ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

90 / 112
戦争が始まるだけの話

 

 

 

 

 

 星の光瞬く宇宙の真っ只中――鈍色の軍艦が、数十隻、縦横に並んで立体的な艦艇の集団を作っていた。

 その一隻一隻が、高層ビルをゆうに超える長大な人工物なのだと誰にわかろうか。

 まさに壮観と呼ぶほかない宇宙艦隊である。

 前面に並んでいるのはケラウノス級戦闘母艦――五〇〇メートル級の大型戦闘艦であり、その背後には補給のため随伴していた輸送船が続いている。

 最大で二四機のMSを運搬可能なケラウノス級の群れは、全部で一〇〇〇機を超える艦載機をこの戦場にまで運んできていた。

 ここはラグランジュポイント4、プラント・クエタ周辺宙域。

 太陽系最大の戦闘集団が対峙しているのは、はるか彼方からでも観測できる巨大な人工物であった。

 

『未知のパーメット識別コードを確認……光学観測に成功、〈クワイエット・ゼロ〉です……目標の周辺に艦隊規模のパーメット識別コードを確認。ジェターク旗艦〈ルドラ・シヴァ〉、ペイル旗艦〈レヴィアタン〉を観測しました。どうしますか?』

 

『予定通りだ。MS部隊、発進せよ。所定の位置につけ』

 

『MS部隊、発進。こちらからは仕掛けないよう厳守させます』

 

 ケラウノス級戦闘母艦の群れは、そのMS格納庫から次々とMS部隊を発進させていく。

 宇宙議会連合の主力モビルスーツ〈カラゴール〉――第三・五世代に分類される重装甲のモビルスーツであり、中遠距離での射撃戦に重きが置かれた機体である。

 全部で二四門の艦載砲を持つケラウノス級共々、宇宙議会連合が持つ火力集中ドクトリンを体現するようなモビルスーツは、前衛に配置された機体だけで四〇〇機を超えている。

 これはベネリット・グループ側の艦隊がかき集めたモビルスーツの総数に匹敵する数であり、これだけでも両者の国力の差が見て取れると言えよう。

 如何に最新の第四世代機と第三・五世代機でMSに性能差があるとはいえ、ここまで総数に開きがあっては多少の性能差など問題にならない。

 

『全機、オールウェポン、フリー。敵モビルスーツをこちらに近づけるな』

 

 重厚な装甲を身にまとった〈カラゴール〉部隊が、ビームライフルや実体弾バズーカを片手に次々と電磁カタパルトから射出されていく。

 それを見送るケラウノス級戦闘母艦は、レーダーや赤外線探知システムなどの光学センサー群が捉えた敵影を観測し続けていた。

 艦隊全体で情報を共有する統合索敵システムの恩恵だ。

 

『〈クワイエット・ゼロ〉からオブジェクト、モビルスーツの模様……総数、三〇〇』

 

『目標〈クワイエット・ゼロ〉が射程に入り次第、友軍がアウトレンジから攻撃を行う。我々はそれまで敵の部隊を足止めするだけでいい。敵モビルスーツが中継するオーバーライドに注意しろ、艦隊に近づけるな』

 

『了解。長距離誘導ミサイル、近接信管で発射します』

 

『主砲撃ち方始め――』

 

 ケラウノス級戦闘母艦の一二基存在する連装砲塔が、一斉にビーム砲を吐き出した。

 数十隻の戦闘母艦が一斉射したビーム砲の光条は軽く一〇〇〇発を超える荷電粒子ビームとなって戦場を覆い尽くし、空間を灼熱の業火で焼き尽くしていく。

 しかし弾着までのタイムラグゆえに、遠距離に位置していた〈クワイエット・ゼロ〉側の艦載機――〈ガンドノード〉はこれを難なく回避。

 だが、そうして陣形が崩れたところにダメ押しとばかりに榴弾を搭載した誘導ミサイルが撃ち込まれる。

 〈ガンドノード〉側の弾幕形成によってミサイルの大半は無力されたが、それでも少なくない数の無人機が撃破された。

 

『敵MS、多数を撃破。ジェターク艦隊およびペイル艦隊に動きありません』

 

『〈クワイエット・ゼロ〉本体の護衛に徹するつもりか? このまま敵前衛のモビルスーツ部隊を迎撃しろ、前に出すぎるなとMS部隊に伝えておけ』

 

 〈クワイエット・ゼロ〉と艦隊は距離を保ったままだから、艦砲射撃の有効距離圏内にはほど遠い。

 だが、そのおかげか未だに敵はグラスレー社のクーデター事件で見せた強力な電子戦機能――オーバーライドを使えないでいる。

 この拮抗状態の維持こそが、宇宙議会連合側の勝ち筋だった。

 そうしてケラウノス級戦闘母艦が前線を維持していた頃。

 艦隊後方、艦隊旗艦と同じ座標に位置する場所に、その砲艦――自らの防御力を超える火砲を積んだ異形の艦船――はあった。

 

