっていた場合、決闘者への通知なしに検査項目を増やし、詳細な分析にかけたりもできる。

 それだけの権力を持つのが決闘委員会であった。

 

 現在、グラスレー寮長の部屋にて。

 シャディク・ゼネリはソファーに腰を下ろし、一週間前に検査したスレッタ・マーキュリーの身体データを閲覧していた。

 変態だからではない。

 それが仕事なのだ。

 

「女子生徒の身体データを盗み見してるってこの上なく最低じゃないか、俺」

「――シャディク」

「ああ、ごめんサビーナ、もっと真面目にやるさ」

「安心しろ。もちろんお前は最低だ、今」

 

 ゴミを見る目だった。

 

 

「…………え、ちょっと待ってくれ。サビーナ、俺に厳しくない?」

 

 

 いくら義父への報告のためとはいえ、女子の目の前で女子の身体データを堂々と閲覧する男である。

 「それはそうだろ」という目でシャディクを見る女子五人――気まずくなったシャディクは全員から目をそらした。

 表向きはグラスレー寮長シャディク・ゼネリと、彼に囲われている女子たちのハーレムという認識の一人と五人であるが、ことプライベートにおいての発言力は地位と比例しなかった。

 たとえ彼らが理想を同じくする同志だとしても、そういう人としての一線はあるのだ。

 シャディクは気まずくなりつつも閲覧を終えて、深々とため息をついた。

 

「すごいな。こんな気まずい思いをして端から端まで全部読んだのに――おかしな数字が一個もない。健康体の一七歳の女の子だよ、水星ちゃんは」

「シャディク、だがそれでは」

「ああ、つじつまが合わない」

 

 ティーカップに入ったお茶に口をつけると、シャディク・ゼネリは目を細めた。

 もう薄れてきたような記憶だが、それでも思い出せる。

 これは故郷――戦火に蹂躙された土地の味だった。

 

 

機体(エアリアル)は黒。パーメット流入値は基準オーバー、呪いで神経を焼かれるはずの数値――()()()()()()()()

 

 

 ありえざる呪いの結晶が、デリングの隠し子などという噂と共にミオリネの側へと送りつけられてきた。

 まるで質の悪いホラー映画だ。

 

「義父さんへの報告、気が重くなるよ。正直、こっちだってどうすべきかわからない不条理なんだからね」

「そういえばさー、水星の子の遺伝子サンプルって検査に回せない? それやれば隠し子の噂も――」

「レネ。()()()()()()()()()()

 

 ああ、そういうこと。

 そう呟いてメイクにこだわっている身長の低い女子生徒――レネ・コスタは納得する。

 この太陽系地球近傍ラグランジュポイント四の人工物で、ベネリット・グループの監視の目が入っていない場所はそう多くない。

 余所のポイントならば宇宙議会連合や他企業グループの拠点があるが、そうなってくると余計にサンプルの持ち出しは難しくなるし、信憑性も政治利用で怪しくなってくる。

 要するにリスクとデメリットだらけのわりに、診断結果に恣意的(しいてき)な手が入っている可能性があるのだ。

 スレッタ・マーキュリーが何者であれ、デリング・レンブランがそうだと言えば、そういうことになるのである。

 そうして歓談を終えたあと、シャディクは義父への直通回線を開いた。

 

 

『シャディク、報告を』

 

 

 義理の父からの催促に、シャディク・ゼネリはゆっくりとうなずいて。

 結論を口にした。

 

 

 

「〈エアリアル〉は紛れもなく……ガンダムです、義父さん」

 

 

 

 

 

――子供たちの競技(ゲーム)は終わり。

 

 

 

 

 

――大人たちの謀略(ゲーム)が始まる。

 

 

 

 

 

 




グエル編エピローグ&エラン編予告みたいな感じです。
フェルシーちゃんなら街で遊んでるよ、何も知らずにな…
シャディクはちょっと傷ついた。
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