ガンダム狩りのスレッタ   作:灰鉄蝸

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擦れッタがドミニコス隊と交戦するだけの話

 

 

 

「なんとか振り切れたわね……」

 

 ミオリネたちの乗った連絡艇は、〈エアリアル〉と〈シュバルゼッテ〉に掴まれてその加速能力を付与されていたこともあり、無事に目的地点――〈クワイエット・ゼロ〉のドッキングベイ手前にまで来ていた。

 視界いっぱいに広がる銀色の建造物こそ〈クワイエット・ゼロ〉である。その全体像すらわからぬほど間近で見ると、圧倒される大きさだった。

 

「今、ドッキングベイに進路を設定したよ。これであとはオートパイロットのはずだけれど……」

「何事もなければいいんだけどな」

 

 ティルとアリヤがそう言った直後、連絡艇はゆっくりとドッキングベイに向けて進み始めた。

 ドッキングベイの側からもガイドビーコンが発信され、あとはオートパイロットで進むだけという頃合いだった。

 唐突に横から殴り込むように通信が入ってきた。

 

『こちらドミニコス隊、ミオリネ・レンブラン以下、株式会社ガンダムの面々に告げる。こちらの指示に従って直ちに停船せよ。繰り返す、直ちに停船せよ――』

「レーダーに反応、急速接近……数は八、これMSだよぉ!?」

 

 このタイミングでドミニコス隊が介入してくるなど、あまりにも異様な展開であった。現在、ミオリネたちがいるのは〈クワイエット・ゼロ〉の裏手側であり、宇宙議会連合軍とベネリット・グループ艦隊がにらみ合っている宙域とは正反対である。

 強力な無人兵器の編隊――エリクトによれば〈ガンドノード〉というらしい――が展開しているのもこの正面方向で、〈クワイエット・ゼロ〉後方にいるのは、ドミニコス隊の少数のMS部隊だけだった。

 つまりベネリット・グループ側もあちこちに潤沢に部隊配置ができるほど余裕があるわけではないのだ。

 そういう裏事情まで読み取ってゴリ押ししたのが今回のミオリネの作戦だったのだが、流石にデリング・レンブランも娘の企みに勘づいたらしい。

 

「クソ親父の手配ね。このままだと拿捕されて〈クワイエット・ゼロ〉にたどり着けないわ」

 

 ミオリネが何かを言うよりも早く、スレッタが声を上げた。

 

『ミオリネさん、わたしが足止めします。このままドッキングベイまで進んでください」

「……すまないわね、スレッタ」

 

 彼女がドミニコス隊と敵対することの意味を噛みしめるように、ミオリネは短くそう返答した。今さら何を言ったところで彼女を巻き込んだのは自分なのだ。ならばその責任を最後まで全うするしかない。

 そんなミオリネの覚悟を余所に、スレッタは通信でグエルに話しかけていた。

 

『わたしでも八対一は厳しいです……グエルさん、()()()()()()()()()()()()。時間稼ぎでいいので』

 

 スレッタは涼しい顔で死刑宣告みたいなことをのたまった。

 戦慄したグエルは真顔で呟いた。

 

『スレッタ・マーキュリー……お前、()()()()()()()()()()()()と思ってないか?』

『はいっ!!』

 

 元気よくスレッタは答えた。

 通信の向こうでグエルがため息をつくのがわかった。

 その通信を聞いていたのかどうか、ドミニコス隊のMSが散開してビームサーベルを抜いてくるのがわかった。

 顔いっぱいの渋面という感じでナイト小隊の指揮官機、ナイト1から通信が入ってくる。

 

『……図に乗るなよウィッチ1!』

『皆さんを無力化します、すいません!』

 

 スレッタは容赦がなかった。

 そんな二人のMSがドミニコス隊ナイト小隊およびビショップ小隊と交戦状態に入ったのを確認しつつ、ミオリネは声を張り上げた。

 スレッタとグエルを殿(しんがり)にして、これからミオリネたちの船はドッキングベイに突っ込むのだ。

 オートパイロットの安全に配慮した操船をマニュアルに変更し、ミオリネは舵を取った。

 

「全員、シートベルトはしっかり締めてるわね!? 突っ込むわよ!」

「ひぃいいい!!!」

「あ、危ないわよレンブランさん!?」

 

 マルタンが悲鳴を上げる。ベルメリアが常識に満ちた発言をする。ティルとアリヤは無言でシートの手すりにつかまっている。

 つまりそういう操船だった。

 宇宙港の施設にギリギリまで減速せずに接近、逆噴射で急停止するという無茶な操船の末――ドッキングベイの床に船体をこすりつけながら急停止した。

 ガクガクと凄まじい衝撃が襲ってきたのは言うまでもない。

 尻を殴られたような衝撃が襲ってきたのにびっくりしつつ、ミオリネはふーっと息を吐いた。

 