 

――戦略特装砲艦〈ヘグニ〉。

 

 

 その船体のベースになったのはケラウノス級戦闘母艦であり、五〇〇メートル級の船体を丸ごと、長大な火砲の砲身に使用するという異様な設計コンセプトの船であった。

 この船の体積の大半を占めている火砲は、名を電磁加速式超高速質量投射砲EMACという。

 モビルスーツの何倍もの質量の超高密度金属塊を砲弾として、膨大な電力を供給するジェネレーター群と直結、砲身の長さだけで二五〇メートルを超える電磁バレルから亜光速で射出する。

 凄まじい運動エネルギーそのものを武器とする最強の火砲である。

 この兵装の最も恐るべき点は、有効な防御手段がほとんど存在しないことである。

 

 MSのシールドに利用されている対ビーム装甲、〈エアリアル〉のビットステイヴが搭載しているような電磁バリアなど、ビーム兵器に対する防御技術の充実は誰の目にも明らかであった。

 では通常の実体弾が復権するかと言えば、そうはならないのが兵器開発の難しさである。

 宇宙空間でのスペースデブリ増大に繋がる非誘導実体弾の使用を原則として禁止するコペルニクス条約の存在をあえて無視して、技術的問題だけに絞るならば。

 地球の大気圏内などのように、大気や磁場の存在によって荷電粒子ビームの射程が大幅に落ちる環境でならば、ビーム兵器より実体弾を使うメリットは大きい。

 しかし実体弾の最大のデメリットは、()()()()()()()()である。

 着弾点をプラズマ化させ跡形もなく溶断・蒸発させるビーム兵器に比べて、実体弾がMSや宇宙母艦を撃破できるほどの威力を担保するには、ある程度の重量と体積を覚悟しなければならない。

 それは大きくペイロードを圧迫してしまうから、もし実体弾を主力に選ぶのであれば、MSや宇宙母艦の継戦能力は大幅に落ちることを免れないであろう。

 こういった観点から、今日まで機動兵器や艦艇の兵装はビームドライブを用いた荷電粒子ビームが主力だった。

 

 重ねて言おう。

 EMAC〈ダインスレイフ〉にはそのような防御手段は存在しない。

 ビーム兵器であれば電磁バリア、熱核弾頭を搭載した誘導ミサイルであれば迎撃などの手段が取れる。

 だが光速の一%という速度で投射される超高密度の大質量を防御・迎撃する術を、人類の既存のテクノロジーは未だに持っていない。

 ゆえにこの船の主砲は〈ダインスレイフ〉と名付けられた。

 防御手段なき必殺の魔剣。

 それは要塞攻略のためという名目の下、宇宙議会連合が作り上げた傲慢さの象徴であった。

 この火砲がひとたび宇宙戦争で使用されれば、どれほど多くのフロントを恐怖に陥れるかは想像に難くない。

 結局のところ人類は、一三〇億の人口を抱えて宇宙進出に成功しようと、他者を恐怖で従えようとする生き物であることをやめられないのだ。

 

 

「――宇宙議会連合による恒久平和に従わぬ愚か者どもめ。それが神をも恐れぬ不敬と何故わからない?」

 

 

 そのような自らの保有する武力への懸念など持たぬまま、ただその威力が世界を変えることを願う確信犯として。

 第一艦隊旗艦・ケラウノス級戦闘母艦〈トクガワ・イエヤス〉の艦橋で、アーサー・グッドマン准将はにやりと笑う。

 ノーマルスーツを着込んだ肥満体型の中年男は、傲岸不遜にこう呟いた。

 

「我らが企業の罪に罰を与えよう、この必殺の一撃でな――〈ダインスレイフ〉発射用意!!」

 

 彼の指示に従って、戦略特装砲艦〈ヘグニ〉艦内では、オペレーターたちが発射シークエンスを開始する。

 

『エレクトロマグネティック・アクセラレーター・キャノン、電磁バレル通電開始』

 

『照準誤差修正よし、重力変動値、許容範囲内』

 

『反動相殺スラスター、オールグリーン』

 

 すべての発射プロセスが完了した瞬間、アーサー・グッドマンは満面の笑みで叫んだ。

 

 

 

「弾頭質量二〇〇トンの魔弾を受けるがいい――〈ダインスレイフ〉撃てェ!!」

 

 

 

 

 

 

 同時刻、巨大な銀の棺――〈クワイエット・ゼロ〉の中枢部にて。

 その純白の巨人は、淡い赤の光を灯しながら要塞と繋がれ、システムとして一体化していた。

 今や〈クワイエット・ゼロ〉の中枢であるパーメットAIサーバー〈レガリア〉に繋がれ、怪しく輝くガンダム。

 その名を〈キャリバーン〉というMSは、その瞳を赤く輝かせて、この戦闘に駆り出されている〈ガンドノード〉すべての管制・制御を行っていた。

 そして今、〈キャリバーン〉は新たな力を行使しようとしていた。

 

