『何が起きた!?』
『高速での質量投射です――宇宙議会連合はコペルニクス条約違反の兵器を!!』
『奴らめ、条約をなんだと思ってやがる!!』
『あの重力異常は一体……これがレンブラン総裁の秘密兵器……!?』
EMAC〈ダインスレイフ〉を防ぐ指向性重力場の発生と、それによって弾道を逸らされた亜光速レールガンの痕跡は、〈クワイエット・ゼロ〉の側面を守護するジェターク社とペイル社、そしてドミニコス隊以下、ベネリット・グループ護衛艦隊にも観測されていた。
だが、正確に何が起きたのかを把握している人物は、戦場に一人もいなかった。
統合索敵ネットワークによる詳細な分析があってさえこうなのだから、無論、戦場にいるMSパイロットたちはなおのこと現状を認識できないでいた。
彼らにわかるのはちらほらと聞こえてくる通信から、宇宙議会連合が放った条約違反の兵器があっさりとベネリット・グループ側の備えによって防がれたという事実だけだ。
当然、憤慨したのはベネリット・グループ側で参戦していた将兵である。
『宇宙議会連合は最低限のルールを守る気すらないのか!?』
『スペーシアンの恥さらしめ!』
戦略特装砲艦〈ヘグニ〉の主砲EMACは、厳密に言えば実体弾の使用を禁じたコペルニクス条約に違反しない――かの条約が禁じているのは発射後に精密誘導できず高速のスペースデブリと化す実体弾に限られており、直撃時に弾頭そのものが蒸発・気化する〈ダインスレイフ〉はこの定義に当てはまらない――のだが、そのような言い訳が利くのは宇宙議会連合が戦争の勝者だったときであろう。
〈クワイエット・ゼロ〉の周囲を囲むように展開されているベネリット・グループ側の護衛艦隊は、大きく分けて三つの所属に分けられている。
すなわち旗艦〈ルドラ・シヴァ〉を中心としたジェターク護衛艦隊、旗艦〈レヴィアタン〉を中心としたペイル護衛艦隊、そして旗艦〈ユリシーズ〉を中心としたドミニコス隊である。
企業の私設軍隊としては規格外の軍勢であるが、それでもなお、三つの所属組織からかき集めてようやく、艦艇の数で宇宙議会連合と並ぶ戦力に過ぎない。
ましてや大型の戦闘母艦――空母としての役割と戦艦としての火力を持つ――を中心とした宇宙議会連合軍に比べると、小型艦も多いベネリット・グループ艦隊は戦力で劣っているのが実情だった。
その戦力で劣るという緊張を吹き飛ばすほどに、宇宙議会連合の無法は目に余るものであった。
そんな彼らの憤りに答えるように、移動要塞〈クワイエット・ゼロ〉からジェターク社とペイル社の護衛艦隊に対して指令が下された。
前進の合図である。
『旗艦〈ルドラ・シヴァ〉よりMS部隊へ。前進して友軍の無人機部隊を支援しろ』
『了解。――〈ディランザ・ソル〉部隊、前に出るぞ!』
『旗艦〈レヴィアタン〉よりMS部隊へ。ジェターク艦隊と歩調を合わせて前進せよ。無人機部隊の支援に徹しろ』
『了解。――〈ザウォート・ヘヴィ〉部隊、進軍せよ!』
重量級の中近距離戦MS〈ディランザ・ソル〉と軽量級の遠距離戦MS〈ザウォート・ヘヴィ〉の部隊が、それぞれの所属する艦隊から出撃していく。
ベネリット・グループ艦隊として編制された大部隊だが、命令系統の問題から、これらの部隊は所属企業ごとに分けられて編制されている。
〈クワイエット・ゼロ〉の守りに就いているカテドラル直轄のドミニコス隊の〈ベギルペンデ〉と〈ハインドリー・シュトルム〉を除けば、その戦力はジェターク社とペイル社それぞれの看板である第四世代MSが主力であった。