「みんな、無事かしら?」

「な、なんとか……」

「オートパイロットって安全に配慮してたのね……」

「……ミオリネは操船しない方がいい」

「少しは……反省してくれないか」

 

 全員、無事らしい。結構なことである。

 全員が気密ヘルメットを被ってるのを確認後、ミオリネたちは連絡艇のハッチを開いて外に降りた。広々としたドッキングベイの周囲には、騒ぎを聞きつけてやってきたと思しき兵士たちがずらりと並んでいる。

 明らかに友好的な雰囲気ではなかった。

 

「やばっ……まあ、普通はそうなるわよね?」

『動くな、ミオリネ・レンブラン! 後ろの奴らもだ! 手をゆっくりと上げて膝をつけ!』

 

 四方八方を囲まれている。電磁式自動小銃を携えた兵士たちはアーマーまで着込んでフル装備、それに比べてこっちはノーマルスーツを着ているだけの丸腰の学生四人と科学者が一人だ。

 お話にもなりはしない。リリッケやニカ、オジェロやヌーノをグラスレー社の母艦に置いてきて正解だったなと思う。

 あの子たちは危なっかしすぎるし、こういう鉄火場には巻き込みたくない。その点、三年生たちは安心できる――マルタン以外は。

 銃口を向けられて、ゆっくりと手を上げるミオリネは――諦観混じりのため息をついた。

 

「本ッ当……うちのクソ親父ってクソ野郎だわ」

「ミオリネは冷静すぎるよお!」

 

 後ろでぶるぶる震えているマルタンの怯えた声を聞きながら、ミオリネは思考する。

 ()()()()()()()()()()

 

 

――ルイ・ファシネータ。あんたの描いた絵に乗ってやろうじゃない。

 

 

 銃口を向けられながら、ミオリネは不敵に笑った。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、グエル・ジェタークはドミニコス隊ビショップ小隊のMS〈ベギルペンデ〉に包囲されていた。

 彼らはスレッタが連れてきた年頃の男子に怒り心頭だった。

 スレッタの敵対についての彼らの感想を述べると、こういうことになる。

 

()()()()()()()()()をたぶらかしやがって! 矯正してやる!!』

 

 私怨に塗れた罵倒を聞いて、グエル・ジェタークは心底、困惑した。

 思わず叫んだ。

 

『誤解だ!?』

 

 だが彼の心からの叫びはドミニコス隊ビショップ小隊には届かなかったらしく、むしろ彼らを余計にキレさせていた。

 

『ンだと! ジェタークの坊主が! スレッタが自分から裏切るわけねえだろ! 消去法でお前は有罪だ!』

『てめえスレッタと青春してんだろっ、吐けッ!』

『クソボケがーっ!!』

 

 壮絶な勘違い(?)が起きていた。

 グエルはめちゃくちゃ機嫌が悪いビショップ小隊に一対四で可愛がりを受けている。

 流石に撃墜を避けるためかビームライフルは使っておらず、〈ベギルペンデ〉部隊の攻撃は大ぶりなビームサーベルによる手足への斬撃だが――現役特殊部隊と一対四という最悪の条件下にもかかわらず、グエルの〈シュバルゼッテ〉はその攻撃を躱し/捌きながら反撃の機会をうかがっている。

 ビットステイヴ〈ガーディアン〉による自動防御と、グエル自身の卓越した近接戦のセンスが、この曲芸じみた神業を可能にしていた。

 その性質上、ビームサーベルでの斬撃は四体同時にやってくることはない。たとえ数の上では一対四だったとしても、実際にやるべきことは一対一の近接戦が連続的に襲ってくるだけなのだ。

 ならば理論上は、たとえば特殊部隊が相手であろうとしのぐことが可能である。

 もちろん理論上の話である。

 

『うおおおぉおおぉおお!!!』

 

 グエル・ジェタークが必死の形相で操縦桿を握り、四方向から次々と襲ってくる斬撃を躱して/ビームブレイドで弾いてるのは言うまでもない。

 鍔迫り合いすら許されない地獄のような時間だった。

 動きを止めればその瞬間にダルマにされるからだ。しかし普通は五秒と保たずに無力化されるので、単純にグエルが強すぎるだけだった。

 

 