 

『〈キャリバーン〉搭載GUNDフォーマット、パーメットスコア8への到達を確認。オーバー8への上昇を開始』

 

 

 〈キャリバーン〉に積まれているシェルユニットの発光が、銀色から虹色へと変わっていく。

 それは破滅の色、奇跡の証、神域の光。

 世界の終焉(ラグナロク)の呼び水たる光輝を携えて、白の巨人は煌めいて。

 

 

『パーメットスコア、オーバー8に到達』

 

 

 その発光に呼応するように、戦場に展開しているモビルスーツ型ガンビット〈ガンドノード〉のシェルユニットもまた、虹色の光を放っていく。

 

 

『各エレメントから多層コール』

 

 

 戦場に満遍なく行き渡った〈ガンドノード〉の群れが、シェルユニットを共鳴させ、格子状の発光現象を形成。

 それはまるで、この世ならぬ超物理現象(オカルト)の美しさ。

 

 

『データストームの空間化、開始。超密度情報体系、物理作用点の形成を開始――指向性重力場の広域展開を開始』

 

 

 次の瞬間、〈クワイエット・ゼロ〉の前面に顕現したのは――

 

 

 

――光すらねじ曲げる重力の牢獄。

 

 

 

 

 

 

 戦略特装砲艦〈ヘグニ〉より放たれた亜光速の質量砲弾は、寸分違わず〈クワイエット・ゼロ〉に対する直撃コースを取って直進していた。

 それを迎撃する術など何人も持ち合わせていないはずだった。

 そして如何に〈クワイエット・ゼロ〉がアンチ・キネティックエネルギー構造体で表面を(よろ)っていようと、この規模の運動エネルギー兵器の着弾時に生じる破壊と衝撃には耐えきれない。

 オーバーライドや電磁バリアでは防げない大質量の直撃による直接破壊。

 これこそが宇宙議会連合が、〈クワイエット・ゼロ〉攻略に当たって編み出した必殺の作戦であった。

 結論から言おう。

 

 

 

――彼らの予想はすべて裏切られた。

 

 

 

 突如、発生した重力波の異常が危機の始まりだった。

 可視光線を捉えていた光学センサーが、可視光線の揺らぎを捉えて。

 まるで水面に映る景色のように、ゆらりと〈クワイエット・ゼロ〉の輪郭が揺らいだ刹那。

 直撃コースを進んでいたはずの〈ダインスレイフ〉の()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

『〈クワイエット・ゼロ〉周辺で異常な重力波の発生を確認。これは……空間歪曲……? ありえない、この規模の重力場の発生だなんて!?』

 

 

『〈ダインスレイフ〉……弾着、確認できず! 繰り返す、弾着、確認できず! 飛翔体を完全にロストしました!』

 

 

『電磁バレル冷却開始……次弾装填まで三〇〇秒のインターバル』

 

 

 戦略特装砲艦〈ヘグニ〉からの悲鳴のような通信を聞きながら、艦隊司令官アーサー・グッドマンは呆然とうめいた。

 

 

 

「バカな……奴らは一体、何を作ったというのだ……?」

 

 

 

 











・〈ヘグニ〉
宇宙議会連合軍所属、ケラウノス級戦闘母艦をベースにした戦略特装砲艦。
電磁加速式超高速質量投射砲EMAC(コードネーム:ダインスレイフ)専用に改装された要塞攻略用の移動砲台であり、宇宙戦闘艦としての運用能力はなきに等しい。
ElectroMagnetic Accelerator Cannon(エレクトロマグネティック・アクセラレーター・キャノン)。
弾頭質量200トン、秒速3000キロメートルで投射される、砲身長250メートルの超大型レールガン。
巨大なレールガンEMACとその運用のための大容量蓄電池、艦艇用ジェネレーター四基、反動相殺用噴射機構、コントロールシステムから構成されており、艦艇の全長の半分以上をレールガンの砲身と発射システムが占有している。
光速の1%という馬鹿げた速度で撃ち出される火星産レアメタルを用いた200トンの質量は、直撃すれば純粋な運動エネルギーだけで対象を消滅させうる大量破壊兵器であり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()防御手段はなきに等しい。









推奨BGMはQuiet Zero。
今回、〈クワイエット・ゼロ〉が行ったのは原作〈キャリバーン〉が最終話で行った怪奇現象(?)の応用です。
うおおおおお亜光速レールガンに対抗して!
サイコフレームめいたオカルト現象を兵器転用するぜ!!
そんな人類は愚か。






  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。