軽快な機動力で〈ガンドノード〉部隊の左翼と右翼を補うように現れた敵MS部隊に対して、宇宙議会連合軍の目が向いたときだった。
突如、無人機編隊――MS型ガンビット〈ガンドノード〉の動きが変わった。
『敵MS部隊、突撃してきます!』
『速い……こいつら無人機か!?』
『対ドローン陣形を取れ!!』
『間に合わなっ……がぁあああ!?』
宇宙空間を切り裂くように無数のビームが飛び交い、ビーム砲が鈍重な〈カラゴール〉を捉え、火の玉に変えていく。
応戦する〈カラゴール〉部隊のビームライフルはまるで当たらず、放ったミサイルはビームバルカンで撃墜され、まるで勝負になっていなかった。
これまでの受け身の防御姿勢が嘘のように、圧倒的な機動力を発揮して突っ込んでくる〈ガンドノード〉部隊に翻弄され、宇宙議会連合軍の前線は切り崩されつつあった。
とはいえ突破されたのはあくまでMS部隊による戦線であり、ケラウノス級戦闘母艦による堅牢な艦隊は健在である。
軍艦から対MS高機動ミサイルが次々と発射され、対空レーザー砲の火線が瞬く中――艦隊を取り巻く〈ガンドノード〉のシェルユニットが発光し始めた。
それは目に焼き付く、青白い亡霊のような光。
――
『なんだよあの光は!?』
『シェルユニットの発光……
『不味い、オーバーライドだ! 敵MSを撃ち落とせ!!』
『ダメです、間に合いません!!』
立体的な包囲網を敷いた〈ガンドノード〉部隊は、シェルユニットを青白く輝かせて。
やがてその光輝は格子状の光の牢獄を形成、前衛として配置された宇宙議会連合軍の艦隊を丸ごと包み込むに至った。
刹那、あらゆる機動兵器と艦艇のシステムが上書きされ、制御を受け付けなくなった。
あちこちの艦橋で悲鳴のような会話が飛び交う。
『艦隊統合索敵ネットワーク、乗っ取られました! オーバーライドにより火器管制機能を喪失……遠隔操作されています!』
『システムを取り戻せ!』
『無理です、パーメットモジュールごと掌握されています、すべての電子機器が使用不能!』
ただ乗っ取られ、上書きされるだけならよかった。
だが、制御を完全に奪われたケラウノス級戦闘母艦の群れは、その砲塔を後方に位置する友軍艦隊に向け始めて。
荷電粒子ビームの艦砲射撃が、五〇〇発を軽く超える数、友軍艦隊に対して解き放たれる。
幾条もの光が突き刺さり、プラズマ化した装甲が爆ぜる輝き。
『今すぐ砲撃をやめさせろ!!』
『やってます!! 砲塔が自動制御モードになって!!』
『動力伝達経路を爆破しろ!! 艦を放棄する!!』
次の瞬間、第二艦隊所属のケラウノス級〈プリンツ・オイゲン〉は、友軍からの反撃を受けて艦橋を喪失。
動力部に直撃を受けて大破、轟沈した。
同時刻、大混乱に陥った宇宙議会連合軍の艦艇のうち、前衛艦隊に配置されていたケラウノス級のほとんどが同士討ちにより戦闘能力を喪失。
MS部隊およびMS運用母艦の多数が撃破され、多くの死傷者を出すこととなる。
戦況は大多数の予想を裏切り、ベネリット・グループ側にほとんど犠牲を出さぬまま、宇宙議会連合の劣勢という形で推移していた。
◆
――いいかいスレッタ、アニメなんていい感じのBGM流しておけばハッピーエンドなんだよ。
「ねえエリクト、毎回思うんだけどたまには怒られた方がいいこと言ってない?」
――僕にはあるんだよ、この世界で唯一、不幸自慢大会でぶっちぎりトップを狙う権利がね!
「確かに倫理的に存在がグロいってメカニック科のみんなにボロボロに言われてたけど……その自虐やってて空しくならない?」
――舐めるな妹ォ!!
――僕の自虐芸は一七年間も熟成されてるんだぜ!?