 そしてその間、スレッタはナイト小隊の面子を相手に大立ち回りを演じていた。

 ビットステイヴによる射撃では誤ってコクピットブロックを撃ち抜いてしまう恐れがあるため、今の彼女と〈エアリアル〉はガンビットを展開していない。

 にもかかわらず彼女は鬼のように強かった。

 すでにナイト3とナイト4、二機の〈ベギルペンデ〉が手足をもがれて戦闘能力を失っている。完全な慣性制御という初見殺しの戦闘機動(マニューバ)が為せる業である。

 そんな彼女の手心を知ってか、ナイト小隊のリーダー機ナイト1は声を荒げた。

 

『スウォーム兵器を使わずに俺たちの相手か! 偉くなったもんだなウィッチ1!』

「皆さんを殺さないためです! あとわたしの方が強いです!」

『こいつ本当に態度でかいな!?』

 

 互いにビームサーベルを抜いての近接戦――スレッタの〈エアリアル〉は両手に二振りのビームサーベルを握っており、鬼神のように剣を振るって〈ベギルペンデ〉を寄せ付けない。

 そして幼少期から〈エアリアル〉に乗って鍛え上げられたスレッタ・マーキュリーのビームサーベル捌きは、ドミニコス隊ナイト1の技量を凌駕していた。

 大盾を構えて防御姿勢になった〈ベギルペンデ〉の死角を認識して、〈エアリアル〉は一歩踏み込んだ。巨大なタワーシールドは防御面積が広いものの、近接戦では質量も死角も大きすぎる。

 盾を下方から蹴り上げ、無理矢理に防御に隙を作る。

 

『しまっ――』

「――終わりです」

 

 剣閃。

 閃いたビームサーベルが〈ベギルペンデ〉の手足を切断し、瞬時にその戦闘能力を奪う。

 胴体だけになったMSに蹴りを入れて飛び立った〈エアリアル〉に向けて、ナイト小隊最後の〈ベギルペンデ〉が襲いかかってくる。

 

『スレッタ、なんでだ! なんでお前が裏切るんだよ!』

 

 ナイト2からの通信は悲痛なものだった。

 彼はナイト小隊の中でもスレッタと歳が近く、何かと世話を焼いてくれた青年だ。

 戦火によって家族を失った戦災孤児だという彼は、戦争をなくそうとしているデリングの側にいることに強い誇りを抱いているようだった。

 客観的に見れば、スレッタの行動は乱心したようにしか見えない反逆だ。勝算すらミオリネの頭の中にあるだけの、大博打に人生のすべてを賭けているような無謀さである。

 どうしてこうなったんだろう、とふと思う。

 ミオリネの口車に乗ったから? 彼女の勢いに押し切られたから?

 

――そうじゃない。

 

 疑念は何度も浮き上がった。何度も問いかけてもみた。完全な納得はなかったけれども、それでもスレッタは立ち止まらずにここまで来た。

 つまるところスレッタ・マーキュリーは選んだのだ。ドミニコス隊の皆との絆や、デリングのいう完全な平和がもたらされる未来よりも――ミオリネ・レンブランの選ぶ未来というやつを、見てみたいと思ってしまったのだ。

 それは、幼いエゴだった。

 自分のわがままぶりに自分でも呆れながら、スレッタは自身の祈りを口にした。

 

「わたしの願いのためです! デリングさんを止めてでも、わたしには……欲しい未来ができたから!」

『……じゃあ、お前は敵なんだな、閣下と俺たちの!』

 

 ナイト2がビームサーベルで斬りかかってくる。彼は大盾を捨てて、二本のビームサーベルを両手で抜き放っていた。

 その鋭い二連の斬撃を回避する。彼はナイト小隊とビショップ小隊の切り込み隊長であり、指揮官であるナイト1ほどの冷静さはないが、純粋なMS戦の技量ならば上回っている。

 つまり強敵だった。

 

『戦争のない世界以上に幸せな世界なんて……あるはずがない!』

 

 青年の叫びは痛々しい実感に満ちていた。

 それを否定する術を、スレッタ・マーキュリーは持っていない。

 だから首肯した。

 

「その通りだと思います――今の世界は地獄なんです」

『なら! どうして!』

 

 ビームサーベルでナイト2と斬り結びながら、〈エアリアル〉が踊るように戦闘機動を取る。事象改変型推進機構〈精霊の翼〉が慣性制御を行い、一瞬で〈ベギルペンデ〉の背後を取る――それを読んでいたかのように回し蹴りが飛んでくる。

 辛うじてその攻撃を避けながら、スレッタは情熱のままに過去を思う。

 苦しく辛く、傷ついてばかりの二年間だった。

 だが、決してそれだけではなかったのだ――彼女を妹分として可愛がってくれる、大切な人たちができた。

 ドミニコス隊は、エリクト以外の寄る辺をなくしたスレッタ・マーキュリーにとって第二の故郷と呼べる場所だったのだ。

 そのすべてを裏切る意味を、こうしてMSで斬り結ぶことで少女は初めて実感していた。

 ああ、それでも。

 自分は賭けてみたいと思ったのだ――あのミオリネ・レンブランという少女に。

 

「この地獄の中でも――生きるよろこびがあるって教えてくれたのは、皆さんです。わたしが選んだのは、たぶんそういうものです」

『スレッタァアア!!!』

 

 勝負を分けたのは、純然たるMSの性能差だった。〈ベギルペンデ〉ではできない精密動作が、〈エアリアル〉は可能だ。

 その差は技量が伯仲していればしているほど、一目瞭然なのである。

 〈ベギルペンデ〉の斬撃を避けながらカウンターの斬撃を繰り出し、その右腕を切り落とす――同時にビームバルカンを斉射して左腕を破壊。

 返す刃で頭部を切り飛ばして、スレッタはナイト2を無力化した。

 かくしてナイト小隊は全機が無力化され――その様子はビショップ小隊にも伝わっていた。

 

『ナイト小隊が!?』

 

 一瞬、敵機の注意がそれた。それだけでグエルには十分だった。相対する敵影――〈ベギルペンデ〉の突き出したビームサーベルにビームブレイドを引っかけ、そこを軸にするようにして半回転。

 敵〈ベギルペンデ〉の頭上を取った〈シュバルゼッテ〉は、身につけたマントのようなビットステイヴ〈ガーディアン〉に指令を入力。

 光がほとばしる。

 全方位レーザー攻撃〈オムニ・アジマス・レーザー〉が照射され、グエル機を捉えていた〈ベギルペンデ〉四体の光学センサーを瞬時に焼き付かせたのだ。

 

『なにっ!?』

『クソッ!』

 

 無論、センサーの焼き付きはたった一瞬のことであり、すぐにサブカメラで視界は復帰する。

 だが、その一瞬が勝機となった。

 

『うおぉおおぉ!!!』

 

 振り下ろされたビームブレイドが〈ベギルペンデ〉の右腕と右脚を切断する。

 グエルは倒された敵の数をカウントする。

 

 

――これで一機目。

 

 

 さらに〈シュバルゼッテ〉本体から分離したビットステイヴが、攻撃形態〈ガーディアン・ドロウ〉を展開。

 発射されたビーム砲が大盾による防御の隙間を撃ち抜き、別の〈ベギルペンデ〉の脚部をもぎ取ることに成功した。

 姿勢制御できなくなったところに追加でビーム砲を撃ち込み、さらに頭部を破壊する。

 

 

――これで二機目。

 

 

 モビルスーツは四肢による重心移動と推進装置の併用によって機動を取る兵器だ。こうして手足を奪われてしまえば、その戦闘能力はほとんどなくなってしまう。

 グエルによって一瞬で仲間の半数を無力化された〈ベギルペンデ〉二機が、僚機の敵討ちをしようとした刹那。

 白亜の妖精が、光の翼と共に飛び込んでくる。

 

「グエルさん、お待たせしました!」

『遅いぞ、スレッタ・マーキュリー!』

 

 剣閃。

 スレッタの駆る〈エアリアル〉が敵機の背後から現れ、二本のビームサーベルでその手足を切断。

 〈ベギルペンデ〉に防御する暇すら与えない、目にも止まらぬ早業であった。

 

 

――これで三機目。

 

 

『んなっ――』

 

 最後の一機になってなお、ドミニコス隊ビショップ小隊は執念深い抵抗を見せた。せめてグエル機だけでも討ち取ろうとビームサーベルを構えたその機影と、〈シュバルゼッテ〉のそれが重なる。

 突進した〈シュバルゼッテ〉のビームブレイドが、すれ違い様にその脚部を刈り取って。

 バランスを崩した隙に、〈ベギルペンデ〉は背後から右腕を切断されて無力化された。

 

 

――これで四機目。

 

 

 これによりビショップ小隊もスレッタとグエルの反撃により壊滅。

 全部で八機のMS二個小隊は、味方による救助を待つばかりの残骸と化していた。

 苦々しげな通信が届く。

 

『スレッタ……お前は、俺たちとは違う方に行くんだな……』

 

 スレッタはただ、小さな声で呟いた。

 

 

「――ごめんなさい」

 

 

 

――少女は戦友と決別する。

 

 

 

――親友(とも)のために。

 

 

 

 











Q:スレッタとグエル強すぎない?

A:強すぎるガンダムに乗ってレベリングされた女と、それに付き合ってレベリングされた男が企業の最新鋭機に乗ってるのでこんな感じになります。






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