〈エアリアル〉のコクピットで姉妹が漫才をやっていると、不意に地球寮のセキュリティ付きのドアから来訪者を告げるブザー音。
〈エアリアル〉と〈ファラクト〉の修理・点検で大忙しの地球寮のメンバーに代わって、スレッタが応対に出た。
するとそこにいたのは、意外な二人組だった。
「……こんにちは~、相変わらず皆さん辛気くさい顔してますねえ~」
「せ、セセリアさん!? ……とロウジさん」
「あら~、ホルダー……じゃなかった、元・学園最強のスレッタ・マーキュリーさんじゃないですか~?」
「はい、エランさんとグエルさんに気持ちよく負けました!」
ニコニコしながら返事をすると、セセリアは「皮肉が通じない人って嫌ですね~」と心底、嘆かわしそうにスレッタから距離を取った。
少女としては最高に気持ちのいい決闘で負けたのだから、自分の未熟さに悔しさはあっても敗北自体には爽やかな感情しかないのである。
だが、他者を弄るのが生きがいのセセリアにとっては、これほど面白くない人種もそういない。
人見知りが激しいロウジはセセリアの後ろに隠れて、汎用AIユニット・ハロを抱きかかえている。
するとにらみ合う両者を見かねたのか、するりと助けが入った。
「何の用だい、セセリア・ドート」
エラン・フォースである。
氷の君はいつも通りの涼しげな容貌のまま、純白の学園制服を着て現れた。
かつてのスレッタと同じく、白地に黒と金がアクセントとして配置された意匠である。
それはエランの美貌にとてつもなく似合っていたので、ちょっとテンションが上がってスレッタは叫んだ。
「わっ! エランさん! 白いですね!」
「うん、ホルダーだからね。似合うかな?」
「はい! とっても格好いいですよ!!」
ニコニコと笑うスレッタと、やはりちょっと満足そうに表情を変えず頷くエラン。
なんですかこの人たち、と顔を引きつらせるセセリアは、助けを求めるように周囲を見渡して。
ちょうどプレハブの建屋から出てきた銀髪の少女――ミオリネ・レンブランを発見し、大声で声をかけた。
「あらぁ、ミオリネさんじゃないですか~!? 引きこもりライフは終了ですかぁ~!?」
「セセリア・ドート。ブリオン社として用件があるならさっさとしてちょうだい。こっちはこれでもクソ忙しいんだけど?」
対するミオリネはちょっと不機嫌だった。
何故なら少女は今、とんでもなく忙しいからだ。
デリングのクワイエット・ゼロ計画を阻むべくいろいろと準備中のミオリネは、現場までの移動手段の確保やそのための業者の手配、軌道封鎖をどうやって突破するかで頭がいっぱいなのだ。
当然のことながら経営戦略科でも悪名高い才女、セセリア・ドートの挑発なんぞに乗っかっている暇はない。
そんな彼女の苛立ちを読み取ってか、セセリアは不意に真面目な表情になって。
「そうですねえ、じゃあ単刀直入に」
次の瞬間、喉から手が出るほどありがたい申し出をしてくれた。
「ブリオン社は株式会社ガンダムに対して、戦力を提供する用意があります」
「……へえ、ありがたいじゃない。作業用のデミトレとか?」
「まっさかぁ。ブリオン社の次世代コンセプトモデル、新型GUNDフォーマットを採用した最新鋭機――〈デミバーディング〉と、その僚機になる無人型〈デミギャリソン〉、これらをセットで提供します。これでどうです~?」
差し出されたタブレット端末に表示される情報にさっと目を通したあと、黙考すること三秒。
ミオリネ・レンブランはにっこりと笑った。
「最高ね、セセリア。あんたとブリオン社の決断に感謝するわ」
「お礼なら結構ですよぉ~、それもこれもデリング・レンブランの独裁なんて冗談じゃないって切実な本音が理由ですしぃ?」
「……どこから情報が漏れたのかしら?」
「この学園内で、私に隠し通せる秘密なんてありませんよぉ~?」
セセリアがニヤニヤと人が悪い笑みを浮かべる中、後ろでびくっと身体を震わせる男子生徒が一人。
地球寮の寮長、マルタンだ。小心者の彼は気の毒なぐらいに震えている。
どうやら間抜けは見つかったようである、
「マルタン、あんたあとでお説教ね」
「無慈悲だぁ!?」
セセリアとマルタンの意外な繋がり――というより一方的にセセリアに情報を絞られているようにしか見えない――に呆れつつ、ミオリネは提供された〈デミバーディング〉のパイロットを誰にするか考えて。
すぐに最適な人材がいることに気づいた。
彼女はピンク色のポンポンを頭部から生やした奇抜な髪型の少女――これを本人に言ったら死ぬほど殴られるだろう――チュアチュリー・パンランチを見つけると、手招きした。
まるでワンマン社長のような横柄な態度である。これぞミオリネという貫禄に満ちている。
「チュチュ、あんたブリオン社の新型MSに乗りなさい。デミ系列だから操作は一緒よ、これ」
「はぁ!? あーしのデミトレはどうすんだよ!?」
「チュチュ。後方とはいえ、仮にも実戦に出るんだから少しでも生存確率が高いマシンに乗るべきよ。私にはあんたを生還させる義務があるわ」
「……チッ。しゃーねーなー……」
頭を掻いて舌打ちするチュチュは、それでも律儀にミオリネの指示に従うようだった。
彼女なりに理を説かれて思うところがあったのかもしれないし、あるいはミオリネの顔を立てたのかもしれない。
ともあれ、第五世代コンセプトモデル〈デミバーディング〉の搬入が決まったことで、メカニック科の面子の仕事が増えたのは言うまでもない。
誰もが「仕事を増やすなドラ娘社長」という正直な気持ちを抱く中、ニカが最高の笑顔で
「OK、任せてチュチュ! 私が責任を持ってデミトレと同じ設定にしておくから!」
「任せた、ニカ姉!!」
そういうわけでいい感じの空気になった頃合いだった。
それまでセセリアの後ろに隠れていた小柄な少年、ロウジがおずおず前に進み出た。
何事かと皆の視線が集まる中、彼は汎用AIユニット・ハロを通じて喋り始めた。
『その件なんだけど忠告。現在、宇宙議会連合軍は〈クワイエット・ゼロ〉のオーバーライドで大打撃を受けている』
ミオリネも頷いて、ロウジの言に同調する。
「私もニュースで見たわ」
『パーメット制御の艦艇やMSはオーバーライドで乗っ取られる恐れがある。既存の電子機器を積んでるメカはみんな潜在的に危険』
ハロの電子音声で喋るロウジは、やけに饒舌であった。テクノロジー・オタクとして燃えるものがあるのかもしれない。
人が死んでいる宇宙戦争の最中と言っても、やはり最新技術の粋が凝らされた状況というのは魅力的らしい。
ともあれ、頭の痛い問題である。
株式会社ガンダムの立てた作戦は「プランA:デリング説得」「プランB:ガンダム破壊」の二つから成り立っているが、いずれも〈クワイエット・ゼロ〉の内部まで入り込むのを前提にしている。
仮にあの要塞まで接近する最中に、オーバーライドで制御権を掌握されてしまったら、ミオリネたちは容赦なく拿捕されてしまうだろう。
しかもことは太陽系文明の基幹に位置する物質が原因だから、技術的に学生がどうこうできるレベルを超えている。
さて、どうしたものかと頭を悩ませていると――
『――その件なら問題ないよ。僕に考えがある』
ぬるっとエリクトの
「ひぃえええええ!?」
いきなり現れた
・〈デミバーディング〉※独自設定
ブリオン社の第5世代コンセプトモデルに新型GUNDフォーマットを組み込んだ試作MS。
シン・セー開発公社からの技術供与によって完成した試作機であり、MS本体の機体制御に新型GUNDフォーマット〈アミュレット・システム〉によるブレイン・マシン・インターフェースを採用している。
これにより従来のMSを凌駕する柔軟で高度な操縦性を獲得しており、また操縦難易度そのものが緩和されている。
ドローン兼フライトユニットのバオリ・パックを搭載しており、ドローンユニットの自動制御に操縦支援AIのサポートを採用。
本機の目玉となる機能は、このバオリ・パックの拡張機能――従来のMSを簡易な改修とOSアップデートでドローン化する特殊機能である。
主に〈デミギャリソン〉が対象となるこの機能により、〈デミバーディング〉は無人機編隊の管制機として機能することが可能である。
固定武装
・ビームフィストバルカン×4
・ビームサーベル×2
・ビームキャノン×2
携行武装
・ビームライフル×1
※原作デミバーディングの胸部にシェルユニットを積んだイメージです。
※原作シュバルゼッテと入れ替わりでガンダム化したMS。デミトレ系列でガンヴォルヴァと同じことができる。
マルタンは懺悔室でびっくりドッキリのエアリアルしんじつに耐えかねて喋っていたところ、盗聴してたセセリアに強請られてゲロりました。